- 著者: Yuanjiao Zhang, Jinjun Qian, Chunyan Gu, Ye Yang
- Corresponding author: Chunyan Gu (guchunyan@njucm.edu.cn, The Third Affiliated Hospital of Nanjing University of Chinese Medicine); Ye Yang (yangye876@sina.com, Nanjing University of Chinese Medicine)
- 雑誌: Signal Transduction and Targeted Therapy
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-02-24
- Article種別: Review
- PMID: 33623018
背景
真核生物の約94%の遺伝子が選択的スプライシングを受け、1つの遺伝子から複数の機能的に異なるタンパク質アイソフォームが産生される。スプライシングはU1、U2、U4、U5、U6の5種類の低分子核リボ核タンパク質(snRNP)からなるスプライソソームによって実行される。セリン/アルギニンリッチ(SR)タンパク質はエクソン性スプライシングエンハンサー(ESE)およびイントロン性スプライシングエンハンサー(ISE)に結合しスプライシングを促進する一方、ヘテロ核リボ核タンパク質(hnRNP)はエクソン性スプライシングサイレンサー(ESS)およびイントロン性スプライシングサイレンサー(ISS)に結合しスプライシングを抑制するという拮抗的調節を行う。この複雑なスプライシングネットワークは、cis作用エレメント、スプライソソームの集合、そして拮抗的な機能を持つ多数のtrans作用因子によって定義される。異常なスプライシングは膀胱、脳、乳、肺など多くの固形腫瘍および急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形成症候群(MDS)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、慢性リンパ性白血病(CLL)などの血液腫瘍の発生・進行と密接に関連することが、Hanahan et al. Cell 2011やBonnal et al. NatRevClinOncol 2020など複数の先行研究で明らかになっている。特に血液腫瘍ではSRSF2、SF3B1、U2AF1、ZRSR2などのコアスプライシング因子に体細胞変異が高頻度で認められることが報告されている。しかし、選択的スプライシングの異常が癌の「ドライバー」であるか「パッセンジャー」であるかについては依然として議論があり、その治療標的としての系統的評価は不足していた。また、スプライシング異常が腫瘍細胞の増殖、アポトーシス、浸潤、転移、血管新生、代謝といった癌の主要な特徴にどのように影響するかについての包括的な理解は未解明な点が多く、これらのメカニズムを詳細に解明し、新たな治療戦略を開発するための知識ギャップが残されている。
目的
本レビューの目的は、選択的スプライシングの分子機序(cis作用エレメント、スプライソソーム、trans作用因子)から、癌細胞における異常スプライシングの機能(増殖、アポトーシス、浸潤、転移、血管新生、代謝への影響)、スプライシング因子変異、非コードRNA(lncRNA、circRNA)のスプライシング異常、および小分子阻害剤、スプライススイッチングオリゴヌクレオチド(SSO)、CRISPRなどの技術を用いた治療応用戦略まで、最新の知見を体系的にレビューすることである。特に、血液腫瘍におけるコアスプライシング因子の変異の詳細な役割と、固形腫瘍におけるスプライシング異常のドライバー/パッセンジャーとしての位置付けを明確にすることを意図する。さらに、異常スプライシングアイソフォームを標的としたRNAベースの治療法の可能性と、癌免疫療法における癌特異的スプライシングネオ抗原の応用についても議論する。
結果
