• 著者: Katie A. Fennell, Dane Vassiliadis, Enid Y.N. Lam, Luciano G. Martelotto, Mark A. Dawson
  • Corresponding author: Mark A. Dawson (Peter MacCallum Cancer Centre, Melbourne)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2021-12-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34880496

背景

がんにおける腫瘍内不均一性 (ITH) は、治療抵抗性や再発の主要な原因として認識されている。これまで、ITH の主な要因は遺伝的変異の蓄積とそれに続くクローン選択であると考えられてきたが、非遺伝的メカニズムがクローナル適応度や腫瘍進化に与える寄与については、その全容が未解明であった。特に、非遺伝的因子が細胞内在的な特性としてクローン優位性を決定し、それが次世代に遺伝可能であるかについては、明確な証拠が不足していた。例えば、Marine et al. NatRevCancer 2020 は非遺伝的メカニズムが治療抵抗性に関与することを示唆しているが、具体的な分子メカニズムやクローンレベルでの動態は詳細な解析が不足しており、依然として不明な点が多かった。

急性骨髄性白血病 (AML) の中でも、MLL遺伝子 (KMT2A) 転座に由来する融合タンパク質 (MLL-AF9 など) は、単一の遺伝的異常で致死的な完全浸透性疾患を引き起こす稀なモデルである。このモデルは、遺伝的多様性が最小限であるため、非遺伝的因子がクローン適応度に与える影響を研究する上で理想的な系を提供する。先行研究では、造血幹細胞 (HSC) と骨髄前駆細胞 (HPC、特に GMP: granulocyte-monocyte progenitor) の両方が白血病形質転換の起源細胞となりうることが示されているが、起源細胞種がクローナル優位性を規定するかどうかは未確立であった。また、白血病幹細胞 (LSC) の機能的異質性については、一部報告があるものの、その細胞内在的なクローン出力が化学療法応答にどのように影響するか、そして治療抵抗性クローンがどのように出現するかについては、詳細な時間分解能での解析が不足していた。

本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目指し、MLL融合白血病モデルを用いて、非遺伝的・転写プログラムがクローン適応度を決定するメカニズムを詳細に解析することを目的とした。特に、SPLINTR (Single-cell Profiling and LINeage TRacing) という革新的なバーコード戦略と単一細胞 RNA シーケンス (scRNA-seq) を組み合わせることで、これまで不可能であったクローンレベルでの動態解析を可能にし、非遺伝的要因がどのように悪性クローン適応度を決定し、治療応答に影響を与えるかについて、新たな知見を提供することを目指した。

目的

本研究の目的は、等遺伝子性白血病クローンにおいて悪性クローン優位性を決定する非遺伝的・転写的因子を特定し、その起源細胞、化学療法応答、およびクローン間競合との関係を解明することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。

  1. 非遺伝的クローン適応度の細胞内在性と遺伝可能性の評価: MLL融合白血病モデルにおいて、クローン優位性が細胞内在的な特性であり、かつ次世代に遺伝可能であるかを検証する。また、起源細胞種(HSC または GMP)がクローン優位性を規定するかどうかを評価する。
  2. 悪性クローン優位性を決定する転写プログラムの特定: scRNA-seq 対応の発現バーコード技術 SPLINTR (Single-cell Profiling and LINeage TRacing) を活用し、優位クローンに共通する非遺伝的・転写プログラムを同定する。特に、免疫回避や特定の遺伝子発現がクローン適応度を促進するかを検証する。
  3. Slpiの機能的役割の解明: 優位クローンで高発現する分泌白血球ペプチダーゼ阻害因子 (Slpi) の in vivo における機能的役割を、遺伝学的ノックアウト実験により検証する。
  4. 腫瘍微小環境とクローン競合の影響評価: 異なる免疫微小環境(免疫不全 NSG マウスと免疫正常 Ptprca 宿主)および遺伝的に異なるクローン間の競合が、クローン適応度と転写的不均一性に与える影響を解析する。
  5. LSC クローン出力と化学療法応答の関連性: 白血病幹細胞 (LSC) の細胞内在的なクローン出力特性(高出力、中出力、低出力)が化学療法に対する感受性を規定するかを評価し、治療抵抗性クローンが最小残存病変 (MRD) からどのように出現し、適応するかを時間分解能で追跡する。

