- 著者: Herbst RS, Baas P, Kim DW, Felip E, Pérez-Gracia JL, Han JY, Molina J, Kim JH, Dubos Arvis C, Ahn MJ, Majem M, Fidler MJ, de Castro G Jr, Garrido M, Lubiniecki GM, Shentu Y, Im E, Dolled-Filhart M, Garon EB
- Corresponding author: Roy S. Herbst, MD, PhD (Thoracic Oncology Research Program, Smilow Cancer Hospital, Yale Comprehensive Cancer Center, Yale School of Medicine, New Haven, CT, USA)
- 雑誌: The Lancet
- 発行年: 2016
- Epub日: 2015-12-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 26712084
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療は近年進歩しているものの、病勢進行後の効果的な治療法の必要性が依然として存在していた。特に、ドライバー遺伝子変異を持たない患者に対する二次治療の選択肢は限られており、ドセタキセルが標準治療の一つであった。免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1経路を標的とすることで、NSCLC治療における新たなパラダイムを確立しつつあった Pardoll et al. NatRevCancer 2012。PD-1受容体は活性化されたB細胞およびT細胞に発現する免疫チェックポイント阻害因子であり、そのリガンドであるPD-L1およびPD-L2が腫瘍細胞に結合することでT細胞の抑制を誘導し、免疫応答からの回避を可能にする Dong et al. NatMed 2002、Freeman et al. JExpMed 2000。
ペムブロリズマブ (MK-3475) は、PD-1に対する高選択的なヒト化IgG4モノクローナル抗体である。先行するKEYNOTE-001試験 (Phase 1b) では、既治療NSCLC患者においてペムブロリズマブが客観的奏効率 (ORR) 約19%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値3.7ヶ月という有効性を示した Garon et al. NEnglJMed 2015。特に、PD-L1腫瘍細胞割合スコア (TPS) が50%以上の患者では、著明に高い奏効率が観察され、PD-L1発現がペムブロリズマブの治療効果を予測するバイオマーカーとなる可能性が示唆された。この知見は、PD-L1発現をバイオマーカーとして用いることで、治療効果を最大化できる患者集団を特定できる可能性を示唆するものであった Herbst et al. Nature 2014。
当時、ニボルマブに関するCheckMate 017試験 Brahmer et al. NEnglJMed 2015 およびCheckMate 057試験 Borghaei et al. NEnglJMed 2015 が発表され、既治療NSCLCにおけるPD-1阻害薬の有効性が示され始めていたが、これらの研究はそれぞれ扁平上皮癌と非扁平上皮癌に限定されており、またPD-L1発現による患者選択は行われていなかった。そのため、PD-L1発現を事前に評価し、その発現レベルに基づいて患者を選択する無作為化比較試験のデータは不足しており、ペムブロリズマブの有効性と安全性を、PD-L1陽性患者集団において標準治療であるドセタキセルと比較し、PD-L1発現レベルに応じた効果の差異を検証することが喫緊の課題であった。特に、PD-L1発現が1%以上の患者集団全体、および50%以上の高発現患者集団におけるペムブロリズマブのベネフィットを明確にすることが求められていた。PD-L1発現をバイオマーカーとして前向きに評価する無作為化比較試験は未解明な点が多かった。
目的
本研究 (KEYNOTE-010) は、プラチナ製剤を含む化学療法後に病勢進行したPD-L1腫瘍細胞割合スコア (TPS) が1%以上の進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、ペムブロリズマブ2mg/kgまたは10mg/kgを3週間ごとに投与する群と、標準治療であるドセタキセル75mg/m²を3週間ごとに投与する群の有効性および安全性を比較することを目的とした。共主要評価項目は、全患者集団 (PD-L1 TPS≥1%) およびPD-L1 TPSが50%以上の患者集団における全生存期間 (OS) と無増悪生存期間 (PFS) であった。副次評価項目として、客観的奏効率 (ORR)、奏効持続期間 (DOR)、および安全性を評価した。特に、PD-L1高発現 (TPS≥50%) 患者におけるペムブロリズマブのより大きな臨床的利益の有無を検証することも重要な目的であった。本試験は、PD-L1発現をバイオマーカーとして用いることの有用性を前向きに評価する初の無作為化比較試験として位置づけられた。
