- 著者: Alexander J. Davenport, Ricky W. Johnston, Paul A. Beavis, Jake Sherwood, John Westwood, David Galloway, Wei Chen, Phillip K. Darcy, Paul J. Neeson, Michael H. Kershaw
- Corresponding author: Paul J. Neeson and Phillip K. Darcy (Peter MacCallum Cancer Centre)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-02-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 25711536
背景
CAR (chimeric antigen receptor)-T細胞療法は、CD19を標的としたB細胞性悪性腫瘍において顕著な抗腫瘍効果を示し、その臨床的有効性はPorter et al. NEnglJMed 2011、Grupp et al. NEnglJMed 2013、Brentjens et al. SciTranslMed 2013らの研究で報告されている。しかし、CAR-T細胞の殺傷メカニズムの動態、特にTCR (T細胞受容体) 媒介T細胞傷害との比較における詳細な解明はこれまで不十分であった。養子細胞療法の治療効果を最大化するためには、少数のT細胞が多数の腫瘍細胞を逐次的に殺傷できる「serial killing (連続殺傷)」能力が極めて重要である。CARはTCRとは異なるシグナル伝達機構(scFv + 共刺激ドメイン vs αβTCR + CD3複合体)を持つため、殺傷開始までの速度、殺傷完了後の離脱速度、および連続殺傷の効率がTCRとは異なる可能性が指摘されていたが、この点については未解明な部分が多かった。
また、CARは抗原刺激後に表面発現量が減少する(インターナライゼーション)ことが知られており、これが長時間の腫瘍との接触において殺傷能力の制限要因となる可能性がある。しかし、その影響が実際の殺傷動態に及ぼす影響を定量的に評価した研究はこれまで報告されておらず、この点に大きな課題が残されていた。特に、固形腫瘍におけるCAR-T細胞の機能不全の一因として、CARの持続的な抗原刺激によるダウンレギュレーションが想定されるものの、その動態と殺傷能減衰との直接的な関連性については知見が不足していた。
目的
本研究の目的は、CAR-T細胞の連続殺傷 (serial killing) 能力をtime-lapse生体顕微鏡と蛍光標識を用いてリアルタイムに定量し、TCR媒介殺傷と比較することである。さらに、長時間 (0〜50時間) にわたる殺傷動態の変化とCAR/TCR表面発現の変動との関連性を解析し、CAR-T細胞の持続的な抗腫瘍効果を制限する要因を特定することを目指した。
結果
Ca2+フラックスからlethal hitまでの速度:CARとTCRで同等 (約28〜30分): CAR.OT-Iトランスジェニックマウス (OT-I TCR + anti-HER2 CD28-CD3ζ CARを共発現するCD8+ T細胞) を用いたtime-lapse生体顕微鏡解析 (E:T=1:3、PI/Fluo-4-AM標識) では、TCR刺激 (SIINFEKL/H-2Kb提示細胞) でのCa2+フラックス開始からlethal hit (PI陽性化) までの中央値は約30分であり、CAR刺激 (HER2発現細胞) では約28分であった。両群間に有意差は認められなかった (Mann-Whitney検定、p>0.05)。一方、Ca2+フラックスからT細胞離脱 (detachment) までの時間はCAR刺激でTCR刺激より有意に短かった (p<0.05) (図4D)。これはより効率的な免疫シナプス解消を示唆する。この解析にはn=32 (OT-I), n=23 (CAR.OT-I TCR), n=62 (CAR.OT-I CAR) の個別の結合イベントが含まれる。
連続殺傷 (serial killing) 能力:CAR群21.7% vs TCR群22.5%、同等: Single-T-cell tracking解析で、1つのT細胞が2個以上のターゲット細胞を順次殺傷するserial killingイベントの頻度を定量した (図6C)。TCR刺激ターゲット群では22.5%、CAR刺激ターゲット群では21.7%、OT-I TCRのみのコントロール群では約23.5%のT細胞がserial killingを実行し、3群間で有意差はなかった (p>0.05)。CAR-T細胞がTCRと同等の連続殺傷能力を持つことが初めて定量的に実証された。これらの結果は、CAR-T細胞が初期の腫瘍細胞数に対して優位に立ち、効率的な腫瘍排除に寄与する可能性を示唆する。
短期細胞傷害 (0〜20時間) :TCRとCAR刺激条件で同等の細胞傷害能: 4時間51Cr放出アッセイおよびxCELLigenceの0〜8時間解析において、CAR.OT-I T細胞の細胞傷害能に有意差はなかった (図5A, B)。例えば、E:T比10:1および5:1の条件で、CAR刺激とTCR刺激の殺傷速度は8時間まで同等であった。これはtime-lapse顕微鏡の動態データと整合する結果であり、短期的にはCARとTCRは同等の効率で腫瘍細胞を排除することが確認された。51Cr放出アッセイでは、CAR.OT-I T細胞はMC57-OVA257およびMC57-HER2ターゲット細胞に対して、それぞれ約40%の細胞傷害活性を示し、MC57コントロール細胞に対する活性は5%未満であった (p<0.05)。
