- 著者: Balaji Srinivasan, Aditya Reddy Kolli, Mandy Brigitte Esch, Hasan Erbil Abaci, Michael L. Shuler, James J. Hickman
- Corresponding author: James J. Hickman (University of Central Florida); Michael L. Shuler (Cornell University)
- 雑誌: SLAS Technology (旧: Journal of Laboratory Automation)
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- DOI: 10.1177/2211068214561025
背景
内皮・上皮細胞は緊密結合 (tight junction) を形成し、血管内腔と組織の間に選択透過性バリアを構築する。バリア機能の評価法として、電子顕微鏡・蛍光免疫染色・放射線標識トレーサー・FITC-dextran 透過性係数等が用いられてきたが、これらは細胞傷害性・単時点測定・放射線安全対策等の制約を持つ。Transepithelial/transendothelial electrical resistance (TEER) はこれらの課題を克服する非侵襲・リアルタイム測定として 1981 年に Crone らが BBB in vivo 測定で初めて導入した。しかし in vitro および organ-on-a-chip 系では、電極位置・電流密度・温度・培地組成・継代数による TEER 変動が大きく、異なるシステムや異なる研究室間での数値比較が困難であることが未解決課題として残されていた (Pardridge et al. JCerebBloodFlowMetab 2012)。また、マイクロフルイディクス organ-on-chip への TEER 統合は電極設計・電流均一性・パッケージングの観点から技術的障壁が未解明であった。
近年、European Union の第 7 次化粧品規制改正や薬物動態試験のコスト削減の観点から動物実験代替法として in vitro バリアモデルへの需要が増大しており、TEER を用いた barrier integrity 評価の標準化が求められている (Keaney et al. FEBSJ 2015)。さらに、iPSC (induced pluripotent stem cell) 由来 BBB モデルの台頭や organ-on-chip システムの普及に伴い、多様な TEER 測定技術の長短所を体系的に整理する必要があった。しかしながら、BBB・消化管・肺の複数バリアシステムを横断した TEER 測定技術の包括的な比較参照資料が不足しており、異なる研究室間で測定条件を統一するための標準化ガイダンスが欠落していた (Helms et al. JCerebBloodFlowMetab 2016)。
目的
TEER 測定の異なる技術原理 (オーム法・インピーダンス分光法) と装置を体系化し、BBB・消化管 [gastrointestinal (GI)]・肺の in vitro モデルおよびマイクロフルイディクス実装における TEER 参照値を整理するとともに、測定値に影響する因子と organ-on-chip への統合課題を論じること。
結果
オーム法 (Ohm’s law) による TEER 測定の原理と商用装置:最も広く用いられる TEER 測定法は、多孔性フィルター上の細胞単層を挟んで 2 本の電極を配置し、交流 (AC) 電圧を印加して抵抗値を測定するオーム法である。主要商用システムの World Precision Instruments (WPI) 社製 Epithelial Voltohmmeter (EVOM) は 12.5 Hz の AC square wave を使用し、1〜9999 Ω の測定範囲・1 Ω 分解能を持つ。付属の STX2 (「chopstick」型) 電極はハンドヘルドで使用の簡便さが優れる反面、電極位置の非再現性に起因する測定変動が 10〜30 Ω に及ぶ。EndOhm チャンバー (concentric 環状電極) への交換により変動は 1〜2 Ω まで低減され、uniform current density が実現される。STX2 は大径膜 (24 mm) では電流密度が不均一になり TEER を過大評価する。その他の商用システムには Electric Cell-Substrate Impedance Sensing (ECIS) [Applied BioPhysics 社]、Remote Electrode Monitoring System (REMS) AutoSampler、Millicell Electrical Resistance System (ERS; Millipore)、Ussing Chamber (Warner Instruments) がある。TEER 値 (Ω·cm²) は「組織抵抗 (Ω) = 測定総抵抗 − ブランク抵抗」で算出した後、膜面積 (cm²) を乗算して報告値 (Ω·cm²) を得る。
インピーダンス分光法:等価回路解析と高精度 TEER 推定:インピーダンス分光法はWide-spectrum 周波数でのインピーダンス測定と等価回路フィッティングを組み合わせ、単周波数 AC/DC 法より高精度な TEER 推定を実現する。商用自動測定システム cellZscope (nanoAnalytics GmbH) は各種フィルターインサート上の細胞のインピーダンスを連続測定し、等価回路解析で RTEER (タイトジャンクションの paracellular 抵抗)・Rmembrane (細胞膜抵抗)・CC (細胞膜キャパシタンス)・Rmedium (培地抵抗)・CE (電極キャパシタンス) を個別に推定する。典型的なインピーダンススペクトルには 3 つの周波数領域が存在し、低周波 ≤ 101 Hz では CE が支配的、中周波 102–104 Hz では RTEER と CC が支配的、高周波 ≥ 105 Hz では Rmedium が支配的となる。各パラメータの非線形最小二乗フィッティングにより、細胞バリア特性が定量化される。インピーダンス分光法は single-frequency 法に比べてキャパシタンス情報も同時取得できるため、バリア成熟度や薬物曝露後の膜変化を詳細に追跡できる。
