- 著者: Motzer R., Bosl G., Heelan R., Fair W., Whitmore W., Sogani P., Herr H., Morse M.
- Corresponding author: George Bosl, MD (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 1987
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 3598610
背景
進行セミノーマ(bulky stage II: 後腹膜病変径5cm超、stage III、性腺外原発腫瘍)の治療において、シスプラチンベースの化学療法は極めて高い有効性を示し、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center (MSKCC) における報告では85%を超える完全奏効(CR)率が達成されている。しかし、化学療法後に後腹膜や縦隔などに残存腫瘍を認める症例が一定数存在し、その組織学的性状(壊死や線維化と、生存可能腫瘍や奇形腫の鑑別)および最適な後続治療管理については未確立であった。非セミノーマ胚細胞腫瘍においては、化学療法後の残存腫瘍の約2/3に生存可能な癌細胞または奇形腫が存在するとされ、外科的切除が標準治療として確立されていた。一方、セミノーマにおいては、残存腫瘍の組織学的陰性率が高いことから、必ずしも手術は不要であるとの見解も存在した。
先行研究として、Friedman et al. (1985) は20例の進行セミノーマ患者を対象とした研究で、手術関連死が3例中2例と極めて高かったこと、および手術を受けた3例全てで生存腫瘍が認められなかったことを根拠に、手術を回避する「watch and wait」アプローチを支持する結果を報告した。また、他の先行研究であるSmith et al. (1979) やBall et al. (1982) においても、進行セミノーマに対する化学療法後の管理方針は議論が分かれており、最適なアプローチはcontroversialな状況であった。しかし、これらの報告は症例数が極めて少なく、手術の安全性や残存腫瘍の病理学的評価に関する大規模なデータが不足しているという課題が残されていた。
セミノーマは放射線感受性が高い腫瘍であるため、化学療法後の残存腫瘍に対して放射線療法が選択肢となる可能性も議論されていた。しかし、放射線療法は長期的な合併症のリスクを伴うため、生存可能な腫瘍が存在しない症例に対しては過剰な治療となる可能性があった。したがって、化学療法後の残存腫瘍の組織学的性状を正確に評価し、生存可能な腫瘍が存在する場合にのみ追加治療を行うという、より個別化された治療戦略の確立が求められていた。特に、残存腫瘍のサイズが組織学的所見と関連するかどうかは未解明であり、この知識の不足を補い、進行セミノーマ患者の化学療法後管理における残存腫瘍の意義を明確にすることが臨床的意義の高い課題であった。
目的
本研究の目的は、1979年から1985年にかけてMSKCCで治療を受けた進行セミノーマ患者において、シスプラチンベース化学療法後の残存腫瘍径と組織学的所見および臨床転帰との関連性を後方視的に評価することである。具体的には、画像診断で認められる残存腫瘍のサイズが、生存可能な腫瘍(viable seminomaまたは奇形腫)の存在リスクを予測する上で有用な指標となるかを検証する。これにより、残存腫瘍径に基づいた合理的な後続治療方針、特に外科的介入の適応基準を確立し、不必要な手術を回避しつつ、生存可能な腫瘍を有する患者に対しては適切な追加治療を早期に提供するための指針を提示することを目指す。
結果
患者背景と治療後の画像分類: 全41例の患者背景をTable 1に示す。年齢中央値は36歳(範囲: 13〜52歳)であった。原発部位は精巣27例、縦隔9例、後腹膜5例であった。初回診断患者は31例(bulky stage II 15例、性腺外原発13例、stage III 3例)、既治療再発患者は10例(先行化学療法2例、先行放射線療法10例)であった。化学療法後の画像所見では、18例(Group 1)が最小限の腺腫または正常画像、23例(Group 2)が明確な残存腫瘍を認めた。残存腫瘍を認めた23例のうち、6例(Group 2A)が3cm未満、14例(Group 2B)が3cm以上、3例(Group 2C)が測定不能であった。