結果
2013年8月28日から2015年2月27日までに2699例の患者がスクリーニングされ、PD-L1発現が評価可能であった2222例のうち、1475例 (66%) がPD-L1 TPS≥1%であり、そのうち633例 (28%) がPD-L1 TPS≥50%であった。最終的に1034例の患者が本試験に登録され、ペムブロリズマブ2mg/kg群に345例、10mg/kg群に346例、ドセタキセル群に343例が割り付けられた (Figure 1)。データカットオフ日である2015年9月30日時点での追跡期間中央値は13.1ヶ月 (IQR 8.6-17.7) であった。ベースライン特性は各群間でバランスが取れていた (Table 1)。
全生存期間 (OS) - PD-L1高発現集団 (TPS≥50%): PD-L1 TPSが50%以上の高発現患者集団では、ペムブロリズマブのOS延長効果はさらに顕著であった。ペムブロリズマブ2mg/kg群のmOSは14.9ヶ月 (95% CI 10.4-未到達) であり、ドセタキセル群のmOS 8.2ヶ月 (95% CI 6.4-10.7) と比較してHRは0.54 (95% CI 0.38-0.77, p=0.0002) であった。ペムブロリズマブ10mg/kg群のmOSは17.3ヶ月 (95% CI 11.8-未到達) であり、ドセタキセル群と比較してHRは0.50 (95% CI 0.36-0.70, p<0.0001) であった。この高発現集団においても、両用量ともにドセタキセルに対して統計学的に有意なOSの優越性を示した (Figure 2A)。ペムブロリズマブの2用量間ではOSに有意な差は認められなかった (HR 1.12, 95% CI 0.77-1.62)。
全生存期間 (OS) - 全PD-L1陽性集団 (TPS≥1%): 全PD-L1陽性集団において、ペムブロリズマブはドセタキセルと比較して有意なOS延長を示した。ペムブロリズマブ2mg/kg群のOS中央値 (mOS) は10.4ヶ月 (95% CI 9.4-11.9) であり、ドセタキセル群のmOS 8.5ヶ月 (95% CI 7.5-9.8) と比較してハザード比 (HR) は0.71 (95% CI 0.58-0.88, p=0.0008) であった。ペムブロリズマブ10mg/kg群のmOSは12.7ヶ月 (95% CI 10.0-17.3) であり、ドセタキセル群と比較してHRは0.61 (95% CI 0.49-0.75, p<0.0001) であった。両用量ともに統計学的に有意なOSの優越性が示された。1年OS率は、ペムブロリズマブ2mg/kg群で43.2%、10mg/kg群で52.3%、ドセタキセル群で34.6%であった (Figure 2B)。ペムブロリズマブの2用量間ではOSに有意な差は認められなかった (HR 1.17, 95% CI 0.94-1.45)。
無増悪生存期間 (PFS) - PD-L1高発現集団 (TPS≥50%): PD-L1 TPSが50%以上の高発現患者集団では、ペムブロリズマブはドセタキセルと比較して有意なPFS延長を示した。ペムブロリズマブ2mg/kg群のmPFSは5.0ヶ月 (95% CI 4.0-6.5)、10mg/kg群のmPFSは5.2ヶ月 (95% CI 4.1-8.1) であり、ドセタキセル群のmPFS 4.1ヶ月 (95% CI 3.6-4.3) と比較して、それぞれHR 0.59 (95% CI 0.44-0.78, p=0.0001) およびHR 0.59 (95% CI 0.45-0.78, p<0.0001) であった。この集団では、両用量ともに統計学的に有意なPFSの改善が認められた (Figure 4A)。
無増悪生存期間 (PFS) - 全PD-L1陽性集団 (TPS≥1%): 全PD-L1陽性集団におけるPFS中央値 (mPFS) は、ペムブロリズマブ2mg/kg群で3.9ヶ月 (95% CI 3.1-4.1)、10mg/kg群で4.0ヶ月 (95% CI 2.7-4.3)、ドセタキセル群で4.0ヶ月 (95% CI 3.1-4.2) であった。ペムブロリズマブ2mg/kg群とドセタキセル群の比較では、HRは0.88 (95% CI 0.74-1.05, p=0.07) であり、事前に規定された統計学的有意基準を満たさなかった。ペムブロリズマブ10mg/kg群とドセタキセル群の比較では、HRは0.79 (95% CI 0.66-0.94, p=0.004) であり、統計学的有意基準を満たした。PFSにおける利益はOSと比較して小さかった (Figure 4B)。