長期細胞傷害 (20〜50時間) の差異:CAR刺激条件で20時間以降に減衰: xCELLigenceの0〜50時間連続モニタリングでは、TCR刺激条件では20時間以降も細胞傷害活性が継続・増強 (インピーダンス低下の傾きが高い) したのに対し、CAR刺激条件では20時間以降に細胞傷害活性の明確な減衰が観察された (傾きの差、p=0.0006) (図7B, C)。この長期的な殺傷能の乖離がCAR特有の問題として特定された。E:T比1:1の条件で、TCR刺激群の殺傷速度は0.008 AU/hであったのに対し、CAR刺激群では20時間以降に0.002 AU/hまで減速した。この結果は、CAR-T細胞の長期的な機能維持における課題を浮き彫りにする。
CAR表面発現のdownregulation:TCRより速く20時間後に有意低下: フローサイトメトリー定量では、HER2-CAR表面発現は培養0時間に対して20時間後に有意に低下し (internalization)、50時間後も低レベルが持続した (図7E)。CARの平均蛍光強度 (MFI) は0時間で約1000であったが、20時間後には約300まで減少し、50時間後も同様の低レベルであった。TCR (Vα2/Vβ5) 表面発現は20時間後には有意差なく、50時間後も検出可能レベルを維持した (図7F)。TCRのMFIは0時間から50時間まで約1500を維持した。CAR downregulationの速度がTCRより速いことが明らかとなり、抗原接触後の持続的CAR発現維持が長期殺傷能確保における設計上の重要課題であることが示された。
考察/結論
本研究は、CAR-T細胞がTCR刺激と同等の速度・頻度でserial killing (連続殺傷) を実行できることを初めてtime-lapse顕微鏡で定量的に実証した。これはCAR-T細胞療法においても少数のT細胞が多数の腫瘍細胞を効率よく排除できるという理論的根拠を提供し、養子細胞療法の効果予測モデルに重要な知見を追加した。
先行研究との違い: これまでの研究ではCAR-T細胞の連続殺傷能力は詳細に評価されていなかったが、本研究はTCRとCARの殺傷動態を同一細胞内で比較することで、CAR-T細胞がTCRと同等の連続殺傷能力を持つことを初めて明らかにした点で、これまでの報告と異なる。特に、Ca2+フラックスからlethal hitまでの速度がCARとTCRで同等であったことは、CARがTCRと同様に迅速な細胞傷害を誘導できることを示唆する。
新規性: 最も重要な新規の臨床的示唆は、CAR表面発現の抗原接触後ダウンレギュレーションが長期的 (20時間以降) な殺傷能を低下させるという発見である。これは慢性的な抗原刺激環境 (固形腫瘍内) においてCAR T細胞が疲弊・機能低下を来す機序の一端を説明する。本研究の独自性は、TCRとCARを同一T細胞集団 (CAR.OT-I) に共発現させることで、細胞種差・活性化状態差を排除した条件下での厳密な比較を可能にした点である。また、time-lapse顕微鏡による単一T細胞レベルの動態解析という方法論的強みがあり、bulk assay (51Cr、xCELLigence) では検出できない細胞レベルの殺傷イベントを定量化した。
臨床応用: 本知見は、CARのdownregulation抑制 (エンドサイトーシス経路の遮断、CARのインターナライゼーション耐性設計) や、抗原刺激間に休止期を設けることでCAR再発現を促す投与スケジュール設計が、持続的な殺傷能維持の戦略として臨床応用に直結する可能性を示唆する。CAR-T細胞の長期的な有効性を高めるための設計原理に影響を与える重要な知見である。
残された課題: 今後の検討課題として、固形腫瘍の複雑な微小環境 (免疫抑制性サイトカイン、hypoxia、物理的障壁) がCAR downregulation速度や serial killing能力に与える影響の解析が必要である。また、CAR-T細胞の疲弊や記憶細胞形成におけるTCRとCARの関与についても、さらなるin vitroおよびin vivoでの研究が残されている。
方法
本研究では、CAR.OT-Iトランスジェニックマウスをモデルシステムとして用いた。このマウスのCD8+ T細胞は、Vavプロモーター駆動でOT-I TCRとanti-HER2 CD28-CD3ζ CAR (chimeric antigen receptor) を共発現する。これにより、同一T細胞集団でTCR刺激 (SIINFEKL/H-2Kb抗原提示細胞) とCAR刺激 (HER2発現腫瘍細胞) を比較可能とした。ターゲット細胞は、TCR刺激ターゲットとして293T-H-2Kb-SIINFEKL (MHC拘束性抗原提示)、CAR刺激ターゲットとして293T-HER2 (HER2安定発現) を使用した。
Time-lapse生体顕微鏡解析では、PI (ヨウ化プロピジウム) とFluo-4-AM (Ca2+インジケーター) で標識した共培養 (E:T比=1:3) をLive Imaging顕微鏡で1時間あたり4枚ずつ24時間撮影した。各killing eventについて、(1) Ca2+フラックス開始時刻、(2) lethal hit (ターゲット細胞PI陽性化) 時刻、(3) エフェクター細胞離脱時刻を手動でトレースした。連続殺傷の定義は、単一T細胞が複数のターゲット細胞を順次殺傷するイベントをtime-lapse画像で同定・定量した。
細胞傷害アッセイは、4時間51Cr放出アッセイ (短期) とxCELLigence (RTCA; real-time cell analysis) 電気インピーダンス法 (0〜50時間連続モニタリング) で細胞傷害活性を定量した。フローサイトメトリーにより、各時点でのCD8+ T細胞上のHER2-CAR (HER2-Fc染色) およびTCR (anti-Vα2、Vβ5抗体) 表面発現を定量した。統計解析にはMann-Whitney検定、Student t検定、およびANOVAが用いられた。本研究は、in vitroでの細胞レベルの動態解析に焦点を当てた基礎研究であり、臨床試験識別子 (例: NCT番号) は適用されない。