• 著者: Kojima T., Shah M.A., Muro K., Francois E., Adenis A., Hsu C.H., Doi T., Moriwaki T., Kim S.B., Lee S.H., Bennouna J., Kato K., Vukelja S.J., Guo W., Shah S., Afar D., Kang Y.K.
  • Corresponding author: Toshihiko Doi (National Cancer Center Hospital East, Chiba, Japan)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-09-16
  • Article種別: Original Article (Phase 3 RCT)
  • PMID: 33026938

背景

食道癌 (esophageal cancer) は世界で7番目に多いがん、6番目に多いがん死因であり、2018年のGLOBOCAN推計では新規症例約572,000例、死亡約509,000例と報告された。この世界的な疫学データは Bray et al. CACancerJClin 2018 にて詳細に示されている。アジアやアフリカでは扁平上皮癌 (ESCC) が主流である一方、北米や西欧では腺癌が優勢であり、組織型による地域差が存在する。切除不能、局所進行、または転移性食道癌の予後は極めて不良であり、5年生存率は5%未満にとどまる。1次治療としてフッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用化学療法が行われるが、これに抵抗性となった2次治療においては、タキサン系薬剤 (パクリタキセル、ドセタキセル) やイリノテカンが用いられるものの、統一された標準治療は未確立であった。

先行研究において、PD-1を標的とする免疫チェックポイント阻害剤は食道癌に対する抗腫瘍活性を示してきた。第II相試験であるKEYNOTE-180試験では、既治療の進行食道癌患者を対象にペムブロリズマブ (pembrolizumab) 単剤が持続的な奏効と良好な安全性プロファイルを示し、特にPD-L1高発現集団での有効性が示唆された。また、他剤の知見として、ESCC患者の2次治療においてニボルマブが化学療法と比較して生存期間を延長することが報告され、免疫療法の有用性が示されつつあった。

しかし、これまでの臨床開発において、いくつかの重要な課題や知識ギャップが残されていた。第一に、ペムブロリズマブがグローバルな患者集団において、組織型 (ESCCおよび腺癌) や原発部位を横断して有効性を示すかについては未解明であった。第二に、PD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイを用いたCPS (combined positive score) 閾値が、第III相試験において予測バイオマーカーとして頑健に機能するかは検証されていなかった。第三に、複数の化学療法レジメン (パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカン) と直接比較した際の詳細な安全性プロファイルの差異が十分に定量化されていなかった。何より、バイオマーカーに基づき選択された進行食道癌患者に対する2次治療としてのペムブロリズマブの有用性を証明するグローバルな第III相エビデンスが圧倒的に不足していた。本KEYNOTE-181試験は、これらの未解決課題を解決し、最適な2次治療戦略を確立することを目的に実施された。

目的

本試験の目的は、1次化学療法後に病勢進行した進行または転移性の食道扁平上皮癌、食道腺癌、およびHER2陰性のSiewert 1型食道胃接合部 (GEJ) 腺癌患者を対象に、ペムブロリズマブ単剤療法の有効性と安全性を、医師選択の化学療法 (パクリタキセル、ドセタキセル、またはイリノテカン) を対照群として直接比較検証することである。主要評価項目は、PD-L1 CPS 10以上の集団、ESCC集団、および全体集団 (ITT集団) の3つの独立したコホートにおける全生存期間 (OS) と設定され、階層的検定手順を用いて評価された。

結果

患者背景と治療状況: 2015年12月8日から2017年6月16日までに、計628例が登録され、ペムブロリズマブ群に314例、化学療法群に314例が割り付けられた (Figure 1)。患者背景は両群間で均一であり、全体で男性が86.6% (544/628例)、ESCC組織型が63.9% (401/628例) を占めた。PD-L1 CPS 10以上の患者は全体の35.4% (222/628例) であり、ペムブロリズマブ群で107例、化学療法群で115例であった (Table 1)。

主要評価項目:PD-L1 CPS 10以上集団におけるOS延長: PD-L1 CPS 10以上の集団 (n=222) において、ペムブロリズマブ群は化学療法群と比較してOSを有意に延長した (Figure 2A)。OS中央値はペムブロリズマブ群で9.3 months (95% CI 6.6-12.5)、化学療法群で6.7 months (95% CI 5.1-8.2) であり、HR 0.69 (95% CI 0.52-0.93, p=0.0074) であった。この結果は事前に設定された有意水準の境界値 (p<0.00853) を満たした。12ヶ月生存率はペムブロリズマブ群で43.0% (95% CI 33.5-52.1) であったのに対し、化学療法群では20.4% (95% CI 13.5-28.3) と約2倍の差を示した。サブグループ解析において、CPS 10以上のESCC患者 (n=167) では、OS中央値が10.3 months vs 6.7 months、HR 0.64 (95% CI 0.46-0.90, p=0.0095) と特に顕著な生存ベネフィットが認められた (Figure 3)。

主要評価項目:ESCC集団および全体集団におけるOS: ESCC集団 (n=401) におけるOS中央値は、ペムブロリズマブ群で8.2 months (95% CI 6.7-10.3)、化学療法群で7.1 months (95% CI 6.1-8.2) であり、HR 0.78 (95% CI 0.63-0.96, p=0.0095) であった (Figure 2B)。生存期間の延長傾向は認められたものの、事前に設定された有意水準の境界値 (p<0.0077) には達しなかった。また、全体集団 (n=628) におけるOS中央値は両群ともに7.1 monthsであり、HR 0.89 (95% CI 0.75-1.05, p=0.0560) と有意差を示さなかった (Figure 2C)。

