• 著者: Stephan A. Grupp, Michael Kalos, David Barrett, Richard Aplenc, David L. Porter, Susan R. Rheingold, David T. Teachey, Anne Chew, Bernd Hauck, J. Fraser Wright, Michael C. Milone, Bruce L. Levine, Carl H. June
  • Corresponding author: Stephan A. Grupp (Children’s Hospital of Philadelphia / University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-03-25
  • Article種別: Brief Report / Case Series
  • PMID: 23527958

背景

再発・化学療法抵抗性 pre-B 細胞性急性リンパ性白血病 (acute lymphoblastic leukemia, ALL) は同種造血幹細胞移植 (allogeneic hematopoietic stem cell transplantation, allo-HSCT) や bispecific antibody 療法でも予後不良であり、5 年生存率は 10-20% にとどまっていた。CD19 特異的 chimeric antigen receptor (CAR) T 細胞 (CTL019) は 4-1BB 共刺激ドメインとレンチウイルスベクターを用いた構造を持ち、成人慢性リンパ性白血病 (chronic lymphocytic leukemia, CLL) においては >1,000-fold の in vivo 拡大と完全寛解 (complete response, CR) を達成することが示されていた (Porter et al. NEnglJMed 2011)。Kochenderfer らは CD28 共刺激ドメインを用いた CD19 CAR-T を成人 B 細胞悪性腫瘍に適用し奏効を報告し (Kochenderfer et al. Blood 2012)、Brentjens らも CD19 標的 CAR-T の成人 B 細胞白血病への安全性と生着を示した。これらの先行研究は成人 B 細胞悪性腫瘍を対象としており、小児 ALL という急速進行・高腫瘍量の疾患に対して CAR-T 細胞が in vivo で十分に拡大し抗腫瘍活性を発揮できるかは手薄な領域であった。また、blinatumomab (bispecific CD3-CD19 antibody fragment) に抵抗性を示す症例が存在する中で、CTL019 が「既報」の抗原標的とは異なる有効性を示すか、および cytokine release syndrome (CRS) の重症化に対する管理戦略としての tocilizumab の有効性についても、先行研究にgap in knowledgeとして残されていた。特に、CAR-T 細胞が小児 ALL において中枢神経系 (CNS) まで到達し得るかは全く未検討であり、ALL 特有の CD19 陰性前駆細胞クローンによる抗原逃避 (antigen escape) の clinical reality も未確認であった。

目的

IRB 承認第 1 相試験 (NCT01626495) の最初の登録患者 n=2 例として、再発難治性 pre-B-ALL 小児への CTL019 輸注の安全性・忍容性・臨床的奏効・in vivo 動態を first-in-pediatric として報告すること。

結果

両患者での完全寛解達成 — 形態学的・分子的 CR の比較:CTL019 輸注後約 1 か月で両患者ともに形態学的 CR (骨髄 MRD <0.01%) が達成された (Fig. 1A)。患者 1 では IGH deep sequencing による分子的 CR が持続し、Day 180 の時点で 42 万以上の cell equivalents を解析しても悪性 IGH クローンは 0 reads であり (Table 1)、観察打ち切り時点 (n=11 か月後) まで末梢血・骨髄ともに分子的 CR が維持された。患者 1 の末梢血での腫瘍クローン頻度は Day -1 の 97.88% から Day 23 に 0% へと劇的に低下し、Day 87・Day 180 でも 0% が維持された (Table 1)。一方、患者 2 はフローサイトメトリーでは Day 23 に CR と判定されたが、IGH deep sequencing では同日の末梢血 19.60%・骨髄 66.90% に悪性クローンが残存しており (Table 1)、約 2 か月後に CD19 陰性骨髄再発が確認された。この flow-vs-sequencing の解離は deep sequencing による早期 MRD 検出の臨床的有用性を示すとともに、形態学的 CR のみでは再発予測が不十分であることを示した。

CTL019 の >1,000-fold in vivo 拡大と前例なき CSF 浸潤:両患者で CTL019 細胞は初期生着レベルから >1,000-fold に拡大した (Fig. 2B)。フローサイトメトリーでは患者 1 が Day 21 に循環 T 細胞の 71.5%、患者 2 が Day 9 に 65.2% を CTL019+ 細胞が占めるまでに達した (Fig. 2A)。輸注産物のトランスダクション効率は患者 1 で 11.6%、患者 2 で 14.4% であり、生着後の顕著な抗原特異的増殖が示された。TCR deep sequencing では Day 23 の骨髄・末梢血に dominant TCR クローンは存在せず (上位 10 クローンが 0.2-0.8% 以下)、CD19 駆動の polyclonal 拡大機序が確認された。特筆すべき新知見として、治療前後に CNS 白血病の証拠がなかった両患者の CSF でも高レベルの CTL019 DNA が検出され、少なくとも n=6 か月以上持続した (Fig. 2B・2C)。先行 CLL 研究では CSF への CAR-T 浸潤は報告されておらず、ALL における CNS 到達は初めての観察であった。

