• 著者: Renier J. Brentjens, Marco L. Davila, Isabelle Riviere, Jae Park, Xiuyan Wang, Lindsay G. Cowell, Shirley Bartido, Jolanta Stefanski, Clare Taylor, Malgorzata Olszewska, Oriana Borquez-Ojeda, Jinrong Qu, Teresa Wasielewska, Qing He, Yvette Bernal, Ivelise V. Rijo, Cyrus Hedvat, Rachel Kobos, Kevin Curran, Peter Steinherz, Joseph Jurcic, Todd Rosenblat, Peter Maslak, Mark Frattini, Michel Sadelain
  • Corresponding author: Michel Sadelain; Renier J. Brentjens (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-03-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23515080

背景

成人の再発・難治性B細胞性急性リンパ芽球性白血病 (B-ALL) は予後が極めて不良であり、サルベージ化学療法による完全寛解 (CR) 率は約30%、中央生存期間は6ヶ月未満と報告されている。同種造血幹細胞移植 (allo-HSCT) が唯一の治癒的治療法であるが、移植前にCR、特に微小残存病変 (MRD) 陰性を達成することが長期予後に決定的に重要である。しかし、サルベージ化学療法のみでは十分な深さの寛解達成が困難であり、allo-HSCTへの効果的な橋渡しとなる新規治療法の開発が切望されていた。

近年、CD19を標的とするキメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法が注目を集めていた。特に、ペンシルベニア大学のJune/Kalos/Porterらは、4-1BB共刺激ドメインを持つCD19 CAR (CTL019) を用いて、進行性慢性リンパ性白血病 (CLL) 患者において有望な臨床的奏効を報告していた(Kalos et al. SciTranslMed 2011Porter et al. NEnglJMed 2011)。この成功を受けて、小児B-ALLへの展開も進められていた。一方、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center (MSKCC) のSadelain/Brentjensらは、独自にCD28共刺激ドメインを持つ19-28z CAR (CD28-CD3ζ) を開発し、γ-レトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入技術プラットフォームを確立していた(Brentjens et al. NatMed 2003Brentjens et al. Blood 2011)。しかし、成人B-ALLという侵襲性の高い疾患に対するCD19 CAR-T細胞療法の臨床成績は、当時まだ未解明であった。特に、化学療法抵抗性の成人B-ALL患者における安全性、有効性、およびallo-HSCTへのブリッジング能力に関するデータが不足しており、このギャップを埋めることが重要な課題であった。

目的

本研究の目的は、再発・難治性成人B細胞性急性リンパ芽球性白血病 (B-ALL) 患者を対象に、γ-レトロウイルスベクターを用いて遺伝子導入された自家19-28z (CD28-CD3ζ) CD19 CAR-T細胞を投与し、その安全性、寛解誘導率、微小残存病変 (MRD) 陰性化率、および同種造血幹細胞移植 (allo-HSCT) へのブリッジング能力を評価することである。

結果

全例で微小残存病変陰性完全寛解を達成 (5/5、100%): 本研究で治療された再発・難治性成人B-ALL患者5名全員 (n=5/5) が、19-28z CAR-T細胞投与後に微小残存病変 (MRD) 陰性の完全寛解 (CRm) を達成した。特に、MSK-ALL04およびMSK-ALL05の2例は、サルベージ化学療法に抵抗性であり、CAR-T細胞投与時点で骨髄中にそれぞれ63%および70%の芽球が残存していたにもかかわらず、迅速に分子学的完全寛解に至った (Table 1, Fig. 1)。MSK-ALL05ではCAR-T細胞注入後8日以内に形態学的CRおよびMRD陰性を達成した。MSK-ALL01は投与後28日、MSK-ALL06は30日でMRD陰性化が確認された。

