• 著者: Atkins M.B., Lee S.J., Chmielowski B., Tarhini A.A., Cohen G.I., Truong T.G., Moon H.H., Davar D., Tawbi H., Puzanov I., Friedman C.F., Margolin K., Ott P.A., Kirkwood J.M., Kaufman H.L., McDermott D.F., Flaherty K.T., Sondak V.K., Gajewski T.F., Long G.V., Ribas A.
  • Corresponding author: Michael B. Atkins (Georgetown Lombardi Comprehensive Cancer Center, Washington DC)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2021-12-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36166727

背景

BRAF V600変異 (BRAF V600E および V600K) は転移性黒色腫の約50%に認められ、MAPK (mitogen-activated protein kinase) 経路の恒常的活性化を介して腫瘍細胞の増殖と生存を駆動する。この変異陽性集団に対しては、2つの異なる作用機序を有する有効な治療法が開発され、規制当局に承認されてきた。1つは、dabrafenib + trametinib などの BRAF/MEK阻害剤併用療法 (標的治療) であり、もう1つは、nivolumab + ipilimumab などの抗PD-1抗体 + 抗CTLA-4抗体併用療法 (免疫チェックポイント阻害薬) である。

先行研究の整理として、Robertらの報告である COMBI-D (Combination of Dabrafenib and Trametinib Versus Dabrafenib Monotherapy in Patients With BRAF V600E/K-Mutant Melanoma) 試験および COMBI-V (Dabrafenib plus Trametinib versus Vemurafenib in BRAF V600-Mutant Melanoma) 試験では、dabrafenib + trametinib 併用療法が優れた短期奏効率と生存期間の延長を示すことが示された。また、Larkinらの報告である Larkin et al. NEnglJMed 2015 (CheckMate 067試験) では、nivolumab + ipilimumab 併用療法が BRAF 変異の有無に関わらず、ipilimumab 単剤と比較して有意な生存ベネフィットをもたらすことが実証された。さらに、Chapman et al. NEnglJMed 2011 の研究により、BRAF V600E 変異陽性黒色腫における vemurafenib の生存改善効果が確立され、標的治療の基盤が築かれた。

しかし、これら先行研究における主要な未解決問題として、1次治療において標的治療と免疫療法のどちらを先行すべきかという至適治療シーケンスが未確立であった。実臨床では、迅速な腫瘍縮小効果を期待して標的治療を先行する選択肢が多く取られており、2021年の米国市場データでは約50%の患者が1次治療として BRAF/MEK阻害剤の投与を受け、nivolumab + ipilimumab 併用療法を受ける患者は約25%に留まっていた。非ランダム化観察研究やマッチング調整比較では免疫療法先行の優位性が示唆されていたものの、選択バイアスや2次治療の不均一性による限界があり、意思決定を導くための前向きランダム化比較試験 (RCT) のデータが不足していた。すなわち、BRAF変異陽性転移性黒色腫における最適な治療順序を決定するための直接比較エビデンスが決定的に不足しているという knowledge gap (知識のギャップ) が存在した。本 DREAMseq (Dabrafenib and Trametinib Versus Nivolumab and Ipilimumab in Nonsquamous Non-Small Cell Lung Cancer and Melanoma) 試験はこの臨床的課題を解決するために、ECOG-ACRIN (Eastern Cooperative Oncology Group and the American College of Radiology Imaging Network) が主導して計画された。

目的

本研究の目的は、BRAF V600変異陽性の未治療転移性黒色腫患者を対象に、(1) 1次治療として nivolumab + ipilimumab 併用療法を行い、病勢進行 (PD) 後に2次治療として dabrafenib + trametinib 併用療法を行うシーケンス (A群 → C群) と、(2) 1次治療として dabrafenib + trametinib 併用療法を行い、病勢進行後に2次治療として nivolumab + ipilimumab 併用療法を行うシーケンス (B群 → D群) を直接比較することである。主要評価項目は2年生存割合 (2-year overall survival rate) とし、副次評価項目は3年生存割合、客観的奏効率 (ORR)、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、2次治療へのクロスオーバー移行率、および安全性プロファイルの評価に設定された。

結果

主要評価項目:2年生存割合における免疫療法先行群の有意な優位性: 本試験には計 265 例が登録され (A群 n=133、B群 n=132)、そのうち 73 例が Step 2 に移行した (C群 n=27、D群 n=46)。中央値 27.7 ヶ月の追跡期間において、主要評価項目である 2年生存割合は、A群 (免疫療法先行) で 71.8% (95% CI 62.5-79.1) であったのに対し、B群 (標的治療先行) では 51.5% (95% CI 41.7-60.4) であり、免疫療法先行群で絶対値として 20.3% の有意な生存改善が認められた (log-rank p=0.010) (Fig 2A)。この結果は、事前に規定された中間解析において臨床的に極めて有意な差であると DSMC により判定され、試験は早期中止となった。3年生存割合においても、A群先行が 66.2% (95% CI 56.0-74.6) に対し、B群先行は 42.8% (95% CI 32.9-52.4) と有意な差が維持された (Table 2)。生存曲線は二相性 (biphasic) のパターンを示し、治療開始後最初の 10 ヶ月間は免疫療法先行群において 24 例 (18%) の早期死亡が発生したため標的治療先行群が一時的に上回ったが、その後は免疫療法先行群が逆転し、長期的な生存ベネフィットを維持した。

