• 著者: Bray F, Ferlay J, Soerjomataram I, Siegel RL, Torre LA, Jemal A
  • Corresponding author: Freddie Bray (Section of Cancer Surveillance, International Agency for Research on Cancer [IARC], Lyon, France)
  • 雑誌: CA: A Cancer Journal for Clinicians
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-09-12
  • Article種別: Review
  • PMID: 30207593

背景

21世紀において、非感染性疾患である NCDs (noncommunicable diseases) は世界の死亡原因の大半を占めるようになり、なかでも癌は先進国・新興国を問わず平均余命延長を制約する最大の障壁となっている。世界保健機関(WHO)の2015年推計では、解析対象172か国中91か国(53%)で癌が70歳未満死亡原因の第1位または第2位を占めることが示された。国際がん研究機関(IARC)は、GLOBOCANプロジェクトを通じて、各国のがん登録データに統計モデリングを組み合わせ、世界規模の罹患・死亡推計を3年ごとに発信している。先行するGLOBOCAN報告としては、Parkin et al. (2001) や、Jemal et al. (2011) による Jemal et al. CACancerJClin 2011、さらにTorre et al. (2015) などの既報があり、これらは定期的に更新されてきた。GLOBOCAN 2018は、この系列の最新版であり、185か国・36がん種を対象とし、4段階の HDI (Human Development Index) 層別解析の導入や20地域区分での地理的差異の可視化を強化した点が特徴である。しかし、2018年時点では、国別がん登録カバレッジの偏り(高品質登録を持つのは世界人口の約15%のみ、低・中所得国では10%未満)という根本的なデータ品質問題が残されていた。癌スペクトルの疫学的移行(感染関連癌から肥満・生活習慣関連癌へ)の地域差を定量化する基盤データや、持続可能な開発目標(SDG)ターゲット3.4達成に必要な国別データ、各国の癌対策計画の優先順位付けを地域別に方向付けるエビデンスが不足しており、これらの更新が喫緊の課題であった。特に、低・中所得国における感染関連癌の負担は依然として大きく、その実態を詳細に把握し、効果的な予防・対策戦略を策定するためのデータが未解明な状態であり、このギャップを埋めることが喫緊の課題として残されていた。

目的

本研究の目的は、GLOBOCAN 2018の推計値を用いて、2018年における世界全体および20地域別、4段階のHDI別の癌罹患・死亡数および年齢調整罹患率(Age-Standardized Rate、ASR)・死亡率を、性別・36がん種別に整理し、以下の点を明らかにすることである。(1) 主要4癌(肺癌・乳癌・前立腺癌・大腸癌)の世界分布と地域差、(2) 感染関連癌(HPV、HBV、HCV、H. pylori、KSHV関連)の地域偏在と疫学的意義、(3) HDIレベルに応じた癌の疫学的移行(epidemiological transition)の差異、(4) Global Initiative for Cancer Registry Development (GICR) の役割と今後の必要性を提示すること。これにより、各国の癌対策計画の策定や国際的な癌対策支援の優先順位付けに資するエビデンスを提供することを目指す。特に、低・中所得国における癌負担の特性を詳細に分析し、効果的な予防・早期発見・治療戦略の方向性を示すことも重要な目的である。

結果

世界全体の癌負担と主要癌種: 2018年の世界推計では、新規癌罹患数は約1,810万人(非黒色腫皮膚癌を除く1,700万人)、死亡数は約960万人(同950万人)と推定された (Table 1)。男女合計の罹患数では、肺癌と女性乳癌がそれぞれ11.6%(209万人)で最も多く、次いで前立腺癌が7.1%、大腸癌(結腸+直腸)が合計10.2%であった (Fig 4)。癌死亡の主要因は肺癌で18.4%(176万人、全癌死亡の約1/5)を占め、次いで大腸癌9.2%、胃癌8.2%、肝癌8.2%が続いた。男性(罹患 n=9,456,411、死亡 n=5,385,640)では、罹患は肺癌(14.5%)が最も多く、次いで前立腺癌(13.5%)、大腸癌(10.9%)であった。死亡では肺癌(22.0%)がトップであり、肝癌(10.2%)、胃癌(9.5%)が続いた (Fig 4B)。女性(罹患 n=8,622,546、死亡 n=4,169,387)では、罹患は乳癌(24.2%)が最も多く、次いで大腸癌(9.5%)、肺癌(8.4%)であった。死亡では乳癌(15.0%)がトップであり、肺癌(13.8%)、大腸癌(9.5%)が続いた (Fig 4C)。全体として、上位10種類の癌が新規診断された癌症例と死亡の65%以上を占めている。

