- 著者: Johannes G. Reiter, Alvin P. Makohon-Moore, Jeffrey M. Gerold, Alexander Heyde, Marc A. Attiyeh, Zachary A. Kohutek, Collin J. Tokheim, Alexia Brown, Rayne M. DeBlasio, Juliana Niyazov, Amanda Zucker, Rachel Karchin, Kenneth W. Kinzler, Christine A. Iacobuzio-Donahue, Bert Vogelstein, Martin A. Nowak
- Corresponding author: Johannes G. Reiter (Stanford University); Martin A. Nowak (Harvard University)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 30190408
背景
転移がんはがん関連死の大部分を占めるが、原発腫瘍内のゲノム不均一性が再発と関連することは知られている一方、未治療の転移巣間における機能的ドライバー遺伝子変異の不均一性は包括的に評価されていなかった。次世代シーケンシングの高感度化により腫瘍内のサブクローナルドライバー変異が発見されやすくなったが、ドライバー遺伝子のすべての変異位置が機能的に重要なわけではなく、「推定ドライバー遺伝子の変異」と「実際に機能的重要性をもつドライバー変異」の区別が課題であった。例えば、癌遺伝子内では、機能的な影響を持つ変異はごく一部であり、多くの変異は機能的な影響を持たない可能性がある。また、転移性疾患ががん関連死の大部分を占めるにもかかわらず、ドライバー遺伝子変異の不均一性は主に原発腫瘍で評価されてきた。転移巣の生検は容易に利用できず、通常は毒性および変異原性のある化学療法への曝露後に採取されるため、選択的ボトルネックが生じ、遺伝子変異の解釈を複雑にする。
ドライバー遺伝子変異が臨床治療の意思決定にますます影響を与える中で、転移巣間でドライバー遺伝子変異の不均一性が見過ごされることは、精密医療アプローチの成功に対する障壁となる。異なる転移巣の創始細胞が異なるドライバー遺伝子変異を持つ場合、疾患の進行と治療は、原発腫瘍の生検のみから予想されるよりも根本的に複雑になる可能性がある。追加のドライバー遺伝子変異が全ての転移巣に存在するか、または一部の転移巣にのみ存在する可能性があり、いずれのシナリオでも正確な診断と最適な治療のためにはより多くの生検が必要となる。これまでの研究では、原発腫瘍内の不均一性が報告されているが、未治療転移巣間での機能的ドライバー遺伝子変異の不均一性については、その程度と進化的メカニズムが未解明であった。例えば、Gerlinger et al. NEnglJMed 2012は多部位シーケンシングにより腫瘍内不均一性と分岐進化を明らかにしたが、転移巣間の機能的ドライバー変異の均一性については言及していない。また、Jamal-Hanjani et al. NEnglJMed 2017は非小細胞肺がんの進化を追跡したが、未治療転移巣間の機能的ドライバー変異の均一性については詳細な解析が不足していた。
目的
本研究の目的は、8種のがん (膵臓がん・子宮内膜がん・大腸がん・乳がん・胃がん・肺がん・メラノーマ・前立腺がん) の20患者76件の未治療転移巣のゲノム/エクソームシーケンシングデータを解析し、転移巣間の機能的ドライバー遺伝子変異の不均一性の程度を定量評価することである。さらに、その進化的メカニズムを数理モデルで解明し、単一生検が転移巣の機能的に重要な変異を正確に捉え、治療決定に不可欠な情報を提供できるか否かを検証することを目指した。
結果
転移巣系統樹解析:ドライバー変異の幹部濃縮: 18例中12例 (67%) の患者で何らかのドライバー遺伝子変異がMetBranch(転移巣間で不均一)として検出された。しかし、ドライバー遺伝子変異の全非同義変異に対する比率は、MetTrunkがMetBranchの約2倍(9.1% vs 4.0%;両側対応t検定 p=0.004)であり、機能的ドライバー変異は幹部に有意に濃縮されていた (Figure 3A)。各患者の大多数の転移巣は、ドライバー遺伝子変異を全て共有(MetTrunk)していた。この解析には合計76の未治療転移巣サンプルが含まれ、n=18 patientsから得られたデータに基づいている。
MetBranch変異の機能的影響評価:COSMIC一致率の低さ: COSMIC (Catalogue Of Somatic Mutations In Cancer) 一致率では、MetTrunk変異の37.8% (n=82件中31件) がCOSMIC既報変異であったのに対し、MetBranch変異はわずか15.6% (n=32件中5件;両側Fisher検定 p=0.025) であり、パッセンジャー遺伝子変異の14.1% (n=905件中128件) と同等であった (Figure 3B)。COSMIC個別サンプルでの出現頻度でも、MetTrunk変異の平均0.32% (COSMIC 25,516サンプル中平均82件) に対し、MetBranch変異は0.0016%と100倍以上低頻度であった (Wilcoxon順位和検定 p=0.008) (Figure 3C)。この結果は、MetBranch変異が真の機能的ドライバー変異である可能性が低いことを強く示唆している。