急速な腫瘍除去とCAR-T細胞のin vivo増殖: MRD陰性化は、多くの患者でCAR-T細胞投与後2~4週間以内に達成された。IgH deep sequencingによる腫瘍クローンの追跡では、腫瘍細胞の対数的な減衰が確認され、これはCAR-T細胞のin vivo増殖ピーク (注入後1~2週間) と一致していた。CAR-T細胞は注入後1~2週間で末梢血中でピークに達し、注入量の数十~数百倍に増殖した。CAR-T細胞のin vivo増殖のピークレベルは、CAR-T細胞注入時の腫瘍量と正の相関を示した (Spearman rank correlation coefficient r = 0.91 for maximum 19-28z T cell count and tumor burden) (Fig. 2C)。

サイトカイン放出症候群 (CRS) と腫瘍量の相関: CAR-T細胞注入時の腫瘍量が多い患者 (MSK-ALL04, MSK-ALL05) では、Grade 3-4の重症サイトカイン放出症候群 (sCRS) が発症した (Table S2)。これらの患者では、高熱、低血圧、低酸素症、および神経症状 (意識混濁、痙攣様活動) が観察され、高用量ステロイドによる管理が必要であった。血清中のIL-6、IFN-γ、TNF-αなどの炎症性サイトカインの著明な上昇が確認され、これらのサイトカイン上昇はCAR-T細胞注入時の腫瘍量と直接的に相関していた (Spearman rank correlation coefficient r = 0.91 for maximum IFN-γ and tumor burden) (Fig. 2A, Fig. 2C)。ステロイド投与により、これらの症状は迅速に改善し、血清サイトカインレベルも正常化した。

Allo-HSCTへのブリッジングと再発: 治療された5例中4例 (n=4/5) が、CAR-T細胞療法によるMRD陰性CRm達成後、allo-HSCTへ移行可能となった (Table 1)。MSK-ALL01は投与後64日、MSK-ALL03は43日、MSK-ALL05は69日、MSK-ALL06は121日後にそれぞれallo-HSCTを実施した。MSK-ALL04のみが、既存の併存疾患により移植不適格とされ、CAR-T細胞投与後90日で再発し、後に死亡した。この患者の再発腫瘍細胞はCD19の発現を保持しており、CAR-T細胞による溶解感受性も維持されていたことから、CAR-T細胞の持続性不足が再発の主因であると考えられた (Fig. 5)。

CAR-T細胞の持続性と正常B細胞の回復: CAR-T細胞は注入後3~8週間は末梢血および骨髄で検出可能であったが、その後は減少する傾向が観察された (Fig. 2B, Fig. 4)。特に、重症CRS治療のための高用量ステロイド投与を受けた患者では、CAR-T細胞の急速な減少が認められた。CAR-T細胞の持続性が限定的であったにもかかわらず、全ての患者で正常B細胞の回復が確認され、正常なB細胞リンパ球形成が維持されることが示された (Table 2)。MSK-ALL05では、CAR-T細胞療法後に好中球の急速な回復が認められ、正常な造血機能が維持される可能性が示唆された (Fig. S4)。

考察/結論

本研究は、再発・難治性成人B-ALL患者に対し、CD19を標的とする19-28z (CD28-CD3ζ) CAR-T細胞が全例で微小残存病変 (MRD) 陰性完全寛解を誘導し、その多くを同種造血幹細胞移植 (allo-HSCT) へ効果的にブリッジできることを初めて実証した画期的な第I相試験である。サルベージ化学療法によるCR率約30%、MRD陰性化率10%未満という歴史的データと比較して、本研究で示された100%のCR/MRD陰性化率は前例のない治療効果であり、成人ALLの治療パラダイムを変える端緒となった。

新規性: 本研究で初めて、CD28共刺激ドメインを持つ19-28z CAR-T細胞が、化学療法抵抗性の成人B-ALL患者において、急速かつ強力な抗腫瘍効果を発揮し、高頻度にMRD陰性寛解を誘導できることを新規に示した。これは、侵襲性の高い成人B-ALLにおけるCAR-T細胞療法の有効性を確立する上で重要な知見である。