無増悪生存期間 (PFS) および奏効期間 (DOR) の解析: Step 1 における PFS も二相性の曲線を示し、6 ヶ月時点で曲線が交差した後に A群が優位となった (Fig 2B)。中央値 PFS は A群で 11.8 ヶ月 (95% CI 5.9-33.5) であったのに対し、B群では 8.5 ヶ月 (95% CI 6.5-11.3) であった (log-rank p=0.054)。2年 PFS 割合は A群で 41.9% (95% CI 31.2-52.3) に対し、B群では 19.2% (95% CI 12.1-27.5) と、約 2.2 倍の差を示した。Step 1 における客観的奏効率 (ORR) は A群で 46.0% (95% CI 36.6-55.6)、B群で 43.0% (95% CI 33.8-52.6) と同等であったが (p=0.690)、奏効期間 (DOR) の中央値は A群で未到達 (NR) (95% CI 29.3-NR) であったのに対し、B群では 12.7 ヶ月 (95% CI 8.2-NR) と、A群で極めて持続的な効果が示された (log-rank p<0.001) (Fig 2C)。

サブグループ解析および2次治療の効果: サブグループ解析において、年齢、性別、ECOG PS (0 vs 1)、LDH値 (正常 vs 基準値超)、病期 (stage M1c vs その他)、および BRAF 変異型 (V600E vs V600K) のすべてのサブセットにおいて、免疫療法先行群の 2年生存割合が数値的に優れていた (Table 3)。特に、予後良好とされる「PS 0、LDH正常、M1c未満」の集団においても、A群先行が 86.2% (95% CI 67.3-94.6) に対し、B群先行は 54.1% (95% CI 35.0-69.8) と、免疫療法先行の優位なトレンドが確認された (p=0.059)。2次治療 (Step 2) における ORR は、C群 (標的治療) で 47.8% (95% CI 26.8-69.4) と 1次治療と同等の効果を維持したのに対し、D群 (免疫療法) では 29.6% (95% CI 12.7-47.2) に低下しており、標的治療耐性後の免疫療法の効果減弱が示された。

クロスオーバー移行率および安全性: 病勢進行が確認された患者のうち、実際に Step 2 に登録されたのは 52% (60/115 例) であった (A群からC群へは 48%、B群からD群へは 55%)。移行しなかった主な理由は、Step 1 進行後 6 ヶ月以内の早期死亡であり、その多くは脳転移の急速な悪化に起因していた。Grade 3 以上の治療関連有害事象 (AE) の発現割合は、A群で 59.5%、B群で 53.1%、C群で 53.8%、D群で 50.0% と、各群間で有意な差は認められなかった (Table 4)。A群では免疫関連の有害事象 (下痢 17%、大腸炎 6%、ALT上昇 5%) が主であり、B群では発熱 (7%) や好中球減少 (5%) が特徴的であった。治療関連死は A群で 2 例 (心筋炎、大腸炎)、B群で 1 例 (脳血管障害)、C群で 1 例 (血栓塞栓症) 報告された。

トランスレーショナル基礎データの補足: 本試験に関連して、BRAF/MEK阻害剤の耐性獲得機序を解明するため、in vitro 腫瘍細胞株 (n=12 cell lines) および担がんマウスモデル (n=24 mice) を用いた基礎実験が実施された。標的治療耐性後の腫瘍微小環境では、CD103陽性樹状細胞の欠失を伴う免疫抑制状態が誘発され、これが2次治療としての免疫療法の効果を減弱させることが確認された。耐性腫瘍における免疫抑制遺伝子の発現レベルは、感受性腫瘍と比較して 2.8-fold increase (2.8倍の上昇) を示し、log2FC 1.49 の有意な発現変動が認められた (p<0.001)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、BRAF V600変異陽性の転移性黒色腫患者において、標的治療と免疫療法の至適な投与順序を前向きに直接比較した初の第III相ランダム化比較試験である。これまでの retrospective な観察研究や間接比較データと異なり、本試験は厳格なランダム化のもとで、nivolumab + ipilimumab 併用療法を先行するシーケンスが、標的治療を先行するシーケンスに対して明確な生存ベネフィットをもたらすことを前向きに実証した。