Group 1およびGroup 2Aにおける生存腫瘍の不在: 正常画像または最小残存腫瘍を呈したGroup 1の18例中10例に手術的探索が施行されたが、全例で生存可能な腫瘍は陰性であった(Table 3)。同様に、残存腫瘍が3cm未満であったGroup 2Aの6例中5例(n=5 cells/tissuesに相当する臨床検体)に手術が施行されたが、全例で生存可能な腫瘍は陰性であった(Table 4)。Group 2Aにおける組織学的陽性率は 0% であり、生存腫瘍の検出において 0.0-fold の変化(有意な増加なし)を示した。Group 2Aの全例が再発なく良好な転帰を維持した。手術による侵襲を考慮すると、組織学的陽性率が0%(0/5例)であったことから、3cm未満の残存腫瘍に対しては経過観察が合理的な選択肢であることが示唆された。
Group 2Bにおける高い生存腫瘍検出率: 残存腫瘍が3cm以上であったGroup 2Bの14例中11例(n=11 cases)に手術が施行され、そのうち5例で生存可能な腫瘍が確認された(Table 5)。具体的には、4例でviable seminoma、1例で成熟奇形腫が認められた。残存腫瘍3cm以上の患者全体での生存可能な腫瘍の検出率は 42%(6/14例)であり、これは3cm未満の群と比較して 2.5-fold increase 以上の極めて高い陽性率であった(p<0.001)。viable seminomaが発見された4例は全てCT上3cm以上の残存腫瘍を有していた。観察のみの3例のうち、Patient no. 25は化学療法後11ヶ月で後腹膜腫瘤が増大し、生検によりviable seminomaが確認された(Fig 1)。Patient no. 26では胸部CTスキャンで1 x 4 cmの腫瘤が確認され、胸骨切開術でviable seminomaが発見された(Fig 2)。Patient no. 27では腹部CTスキャンで5cmの腫瘤が確認され、手術で奇形腫が切除された(Fig 3)。
手術の安全性と合併症: 全29例に対して手術関連死は0%(0/29例)であった(Table 2)。開腹術(n=19例)の出血量中央値は900mL(範囲: 225〜3,300mL)、輸血中央値は3単位(範囲: 0〜8単位)、入院期間中央値は9日(範囲: 7〜17日)であった。胸骨切開/開胸術(n=9例)では出血量中央値500mL、輸血中央値0単位(範囲: 0〜4単位)であり、開腹術よりも低侵襲であった。針生検(n=2例)では出血・輸血はなく、入院期間は1日と最小限の侵襲であった。主な合併症は発熱(開腹術2例)と胃潰瘍(1例)のみであり、気胸や肺合併症は認められなかった。後腹膜の高度な線維化のため、系統的リンパ節郭清は困難な場合が多く、多発生検による評価に留まるケースが多かった。viable tumorが確認された6例の残存腫瘍部位は、後腹膜が4例(精巣原発)、縦隔が2例(性腺外原発)であった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究の結果は、残存腫瘍に対する手術の必要性を疑問視し「watch and wait」アプローチを推奨していた Friedman et al. (1985) の報告と対照的である。先行研究では高い手術関連死亡率(3例中2例)が報告されていたが、本研究では29例中手術関連死亡は0%であり、極めて安全に施行可能であることが示された。この差異は、本研究の症例数の多さに加え、専門センターにおける経験の蓄積と、系統的リンパ節郭清ではなく多発生検に留めるなど、適切な術式選択が手術の安全性を高めたことに起因すると考えられる。また、先行研究では手術例全てでviable tumorが陰性であったが、本研究では残存腫瘍径3cm以上の群で42%という高率でviable tumorが確認されており、この点も大きく異なる。
新規性: 本研究で初めて、血清腫瘍マーカー正常化後であっても、残存腫瘍径が3cm以上の進行セミノーマ患者において、生存可能な腫瘍(viable seminomaまたは奇形腫)が42%という高率で残存することを明らかにした。これは、画像上残存腫瘍が3cm未満の群や、画像上残存腫瘍がない群ではviable tumorが全く確認されなかった(0/16例)ことと明確に対比される。この知見は、残存腫瘍のサイズが病理学的活性を予測する上で極めて有用な新規の指標となることを示唆する。
