- 著者: M. Jamal-Hanjani, G.A. Wilson, N. McGranahan, N.J. Birkbak, T.B.K. Watkins, S. Veeriah, S. Shafi, D.H. Johnson, R. Mitter, R. Rosenthal, M. Salm, S. Horswell, M. Escudero, N. Matthews, A. Rowan, T. Chambers, D.A. Moore, S. Turajlic, H. Xu, S.M. Lee, M.D. Forster, T. Ahmad, C.T. Hiley, C. Abbosh, M. Falzon, E. Borg, T. Marafioti, D. Lawrence, M. Hayward, S. Kolvekar, N. Panagiotopoulos, S.M. Janes, R. Bhayani, A. Navani, A. Khalil, P. Moore, A. Vaidyanathan, M. Eldridge, J. Laskey, D. Blyth, J. Krebs, C. Nicholson, E. Paddock, J. Spicer, A. Bhatt, H. Gupta, B. Rabbitts, N. Ahmed, V. Bhatt, G. Rana, S. Burges, K. Conibear, W. Pipe, H. Doran, L. Rayson, D. Smit, N. Patel, A. McDermott, J. Field, J. Ali, R. Eccles, H. Elston, N. Smith, M. Heider, D. Wilson, A. Warren, E. Beddow, K. Crawford, J. Baber, M. Shackcloth, P. Nott, F. Batchelor, R. Chavan, J. Heath, G. Middleton, N. Thatcher, J. Harber, M. D’Ambrosio, A.J. Benepal, M. Dokollari, R. Mwabundo, P. Pepke-Zaba, D. Argris, H. Thirugnanasundaram, C. Swanton
- Corresponding author: Charles Swanton, MD, PhD (Translational Cancer Therapeutics Laboratory, Francis Crick Institute, London, UK)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-04-26
- Article種別: Original Article
- PMID: 28445112
背景
肺癌は世界最多の癌関連死亡原因であり、非小細胞肺癌 (NSCLC) がその大部分を占める。大規模なシーケンス研究によりNSCLCの複雑なゲノムランドスケープが明らかになり、腺癌と扁平上皮癌の間でゲノムの違いも示されているが (Cancer et al. Nature 2014、TCGA et al. Nature 2012、Imielinski et al. Cell 2012、Campbell et al. NatGenet 2016)、腫瘍内不均一性 (intratumor heterogeneity: ITH) と癌ゲノム進化に関する詳細なデータは、これまで小規模な後向きコホートに限定されていた。ITHは腫瘍進化と薬剤耐性の主要な原動力として理論化されていたが、早期NSCLCにおける前向き大規模研究は存在せず、その臨床的意義やドライバーイベントのクローン性が治療戦略に与える影響は未解明であった。
外科切除可能な早期 (I〜IIIA期) NSCLCでも5年生存率は30〜70%にとどまり、術後再発を予測し予防する戦略の確立が求められていた。先行研究として、腎細胞癌において多領域シーケンスによるITHが後向きに示されたが、NSCLCへの前向き一般化は未達であった。染色体不安定性 (chromosomal instability: CIN) とコピー数変化が予後に関与する可能性は示唆されていたが、多領域シーケンスを用いた動的CINの前向き定量と臨床アウトカムの連結はなされていなかった。この領域における知識ギャップが残されており、ITHの包括的な理解と臨床的関連性の確立が不足していた。