Grade 4 CRS とマクロファージ活性化症候群 — tocilizumab による急速管理:患者 1 は Day 4-5 から高熱が進行して ICU に入室し、grade 4 低血圧・急性血管漏出症候群 (acute vascular leak syndrome)・急性呼吸窮迫症候群 (acute respiratory distress syndrome, ARDS) へと進展した (Table 2)。最高体温 40.7°C、ferritin 45,529 ng/dL (Day 11)、macrophage activation syndrome (MAS) 様病態 (凝固障害、肝脾腫大、高トリグリセリド血症、肝酵素上昇) を呈した。Day 5 の methylprednisolone (2 mg/kg) では血圧安定が得られず、Day 7 の etanercept (0.8 mg/kg) + tocilizumab (8 mg/kg) の単回投与により数時間以内に解熱・昇圧剤離脱・人工呼吸器離脱 (ARDS は Day 8 に胸部 X 線陰性化) が達成された (Fig. 1A)。抗サイトカイン療法後も CTL019 の拡大は維持され、CR 達成に影響しなかった。患者 2 は軽症経過をたどり、grade 3 発熱 (最高 40.3°C、n=6 日間)・grade 3 脳症 (2 日間の混乱、MRI 正常) が自然回復した。grade 4 AST 1060 U/L・ALT 748 U/L も各 1 日で自然回復し (Table 2)、ferritin は 74,899 ng/dL (Day 11) まで上昇したが Day 21 には 3,894 ng/dL へと低下した。患者 2 は Day 16 に退院した。

サイトカイン動態 — IL-6 / IFN-γ ピークが CRS・CAR-T 拡大と時系列一致:両患者の血清において CTL019 拡大ピーク (Day 7-10) と一致して IL-6・IFN-γ・TNF-α・sIL-2Rα・IL-10 の著明な上昇が観察された (Fig. 1B)。患者 1 の IL-6 baseline は 4.3 pg/mL であり CRS ピーク時に >1,000-fold 上昇 (semilogarithmic スケールで記録)、患者 2 の IL-6 baseline は 1.9 pg/mL であった。Soluble IL-2 receptor α の上昇は両患者ともに特に顕著で、IFN-γ の高値は hemophagocytic lymphohistiocytosis (HLH) / MAS の既知サイトカインパターンと類似していた。この IL-6 と CRS 重症度の正相関は tocilizumab (IL-6 receptor 抗体) が CRS 管理において rational な介入であることの生物学的根拠を直接支持した。

CD19 陰性抗原逃避再発 — antigen escape の clinical demonstration:患者 2 は輸注後約 2 か月で末梢血に芽球が再出現して再発した。再発時の骨髄は CD45dim+CD34+ 芽球が 68% を占め、CD19 は完全に消失していた (mean fluorescence intensity, MFI 201 vs. 治療前 1,500) (Fig. 3)。IGH deep sequencing により再発時芽球は治療前の dominant CD45dim+CD34+CD19dim+ 集団と同一 IGH 配列を共有することが確認され、CD19 dim/negative の前駆細胞クローンが CTL019 の選択圧下で選択的増殖した antigen escape である可能性が示された。治療前の骨髄でも CD19 dim な小集団 (MFI 187) が存在しており、CTL019 投与前から CD19 陰性クローンが存在していたことが示唆された。B 細胞無形成 (B-cell aplasia) は両患者で輸注後 1 か月以内に完成し、患者 1 では 11 か月以上持続した。

考察/結論

本報告は CTL019 (4-1BB 共刺激 CD19 CAR-T) が再発難治性小児 ALL に対して強力な抗腫瘍活性を持つことを示した世界初の臨床証拠であり、CLL への適用から急速進行の小児 ALL への first-in-pediatric 拡張を実証した pivotal 報告である。これまでの研究では再発難治性 ALL の標準的アプローチは allo-HSCT や donor lymphocyte infusion (DLI) に限られていたが、既報の ALL 再発後 DLI による寛解率は 10% 以下にとどまっており、本研究の 2/2 例 (100%) 形態学的 CR 達成とは対照的である。4-1BB 共刺激 CTL019 は CD28 共刺激 CAR-T と相違し、動物モデルでの persistence 優越性 (Milone et al. MolTher 2009) が本臨床データで支持され、患者 1 の CSF 6 か月以上持続という長期 persistence として現れた。

