• 著者: Hans C Helms, N Joan Abbott, Malgorzata Burek, Romeo Cecchelli, Pierre-Olivier Couraud, Maria A Deli, Carola Förster, Hans J Galla, Ignacio A Romero, Eric V Shusta, Matthew J Stebbins, Elodie Vandenhaute, Babette Weksler, Birger Brodin
  • Corresponding author: Birger Brodin (University of Copenhagen, Denmark)
  • 雑誌: Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • DOI: 10.1177/0271678X16630991

背景

血液脳関門 (BBB) は脳毛細血管内皮細胞の単層からなり、緊密な tight junction と solute carrier (SLC) 型取込みトランスポーター・ATP-binding cassette (ABC) 型排出ポンプの複合系が薬物の脳移行を制限する。内皮細胞は pericytes (表面積比 30% の被覆) と astrocyte endfeet (99% 被覆) に囲まれ、neurovascular unit (NVU) を形成する (Abbott et al. 2006)。NVU の細胞間シグナリングが内皮 BBB 表現型を維持する機序は未解明な点が多く (Armulik et al. 2010)、この知識ギャップが in vitro モデル設計の制約となってきた。CNS 薬物開発においては、新規候補化合物の BBB 透過性・排出トランスポーター基質性の迅速スクリーニングに in vitro モデルが不可欠である (Brodin et al. 2014)。過去40年で多種の brain capillary endothelial cell (BCEC) 培養系が開発されたが、実験室間で扱いが異なり、各モデルの強みと限界の全体像を把握するための系統的な比較指針が不足していた。研究者がどのモデルを選ぶべきかを判断するための情報が手薄であることが、CNS 創薬分野全体の課題となっていた。本総説は、統一したバリデーションマーカーセット (タイトジャンクション・TEER・透過性・ABC/SLC トランスポーター・受容体・NVU 応答性) で各モデルを系統的に評価し、研究目的に応じた選択指針を示すことを目的とした。

目的

マウス・ラット・ウシ・ブタ・ヒト由来の BCEC in vitro BBB モデルを包括的にレビューし、バリデーションマーカーに基づく強み・弱みを明示するとともに、特定の研究目的 (受動的透過性スクリーニング・排出トランスポーター研究・受容体媒介輸送・NVU シグナリング解析) に最適なモデルを提示すること。

結果

バリデーションマーカーの定義と TEER 測定の留意点:BBB モデルの比較に用いた主要バリデーションマーカーは次の7軸である (Table 1):(1) 内皮表現型確認—von Willebrand factor および PECAM-1;(2) タイトジャンクションタンパク質—claudin-5、occludin、zonula occludens-1 (ZO-1);(3) 高バリア密閉性—TEER・親水性トレーサー透過性;(4) ABC 排出トランスポーター—P-glycoprotein (P-gp)・breast cancer resistance protein (BCRP)・Mrp;(5) SLC 取込みトランスポーター—GLUT-1・MCT1・LAT-1;(6) Transferrin 受容体;(7) NVU 細胞による誘導応答性。TEER は測定機器 (chopstick 電極・cup 電極・インピーダンス法) や温度・操作法の違いで同一モデルでも値が乖離し、他ラボの数値と単純比較できない点に注意が必要であり、tracer 透過性との並行測定が推奨される (Srinivasan et al. SLASTechnol 2015)。

マウスモデル:初代 BCEC/astrocyte 共培養と不死化株:初代マウス BCEC/astrocyte 共培養は TEER 平均 800 Ω·cm²、sucrose 透過性 4.5×10⁻⁶ cm/s を達成し、内皮同一性マーカーである platelet endothelial cell adhesion molecule 1 (PECAM-1)、claudin-3、claudin-5、P-gp の発現が確認される (Table 2)。ただし TEER 100-300 Ω·cm² 止まりの報告が多く、バッチ間変動が大きい。Forster らが開発した不死化株 cEND はグルココルチコイド添加で TEER 300→800 Ω·cm² まで上昇し、claudin-5・occludin を tight junction 部位に局在させる。cEND および cerebEND は TNFα による tight junction タンパク質低下と VCAM-1/ICAM-1 誘導で炎症反応を再現。cerebEND は P-gp・BCRP・multidrug resistance protein 4 (MRP4) を発現し、oxygen-glucose deprivation (OGD) による輸送活性変化を測定できる。一方 bEND.3/bEND.5 は TEER ~50 Ω·cm² と低く、薬物スクリーニングには不適とされる。