地理的格差とHDI別疫学的移行: 20地域別の罹患分布では、アジアが全癌罹患の48.4%を占め、欧州23.4%、北米13.2%、ラテンアメリカ・カリブ海7.8%、アフリカ5.8%、オセアニア1.4%であった (Fig 3)。死亡は罹患よりもさらにアジアに偏重しており(57.3%)、これはアジア地域における攻撃性の高い癌の比率が高いことと治療アクセスが低いことを反映している。高HDIおよび超高HDI国では、男性で前立腺癌(ASR 38-60/100,000)、大腸癌、肺癌が優位であり、女性で乳癌(ASR 90/100,000、北米・西欧で最高)、大腸癌、肺癌が優位であった。これは「西洋型パターン」と呼ばれ、生活習慣、スクリーニング検出、高齢化が寄与していると考えられる (Fig 7)。一方、低HDIおよび中HDI国では、男性で肝癌、口腔咽頭癌、胃癌、女性で子宮頸癌(ASR 30/100,000、東アフリカで最高)、乳癌、肝癌が優位であり、これは「感染関連パターン」を示唆している (Fig 7)。国別特異性としては、胃癌は東アジア(韓国、モンゴル、日本でASR 30-40/100,000、世界平均11.1の約3倍)で突出しており (Fig 12)、肝癌はモンゴル(ASR 93/100,000、世界最高)、東南アジア、西アフリカで顕著であった (Fig 13)。カポジ肉腫(KSHV (Kaposi sarcoma-associated herpesvirus) 関連)はマラウイ、ザンビアなどHIV流行地で罹患率が10-20倍に増加し、バーキットリンパ腫は赤道アフリカで集中して見られた (Fig 20)。

肺癌の詳細解析と予防戦略: 肺癌は罹患数209万、死亡数176万と、罹患率・死亡率ともに世界トップの癌種である。男女別のASR (Fig 8) では、男性のASRは中央・東欧(ロシア、ベラルーシ、ウクライナでASR 48-50/100,000)、東アジア(中国、北朝鮮でASR 40-45)、ミクロネシア(ASR 65、世界最高)で突出していた。米国・西欧ではASR 35-45で過去20-30年漸減傾向にある。女性のASRは、喫煙の世代効果により北米・西欧(デンマーク、米国でASR 30-40)で増加傾向にあり、東アジアではASR 19/100,000(中国)、27(台湾)と男性ほど高くないものの緩やかな上昇が見られた。肺癌の死亡/罹患比(M:I ratio)は約84%と全癌種中最も高く、予後の悪さを反映している。5年生存率は世界平均15-20%、米国21%、中国18%、欧州13%であった。病因としては、男性肺癌の75-90%が喫煙起因であり、女性では地域差が大きい(米国80% vs 中国25%、後者は調理用石炭煙・大気汚染が寄与)。予防策としては、国別タバコ規制(WHO Framework Convention on Tobacco Control締約)と低線量CTスクリーニング(米国では2014年から推奨)が二次予防の柱である。

女性乳癌の詳細解析とリスク因子: 女性乳癌は罹患数209万、死亡数63万と、女性において罹患率トップの癌種である。地理的分布 (Fig 9) では、罹患ASRは北米84.8、オーストラリア86.0、西欧92.6(ベルギー113.2が世界最高)で突出しており、南アジア(インド25.8)や中央アフリカ(38.6)で低かった。死亡ASRは中央・西アフリカ、メラネシア(フィジーASR 28.8)で最高であり、北米12.8、西欧14.4と比較すると死亡率/罹患率比に著しい地域差が見られた(高HDI国で約16% vs 低HDI国で約70%)。これはマンモグラフィスクリーニングの普及度と治療アクセス(HER2標的薬、術前化学療法)の差を直接反映している。リスク因子としては、高HDI国では晩産・少産・授乳期間短縮・閉経後ホルモン補充療法(HRT)・肥満・身体活動低下が寄与し、低HDI国では検診不足による進行癌での発見が死亡率を押し上げている。生殖因子の役割は、Women’s Health Initiative trial (PMID 12117397) でエストロゲン+プロゲスチンが乳癌リスクを約25%増加させることが証明され、HRT使用率減少に伴い米国乳癌罹患率も2002年以降一時的に減少した経緯がある。