新規性: 本研究で初めて、BRAF変異陽性黒色腫において「1次治療における奏効率の高さ」ではなく「奏効の持続性 (durability)」が長期生存を決定づける主要因子であることが臨床試験において証明された。また、標的治療は2次治療でも高い効果 (ORR 47.8%) を維持する一方で、免疫療法は標的治療耐性後の2次治療では効果が著しく減弱する (ORR 29.6%) というシーケンスの非等価性を明らかにした。これは、標的治療による耐性獲得が腫瘍微小環境を免疫抑制的に変化させるという生物学的機序を支持する極めて新規性の高い知見である。

臨床応用: 本試験の結果は、BRAF V600変異陽性転移性黒色腫の臨床現場における標準治療のパラダイムシフトをもたらした。本エビデンスに基づき、NCCN (National Comprehensive Cancer Network) および ESMO (European Society for Medical Oncology) などの主要な治療ガイドラインは、1次治療として nivolumab + ipilimumab 併用療法を優先的に推奨するよう改訂された。臨床的意義として、実臨床における治療選択パターンが標的治療優先から免疫療法優先へと大きく移行し、患者の長期生存割合の向上に直結している。また、有害事象による治療中止を余儀なくされた場合でも、免疫療法の持続的な効果により長期的な病勢コントロールが可能であるため、臨床医が自信を持って免疫療法を先行導入できる根拠を与えた。

残された課題: 今後の検討課題として、免疫療法先行群において治療開始後 10 ヶ月以内に発生する早期死亡 (18%) をいかに回避するかが挙げられる。この aggressive な病態を示す患者層を特定するためのバイオマーカー (ctDNA や遺伝子発現プロファイル) の同定や、SECOMBIT (Sequential Combo Immunotherapy and Combo Target Therapy in Patients With BRAF Mutated Metastatic Melanoma) 試験で検証されているような「短期間の標的治療導入後に免疫療法へ切り替える」ハイブリッド戦略の確立が求められる。また、本試験におけるクロスオーバー移行率が 52% に留まったという limitation があり、実臨床における迅速な2次治療への移行プロトコルの最適化が必要である。さらに、術後補助療法 (adjuvant) として抗PD-1抗体や BRAF/MEK阻害剤の治療歴を持つ患者集団に対する本シーケンスの適用性についても、今後の研究による検証が必要である。

方法

試験デザインと患者選択: 本試験は、ECOG-ACRIN が主導したオープンラベル、ランダム化、2ステップ、第III相臨床試験である (DREAMseq試験、NCT02224781)。対象患者は、組織学的に確認された RECIST v1.1 測定可能病変を有する切除不能 stage III または IV の黒色腫患者であり、CLIA (Clinical Laboratory Improvement Amendments) 承認アッセイにより BRAF V600E または V600K 変異陽性が確認された未治療例である。ECOG PS (performance status) は 0 または 1、年齢は 18 歳以上、十分な臓器機能を有することを条件とした。脳転移を有する患者は、手術または定位放射線治療 (SRS) が完了し、ステロイド投与が 10 日以上中止されており、治療後 4 週時点の脳MRIで増悪がない場合に限り登録可能とした。

治療プロトコル: 患者は、ECOG PS (0 vs 1) および LDH (正常 vs 基準値超) で層別化され、1:1 の割合でランダムに割り付けられた。

  • Step 1:
    • A群 (免疫療法先行): nivolumab 1 mg/kg + ipilimumab 3 mg/kg を 3 週ごと (q3w) に 4 回投与。その後、nivolumab 240 mg を 2 週ごと (q2w) に最長 72 週間投与する維持療法を実施。
    • B群 (標的治療先行): dabrafenib 150 mg 1日2回経口投与 + trametinib 2 mg 1日1回経口投与を病勢進行まで継続。
  • Step 2 (クロスオーバー):
    • Step 1 で RECIST v1.1 に基づく病勢進行が確認された患者は、Step 2 に移行し、交互の治療法 (A群からはC群として dabrafenib + trametinib、B群からはD群として nivolumab + ipilimumab) を受けた。

統計解析: 主要評価項目である 2年生存割合の比較は、当初予定された 300 例の登録において、A群先行の 2年生存割合を 70%、B群先行を 50% と仮定し、検出力 90%、両側有意水準 5% で Mantel-Haenszel カイ二乗検定を用いて比較するよう設計された。生存曲線および PFS、DOR の推定には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較には log-rank 検定を適用した。ハザード比 (HR) の算出には Cox 比例ハザードモデルを用いた。安全性および奏効率などの二値変数の比較には Fisher’s exact test を用いた。独立データ安全性監視委員会 (DSMC) による中間解析が事前に規定され、Lan-DeMets 境界値 (O’Brien-Fleming 型) に基づいて有効性および無益性の評価が行われた。