ラットモデル:puromycin 選択から三重共培養まで:ラット BCEC 培養では puromycin 選択による pericyte 除去で内皮純度と TEER が向上する (Table 4)。単独培養では TEER 100-300 Ω·cm²;astrocyte 共培養 (接触・非接触) で 300-600 Ω·cm²;astrocyte/pericyte 三重培養で 350-723 Ω·cm²。最高モデルは TEER 500-800 Ω·cm²、sucrose 透過性 1.4×10⁻⁶ cm/s に達する。P-gp の排出比 (efflux ratio: ER) は三重培養で rhodamine 123 に対し ER=2.5、astrocyte 共培養で ER=1.7-6.1 (基質依存)。単独培養では in vivo 比 GLUT-1 が 39-fold・P-gp が 14-fold・Transferrin 受容体が 9-fold 低下する表現型喪失が起こる点が制約であるが、astrocyte 共培養によりこれらの in vivo-like 表現型が部分的に回復し、三重培養モデルでは TEER 500-800 Ω·cm²・ER=2.5 (rhodamine 123 対 P-gp) という最高性能が実現される。

ウシモデル:スクリーニング向け高 TEER と大量細胞調達:ウシ初代 BCEC/astrocyte 共培養は TEER 平均 1000-2500 Ω·cm²、単一フィルターで最大 3000 Ω·cm² を実現し、mannitol 透過性 0.5×10⁻⁶ cm/s の非常に低い値を示す (Table 6)。しかし同一実験室内でも TEER が 327±30 から 2555±399 Ω·cm² まで大幅に変動することが報告されており、各バッチの十分なバリデーションが不可欠である。P-gp・BCRP の vectorial transport が確認され、ER はジゴキシン 2.5・エストロン-3-硫酸 4.5。1 脳あたり 2000-3000 万個の細胞を調達でき、高スループットスクリーニングに適する。凍結保存 ready-to-use 製品化 (in vitro BBBモデルの輸送研究用キット) も開発済みである。

ブタモデル:最高レベルの接合部密閉性と ABC トランスポーター機能:ブタ BCEC (primary porcine brain endothelial cell (PBEC)) の単独培養で TEER 500-1500 Ω·cm²、astrocyte 共培養でさらに上昇し最大 2500 Ω·cm² に達する (Table 8);sucrose 透過性は 0.2-8×10⁻⁶ cm/s。P-gp・BCRP の比率 (BCRP:P-gp) がヒト・サルに近い点はげっ歯類モデルとの相違点で、抗体・薬物の BBB 透過性評価に適している。P-gp の ER=2.5 (paclitaxel)・BCRP の ER=4 (mitoxantrone) が実証されており、薬物の小分子受動透過性・排出輸送の両研究に好適。ブタモデルで BBB への impedance spectroscopy による連続 TEER モニタリング法が導入された。ただし、ヒト homologue と配列が異なるため、ヒト BBB タンパク質を標的とする治療用抗体の研究では種差に注意が必要。

ヒト不死化 hCMEC/D3 株:最も普及した標準的ヒト BBB モデル:hCMEC/D3 (hTERT/SV40 不死化ヒト側頭葉微小血管由来) は claudin-3、claudin-5、occludin、ZO-1、VE-cadherin を発現し、標準培養での TEER は 30-50 Ω·cm²。hydrocortisone 添加や Wnt/ß-catenin 経路・核内受容体活性化で TEER 200-300 Ω·cm² に向上するが、ウシ・ブタ・幹細胞モデルには及ばない。Lucifer yellow 透過性 10-26×10⁻⁶ cm/s、sucrose 27.5×10⁻⁶ cm/s。144 種の SLC トランスポーター mRNA が検出され、large neutral amino acid transporter 1 (LAT-1) や GLUT-1 を含む多様な取込み系と、apical 局在 P-gp による basolateral → apical の排出系が共存する。>150 報で使用されており、ヒト起源・入手容易性・神経炎症モデルとしての有用性から広く利用されているが、低密閉性ゆえ小分子化合物の vectorial transport 研究には制約がある (Table 10)。

