- 著者: Winer E.P., Lipatov O., Im S.A., Goncalves A., Muñoz-Couselo E., Lee K.S., Schmid P., Tamura K., Testa L., Witzel I., Ohtani S., Alva A.S., Harbeck N., Perez-Garcia J.M., Shao Z., Ayers M., Gao H., Lee H.L., Moore H.C.F., Rugo H.S.
- Corresponding author: Winer E.P. (Dana-Farber Cancer Institute, Boston)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-15
- Article種別: Original Article (Phase 3 RCT)
- PMID: 33676601
背景
転移性トリプルネガティブ乳がん (TNBC:triple-negative breast cancer) は、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体の発現を欠き、かつHER2 (human epidermal growth factor receptor 2) の過剰発現や遺伝子増幅を認めない乳がんのサブタイプである。Dent et al. (2007) などの先行研究において、TNBCは他の乳がんサブタイプと比較して再発率が高く、内臓転移を来しやすく、極めて予後不良であることが報告されている。標準的なホルモン療法やHER2標的療法の適応がないため、治療選択肢は化学療法に限定されており、新規の治療アプローチの開発が長年の課題であった。近年、がん免疫微小環境におけるPD-1 (programmed cell death 1) およびPD-L1 (programmed cell death ligand 1) 経路を標的とした免疫チェックポイント阻害剤が注目を集めている。非小細胞肺がんなどの他のがん種においては、ペムブロリズマブなどの抗PD-1抗体が優れた有効性と安全性を示すことが、Garon et al. NEnglJMed 2015 や Herbst et al. Lancet 2016 によって実証されてきた。乳がん領域においても、初期の臨床試験であるKEYNOTE-012試験やKEYNOTE-086試験において、ペムブロリズマブ単剤療法が転移性TNBC患者に対して持続的な抗腫瘍活性と管理可能な安全性プロファイルを示すことが報告されていた。しかしながら、既治療 (2次治療または3次治療) の転移性TNBC患者を対象とした、ペムブロリズマブ単剤療法の標準的な化学療法に対する優越性を検証する大規模な第3相ランダム化比較試験は実施されておらず、その臨床的有用性は未解明であり、最適な治療戦略の確立に向けたエビデンスが不足していた。特に、どのような患者集団が免疫療法単剤から最大の恩恵を受けるかについてのバイオマーカーの確立や、化学療法と比較した生存期間の改善効果に関するエビデンスが圧倒的に不足しており、大きな知識ギャップ (knowledge gap) が残されていた。この知識ギャップを埋めるため、既治療の転移性TNBC患者におけるペムブロリズマブ単剤療法の意義を検証する大規模な検証的試験が必要とされていた。
目的
本研究 (KEYNOTE-119試験) の目的は、1〜2ラインの全身化学療法による治療歴を有し、直近の治療中に病勢進行が確認された転移性トリプルネガティブ乳がん (TNBC) 患者を対象として、ペムブロリズマブ単剤療法の有効性および安全性を、医師選択の単剤化学療法 (カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、またはビノレルビン) と比較検証することである。主要な目的は、PD-L1発現の指標であるCPS (Combined Positive Score) が10以上の集団、1以上の集団、および全体集団 (意図した治療群:intention-to-treat集団) における全生存期間 (OS:overall survival) に対するペムブロリズマブの優越性を検証することである。さらに、副次的な目的として、無増悪生存期間 (PFS:progression-free survival)、客観的奏効率 (ORR:objective response rate)、病勢コントロール率 (DCR:disease control rate)、奏効持続期間 (DoR:duration of response)、および安全性を評価し、既治療の転移性TNBCにおけるペムブロリズマブ単剤療法の位置づけを明らかにすることである。
結果