これらの目的を達成するために、SPLINTR バーコード系統追跡技術と scRNA-seq を組み合わせた包括的なアプローチを用いる。

結果

クローン優位性は細胞内在的・遺伝可能な特性である: 3種の AML モデル(MLL-AF9 単独、MLL-AF9+KrasG12D、MLL-AF9+Flt3ITD)において、同一のクローンが複数の受容マウスにわたって一貫して優位性を示した (Fig. 1b)。これは、クローン適応度が細胞内在的な特性であることを強く示唆する。HSC 由来と GMP 由来の白血病細胞を等量混合して移植した場合でも、最終的なクローン構成は同一であり、起源細胞の種類はクローン優位性を規定しなかった(HSC vs GMP 由来のクローン優位性差は 1-fold 未満)。さらに、ex vivo で最も急速に増殖したクローンが必ずしも in vivo で優位にならないことも示され、クローン適応度は増殖能とは別の細胞内在的特性であることが確認された。二次移植実験においても、優位クローンの順位はほぼ変わらず(concordance rate > 80%)、非遺伝的適応度の高い遺伝可能性が示された (Extended Data Fig. 9a)。

Slpi による悪性クローン優位性の調節: MLL-AF9+KrasG12D モデルにおいて、優位クローン(n=617 細胞)と非優位クローン(n=12,049 細胞)の転写差異解析を行ったところ、最も顕著な上昇遺伝子として分泌白血球ペプチダーゼ阻害因子 Slpi が同定された (Fig. 1d)。この Slpi 高発現は、3種すべての AML モデルで優位クローンに共通して認められた (Extended Data Fig. 5g, h)。重要なことに、MLL-AF9 トランスジーンの発現量は優位・非優位クローン間で差がなく (Extended Data Fig. 4d)、Slpi の役割は非遺伝的なものであった。Slpi の sgRNA 媒介ノックアウト細胞は in vitro では生存・増殖に影響がなかった一方、in vivo の競合移植実験(MLL-AF9+KrasG12D 系、n=4 マウス/群)では非標的対照と比較して腫瘍負荷が有意に低下した(p < 0.0001、両側 t 検定)(Fig. 2e)。生存曲線解析(n=3〜4 マウス/群)でも、Slpi ノックアウト細胞移植マウスは有意に長い生存期間を示した (Fig. 2f)。ヒト AML の TCGA データでは、MLL 再編成および急性前骨髄球性白血病 (PML-RARA) で SLPI 発現が最も高いことが示された (Fig. 2g)。

抗原提示の抑制と転写的不均一性がクローン優位性を支持: 優位クローンでは MHC クラス I 関連遺伝子(B2m など)の発現が一貫して抑制されており (Extended Data Fig. 5f, g)、免疫回避がクローン優位性の一機序として同定された。scATAC-seq 解析でも、B2m のクロマチンアクセシビリティが低下し、Kit および Cebpe の重要エンハンサーエレメントでアクセシビリティが増大していた (Extended Data Fig. 8g)。Cebpe は CEBP ファミリー(α/β/ε)の中で唯一優位クローンに差次的に発現しており、Slpi プロモーターへの CEBPα・CEBPε 同時結合も確認された (Extended Data Fig. 8j)。競合移植(MLL-AF9+KrasG12D vs 他ジェノタイプ)の設定では、単一ジェノタイプ移植で認められた優位クローンと異なる「競合特異的優位クローン」が出現した (Fig. 1e)。これらの競合特異的クローンは、表現型体積 (phenotypic volume, PV; p=0.02) および正規化相互情報量 (normalized mutual information, NMI; p < 2.2×10^-16、Mann-Whitney U 検定) スコアがいずれも有意に高く、転写的不均一性が高いクローンほど多様な免疫微小環境への適応能力が高いことが示された (Fig. 1g, h)。免疫不全 NSG マウスと免疫正常 Ptprca 宿主での移植実験でも同一優位クローンが共有され、Slpi 高発現・B2m 低発現という特性が異なる免疫微小環境を超えて安定して遺伝的に伝達されることが確認された (Fig. 2b, c)。