ヒト幹細胞由来 BBB モデル:高 TEER と患者 iPSC による疾患モデリング:human pluripotent stem cell (hPSC) 由来内皮細胞は neural progenitor cell (NPC) との共分化プロトコルで BBB 表現型を獲得し、単独培養 TEER 250 Ω·cm²、rat astrocyte 共培養で 1450 Ω·cm²、pericyte/NPC 共培養で 5350 Ω·cm²。retinoic acid 添加時は TEER 2940±800 Ω·cm² に達する。Sucrose 透過性 0.6×10⁻⁶ cm/s はウシ・ブタモデルと同水準の低値。P-gp・BCRP・multidrug resistance-associated protein 1 (MRP1) の機能的発現が確認され、diazepam/sucrose 透過比は約 40-fold の dynamic range を示す。Cord blood 由来モデル (pericyte 共培養) は TEER ~180 Ω·cm²、Lucifer yellow 透過性 10×10⁻⁶ cm/s。induced pluripotent stem cell (iPSC) から患者特異的 BBB モデルを作成し、遺伝性 CNS 疾患 (Alzheimer 病等) の BBB 変化を再現できる可能性が示されている。iPSC 由来モデルは tight junction 破綻・輸送機能変化・神経炎症への細胞応答を個別化医療の文脈で解析できる基盤として、疾患 BBB の分子機序解明や遺伝子治療の前臨床評価に期待される。

考察/結論

① 先行研究との違い:従来のモデル比較は個別論文内で行われてきたのと異なり、本総説は統一バリデーションマーカーセットで全主要モデルを横断的に評価した点が対照的である。特に TEER と tracer 透過性の並行測定を推奨した点は、従来 TEER 単独で密閉性を評価する慣行とは相違し、分子サイズ依存的な paracellular 透過を両軸で評価することで false-positive を排除する設計思想を示した。

② 新規性:本論文でヒト幹細胞由来 BBB モデル (hPSC・cord blood 由来) の体系的評価が初めて提示された。特に hPSC モデルが retinoic acid と NPC 共培養により TEER 5350 Ω·cm² を達成するという非常に高い密閉性、および iPSC から患者由来の疾患特異的 BBB を再現できるという概念は、これまでにない方向性を示す。また BCRP:P-gp 比がブタモデルでヒト・サルに最も近いというプロテオミクス根拠が示された点も新規な知見である。

③ 臨床応用:臨床的意義として、ウシ・ブタ高 TEER モデルは CNS 薬物開発の透過性スクリーニングに最適であり (Pardridge et al. JCerebBloodFlowMetab 2012)、hCMEC/D3 は神経炎症・病原体侵入の機序研究に、hPSC 由来モデルは患者 iPSC での遺伝子疾患 BBB モデリングに有用であり、low-density lipoprotein receptor-related protein 1 (LRP-1) や transferrin 受容体を介した受容体媒介トランスサイトーシスを利用した angiopep-2 結合 paclitaxel などの BBB 透過促進戦略の前臨床評価にも適している。BBB の動的制御と疾患時の透過性変化に関する詳細は (Keaney et al. FEBSJ 2015) に詳述される。BBB を標的とした脳腫瘍や脳転移への薬物送達研究にも適用可能である。

④ 残された課題:今後の検討として、SLC 取込みトランスポーター (LAT-1・MCT1 等) の機能評価が ABC 排出ポンプと比較して体系化されておらず、LAT-1 基質である L-dopa・gabapentin の BBB 透過を in vitro で正確に評価する手法が必要である。Pericyte の in vitro 効果がモデルやブタ分化状態 (bFGF 処理 vs TGFβ 処理) によって相反する結果を生む点も未解決であり、pericyte 由来の具体的シグナル機序の解明が求められる。さらに stroke・Alzheimer 病・てんかん (P-gp 上昇)・脳転移などの疾患 BBB モデルの標準化・バリデーションも今後の方向性として残されている。

方法

システマティックな文献レビュー。PubMed/MEDLINE を含む医学文献データベースから in vitro BBB モデルに関する原著論文・総説を網羅的に検索し、各モデルの TEER・透過性測定・トランスポーター発現および機能評価 (取込み assay・bi-directional transport・efflux ratio) データを抽出して統一バリデーションマーカーセットで比較・表形式に集計した (Table 1-11)。定量的データは各文献の平均値±SD または中央値と範囲で記述的に整理した。対象モデル:マウス (初代 BCEC/astrocyte・cEND・cerebEND・bEND.3/5)、ラット (単独・astrocyte 共培養・astrocyte/pericyte 三重培養)、ウシ (clonal 選択 primary)、ブタ (primary 2 種プロトコル)、ヒト不死化 (hCMEC/D3)、ヒト幹細胞由来 (hPSC・cord blood)。バリデーション測定法:TEER (chopstick/cup 電極・impedance 法)、親水性トレーサー透過性 (Lucifer yellow 444 Da・sodium fluorescein 376 Da・sucrose 342 Da・mannitol 180 Da)、ABC 輸送体 bi-directional transport (efflux ratio = B→A/A→B)、免疫染色・Western blotting・qPCR・proteomics による発現確認。Figure 2 にモノ培養・非接触共培養・接触共培養・三重培養の模式図を掲載。