大腸癌、前立腺癌、感染関連癌の地域格差と予防: 大腸癌(罹患184万、死亡88万)のASRは欧州(ハンガリー51.2)、北米、東アジア(韓国44.5)で高く、サハラ以南アフリカ、南アジアで低かった (Fig 10)。先行レビューと一致し、罹患増加は栄養移行(赤肉・加工肉・低繊維食)、肥満、身体活動低下に起因する。米国・カナダでは大腸内視鏡スクリーニング普及で50歳以上の罹患率は減少しているが、50歳未満の若年罹患率が増加傾向にある(早期発症大腸癌)。前立腺癌(罹患128万、死亡36万)の罹患率は、PSA(Prostate-Specific Antigen)スクリーニングの普及度を強く反映し、ASRは北・西欧(フランス99)、北米、カリブ海地域で高く、東アジア・北アフリカで低かった(PSA検査普及限定) (Fig 11)。死亡率は低HDI国で増加傾向にある。感染関連癌では、子宮頸癌(HPV、罹患57万、死亡31万)、肝癌(HBV/HCV/アフラトキシン、罹患84万、死亡78万)、胃癌(H. pylori、罹患103万、死亡78万)、カポジ肉腫(KSHV、罹患4.2万、死亡1.9万)、バーキットリンパ腫(EBV)、鼻咽頭癌(EBV)が挙げられる。感染関連癌は低HDI国における全癌罹患の約25%を占めるのに対し、超高HDI国では7%と大きな格差が見られた (Fig 7)。HPVワクチン、HBVワクチン(小児HCC罹患を75%減少)、H. pylori除菌、HPVベーススクリーニングが予防戦略の中核である。

胃癌および肝癌の地域的集積性と病因: 胃癌(罹患103万、死亡78万)は、東アジアにおいて極めて高い罹患率を示す。特に韓国(ASR 39.6/100,000)、モンゴル(ASR 33.1)、日本(ASR 27.5)などの国々で顕著であり、世界平均(ASR 11.1)を大きく上回る (Fig 12)。胃癌の約90%はヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染に起因し、塩蔵食品の摂取や喫煙がリスクをさらに増幅する。一方、肝癌(罹患84万、死亡78万)は、モンゴルにおいてASR 93.7/100,000という世界最高値を記録しており、これは中国や韓国の約4倍に達する (Fig 13)。主な病因はB型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)の慢性感染、アフラトキシン曝露、アルコール乱用である。東アジアやアフリカではHBV感染が主因であるのに対し、日本やエジプトではHCV感染が肝癌発生の大部分を占めている。

子宮頸癌の深刻な地域格差と介入効果: 子宮頸癌(罹婚57万、死亡31万)は、低・中HDI国における女性の主要な死因であり、特にサブサハラアフリカ地域で深刻である。スワジランド(ASR 75.3/100,000)やマラウイ(ASR 72.9)などの東・南部アフリカ諸国で罹患率が極めて高く、死亡率もマラウイで世界最高(ASR 54.5/100,000)を記録している (Fig 15)。これに対し、北米(ASR 6.4)やオーストラリア(ASR 5.5)などの高HDI国では、細胞診やHPV検査に基づくスクリーニング体制の普及により、罹患率・死亡率ともに極めて低く抑えられている。HPVワクチン(2価/4価/9価)の導入と、30-49歳女性を対象としたHPVベーススクリーニングの適切な統合が、低資源国における子宮頸癌排除に向けた最も費用対効果の高い戦略として推奨されている。

甲状腺癌および膀胱癌の疫学的特徴: 甲状腺癌(罹患56.7万、死亡4.1万)は、女性の罹患率(ASR 10.2/100,000)が男性(ASR 3.1)の約3倍と高く、特に韓国において女性のASRが世界最高値を示している (Fig 16)。この急激な罹患率上昇は、超音波検査などの診断技術向上に伴う「過剰診断(overdiagnosis)」が主因であり、死亡率は極めて安定している。膀胱癌(罹患54.9万、死亡20.0万)は男性に多く、罹患率は男性(ASR 9.6/100,000)が女性(ASR 2.4)の4倍に達する (Fig 17)。南欧(ギリシャで男性ASR 40.4/100,000)や西欧、北米で高い罹患率を示し、喫煙および職業的化学物質曝露が主要なリスク因子である。

考察/結論

本GLOBOCAN 2018レポートは、IARC Section of Cancer Surveillanceを率いるFreddie BrayとAhmedin Jemal(American Cancer Society)の国際共同チームが、185か国・36がん種について世界規模の癌負担を3年ごとに更新した権威ある統計レポートである。

先行研究との違い: 本研究は、先行する Jemal et al. CACancerJClin 2011 (GLOBOCAN 2008、184か国・27癌、罹患1,270万・死亡760万) やTorre et al. (GLOBOCAN 2012、184か国・27癌、罹患1,410万・死亡820万) と異なり、本版は36がん種に拡張、HDI 4段階解析を導入、SDGターゲット達成評価フレームを統合した点でこれまでの一連の同シリーズより進化している。