TRACERx (TRAcking Non-Small-Cell Lung Cancer Evolution through Therapy) は英国Cancer Research UKが資金提供した多施設前向き観察研究 (NCT01888601、2014年4月から登録開始) であり、最終目標登録数は842例である。本報告はその第1報として前向きに登録された最初の100例を解析したものである。この研究は、ITHが変異(単一または二ヌクレオチド塩基置換、または小さな挿入および欠失)または体細胞コピー数異常(染色体セグメントの獲得または喪失を反映)の観点から臨床転帰と関連するという仮説を検証することを目的としている。
目的
切除可能早期NSCLC (I〜IIIA期) 患者100例の多領域全エクソームシーケンス解析により、以下の目的を達成することを目指した。(1) 腫瘍内不均一性 (ITH) の量的・質的特性を包括的に定義し、その広がりを評価する。(2) ドライバー変異およびコピー数異常のクローナル性(全癌細胞に存在)とサブクローナル性(一部の癌細胞に存在)を体系的に分類し、腫瘍進化におけるそれらのタイミングを特定する。(3) 特に、コピー数不均一性 (copy-number heterogeneity: CNAI) が術後再発または死亡リスクとどのように関連するかを前向きに検討し、その予後予測因子としての可能性を評価する。これらの解析を通じて、NSCLCの進化メカニズムを解明し、より効果的な治療戦略の開発に貢献することを目指した。
結果
腫瘍内不均一性の広汎な存在と多領域解析の優位性: 100例中98例 (98%) でサブクローナル変異が同定され、早期NSCLCにおけるITHの普遍性が確認された。体細胞変異の中央値は、コーディング/非コーディング含め、サブクローナル変異が30% (範囲0.5〜93%)、サブクローナルコピー数異常 (CNA) が48% (範囲0.3〜88%) であった。単一サンプル解析では76%のサブクローナル変異がクローナルと誤認識される可能性があり、多領域シーケンスがITH検出力に与える影響が示された (Fig. S4)。多領域WESで同定された変異数の中央値は517であり、単一サンプル解析の398 (p=0.009) やCancer Genome Atlasの単一サンプル解析の207 (p<0.001) と比較して有意に多かった (Fig. S5)。また、525の変異クラスター(中央値5/腫瘍、範囲2〜15)が同定され、ほとんどの腫瘍領域 (86%) は系統樹の単一枝のみのサブクローンを含んでいた。単一診断生検サンプルでは65%のサブクローンクラスターがクローナルと誤認される可能性が示された。
ドライバー変異のクローナル/サブクローナル分類と腫瘍進化タイミング: 795のドライバーイベントが同定され、576がクローナル、219がサブクローナルであった。EGFR、MET、BRAFのドライバー変異および増幅はほぼ全てがクローナルであり、ゲノム倍加前の早期イベントとして同定された。これは、これらのドライバーが腫瘍発生の初期ステップを担うことを示唆する。TP53変異も両組織型でクローナルかつ早期であった。対照的に、PIK3CA (扁平上皮癌での多くの変異)、KMT2C、COL5A2 (腺癌) の変異はクローナルであったが、ゲノム倍加後の後期に生じることが多かった。クロマチンリモデリング、ヒストンメチル化、DNA修復関連遺伝子のドライバー変異の51%はサブクローナルまたは後期に発生しており、腫瘍進化の後半にゲノム完全性制御の逸脱が集積するパターンが示された (Fig. 4)。本研究の100腫瘍中86例が、National Lung Matrix Trial (NLMT) やMolecular Analysis for Therapy Choice (MATCH) などのゲノムプロファイルに基づく薬剤研究で調査されている変異を保有していた。これらの86腫瘍のうち17例 (20%) はサブクローナルな標的可能変異を保有し、さらにそのうち12例 (71%) ではクローナルとサブクローナル両方の標的可能変異が共存していた。