無増悪生存期間 (PFS) および奏効率 (ORR): PD-L1 CPS 10以上の集団におけるPFS中央値は、ペムブロリズマブ群で2.6 months (95% CI 2.1-4.1)、化学療法群で3.0 months (95% CI 2.1-3.7) であり、HR 0.73 (95% CI 0.54-0.97, p=0.0074) であった。12ヶ月PFS率は20.8% vs 6.7% とペムブロリズマブ群で長期の病勢コントロールが得られた (Figure 4A)。同集団におけるORRは、ペムブロリズマブ群で21.5% (23/107例, 95% CI 14.1-30.5) であったのに対し、化学療法群では6.1% (7/115例, 95% CI 2.5-12.1) であった。奏効期間 (DOR) 中央値はペムブロリズマブ群で9.3 months、化学療法群で7.7 monthsであり、ペムブロリズマブ群でより持続的な腫瘍縮小効果が確認された。

安全性および毒性プロファイル: 治療を受けた患者 (ペムブロリズマブ群 314例、化学療法群 296例) において、治療関連有害事象 (TRAE) の発現率はペムブロリズマブ群で64.3%、化学療法群で86.1%であった。Grade 3から5の重篤なTRAEの発現率は、ペムブロリズマブ群で18.2% (57/314例) であったのに対し、化学療法群では40.9% (121/296例) と、ペムブロリズマブ群で有意に低頻度であった (Table 2)。ペムブロリズマブ群で多く認められたTRAEは疲労 (11.8%) および甲状腺機能低下症 (10.5%) であった。一方、化学療法群では脱毛症 (29.1%)、貧血 (22.3%)、悪心 (21.6%)、下痢 (20.3%)、好中球数減少 (16.9%) などの骨髄抑制や消化器毒性が高頻度に認められた (Table 3)。治療中止に至ったTRAEは両群ともに約6%と同等であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、アジア中心の扁平上皮癌のみを対象とした先行研究である ATTRACTION-3 (Nivolumab versus chemotherapy in patients with advanced oesophageal squamous cell carcinoma) 試験などとは異なり、欧米に多い食道腺癌やGEJ腺癌を含むグローバルな患者集団を対象とし、さらにPD-L1 CPS発現レベルに応じた層別化解析を厳密に実施した点で決定的に異なる。化学療法対照群として単一の薬剤ではなく、医師選択による3種の標準的化学療法 (パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカン) を設定し、実臨床に即した直接比較を行った点も特徴である。

新規性: 本研究で初めて、進行食道癌の2次治療において、PD-L1 CPS 10以上というバイオマーカー選択が、ペムブロリズマブの生存ベネフィットを最大化することを第III相試験において新規に実証した。特に、PD-L1 CPS 10以上の集団における12ヶ月生存率が化学療法群の2倍以上 (43.0% vs 20.4%) に達すること、および奏効した症例における効果の持続性が極めて高いことを明確に示した。

臨床応用: 本知見は、既治療の進行食道癌におけるバイオマーカー駆動型治療の臨床応用に直結する。臨床的意義として、PD-L1 IHC 22C3アッセイによるCPS評価が、2次治療におけるペムブロリズマブ投与の適応を決定するコンパニオン診断として臨床現場に定着する根拠となった。また、化学療法と比較してGrade 3以上の毒性が半減したことは、患者のQOL維持の観点からも極めて有用である。

残された課題: 今後の検討課題として、PD-L1 CPS 10未満の集団 (全体の約64%) における免疫療法の効果不足を克服するための新規バイオマーカーの探索や、他剤との併用療法の開発が挙げられる。また、組織型による効果の差異 (腺癌におけるベネフィットの限定性) の生物学的機序の解明も必要である。Limitationとして、オープンラベル設計に伴う評価のバイアスリスク、および腺癌サブグループにおける検出力不足が挙げられる。今後の研究方向性として、1次治療における免疫チェックポイント阻害剤併用療法の普及に伴い、それらに抵抗性となった症例に対する最適な後治療シーケンスの確立が望まれる。

方法

試験デザインと患者選択: 本試験は、32カ国154施設で実施された国際共同オープンラベル無作為化第III相試験である (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT02564263)。対象患者は18歳以上で、組織学的に確認された切除不能な局所進行または転移性の食道扁平上皮癌、食道腺癌、またはHER2陰性Siewert 1型GEJ腺癌であり、1次標準治療中に病勢進行が確認され、RECIST v1.1に基づく測定可能病変を有し、ECOG performance statusが0または1の患者とした。

治療割り当て: 患者はペムブロリズマブ群 (200 mgを3週間ごと静脈内投与、最長2年間) または化学療法群 (医師選択により、パクリタキセル 80-100 mg/m2を28日サイクル中の第1、8、15日に投与、ドセタキセル 75 mg/m2を21日サイクル中の第1日に投与、またはイリノテカン 180 mg/m2を14日サイクル中の第1日に投与) に1:1 of ratioで無作為に割り付けられた。無作為化の層別化因子は、組織型 (扁平上皮癌 vs 腺癌) および地理的地域 (アジア vs それ以外の地域) とされた。

評価項目とバイオマーカー評価: PD-L1発現は、中央測定にてPD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイを用いて評価され、CPS 10以上をPD-L1陽性と定義した。腫瘍評価は、ベースライン後9週時点、およびその後9週間ごとに中央放射線レビューによりRECIST v1.1を用いて実施された。安全性評価はCTCAE v4.0に基づいて行われた。

統計解析: 生存期間の比較には、層別ログランク (log-rank) 検定が用いられ、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) の算出にはコックス比例ハザード回帰 (Cox regression) モデルが用いられた。生存曲線の推定にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法が用いられた。3つの主要評価項目 (CPS 10以上、ESCC、全体集団におけるOS) に対する多重性調整には、Maurer-Bretzのグラフィカル手法およびLan-DeMetsのO’Brien-Fleming型アルファ消費関数が適用された。