客観的奏効率 (ORR) および奏効持続期間 (DOR): 全PD-L1陽性集団におけるORRは、ペムブロリズマブ2mg/kg群で18% (n=62/344)、10mg/kg群で18% (n=64/346) であり、ドセタキセル群の9% (n=32/343) と比較して有意に高かった (p=0.0005 for 2mg/kg vs docetaxel, p=0.0002 for 10mg/kg vs docetaxel)。 PD-L1 TPSが50%以上の高発現集団では、ORRはペムブロリズマブ2mg/kg群で30% (n=42/139)、10mg/kg群で29% (n=44/151) であり、ドセタキセル群の8% (n=12/152) と比較して3倍以上の奏効率を示した (p<0.0001 for each pembrolizumab group vs docetaxel)。 奏効持続期間 (DOR) 中央値は、PD-L1 TPS≥50%集団において、ペムブロリズマブ両群で未到達であり、ドセタキセル群の8ヶ月と比較して著しく長かった。全PD-L1陽性集団では、ドセタキセル群のDOR中央値は6ヶ月であった。
安全性プロファイル: 治療関連有害事象 (TRAE) の発生率は、ペムブロリズマブ群でドセタキセル群と比較して著明に低かった。Grade 3-5のTRAEは、ペムブロリズマブ2mg/kg群で13% (n=43/339)、10mg/kg群で16% (n=55/343) であったのに対し、ドセタキセル群では35% (n=109/309) であった (Table 2)。治療関連有害事象による治療中止は、ペムブロリズマブ2mg/kg群で4% (n=15/339)、10mg/kg群で5% (n=17/343)、ドセタキセル群で10% (n=31/309) であった。治療関連死は、ペムブロリズマブ2mg/kg群で3例 (肺炎2例、肺炎1例)、10mg/kg群で3例 (心筋梗塞1例、肺炎1例、肺炎1例)、ドセタキセル群で5例 (急性心不全1例、脱水1例、発熱性好中球減少症1例、間質性肺疾患1例、呼吸器感染症1例) 報告された。免疫関連有害事象 (irAE) は、ペムブロリズマブ2mg/kg群で20% (n=69/339)、10mg/kg群で19% (n=64/343) に発生し、最も一般的なものは甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、肺炎であった。Grade 3-5のirAEでは、肺炎と重度の皮膚反応が1%以上の患者で認められた。
考察/結論
KEYNOTE-010試験は、既治療のPD-L1陽性 (TPS≥1%) 進行非小細胞肺癌患者において、ペムブロリズマブがドセタキセルと比較して全生存期間 (OS) を有意に延長し、良好なベネフィット・リスクプロファイルを持つことを明確に示した。特に、PD-L1 TPSが50%以上の高発現患者では、ペムブロリズマブのOS延長効果がより顕著であり、ドセタキセルに対するハザード比 (HR) は0.50〜0.54と、これまでの治療では見られなかった水準の有効性を実証した。
先行研究との違い: 本研究は、PD-L1発現をバイオマーカーとして前向きに患者を選択した初の無作為化比較試験であり、この点がニボルマブのCheckMate 017およびCheckMate 057試験 Borghaei et al. NEnglJMed 2015 とは異なる。また、本試験では扁平上皮癌と非扁平上皮癌の両組織型を含む患者が登録されており、組織型を問わないペムブロリズマブの有効性が示唆された。さらに、本試験の患者の約3分の1が2ライン以上の前治療を受けており、CheckMate試験が1ラインの前治療に限定されていたことと対照的である。
新規性: 本研究で初めて、既治療PD-L1陽性NSCLC患者におけるペムブロリズマブのOS優越性が、PD-L1発現レベルに応じて異なることが示された。特に、PD-L1 TPS≥50%の患者におけるペムブロリズマブの奏効持続期間中央値が未到達であるという結果は、これまでに報告されていない持続的な抗腫瘍効果を示すものであり、新規性が高い。また、PD-L1発現がペムブロリズマブの治療効果を予測するバイオマーカーとして有用であることを前向きに検証した点も本研究の新規性である。
臨床応用: 本知見は、既治療PD-L1陽性進行NSCLC患者に対するペムブロリズマブの臨床応用を強力に支持するものである。特に、PD-L1 TPS≥50%の患者では、ペムブロリズマブがドセタキセルと比較してOSを約2倍に延長する可能性を示しており、この患者集団におけるペムブロリズマブの標準治療としての位置づけを確立した。本試験の結果は、2015年10月の米国FDAによるペムブロリズマブの加速承認、そして2016年10月の正規承認の基礎となり、臨床現場における治療選択肢を大きく広げた。ペムブロリズマブの2用量 (2mg/kgと10mg/kg) で同様の有効性と安全性が示されたことは、後の固定用量 (200mg) 採用を支持する重要なデータとなった。