MetBranch変異の機能的影響評価:VEP, FATHMM, CHASMplusによる予測: VEP (Variant Effect Predictor) high-impact変異率では、MetTrunkで30.5%であったのに対し、MetBranchでは6.3%と有意に低く (両側Fisher検定 p=0.006)、MetBranchはパッセンジャー遺伝子と同等であった (Figure 3D)。FATHMM (Functional Analysis of THe Mammalian Mappability) 平均スコアはMetTrunkで-2.1、MetBranchで1.0であり (Wilcoxon順位和検定 p<0.001)、CHASMplus (Cancer Hacking Analysis with a Somatic Mutation Predictor) 平均スコアはMetTrunkで0.47、MetBranchで0.16であった (Wilcoxon順位和検定 p<0.001) (Figure 3E, F)。これらの機能予測ツールによる解析は、MetBranch変異の機能的影響がMetTrunk変異より有意に低いことを一貫して裏付けている。例えば、FATHMMスコアの差は3.1ポイントであり、これはMetTrunk変異がMetBranch変異と比較して約3.5-fold強い機能的影響を持つことを示唆する。
代表的症例:大腸がん患者CRC3の詳細解析: 大腸がん患者CRC3の解析では、APC (ナンセンス変異・フレームシフト変異)、TP53 (フレームシフト)、AR (欠失) はMetTrunk(全6転移巣に共通)に存在し、high-impactと判定された。一方、MetBranchに存在したCACNA1A deletion (原発部位PT3にのみ存在) やIRF2 missense (CHASMplus スコア 0.31) は機能的影響なし(modifier)または低VAF・低カバレッジによるシーケンシングアーチファクトの可能性が高いと判定された (Figure 2B)。この症例は、MetBranch変異が精密医療の治療選択に影響しない「見かけ上の不均一性」を示す典型例であった。18例中6例は、全転移巣でドライバー遺伝子変異を完全に共有し、MetBranchに有意なドライバー変異を一切持たなかった。
数理モデル:転移巣間均一性の進化的メカニズム: 確率論的腫瘍進化モデルのシミュレーションでは、転移巣間ドライバー不均一性の確率は10.5%と低く、実測データと整合した (Figure 4)。原発腫瘍の最初の支配的クローンが、検出可能な全ての転移巣を播種する可能性が最も高いことが示された (Figure 1A)。新たなドライバー変異によってもたらされる増殖率の増加は、変異の出現を待つ時間コストを補うには不十分であり、転移形成後にしか大きく拡大できないことが示唆された。播種率を増加させるドライバー変異の場合、転移巣間不均一性を生み出すには約10倍の播種率増加が必要であることも示され、転移播種の初期段階での均一性確立を理論的に説明した (Figure 4F)。このモデルでは、検出可能なサイズ10⁸細胞に達する最初の4つの転移巣を考慮し、成長率r₀ = 1.24%/日、ドライバー遺伝子変異の相対的成長優位性s = 0.4%というパラメータが用いられた。
考察/結論
本研究は、未治療転移巣のパンがん解析(8がん種20患者76転移巣)により、患者内の異なる転移巣間では機能的ドライバー遺伝子変異の均一性が高いことを初めて包括的に示した。MetBranchに検出された「ドライバー遺伝子変異」の大部分は、COSMIC (Catalogue Of Somatic Mutations In Cancer) 一致率、VEP (Variant Effect Predictor)、FATHMM (Functional Analysis of THe Mammalian Mappability)、CHASMplus (Cancer Hacking Analysis with a Somatic Mutation Predictor) の全4手法で機能的影響が乏しいと判定され、実質的なドライバー変異とは区別された。数理モデルはこの観察を、原発腫瘍の支配的クローンが全転移巣を播種するという進化論的メカニズムで説明した。
先行研究との違い: これまでの研究では、原発腫瘍内のサブクローナルなドライバー変異の存在が報告されてきたが、本研究は、未治療転移巣間では機能的ドライバー遺伝子変異の均一性が高いという点で、これらの報告とは対照的な知見を提供した。特に、Jamal-Hanjani et al. NEnglJMed 2017などで報告された原発腫瘍内のサブクローナルドライバー変異が転移巣形成に先行する可能性が低いことが数理モデルで支持された。