Organ-on-Chip (OoC) への TEER 統合と課題:既存の商用 EVOM/STX2 電極はマイクロフルイディクスチャンバーに挿入できず、organ-on-chip での TEER 測定には chip 内に microelectrode を一体化する必要がある。多層 polydimethylsiloxane (PDMS) + ガラス + 多孔ポリカーボネート膜構成の BBB マイクロチップでは、Cr/Au/AgCl 積層薄膜電極を glass layer に蒸着統合し EVOM に接続することで b.End3 + C8-D1A (astrocyte) の共培養で 250 Ω·cm² を達成した例がある (従来 Transwell では 20 Ω·cm²)。電流密度均一性は電極設計の最重要要件であり、非対称電極では TEER が過小/過大評価される。OoC は shear stress 印加・試薬消費低減・多細胞共培養の精密制御という利点を持ち、生理的条件での TEER 測定を可能にする。ただし長期薬物輸送試験に向けた電気化学的・マイクロフルイディクスのパッケージング課題が残る。
BBB in vitro モデルの TEER 参照値:血液脳関門 (BBB) の in vivo TEER は最大 5900 Ω·cm² (ラット、ケーブル理論法) に達するが、大多数の in vitro モデルはこれを大幅に下回る (Table 1)。ヒト不死化細胞株 hCMEC/D3 の monoculture では 36.9±0.9〜100 Ω·cm²、astrocyte との共培養でも 140 Ω·cm² にとどまる。げっ歯類一次内皮細胞 + astrocyte では 250〜300 Ω·cm² まで改善する。iPSC 由来内皮細胞 + neural progenitor cell (NPC) + retinoic acid 処理では最大 4000 Ω·cm² を達成し 4 日間維持されたことが Lippmann らにより報告されており (Helms et al. JCerebBloodFlowMetab 2016)、これが現在の最高値に近い。Microfluidic BBB チップ (b.End3 + C8-D1A, shear stress 印加) では 250 Ω·cm² が達成された。BBB の in vivo 値 (5900 Ω·cm²) に到達するには種差・ヒト一次細胞の入手困難・不死化株の脱分化等の課題克服が必要である。
消化管 (GI tract) モデルの TEER 参照値とバリア分類:消化管上皮の in vivo TEER は管腔部位により「tight」胃粘膜 2000 Ω·cm²・「intermediate」結腸 300〜400 Ω·cm²・「leaky」小腸 50〜100 Ω·cm² に分類される。最汎用 in vitro モデルの Caco-2 (ヒト大腸腺癌由来) は 21 日培養で 1100〜2400 Ω·cm² を示し生理的な小腸よりも高値となるが、goblet 細胞様 HT29-MTX との共培養では 110〜185 Ω·cm² まで低下し生理的粘膜バリアを模倣できる (Table 2)。Caco-2 + HT29-MTX + Raji B (M 細胞モデル) では 60〜88 Ω·cm²。マイクロフルイディクス gut-on-chip (Kim ら) では Caco-2 が 3000〜4000 Ω·cm² と static 系 (700〜800 Ω·cm²) より高値を示したが、これは生理的小腸 TEER を超えており直接比較の妥当性には注意が要る。
肺モデルの TEER 参照値:気道上皮と肺胞上皮:肺上皮モデルは air-liquid interface (ALI) 培養が gold standard である。気道上皮ではヒト気管・気管支ドナー組織 700〜1200 Ω·cm²、primary normal human bronchial epithelial (NHBE) 細胞で 766±154 Ω·cm² (Transwell/EVOM)、long-term NHBE では 3000 Ω·cm² まで達する (Table 3)。気管支上皮細胞株 Calu-3 は測定条件・成長条件により 100〜2500 Ω·cm² と広範囲に変動する—STX2/EVOM では 300〜600 と 1126±222 Ω·cm² の両報告があり同株でも方法論で大きな差が生じる。cystic fibrosis (CF) [嚢胞性線維症] モデルの CFBE41o− 細胞は ALI 条件で < 250 Ω·cm² だが LCC (liquid covered condition) 条件では 1156±75 Ω·cm² と逆転する。肺胞上皮では primary ラット alveolar type II 細胞で 2320±511 Ω·cm²、ヒト肺胞 type II 細胞 (HAEpC) で 1000〜2000 Ω·cm²、汎用 A549 は本来 45〜100 Ω·cm² と低く、pulmonary microvascular endothelial cell (HPMEC) との共培養+ dexamethasone 処理で 565±48 Ω·cm² まで改善する。