LSC クローン出力と化学療法応答: LSC は高出力・中出力・低出力クローンに分類でき、この細胞内在的特性は異なる受容マウスで一致し(concordant)、逐次移植でも遺伝された(高出力は高出力を維持、低・中出力は高出力に転換しない)(Fig. 4a, Extended Data Fig. 10a, b)。化学療法治療後(マウス AML 治療プロトコル相当)、MRD 段階で生き残るクローンは Day 2 から早期に休眠 (diapause) ・老化類似状態の転写シグネチャーを活性化した (Fig. 4c)。最終的に高・中出力クローンの一部が一過性低出力状態を経て回復し、低出力クローンの一部が治療下でのみ高出力に転換して MRD 負荷の大部分を担った (Fig. 4d-f)。化学療法への適応経路は高・低出力で異なるが、両者ともに LSC プログラムを共通して上昇させることが示された(調整 p < 0.001、Holm テスト)(Fig. 4g)。競合移植系では n=4〜5 マウス/群の生物学的反復により、バーコード追跡の再現性が確認された。

考察/結論

本研究は、腫瘍内クローン優位性の理解に重要なパラダイムシフトを提示した。これまでクローン選択は主に遺伝的変異の蓄積で説明されてきたが、本研究は MLL 融合白血病という遺伝的に安定したモデルを用いて、非遺伝的・細胞内在的・遺伝可能な転写プログラムが悪性クローン適応度の主要決定因子となりうることを実証した。SPLINTR (Single-cell Profiling and LINeage TRacing) という革新的なバーコード技術(3 ライブラリで合計 n=2,000,000 超の固有バーコード)によって、数千クローンを時間分解的かつ転写状態と連動して追跡できたことが、これらの新規な知見を可能にした。

先行研究と異なり、本研究は Slpi が白血病クローン競合における機能を持つことを遺伝学的に検証した(ノックアウト実験で p < 0.0001 の有意な腫瘍負荷低下)。これは、Slpi が白血球プロテアーゼ阻害因子として知られていたものの、その白血病における役割はこれまで報告されていないものであった。ヒト AML の TCGA データでは MLL 再編成および急性前骨髄球性白血病(PML-RARA)で SLPI 発現が最も高く、この知見の臨床的意義が支持される。優位クローンで一貫して認められた MHC クラス I 関連遺伝子の発現抑制は、非遺伝的免疫回避が適応度向上の一機序となることを示し、免疫チェックポイント阻害との相互作用の観点からも意義深い。

新規性として、本研究は LSC のクローン出力が細胞内在的かつ遺伝可能な特性であり、化学療法応答を規定することを明らかにした。治療抵抗性クローンが MRD から協調的に出現し、LSC プログラムをアップレギュレーションすることは、再発機序の理解に新たな視点をもたらす。競合移植系で確認された「競合特異的優位クローン」の出現(PV p=0.02)は、腫瘍微小環境の競合構造がクローン選択圧を質的に変化させることを示しており、腫瘍エコシステム理解に新規な視点をもたらす。Azizi et al. Cell 2018Marjanovic et al. CancerCell 2020 が示唆する腫瘍微小環境の重要性を、クローンレベルの動態で裏付けるものである。