本研究で初めて明らかになった点は 4 つある。(1) 小児 ALL でも CLL と同等の >1,000-fold in vivo CAR-T 拡大が実現可能であること。(2) CAR-T 細胞が CNS に高レベルで浸潤し長期持続すること — これは CNS 白血病予防の潜在的機序として、またこれまで報告されていない知見として重要である。(3) 重症 CRS (grade 4 ARDS・昇圧剤依存状態) に対して tocilizumab 単回投与が数時間以内に有効であること — この観察は抗 IL-6R 療法の CRS 管理への転用を世界初の clinical evidence として確立した。(4) CD19 陰性抗原逃避再発の clinical reality とその IGH deep sequencing による retrospective 検出可能性が示されたこと。

臨床的意義は甚大である。本報告のフレームワーク (4-1BB CTL019 + tocilizumab による CRS 管理 + IGH MRD monitoring) は後の ELIANA 試験 (Maude 2018 NEJM、n=75 例) (Maude et al. NEnglJMed 2014) へと発展し、tisagenlecleucel (Kymriah) の小児・若年成人 B 細胞 ALL に対する FDA 承認 (2017 年) に直結した。Tocilizumab の CRS 管理への標準化は臨床現場での CAR-T 療法施設認定基準 (REMS) に組み込まれ、bench-to-bedside として世界中に普及した。CSF への CAR-T 浸潤の観察は CNS 腫瘍への CAR-T 適用推進の臨床的含意を持つ。

残された課題として、(1) n=2 例の case series であり最適投与量・前処置・製造条件の確立が今後の検討事項として残された。(2) CD19 陰性再発の予測 biomarker (治療前 CD19dim 細胞の定量的評価) と回避戦略 (CD22 dual targeting、lineage switch monitoring) は limitation として認識され、後の (Sotillo et al. CancerDiscov 2015) が Δex2 splicing による CD19 逃避機序を分子レベルで解明した。(3) CSF persistence の長期的 neurotoxicity (CNS-ICANS) リスク評価は本 n=2 症例では決定不能で、larger cohort での future research が必要とされた。(4) 長期 B 細胞無形成に伴う感染リスクと免疫グロブリン補充の最適化は本研究範囲外の limitation として残された。

方法

Children’s Hospital of Philadelphia (CHOP) の IRB 承認第 1 相試験 (NCT01626495) における最初の登録患者 2 例を対象とした prospective case series である。患者 1 は 7 歳女児 (2 回再発 ALL、clofarabine + etoposide + cyclophosphamide 集中化学療法抵抗性) で、白血球除去アフェレーシスで採取した末梢血単核球 (peripheral blood mononuclear cells, PBMCs) をもとに製造した CTL019 (anti-CD19 single-chain variable fragment [scFv]-CD8α-4-1BB-CD3ζ、lentivirus transduction) を 1.2 × 10^7 cells/kg、3 日間分割投与した (リンパ球除去前処置なし)。患者 2 は 10 歳女児 (臍帯血同種移植後再発、blinatumomab 2 サイクル無効) で、etoposide + cyclophosphamide によるリンパ球除去後に CTL019 1.4 × 10^6 cells/kg を単回輸注した。評価項目は (a) 末梢血・骨髄・髄液 (cerebrospinal fluid, CSF) での CTL019 transgene コピー数 (quantitative PCR、1% マーキングラインを基準とした定量)、(b) フローサイトメトリーによる CD3/CAR 二重陽性 T 細胞の経時追跡、(c) immunoglobulin heavy chain (IGH) deep sequencing による分子的 minimal residual disease (MRD) 評価 (100 万超の cell equivalents 解析)、(d) T 細胞受容体 (TCR) ベータ鎖 deep sequencing によるポリクローナル性確認、(e) Luminex マルチプレックスアッセイによる血清サイトカイン 8 項目 (IL-1β、IL-2、IL-2Rα、IL-6、IL-10、IFN-γ、TNF-α、IL-1Rα) の経時測定、(f) 有害事象 CTCAE grade 3-4 の記録。Morphologic remission は形態学的骨髄評価 (MRD <0.01%) で、molecular remission は 100 万以上の cell equivalents で悪性 IGH クローンが検出されないことで定義した。統計学的仮説検定は n=2 症例という性格上実施されておらず、全成績を記述的に提示した。