コピー数不均一性 (CNAI) と再発・死亡リスク: CNAIが高値(コホート中央値48%以上)の群は、低値群に比べて無再発生存期間 (RFS) が有意に短縮した。ハザード比 (HR) は4.9 (95% CI 1.8-13.1, p=4.4×10⁻⁴) であった (Fig. 2C)。高CNAI群の再発または死亡までの時間中央値は24.4ヶ月であったのに対し、低CNAI群では中央値に達していなかった。この関連性は、年齢、喫煙量 (pack-years)、組織型、術後補助療法、病期を調整した多変量解析後も有意性を維持し、HR 3.70 (95% CI 1.29-10.65, p=0.01) であった。対照的に、サブクローナル変異の割合はRFSとの有意な関連を示さなかった (p=0.70)。静的なゲノム染色体異常量(腫瘍領域全体で異常なゲノムの平均割合)は生存と関連しなかったが、動的なCINの指標であるCNAIが予後と関連したことは、ゲノムの「状態」ではなく、CINの「継続的な速度」が予後予測において重要であることを示唆する。
染色体不安定性、ゲノム倍加、および並行進化: ゲノム倍加は76%の腫瘍で確認され、そのほとんど全てがクローナルな早期イベントであり、NSCLCの初期進化における普遍的なイベントであることが示された。腺癌では、ゲノム倍加とサブクローナル変異頻度 (p=0.02) およびサブクローナルCNA頻度 (p=0.003) に有意な関連が認められた。ミラー型サブクローナル対立遺伝子不均衡 (MSAI) は、CNAデータのある92腫瘍中62% (30腺癌、23扁平上皮癌、4その他) で同定され、375イベントが確認された (Fig. 3A, 3B)。これらのイベントは腫瘍ゲノムの1〜43%をカバーしていた。MSAIはゲノム倍加腫瘍で有意に濃縮されていた (p=0.004、Fisher検定)。コピー数レベルでの並行進化(異なるサブクローンで同一遺伝子への独立した変化)は、5腫瘍で局所増幅 (CDK4, MUC1, CHD8, NKX2-1など) として、13腫瘍で染色体アームレベルで観察された (Fig. 3C)。
変異プロセスと腫瘍適応: クローナル変異は喫煙シグネチャー (Signature 4) と強い相関 (腺癌: Spearman rho=0.90, p<1.1×10⁻¹⁶; 扁平上皮癌: rho=0.84, p=3.9×10⁻⁹) を示し、喫煙発癌が腫瘍形成の最初期に強く寄与することを裏付けた。サブクローナル変異は時計様シグネチャー1A/5 (p有意) およびAPOBECシグネチャー2/13と相関したが、喫煙シグネチャー4とは相関がなかった。これは、APOBECが腫瘍の後期多様化を推進することを示唆する。APOBEC変異内にサブクローナルドライバーを持つ腫瘍が19例確認された。
考察/結論
本研究はTRACERx (TRAcking Non-Small-Cell Lung Cancer Evolution through Therapy) の第1報として、早期NSCLCにおける腫瘍内不均一性を前向きかつ大規模に定量化した最初のコホートであり、コピー数不均一性 (CNAI) が術後再発の独立した予後予測因子 (HR 4.9, 95% CI 1.8-13.1, p=4.4×10⁻⁴) であることを本研究で初めて前向きに実証した点で臨床的意義が極めて高い。この知見は、染色体不安定性が予後予測因子となりうることを支持する。
先行研究との違い: これまでの小規模な後向き研究とは異なり、本研究は大規模な前向きコホートにおいて多領域全エクソームシーケンス解析を実施し、ITHの普遍性と、特にCNAIが再発リスクと強く関連することを明確に示した。これにより、ITHの臨床的意義に関するこれまでの不明瞭な点が解消された。
新規性: ドライバー変異のクローナル性(EGFR、MET、BRAFはほぼ全て腫瘍全体に存在)という知見は、これらを標的とした分子標的療法が腫瘍全体を均一に制御できる理論的根拠を新規に提供する。例えば、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬のオシメルチニブなどがほぼ全例に奏効する機序を直接支持する知見である。一方、75%以上の腫瘍でサブクローナルドライバーが存在することは、単一標的療法の限界と克服戦略の必要性を示す。