臨床応用の観点から、遺伝的に同一な細胞間でも非遺伝的特性によって化学療法応答性が決定されるという知見は、MRD 後の再発機序の理解と残存クローン根絶戦略に臨床的意義のある示唆を与える。抗原提示経路の活性化や免疫回避阻害がクローン優位性を抑制する可能性も示唆され、新たな治療標的となる可能性がある。

残された課題として、Slpi によるクローン優位性付与の具体的分子機構のさらなる解明が挙げられる。また、本研究は遺伝的に単純な AML モデルを用いたため、より複雑な遺伝的背景を持つ固形腫瘍や他の血液腫瘍での類似機序の探索が今後の課題である。ヒト AML 患者における非遺伝的クローン優位性マーカーの同定と、それらを標的とした治療戦略の開発も今後の研究方向性となる。

方法

本研究では、scRNA-seq に対応した発現バーコード技術 SPLINTR (Single-cell Profiling and LINeage TRacing) を開発し、これを用いて数千の白血病クローンを同時に時間分解能で追跡した。SPLINTR システムは、GFP、BFP、mCherry の3種類の蛍光タンパク質と組み合わせた高多様性バーコードライブラリ(GFP: n=200,000、BFP: n=800,000、mCherry: n=1,200,000 の固有バーコード)で構成され、複数集団の同時・逐次追跡を可能にした。バーコードは 3’ scRNA-seq で効率的に捕捉され、DNA バーコードシーケンスと高い相関を示した (Extended Data Fig. 1f-h)。

AML マウスモデルとして、MLL-AF9 単独、MLL-AF9+KrasG12D、MLL-AF9+Flt3ITD の3種類(C57BL/6J 系)を用いた。各モデルにおいて、HSC 由来および GMP 由来の白血病細胞を等量混合移植、単独移植、または競合移植(1:1:1 または 80:15:5 比)で実施した(各群 n=4〜5 マウス)。移植された細胞は、バーコードシーケンス、低被覆率ゲノムシーケンス、および scRNA-seq(3’ UMI ベース、UMAP 可視化)により解析された。

Slpi の機能検証のため、CRISPR-Cas9 媒介 sgRNA ノックアウト(GFP 標識)と非標的 sgRNA 対照(mCherry)の競合移植実験を行った(各群 n=4 マウス)。Slpi ノックアウト細胞の in vitro での生存・増殖への影響は認められなかったが、in vivo での腫瘍負荷は有意に低下した。二次移植実験では、骨髄・脾臓由来細胞を NSG および Ptprca 宿主へ逐次移植し、非遺伝的継承性を検証した。

化学療法応答の評価には、MLL-AF9+KrasG12D モデルを用い、ヒト AML 治療プロトコルに準じた集中的化学療法(シタラビン + ドキソルビシン)を Day 9 から開始した。治療群(n=6 マウス)と PBS(ビヒクル)群(n=6 マウス)を設定し、治療後 Day 2、Day 5、Day 7 に骨髄・脾臓細胞を採取し、scRNA-seq およびバーコードシーケンスにより解析した。

scRNA-seq データ解析は Seurat v.4 で行われ、低品質細胞(遺伝子数 < 500、UMI 数 < 1,000、ミトコンドリア RNA 含有量 > 15%)は除外された。SPLINTR バーコードは BAM ファイルから抽出し、Li et al. Bioinformatics 2009 の Bowtie v.1.2.2 を用いて対応するリファレンスライブラリにマッピングされた。Louvain クラスタリング(解像度 0.1-2)と UMAP による次元削減が適用された。差次遺伝子発現解析には MAST が用いられた。

scATAC-seq 解析は 10x Genomics Chromium Single Cell ATAC Solution を用いて行われ、Signac v.1.0.0 で解析された。クロマチンアクセシビリティの差次解析には MAST が用いられ、転写因子結合モチーフの濃縮解析も実施された。転写バースト動態は txburst を用いて推定された。統計解析には、Mann-Whitney U 検定、t 検定、Holm 多重比較補正などが用いられた。