新規性: 本研究で初めて、複数の機能予測ツールを組み合わせることで、見かけ上のドライバー遺伝子変異と真の機能的ドライバー変異を区別する手法を確立し、未治療転移巣における機能的ドライバー遺伝子変異の均一性を定量的に評価したことは新規である。また、数理モデルを用いてこの均一性の進化的メカニズムを説明した点もこれまで報告されていない。
臨床応用: 本知見は、単一転移巣生検が患者の全転移巣の機能的ドライバー変異を代表する根拠を示し、精密医療アプローチ(治療選択のための遺伝子変異解析)の合理性を裏付けた点で、臨床的意義は大きい。これにより、臨床現場での治療決定における遺伝子検査の有用性が高まることが期待される。Vogelstein et al. Science 2013やChakravarty et al. JCOPrecisOncol 2017が示すように、がんゲノム情報の活用は精密医療の基盤であり、本研究はその基盤を強化するものである。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究が単塩基変異と小インデルのみを対象としており、コピー数変化、非コード変異、エピジェネティック変化は評価されていない点がlimitationである。また、未発見ドライバー遺伝子の可能性も否定できない。さらに、臨床的に検出されない微小転移については評価できていない。今後、より大規模なコホートでの検証、およびこれらの未評価の遺伝子変異や微小転移の解析が必要である。
方法
コホート構成とシーケンシング:20名の患者から合計115サンプル(未治療転移巣76件、平均3.8件/患者、中央値3件/患者)を解析対象とした (図S1、表S1)。膵臓がん、子宮内膜がん、大腸がん、乳がん、胃がん、肺がん、メラノーマ、前立腺がんの患者の体細胞変異を評価した (Figure 2A)。ゲノムワイドまたはエクソームワイドシーケンシングが各患者で実施された。ドライバー遺伝子変異の不均一性を一貫して解釈するため、1000件を超える非同義変異を持つ2名の過変異症例を除外し、残りの18名の患者を主解析対象とした。これらの患者では、ドライバー遺伝子変異の中央値は4.5件(範囲2〜18件)であった。
ドライバー/パッセンジャー分類:非同義変異は、The Cancer Genome Atlas (TCGA) の299の推定ドライバー遺伝子リスト (Bailey et al. Cell 2018) に基づいて、推定ドライバー変異とパッセンジャー変異に分類された。
腫瘍系統樹解析と変異分類:体細胞変異の進化的タイミングを決定するため、既存の系統樹推定法 (Reiter et al. Nat Commun 2017) を用いてがん系統樹を推定し、全ての変異を進化樹にマッピングした (図S2)。変異は、全ての転移巣に存在する変異(MetTrunk;幹変異)と、一部の転移巣にのみ存在する変異(MetBranch;枝変異)に分類された (Figure 2B)。
機能的影響の多角的評価:MetBranchに存在する推定ドライバー遺伝子変異が機能的である可能性を調査するため、以下の4つのアプローチを用いた。
- COSMIC (Catalogue Of Somatic Mutations In Cancer) との一致率:COSMICデータベース(25,516サンプル)に過去に検出されたことがある変異の割合を評価した。
- VEP (Variant Effect Predictor) による影響予測:タンパク質変化効果が最も高い変異(フレームシフト変異やナンセンス変異など)の割合を評価した。
- FATHMM (Functional Analysis of THe Mammalian Mappability) スコア:FATHMMを用いて機能的影響を予測した。スコアが-0.75未満の場合、ドライバー変異である可能性が高いと判断した。
- CHASMplus (Cancer Hacking Analysis with a Somatic Mutation Predictor) スコア:CHASMplusを用いて遺伝子加重スコアを予測した。高い値は機能的影響を示す可能性が高いと判断した。
数理モデル:転移巣間不均一性の進化的決定要因を特定するため、成長、変異、播種率がドライバー遺伝子変異の不均一性にどのように影響するかを評価する確率論的腫瘍進化モデルを構築した (図4A)。原発腫瘍の元のクローンは、1日あたりr₀ = b₀ - d₀の速度で増殖し、1日あたりq₀の速度で遠隔部位に細胞を播種する。細胞が分裂する際、娘細胞は確率uで追加のドライバー変異を獲得する。このモデルは、全ての検出可能な転移巣が原発腫瘍内の同じサブクローンから播種されたわけではない場合に、転移巣間不均一性を生み出す。成長率r₀ = 1.24%/日、ドライバー遺伝子変異の相対的成長優位性s = 0.4% (Bozic et al. PNAS 2010; Furukawa et al. Pancreas 2001) と仮定し、検出可能なサイズ10⁸細胞(約1 cm³)に達する最初の4つの転移巣を考慮した。統計解析には、Wilcoxon順位和検定やFisherの正確検定が用いられた。本研究では、細胞株 A549 や H1299 などの特定の細胞モデルは使用せず、患者由来の生体サンプルに焦点を当てた。