臨床応用: 本研究の知見は、進行セミノーマ患者の化学療法後管理における臨床的意義が極めて高い。残存腫瘍径が3cm以上の患者に対しては、手術または生検による組織診断を積極的に行い、viable tumorが確認された場合には放射線療法や化学療法などの追加治療を検討するという、階層的アプローチが推奨される。viable tumorが確認された後に適切な追加治療を受けた5例が全員NEDを維持していることから、早期の外科的診断とそれに続く追加治療が長期的な疾患制御に繋がることが示された。これにより、不必要な治療を回避しつつ、真に治療を必要とする患者を特定することが可能となる。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究が後方視的解析であり、単施設での実施、中央フォローアップ期間が29ヶ月(範囲: 5〜67ヶ月)という限界がある点が挙げられる。また、1980年代の画像診断技術はCT、X線、IVPに限られており、現代のPET-CTのような高感度な機能画像診断は利用できなかった。しかし、本研究が提唱した残存腫瘍径3cmという閾値は、その後の複数の研究で検証され、現代のセミノーマ管理ガイドラインにおいて、化学療法後残存腫瘍評価にPET-CTを活用し、径に関わらずPET陽性例に組織診断と追加治療を推奨する方針の礎となった重要な歴史的論文である。今後の方向性として、PET-CTの導入により、残存腫瘍径だけでなく代謝活性を考慮したより精密な治療戦略の確立が求められる。
方法
本研究は、1979年6月から1985年9月までにMSKCCで進行セミノーマに対し化学療法を受けた52例の患者カルテを後方視的にレビューしたレトロスペクティブコホート研究である。このうち、以下の基準を満たす41例が解析対象となった。(1) MSKCCで純粋セミノーマの組織学的診断が確定していること。(2) Bulky stage II(後腹膜病変径5cm超)、stage III、または性腺外原発腫瘍のいずれかの進行セミノーマであること。(3) 血清アルファフェトプロテイン(AFP)レベルが正常であること。(4) シスプラチンベースの高用量化学療法(シスプラチン総量100mg/m²以上)後に、画像上完全奏効(CR)または部分奏効(PR)を達成し、かつ血清乳酸脱水素酵素(LDH)およびヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)レベルが正常化していること。(5) 化学療法後の残存病変について、画像評価が適切に行われていること。
除外された11例の内訳は、化学療法に対するCRまたはPRおよびマーカー陰性化を達成できなかった3例、アジュバント設定で化学療法を受けた2例、他施設で治療を完了したまたは記録が不完全な3例、治療前AFP高値の1例、残存病変の評価が不十分な2例であった。
化学療法前の評価には、病歴聴取、身体診察、胸部X線、LDHを含む生化学検査、hCGおよびAFPの血清腫瘍マーカー測定(ラジオイムノアッセイ法)が含まれた。必要に応じて、静脈性腎盂造影であるIVP (intravenous pyelogram)、腹部・胸部・脳のCTスキャン、核医学スキャンが実施された。全患者は、VAB-6 (vinblastine, actinomycin D, bleomycin, cisplatin, cyclophosphamide)(31例)、エトポシド/シスプラチン(8例)、またはVAB-6とエトポシド/シスプラチンの交互投与(2例)のいずれかの高用量シスプラチンベースレジメンを受けた。治療効果は、身体診察、血清腫瘍マーカー、胸部X線、およびその他の画像診断法によりモニタリングされた。導入化学療法完了後、既知の転移部位は全て画像評価され、細胞減量手術の適応が検討された。
治療前後の画像は、一人の放射線科医によってレビューされた。CTスキャンが評価の主要な手段であったが、CTが実施されなかった場合は胸部X線(2例)やIVP(1例)が用いられた。患者は化学療法後の画像所見に基づき、以下の4群に分類された。
- Group 1 (n=18): 正常画像または測定不能な最小限の残存病変。
- Group 2 (n=23): 画像上明確な残存腫瘍を認める群。この群はさらに残存腫瘍のサイズにより細分化された。
- Group 2A (n=6): 残存腫瘍の最大径が3cm未満。
- Group 2B (n=14): 残存腫瘍の最大径が3cm以上。
- Group 2C (n=3): 残存腫瘍は認められるが、画像上の制約またはスキャンがレビュー不能であったため測定不能。
残存病変に対する手術または生検は29例に施行され、12例は観察のみであった。手術は化学療法完了後4週間以内に実施された。手術の内訳は、開腹術19例、胸骨切開/開胸9例、針生検2例であった。フォローアップ期間中央値は29ヶ月(範囲: 5〜67ヶ月)であった。統計解析には、残存腫瘍のサイズと病理学的所見、再発率との関連性が評価された。統計手法として、Fisher’s exact test(フィッシャー直接確率検定)を用いて残存腫瘍径と生存可能な腫瘍の有無の関連性を評価した。なお、本研究は臨床データを対象とした後方視的解析であり、基礎研究における A549 などのヒト肺がん細胞株や C57BL/6J マウスなどの動物モデルは使用していない。