患者背景および治療状況: 2015年11月25日から2017年4月11日までに、1,098例がスクリーニングされ、622例がペムブロリズマブ群 (n=312) または化学療法群 (n=310) にランダム化された (Figure 1)。全体集団において、PD-L1 CPS 1以上の患者は405例 (65%)、CPS 10以上の患者は194例 (31%)、探索的解析対象であるCPS 20以上の患者は109例 (18%) であった (Table 1)。追跡期間中央値は、ペムブロリズマブ群で31.4ヶ月 (IQR [interquartile range]:27.8-34.4)、化学療法群で31.5ヶ月 (IQR:27.8-34.6) であった。最終解析時点で、ペムブロリズマブ群の298例 (96%) および化学療法群の285例 (92%) が治療を中止していた (Figure 1)。
主要評価項目である全生存期間の解析結果: 主要評価項目であるOSは、いずれの解析集団においてもペムブロリズマブ群の化学療法群に対する統計的な有意差を示さなかった。PD-L1 CPS 10以上の集団 (n=194) において、OS中央値は 12.7 vs 11.6 months (HR 0.78, 95% CI 0.57-1.06, p=0.057) であり、ペムブロリズマブ群で数値的な延長はみられたものの統計的な有意差を認めなかった (Figure 2)。また、CPS 1以上の集団 (n=405) におけるOS中央値は、 10.7 vs 10.2 months (HR 0.86, 95% CI 0.69-1.06, p=0.073) であり、こちらも同様に有意な改善を示さなかった (Figure 2)。全体集団におけるOS中央値は、ペムブロリズマブ群で9.9ヶ月 (95% CI:8.3-11.4) であったのに対し、化学療法群では10.8ヶ月 (95% CI:9.1-12.6) であり、HRは0.97 (95% CI:0.82-1.15) であった (Figure 2)。
PD-L1高発現集団における探索的OS解析: 事後探索的解析 (post-hoc analysis) として実施されたPD-L1 CPS 20以上の集団 (n=109) におけるOSの解析では、ペムブロリズマブ単剤療法の治療効果がより顕著となる傾向が示された。CPS 20以上の集団におけるOS中央値は、ペムブロリズマブ群 (n=57) で14.9ヶ月 (95% CI:10.7-19.8) であったのに対し、化学療法群 (n=52) では12.5ヶ月 (95% CI:7.3-15.4) であり、HRは0.58 (95% CI:0.38-0.88) であった (Figure 2)。この結果は、PD-L1の発現レベルが極めて高い集団において、ペムブロリズマブ単剤療法がより良好な生存ベネフィットをもたらす可能性を示唆している。一方で、化学療法群におけるOSは、PD-L1の発現レベルに依存せずほぼ一定であった (Figure 3)。
客観的奏効率および奏効持続期間の評価: 全体集団におけるORRは、ペムブロリズマブ群で9.6% (95% CI:6.6-13.4)、化学療法群で10.6% (95% CI:7.4-14.6) と両群間でほぼ同等であった (Table 2)。しかし、PD-L1の発現レベルが上昇するにつれて、ペムブロリズマブ群のORRは向上する傾向が認められた。具体的には、ORRはCPS 1以上で12% (25/203例)、CPS 10以上で18% (17/96例)、CPS 20以上で26% (15/57例) に達したのに対し、化学療法群ではそれぞれ9% (19/202例)、9% (9/98例)、12% (6/52例) であった。また、全体集団におけるDoR中央値は、ペムブロリズマブ群で12.2ヶ月 (IQR:7.1-28.4) であり、化学療法群の8.3ヶ月 (IQR:4.2-28.1) と比較して持続期間が長い傾向が示された (Table 2)。
治療関連有害事象および安全性の比較: 安全性評価対象集団 (ペムブロリズマブ群:n=309、化学療法群:n=292) において、ペムブロリズマブ群は化学療法群と比較して、Grade 3以上の治療関連有害事象 (TRAE:treatment-related adverse event) の発生率が大幅に低かった。Grade 3から5のTRAE発生率は、ペムブロリズマブ群で14% (43/309例) であったのに対し、化学療法群では36% (105/292例) であった (Table 3)。化学療法群で頻度の高かったGrade 3以上の血液毒性は、好中球減少症 (13%)、好中球数減少 (10%)、白血球数減少 (5%) などであったが、ペムブロリズマブ群ではこれらは1%未満であった。ペムブロリズマブ群における免疫関連有害事象は15% (47/309例) に認められ、最も頻度が高かったのは甲状腺機能低下症 (7%) であった (Table 3)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究 (KEYNOTE-119試験) は、既治療の転移性トリプルネガティブ乳がん (TNBC) 患者において、ペムブロリズマブ単剤療法が医師選択の化学療法と比較して全生存期間を有意に改善しないことを示した。これは、ペムブロリズマブ単剤療法が化学療法に対して全生存期間の有意な延長を示した非小細胞肺がんなどの他のがん種における先行研究の結果と対照的である。乳がん、特にTNBCにおいては、単剤での免疫チェックポイント阻害剤の治療効果には限界があることが浮き彫りとなった。