スプライシング機序:スプライソソーム組成と主要パターン: スプライシングは「GU-AG」ルールに従い、5’スプライスサイト(SS; イントロン5’末端のGUジヌクレオチド)、3’SS(イントロン3’末端のAG)、ブランチポイントシーケンス(BPS)、ポリピリミジントラクトという4つのコンセンサス配列をスプライソソームが認識することで実行される。スプライソソーム集合はComplex E(U1 snRNP-5’SS結合、スプライシング因子1(SF1)/BPS結合、U2AF2/ポリピリミジントラクト結合)→Complex A(U2 snRNP-BPS)→Complex B(U5/U4/U6三量体リクルート)→2回の転エステル化反応→成熟mRNAとイントロン放出という段階的プロセスで進行する(Figure 1)。SRタンパク質はESE・ISEに結合してスプライシングを促進し、hnRNPはESS・ISSに結合して抑制するという拮抗的調節がスプライシングパターンを決定する。主要な選択的スプライシングパターンは5種類(エクソンスキッピング、イントロン保持、相互排他的エクソン、代替5’SS、代替3’SS)に分類される(Figure 2)。ほかにも300を超えるRNA結合タンパク質(RBP)が同定されており、調節の複雑性を増している。
増殖・アポトーシスにおける選択的スプライシングの機能: 腫瘍細胞は増殖促進・アポトーシス回避アイソフォームを優先的に産生する。インテグリンサブユニットα6(ITGA6)はITGA6A(増殖促進型)とITGA6B(正常型)に選択的スプライシングされ、c-Mycによるプロモーター活性化と上皮スプライシング制御タンパク質2(ESRP2)による選択的スプライシングを介してITGA6Aが結腸癌細胞で増加し、増殖を促進する。C-Mycはポリピリミジントラクト結合タンパク質(PTB)、hnRNPA1、hnRNPA2を上方調節してピルビン酸キナーゼ(PKM)スプライシングをPKM2方向に誘導し、腫瘍細胞増殖を促進する。RNA結合モチーフタンパク質10(RBM10)変異は肺癌細胞でNUMBスプライシングを乱しNUMB-PRRL産生を低下させて腫瘍増殖を誘導する。アポトーシス制御においては、Bcl-xがBcl-xl(アポトーシス抑制)とBcl-xs(促進)の2種類のアイソフォームを産生し、PTBP1過剰発現がBcl-xの5’SSを促進しBcl-xl優位となりアポトーシスが抑制される。MCL-1もSRSF5、SRSF1によるスプライシング制御を受け、アポトーシスの誘導・抑制を切り替える。Caspase-2のスプライシングもRBMPを含む複数のSR因子によって調節されることが示されている。
浸潤・転移における選択的スプライシングの機能: 上皮間葉転換(EMT)の主要誘導因子であるTGFβはTGFβ活性化キナーゼ1(TAK1)のexon 12スキップを誘導する選択的スプライシングを引き起こし、EMTを促進する。CD44の選択的スプライシングはESRP1(CD44v、上皮型を維持)とhnRNPM(CD44s、間葉型)の競合によって制御され、CD44sがERK/MEK経路を介して乳癌細胞のEMT発生・進行を促進する。ESRP1とhnRNPMはpre-mRNA上のGU-richな結合部位を競争してエクソン包含またはスキップを調節し、上皮型か間葉型かという細胞運命を決定する。TGFβはさらに、SRSF2、hnRNPなどの複数スプライシング因子を通じて広範な転写後調節プログラムを実行することが示されている。
血管新生における選択的スプライシングの機能: 血管内皮増殖因子A(VEGF-A)は8つのエクソンからなり、エクソン6、7、8の3’・5’SS選択が血管新生促進(VEGF-A165a)と抗血管新生(VEGF-A165b)を切り替える。セリン/アルギニンタンパク質特異的スプライシング因子キナーゼ1(SRPK1)阻害によるSRSF1抑制はVEGFスプライシングをVEGF120(抗血管新生型)に転換させ、腫瘍内皮細胞増殖を抑制する。SRPK阻害剤SRPKIN-1はVEGF-A165bアイソフォーム産生を促進し、抗血管新生効果を示すことがマウス網膜モデルで実証されている。グリオブラストーマではGLI1遺伝子のスプライスバリアント(truncated GLI1)がVEGF-A発現を上方調節して血管新生を増強する。
代謝における選択的スプライシング:PKM1/PKM2スイッチとWarburg効果: 解糖系の最終段階を触媒するPKMのスプライシングは、hnRNPA1/hnRNPA2、PTB/nPTB、SRSF3によって制御されるエクソン9(PKM1)とエクソン10(PKM2)の相互排他的選択によって決まる。正常細胞では構成的に発現するPKM1に対して、腫瘍細胞ではPKM2が細胞シグナル依存的に優先的に産生される。PKM2上昇は複数の癌種で共通して認められ、解糖代謝優位(Warburg効果)への切り替えを担う。また乳癌細胞を低酸素条件(1% O2)で培養した近年のRNA-seqスタディでは、乳酸デヒドロゲナーゼA(LDHA)、腫瘍壊死因子スーパーファミリーメンバー13(TNFSF13)、Rho GTPase活性化タンパク質4(ARHGAP4)でのイントロン保持、MARCH7、ポリ(rC)結合タンパク質2(PCBP2)、ロイシンリッチリピート含有タンパク質3(LRCH3)でのエクソンスキッピングという広範な選択的スプライシング変化が確認され、低酸素応答における選択的スプライシングの重要性が示されている。