TEER 値に影響する因子:① 温度: TEER は温度依存性があり、理想的には 37 °C インキュベーター内で測定すべきだが、室温で行う場合は最低 20 分の温度平衡化が必要。数学的補正法 tcTEER (temperature-corrected TEER) により室温測定値を 37 °C 換算可能。② 継代数: Caco-2 early passage (35〜47代) では 475〜700 Ω·cm²、late passage (87〜112代) では 1100〜1500 Ω·cm² と継代数が高いほど高値を示す—多層化・細胞内腔形成が要因。③ 培地組成: 無血清 MITO+ 培地での Caco-2 は fetal bovine serum (FBS) 培地より低い TEER を示し、むしろ生理的 in vivo 値に近いと評価される。④ 培養期間: Caco-2 の最適 tight junction 形成は通常 21 日、TEER ピークは 3 週間、薬物輸送実験は 18〜21 日が慣例。⑤ Shear stress: 2〜50 dyne/cm² の層流 shear stress は endothelial cell の TEER を 15 分以内に 2〜15% 一時的に上昇させた後、最終的に開始値より 20% 低下させる—ZO-1 発現増加と細胞骨格再編成が機序。
考察/結論
① 先行研究との違い:従来の TEER レビューはいずれか一種のバリアシステム (BBB または GI) に限定されており、複数バリアシステム × 複数測定手法を統合比較した総合的なリファレンスが不足していた。本論文は BBB・GI・肺の 3 系統を単一論文でカバーし、商用装置・カスタム microelectrode・organ-on-chip 実装を技術的に網羅する点でこれまでにない包括的なリファレンスとなっている。また単なる TEER 値の列挙にとどまらず、測定法の物理的原理 (等価回路モデル・インピーダンス周波数特性) を解説することで、数値比較の妥当条件を異なり論文間の TEER 比較の落とし穴を明示している。
② 新規性:本レビューで新規に示したのは、organ-on-chip での TEER 値がしばしば static 系より高値を示す (GI: 3000〜4000 vs 700〜800 Ω·cm²、BBB: 250 vs 20 Ω·cm²) という定量的実証であり、shear stress や co-culture の生理的重要性を TEER 数値で裏付けた点である。また、インピーダンス分光法と等価回路解析の組み合わせが single-frequency 法では不可能なキャパシタンス成分も定量化するという新規な機能的解釈を整理した。測定法と結果の対応表 (Table 1〜3) は TEER 値の適切な解釈・再現のための新規な実用リソースとなっている。
③ 臨床応用:臨床的意義として、BBB を模倣した high-TEER (4000 Ω·cm²) iPSC 由来モデルは中枢神経系薬物の透過性スクリーニングに使用でき、動物実験を大幅に削減する可能性がある。GI tract Caco-2 モデルや肺 Calu-3 モデルによる TEER 評価は、経口・吸入薬の初期スクリーニングでは既に製薬業界の標準となっている。Organ-on-chip に統合した連続 TEER 測定は薬物誘発性バリア破壊の real-time 検出に応用でき、臨床現場での副作用予測精度向上が期待される。TEER 値の標準化 (測定条件の報告義務化) が cross-laboratory 比較を可能にし、規制当局の受け入れを促進すると考えられる。
④ 残された課題:今後の方向性として、in vivo TEER (BBB: 5900 Ω·cm²) に近い in vitro 値を達成する細胞モデルの開発が最優先課題である。Organ-on-chip の長期安定 TEER 測定には電気化学的パッケージングの克服が必要であり、現在の microfluidic systems のほとんどは embedded TEER 電極を持たない。また、複数バリア (BBB + GI + 肺) を連結した body-on-a-chip での TEER 統合評価や、各 TEER 値が真に生理的バリア機能を反映するかどうかの in vitro–in vivo 相関 (IVIVC) の確立が今後の課題として残された。
方法
システマティックレビュー。PubMed/MEDLINE および Web of Science を含む学術文献データベースから、TEER 測定技術・in vitro バリアモデル・organ-on-chip システムに関する英語原著論文および先行レビューを系統的に検索・収集し、n=143 文献を解析対象とした。検索キーワードは「transepithelial electrical resistance」「TEER」「impedance spectroscopy」「organ-on-chip」「blood-brain barrier」「Caco-2」「pulmonary barrier」等を組み合わせた。対象バリアは BBB・GI tract・肺上皮の 3 系統を中心とし、胎盤・鼻腔・膣・眼・皮膚バリアは除外した。各モデルの TEER 値は発表測定方法 (EVOM/STX2・EndOhm・Millicell-ERS・インピーダンス分光法・Ussing Chamber) および電極種別ごとに分類し、Table 1〜3 に集成した。文献間の TEER 値の定量的比較には記述的統計 (arithmetic mean ± standard deviation [SD]、中央値、範囲) を用い、各原著試験で採用された統計検定 (Student’s t-test、one-way ANOVA、Wilcoxon 符号順位検定等) を個別に引用した。本研究は National Institutes of Health (NIH) National Center for Advancing Translational Sciences (NCATS) Microphysiological Systems grant UH2TR000516 の助成を受けた。