残された課題: 今後の検討課題として、PD-L1発現が1%未満の患者におけるペムブロリズマブの有効性については本試験では評価できなかったため、さらなる研究が必要である。また、PFSがOSほど顕著な改善を示さなかった点は、免疫チェックポイント阻害薬に特徴的な「擬似進行」や遅発性奏効のパターンを反映している可能性があり、PFSが免疫療法の真のベネフィットを適切に捉えきれていない可能性が示唆される。治療の最適な期間についても、さらなる検討が残されている。さらに、腫瘍の不均一性や免疫微小環境の動的な変化によりPD-L1発現のみでは患者選択が限定される可能性があり、他のチェックポイント分子、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL)、変異負荷 Rizvi et al. Science 2015、血液バイオマーカー、炎症性遺伝子シグネチャーなどの探索も今後の研究課題である。
方法
本研究は、国際多施設共同、無作為化、オープンラベル、第2/3相臨床試験 (KEYNOTE-010、ClinicalTrials.gov登録番号: NCT01905657) として実施された。2013年8月28日から2015年2月27日の期間に、24カ国の202施設で患者が登録された。
患者選択: 対象患者は18歳以上で、プラチナ製剤を含む化学療法を2サイクル以上受けた後に病勢進行した進行NSCLC患者、またはEGFR感受性変異やALK転座を有する場合は適切なチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) 治療後に病勢進行した患者であった。主要な選択基準として、腫瘍細胞のPD-L1発現が1%以上 (PD-L1 TPS≥1%) であることがDako社の22C3抗体を用いた免疫組織化学 (IHC) アッセイにより中央検査室で確認された。ECOGパフォーマンスステータスは0または1とされた。主要な除外基準は、PD-1チェックポイント阻害薬またはドセタキセルによる既往治療、活動性脳転移または癌性髄膜炎、全身性ステロイドを必要とする活動性自己免疫疾患、間質性肺疾患またはステロイドを必要とする肺炎の既往であった。
無作為化と盲検化: 患者はペムブロリズマブ2mg/kg群、ペムブロリズマブ10mg/kg群、またはドセタキセル75mg/m²群に1:1:1の比率で無作為に割り付けられた。無作為化は、ECOGパフォーマンスステータス (0 vs 1) および地域 (東アジア vs 東アジア以外) で層別化された。441例の患者が割り付けられた後、PD-L1 TPSが50%以上か1-49%かというPD-L1発現レベルが3つ目の層別化因子として追加された。本試験はオープンラベルで実施されたため、患者、担当医師、および外部データモニタリング委員会は治療割り付けに対して盲検化されなかった。
治療プロトコル: ペムブロリズマブは2mg/kgまたは10mg/kgを3週間ごとに30分かけて静脈内投与された。ドセタキセルは75mg/m²を3週間ごとに1時間かけて静脈内投与された。治療は病勢進行、許容できない毒性、医師の判断、患者の同意撤回、またはその他の理由により中止されるまで、最大24ヶ月間継続された。ドセタキセル群の患者はプロトコル上、ペムブロリズマブへのクロスオーバーは許可されなかった。
評価項目: 共主要評価項目は、全患者集団 (PD-L1 TPS≥1%) およびPD-L1 TPSが50%以上の患者集団におけるOSとPFSであった。OSは無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。PFSは無作為化から放射線学的に確認された病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目は安全性、客観的奏効率 (ORR、RECIST version 1.1に基づく完全奏効または部分奏効の割合) Eisenhauer et al. EurJCancer 2009、および奏効持続期間 (DOR) であった。放射線学的評価は9週間ごとに実施され、効果判定は独立中央判定委員会によりRECIST version 1.1に基づいて行われた。有害事象はNCI-CTCAE version 4.0に従って評価された。
統計解析: 統計解析はSAS (version 9.3) を用いて実施された。OS、PFS、DORの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられた。治療群間のOSおよびPFSの差の評価には層別ログランク検定が用いられ、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は層別Cox比例ハザードモデルを用いて算出された。ORRの比較にはMiettinen and Nurminen法が用いられた。多重比較の問題に対処するため、OS解析には片側p値0.00825、PFS解析には片側p値0.001の有意水準が設定された。最終解析は、PD-L1 TPSが50%以上の患者集団で約200件の死亡イベントが発生した時点で計画された。