コアスプライシング因子変異(血液腫瘍)の詳細: 血液腫瘍において4種類のコアスプライシング因子(SRSF2、SF3B1、U2AF1、ZRSR2)の体細胞変異が腫瘍進行に直接関与することが明らかになっている。SRSF2変異:P95ホットスポット変異(RNA認識モチーフ(RRM)-RS領域連結配列)がCMMLで28〜47%、MDSでより低頻度に認められる。この変異はhnRNPタンパク質の分化スプライシングを変化させ、hnRNPA2B1機能障害を介した造血分化異常・癌発生を促進する。SF3B1変異:K700E、E622D、R625H、H662Q、K666Nなどの複数ホットスポット変異が存在し、U2 snRNPのBPS認識に関わるSF3B1を障害する。環状鉄芽球を伴う難治性貧血(RARS/RCMD-RS)で48〜79%、CLLで6〜26%に変異が認められる。CLL患者でのSF3B1変異はDNA損傷・Notchシグナル障害などを介して不良予後と関連する。U2AF1変異:U2AF35としても知られ3’SSに直接結合する。S34F、Q157R/Hというホットスポット変異がMDS(5〜12%)、CMML(8〜17%)、肺癌(3%)に認められる。トランスジェニックマウスモデル(n=12 mice)ではU2AF1(S34F)変異がWT比較で造血機能異常をもたらし、pre-mRNAスプライシングと下流遺伝子サブタイプ発現を変化させることが示された。S34変異はカノニカルおよびノンカノニカルな翻訳調節を介して遺伝子発現に影響を与える。ZRSR2変異:アルギニン-セリン富裕ファミリーに属し、U12型イントロンスプライシングに関与する3’SSに作用する。遺伝子全域に均等に分布し特定のホットスポットを持たない点が他3因子と異なる。MDS(1〜11%)、CMML(0.8〜8%)に低頻度変異が認められ、ZRSR2ノックダウン白血病細胞(n=3 cells)では増殖スローダウンが確認された。重要な特徴として、SF3B1、SRSF2、U2AF1の3因子は相互排他的なheterozygous change-of-function変異として出現することが多いが、ZRSR2はこのパターンに必ずしも従わず、4因子の変異と血液腫瘍サブタイプの関係には不明な点が残る。
非コードRNAと異常スプライシング: 長鎖非コードRNA(lncRNA)のPNUTS(hnRNPE1依存的、miR-205スポンジ)は乳癌浸潤を促進する。転移関連肺腺癌転写物1(MALAT1)は大腸癌でSFPQ-PTBP2相互作用の解離を介して増殖・遊走を促進する。これらのミススプライシングlncRNAは複数の腫瘍進行機序に関与する。環状RNA(circRNA)はスプライソソームを介したbacksplicingによって産生され、miRNAスポンジ、RBPデコイ、翻訳テンプレートとして機能し、一部は癌特異的発現変化を示す。
治療戦略 (4アプローチ): ①小分子スプライシング阻害剤:spliceostatin A、pladienolide-B、GEX1A(いずれもSF3B1標的)が前臨床試験で有望である。H3B-8800はSF3B1変異型MDS/CMML/AML対象のPhase 1試験(NCT02841540)が進行中である。amilorideはBcl-x、HIPK3、RONのスプライシング変化を誘導する。②SSO(splice-switching antisense oligonucleotide):Bcl-x SSOはBcl-xs産生(アポトーシス促進型)を誘導する前臨床実証がある。脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬nusinersen(SMN2 exon 7 ASO)がFDA承認の先行成功例として確立されている。③CRISPR-Cas13aおよび塩基エディター(BEs; CBE/ABE):RNA標的編集、代替ポリアデニル化制御という次世代RNA治療技術として研究段階にある。④癌特異的スプライシングネオ抗原:BCR/ABL融合転写産物やCD20変異スプライスバリアントに対するCTL誘導が癌免疫療法の新戦略として提案されており、癌免疫療法領域での応用が期待される(Figure 5)。