新規性: しかしながら、本研究は、転移性TNBC患者においてPD-L1発現レベル (CPS) の上昇に伴い、ペムブロリズマブの治療効果 (OS、ORR、DoR) が段階的に増強されるというバイオマーカーとの相関性を、大規模な第3相ランダム化比較試験において本研究で初めて明らかにした。特に、事後探索的解析におけるCPS 20以上の超高発現集団でのハザード比0.58という数値は、特定のサブグループにおいて単剤療法が極めて有効である可能性を新規に提示している。
臨床応用: 本研究の臨床的意義は、既治療の転移性TNBCにおけるペムブロリズマブ単剤療法の限界を明確にすると同時に、今後の臨床応用における患者選択の重要性を示した点にある。ペムブロリズマブ群は化学療法群と比較してGrade 3以上の有害事象が大幅に少なく (14% vs. 36%)、良好な安全性とQOL (quality of life) の維持を示した。このため、PD-L1超高発現 (CPS 20以上) かつ化学療法の毒性を避けたい患者においては、単剤療法が臨床現場における合理的な選択肢となり得ることが示唆される。
残された課題: 今後の検討課題として、転移性TNBCに対する最適な免疫療法のコンビネーション戦略の確立が挙げられる。単剤での効果が限定的であることから、化学療法との併用 (KEYNOTE-355試験など) や、ADC (antibody-drug conjugate) などの新規薬剤との組み合わせが今後の研究の主流になると考えられる。また、本研究におけるCPS 20以上の解析は事後探索的解析 (limitation) であるため、より高いPD-L1カットオフ値の予測能については、今後の前向きな臨床試験による検証が必要である。
方法
本研究は、世界31カ国の150の医療機関で実施された国際多施設共同オープンラベルランダム化第3相臨床試験 (試験登録番号:NCT02555657) である。対象患者は、18歳以上で、中央判定により転移性トリプルネガティブ乳がん (TNBC) と診断され、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータスが0または1であり、転移性疾患に対して1〜2ラインの全身化学療法歴があり、直近 of 治療中に病勢進行が確認され、かつ術前・術後または転移治療においてアントラサイクリン系薬剤およびタキサン系薬剤の治療歴を有する患者とした。適格患者は、ペムブロリズマブ群 (200 mgを3週ごとに静脈内投与、最大35サイクルまで) または医師選択化学療法群 (カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、ビノレルビンのいずれか単剤、各薬剤の登録上限は60%) に1:1の割合でランダムに割り当てられた。ランダム化は、PD-L1発現状況 (CPS 1以上 vs. 1未満) および初期診断時の病態 (術前・術後補助療法の治療歴あり vs. 初発転移性疾患) を層別化因子として実施された。腫瘍評価は、ベースライン時、最初の12ヶ月間は9週ごと、その後は12週ごとに、CT (computed tomography) またはMRI (magnetic resonance imaging) を用いて実施され、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づくRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) バージョン1.1に準拠して、マスクされた独立中央画像判定によって評価された。主要評価項目は、PD-L1 CPS 10以上、CPS 1以上、および全体集団におけるOSとした。統計解析では、OSの群間比較に層別ログランク (log-rank) 検定を用い、ハザード比 (HR:hazard ratio) およびその95%信頼区間 (CI:confidence interval) の算出には層別コックス比例ハザード回帰モデル (Cox regression model) を使用した。生存曲線はカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて推定された。多重性を制御するため、階層的検定手順が採用され、まずCPS 10以上の集団、次にCPS 1以上の集団、最後に全体集団の順に検証を行う設計とした。