先行研究との違い: ペンシルベニア大学の4-1BB型CD19 CAR (CTL019) がCLL患者で長期持続と深い寛解を示した(Kalos et al. SciTranslMed 2011)のと異なり、MSKCCの19-28z CAR-TはB-ALLという急性期の疾患で急速な腫瘍除去とallo-HSCTへのブリッジング能力を示し、CD28型CARの独自の強みを確立した。CD28型CARは急速な増殖と比較的短い持続性を示し、急性リンパ性白血病やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) のような急性期疾患に適している可能性が示唆された。これは、4-1BB型CARが緩徐な増殖と長期持続性を示し、CLLや小児ALLに適するという、後の研究で確立されるCAR-T細胞の特性の棲み分けの基礎となった。また、サイトカイン放出症候群 (CRS) の発症がCAR-T細胞注入時の腫瘍量と直接相関するという知見も、これまでの報告(Kochenderfer et al. Blood 2012)を裏付け、治療戦略の最適化に重要な情報を提供した。

臨床応用: 本知見は、化学療法抵抗性B-ALL患者にallo-HSCTへの道を開き、治癒の可能性を高めるという点で極めて重要な臨床的意義を持つ。本研究の結果は、後続のDavila et al. Science Translational Medicine 2014 (同じNCT01044069プロトコルで16名解析、CR率88%、MRD陰性率75%) やPark et al. New England Journal of Medicine 2018 (53名、CR 83%) へと発展し、最終的に19-28z CAR-T細胞 (brexucabtagene autoleucel、Tecartus) が2021年に再発・難治性成人B-ALLの治療薬としてFDA承認される直接的な根拠となった。これは、本研究がbench-to-bedsideの成功例であることを示している。また、重症CRSの管理 (ステロイド、トシリズマブ) に関する臨床経験の蓄積は、Davila et al. 2014で治療アルゴリズム化に至る基盤となった。

残された課題: 今後の検討課題として、CD28型CAR-T細胞の持続性延長 (例: タンデム/デュアルCAR、IL-7/IL-15武装化) が挙げられる。また、CRSおよび神経毒性 (ICANS) の予防的管理法の確立、allo-HSCT後の長期追跡による治癒率の評価、およびCD19抗原逃避への対策 (例: CD19/CD22二重標的CAR) も重要な研究方向性である。本研究は、現代のB-ALL免疫療法の礎となる文献であり、これらの課題解決に向けたさらなる研究が期待される。

方法

試験デザイン: 本研究は、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center (MSKCC) で実施された第I相臨床試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT01044069) の一部である。 患者: 再発・難治性B-ALLの成人患者5名 (MSK-ALL01, MSK-ALL03, MSK-ALL04, MSK-ALL05, MSK-ALL06) が本研究の対象となった。患者はサルベージ化学療法後の寛解状態にかかわらず、自家19-28z CAR-T細胞療法に適格とされた。 CAR構造: マウス抗CD19 scFv (SJ25C1由来) にCD28共刺激ドメインとCD3ζシグナル伝達ドメインを連結した第二世代のキメラ抗原受容体 (CAR) を用いた。遺伝子導入にはγ-レトロウイルスベクター (SFG骨格) が使用された。 CAR-T細胞の製造: 患者から白血球アフェレーシスによりT細胞を採取し、抗CD3/CD28ビーズを用いて活性化後、γ-レトロウイルスベクターを形質導入し、体外で増殖させた。遺伝子導入効率は5%から14.2%の範囲であった (Table S1)。 前処置と投与: CAR-T細胞投与に先立ち、患者にはリンパ球除去を目的としたシクロホスファミド (1.5 g/m² または 3.0 g/m²) が前処置として投与された。その後、1.5×10⁶~3.0×10⁶ CAR-T細胞/kgの用量で静脈内投与された。 評価項目: 治療効果は、骨髄検査 (形態学的評価、MRDフローサイトメトリー、IgH deep sequencing、Ph+患者ではbcr-abl qPCR)、末梢血中のCAR-T細胞の定量 (qPCRおよびフローサイトメトリー)、血清サイトカイン (IL-6, IFN-γ, TNF-αなど) の測定、有害事象の評価、およびallo-HSCTへの移行状況によって評価された。MRD陰性はIgH deep sequencingにより評価された。