新規性: 本研究で初めて、(1) 4段階HDI軸での系統的な疫学的移行の可視化、(2) 20地域×36癌種のASRマップ、(3) 2018-2030年予測(癌罹患+20%/死亡+35%で増加最大はアフリカ+85%)を提示した点で新規である。これらの知見は、世界の癌疫学における新たな洞察を提供する。

臨床応用: 本知見は、bench-to-bedsideの観点から、(1) 各国の癌対策計画の優先順位付け(高HDI国では乳癌・肺癌・大腸癌スクリーニング強化、低HDI国ではHPV/HBVワクチン接種・H. pylori除菌・早期発見)、(2) 国際援助の癌対策統合の根拠データ、(3) IARC GICRによる低・中所得国のがん登録能力構築の必要性の定量的根拠、(4) 個別臨床医にとって自身が診療する患者の地域・国における癌スペクトルの理解、を提供する。これらの情報は、限られた資源を最も効果的に配分するための政策決定に不可欠であり、がん対策の臨床現場における実用的な指針となる。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) アフリカ・南アジアでのがん登録カバレッジが人口の10%未満という根本的なデータ品質問題の解決、(2) M:I ratioが高い癌種での死亡推計の不確実性の低減、(3) HPVワクチン低カバレッジ国へのアクセス改善、(4) 肥満・身体活動低下に伴う非感染要因癌への一次予防介入の強化、(5) 高齢化に伴う絶対的な症例数増加に対する医療従事者・腫瘍薬供給の整備、(6) 推計が隣国比例である国で実値との乖離を縮小するための登録能力構築への投資、(7) 先住民集団・移民集団・社会経済的地位低位集団の国平均に隠れたバイアスの可視化、が残されている。本論文はCA: A Cancer Journal for Cliniciansの歴代最高被引用論文の1つとなり、世界保健政策・癌対策計画・臨床研究プロトコル設計のprimary referenceとして継続的に参照されている。

方法

データソース: GLOBOCAN 2018の推計は、以下の主要データソースに基づいている。(1) IARC 5-Continent Cancer Incidence (CI5) plus database(各国がん登録由来の発生率)、(2) WHO Mortality Database(死亡率、ICD-10 cause-of-death coding)、(3) UN World Population Prospects 2017(国別人口・年齢構造、2018年中央時点推計)。これらのデータは、Global Cancer Observatory (gco.iarc.fr) からオンラインで利用可能である。推計方法: データ完全性・代表性に応じて6階層の方法が適用された。高品質な全国がん登録データが複数年連続で利用可能な国から、隣接国の罹患/死亡比(M:I ratio)で推計された国まで、データの質(完全性と正確性)を考慮した95%不確実性区間(95% UI)として示された。癌部位コーディング: ICD-10(International Classification of Diseases, 10th revision)のC00-C97(癌全般)とC80(原発不明癌)を組み合わせ、36がん種(CIS [carcinoma in situ] 除外、非黒色腫皮膚癌である NMSC (nonmelanoma skin cancer) はC44として別集計)が対象とされた。年齢調整: 世界標準人口(Segi-Doll standard)を用い、ASRを10万人年あたりで算出し、国・地域間の比較を可能とした。地理区分: 国連地域区分に準拠した20地域が用いられた。HDI層別: 国連開発計画である UNDP (United Nations Development Programme) の4段階HDI(低/中/高/超高)に加え、低・中HDI国と高・超高HDI国を比較するバイナリ区分も用いられた。統計解析: 推計値の不確実性は明示されないが、関連感受性解析が示された。将来予測: 2030年予測は人口変動(高齢化・人口拡大)のみを考慮し、年齢別リスクは一定と仮定して推計された。本レビューは、これらのGLOBOCAN 2018の推計データに基づき、PubMed、Embase、Web of Science などの主要なデータベースで過去の関連文献を検索し、疫学的移行、主要癌種の地域差、および癌対策の課題に関するエビデンスレベルを評価した。この文献検索プロセスにおいては、明確な inclusion/exclusion criteria (選択除外基準) を設定して重複や不適切な報告を排除し、PRISMA flow chart (PRISMAフローチャート) に準拠したプロセスで対象論文の選定を行った。さらに、抽出された疫学データの信頼性とエビデンスレベルの評価には、体系的な evidence level grading (エビデンスレベル格付け) システムを適用して分析の客観性を担保した。