考察/結論
本レビューは、選択的スプライシングが癌の増殖、アポトーシス、浸潤、血管新生、代謝の各hallmarkを調節する上流制御機構として機能することを示し、スプライシング因子変異が血液腫瘍のoncogenic driverとして確立されていることを明らかにした。Imielinski et al. Cell 2012やKahles et al. CancerCell 2018の包括的な解析と異なり、本レビューは特定の癌種に限定せず、選択的スプライシングの異常が癌の発生と進行に深く関与し、細胞増殖、アポトーシス、浸潤、血管新生、代謝に影響を与えることを包括的に示した。
本研究で初めて、スプライシング因子の変異が血液腫瘍において高頻度で認められ、その変異が造血分化異常や癌発生を促進する具体的なメカニズムを詳細に記述した。特に、SF3B1、SRSF2、U2AF1、ZRSR2の各変異が特定の血液腫瘍サブタイプと関連し、その病態形成に寄与するメカニズムを明確にした点は新規性がある。
本知見は、異常スプライシングを標的とした新たな治療戦略の開発に繋がる臨床応用が期待される。SF3B1阻害剤H3B-8800の臨床試験(NCT02841540)が進行中であることは、この分野の臨床的有用性を示唆する。また、SSOやCRISPR-Cas13aのようなRNAベースの治療法は、より精密なスプライシング制御を可能にし、将来的な臨床現場での応用が期待される。癌特異的スプライシングネオ抗原の癌免疫療法への利用は、個別化医療の新たな方向性を示すものであり、臨床的意義は大きい。
しかし、残された課題も多い。固形腫瘍ではスプライシング異常の多くが「パッセンジャー」的要素も持ち、Kahles et al. CancerCell 2018の8,705症例解析では、癌でのスプライシング多様性増加は腫瘍化の「結果」である可能性も示唆されている。SF3B1阻害剤の標的外毒性と選択性の改善、SSOやCRISPRのデリバリー効率と特異性の向上が今後の検討課題である。また、スプライシングネオ抗原の癌免疫療法への利用においては、交差反応性、免疫原性、腫瘍不均一性がlimitationとして残る。今後は、特定のスプライシング変化がドライバー/パッセンジャーのいずれかを決定する基準の解明と、これらの治療法の安全性と有効性を確立するためのさらなる研究が不可欠である。
方法
本研究は、選択的スプライシングと癌に関する既存の文献を体系的にレビューしたものである。PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学データベースを用いて、関連する研究論文を検索した。検索キーワードには、「alternative splicing」、「cancer」、「tumor」、「spliceosome」、「splicing factors」、「oncogenic drivers」、「therapeutic targets」、「lncRNA」、「circRNA」、「small molecules」、「splice-switching oligonucleotides」、「CRISPR」などが含まれた。レビューの対象期間は特に限定せず、関連性の高い最新の知見から過去の重要な発見までを網羅した。選択基準としては、選択的スプライシングの調節メカニズム、癌細胞におけるその機能的役割、スプライシング因子の変異、非コードRNAとの関連、および治療的介入に関する原著論文、レビュー論文、系統的レビューなどが含まれた。除外基準としては、関連性の低い基礎研究や、癌以外の疾患に特化したスプライシング研究などが挙げられる。収集された論文は、各セクションのテーマ(背景、目的、方法、結果、考察/結論、図表)に従って分類・整理され、主要な知見が抽出された。特に、癌の増殖、アポトーシス、浸潤、転移、血管新生、代謝における選択的スプライシングの具体的な役割、および血液腫瘍におけるSRSF2、SF3B1、U2AF1、ZRSR2などのコアスプライシング因子の変異に関する詳細な記述に重点を置いた。また、スプライシングを標的とした治療戦略に関する前臨床および臨床試験のデータも収集し、その有効性と課題を評価した。本レビューは、既存の知見を統合し、選択的スプライシングと癌の関連性に関する包括的な理解を提供することを目的としている。