臨床応用: 本知見は、CNAIに基づくリスク層別化が術後補助療法の適否決定(高CNAI高リスク群への強化療法選択)に活用できる可能性を示唆する。また、クローナルネオアンチゲン(全腫瘍細胞に共通)を標的とした個別化ネオアンチゲンワクチン療法や養子細胞療法が有望な治療戦略として示唆された。さらに、液体生検によるクローナル/サブクローナルctDNA変異の動的モニタリングが術後再発の早期検出に有用である可能性も提示された。単一生検では76%のサブクローナル変異がクローナルと誤分類され、65%のサブクローンが検出漏れとなることが示され、標的療法の奏効予測やバイオマーカー開発において単一生検の限界が明示された。
残された課題: 今後の検討課題として、CNAI予後予測の更大規模コホートでの検証、術後補助化学療法・免疫療法とCNAIの相互作用、染色体不安定性の分子ドライバーの同定(候補: APOBEC誘導変異、紡錘体チェックポイント異常)、およびCINそのものを治療標的とする戦略の探索が挙げられる。また、非侵襲的な液体生検が臨床現場で染色体不安定性のレベルを前向きに評価できるかどうかも、さらなる注意を要する。本研究のlimitationとして、初期コホートの規模がまだ限定的であること、および特定のドライバー変異の機能的影響を詳細に解析するにはさらなる研究が必要であることが挙げられる。
方法
試験デザイン: 本研究は、英国多施設前向き観察コホート研究であるTRACERx (TRAcking Non-Small-Cell Lung Cancer Evolution through Therapy) の第1報として実施された。対象患者は、I〜IIIA期のNSCLC(ただし、CRUK0035患者の腫瘍は術後病理組織学的解析に基づきIIIB期と分類された1例を含む)と診断され、全身療法を受ける前に外科切除を受けた18歳以上の患者であった。ALK、ROS1、RET転座陰性であることがシーケンスおよび免疫組織化学 (IHC) で確認された。患者の匿名性を保護するため、識別子は再割り当てされ、ITHと組織学的サブタイプに基づいて順序付けされた。
サンプリングとシーケンス解析: 100例の患者から空間的に離れた複数腫瘍領域(合計327領域 — 323の原発腫瘍領域と4つのリンパ節転移領域)が採取された。各腫瘍から採取された領域数の中央値は3.0(範囲2〜8)であった。これらの腫瘍サンプルと、対応する100検体の正常組織(全血由来)を用いて、Illumina HiSeqプラットフォームによる全エクソームシーケンス (WES) が実施された。シーケンス深度の中央値は426×であり、高深度解析を可能にした。変異およびコピー数変化は、全領域に共通して存在する「クローナル」または一部の領域のみに存在する「サブクローナル」として分類された。全てのシーケンスデータはEuropean Genome-Phenome Archive (アクセッション番号 EGAS00001002247) に寄託されている。
コピー数不均一性 (CNAI) の定量と予後評価: ゲノムにおけるコピー数変化のうち、サブクローナルな(腫瘍領域間で異なる)割合をCNAIとして定量化した。コホート全体のCNAI中央値 (48%) を閾値として、患者を高CNAI群と低CNAI群に二分し、無再発生存期間 (RFS) との関連をCox比例ハザードモデルを用いて評価した。多変量解析では、年齢、喫煙量 (pack-years)、組織型、術後補助療法、および病期を調整変数として用いた。
変異シグネチャー解析: Alexandrov et al. Nature 2013 の報告に基づき、既知の変異シグネチャー(喫煙シグネチャー4、APOBECシグネチャー2/13、時計様シグネチャー1A/5など)へのクローナルおよびサブクローナル変異の寄与を定量した。これにより、腫瘍進化の異なる段階で作用する変異プロセスを特定した。
並行進化の解析: 多領域WESデータから得られた生殖細胞系ヘテロ接合性一塩基多型 (SNP) のBアレル頻度 (BAF) プロファイルを利用し、異なるサブクローンが異なる領域で対立遺伝子の逆方向コピー数変化を示す「ミラー型サブクローナル対立遺伝子不均衡 (mirrored subclonal allelic imbalance: MSAI)」を検出した。これは、異なるサブクローンが独立して同一遺伝子に収束する並行進化の証拠とされた。