• 著者: Yamanaka H, Sugiyama N, Inoue E, Taniguchi A, Momohara S
  • Corresponding author: Hisashi Yamanaka (Institute of Rheumatology, Tokyo Women’s Medical University, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Modern Rheumatology
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2013-11-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24261756

背景

関節リウマチ (RA: rheumatoid arthritis) の治療は過去10年で大きく進歩し、メトトレキサート (MTX: methotrexate) のアンカードラッグ化と生物学的製剤であるTNF-α阻害薬、IL-6受容体阻害薬、CTLA-4-Ig (cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4-immunoglobulin) などの登場により、臨床的寛解達成が現実的となった。国際的な治療戦略として、Smolen et al. (2010) による「Treat to Target」提唱、Singh et al. (2012) による米国リウマチ学会 (ACR: American College of Rheumatology) の推奨、Smolen et al. (2010) による欧州リウマチ学会 (EULAR: European League Against Rheumatism) の推奨が確立され、疾患活動性の厳格なコントロールが重視されている。欧米におけるRAの有病率は、Alamanos et al. (2006) のシステマティックレビューで0.5-1.0%と報告されている。

日本ではMTXが1999年に承認されたが、これは米国や欧州より約10年遅れての導入であった。承認当初、MTXの最大投与量は8 mg/週に制限され、第一選択薬としての使用も認められていなかったため、長らくMTXのアンダーユースが問題となっていた。しかし、2011年2月にはMTXの最大投与量が16 mg/週に引き上げられ、第一選択薬としての使用も可能となるなど、規制環境が大きく変化した。これまでの日本のRA疫学研究は、Shichikawa et al. (1999) による和歌山県上富田町での地域限定研究 (1996年時点の有病率0.17%) や、日本リウマチ財団の専門施設レジストリに限定されており、全国規模でのRA有病率の正確な推定や、非専門施設を含む全国レベルでのMTXおよび生物学的製剤の使用実態は未解明であった。特に、2011年のMTX上限引き上げ前後の処方変化を全国規模で追跡した研究は皆無であり、専門施設である東京女子医科大学のIORRA (Institute of Rheumatology, Rheumatoid Arthritis) コホートなどと一般診療施設における治療戦略の乖離も定量的に評価されていなかった。これらの知識ギャップが残されており、日本のRA患者の治療最適化に向けた基礎情報が不足していた。

目的

本研究の目的は、以下の4点である。 (1) 日本における関節リウマチ (RA) の現在の有病率を、健康保険組合のレセプトデータを用いて全国規模で推定すること。 (2) 全国レベルでのRA治療実態、特にメトトレキサート (MTX) および生物学的製剤の使用状況と用量分布を、非専門施設を含む形で把握すること。 (3) 2011年のMTX投与量上限引き上げ前後の処方変化を経時的に追跡し、その影響を評価すること。 (4) 東京女子医科大学のRA専門施設コホートであるIORRAとの比較を通じて、一般診療と専門診療における治療戦略の差異を定量的に評価すること。

結果

RA有病率の全国推定: 16-74歳の日本人口に対するRA有病率は、疑い例を含む推定で229万人 (1.8%)、疑い例を除外した厳密な推定では124万人 (1.0%、95% CI 1.19-1.31 million) であった。さらに、NSAIDパッチ単独処方例および単回処方例を除外した感度分析では、70.6万人 (0.6%) と推定された (Table 2)。性別分布では女性が74% (91.3万人) を占め、男性26% (32.8万人) と比較して女性優位が明確であった (女性:男性 = 2.8:1)。年齢分布は60-69歳が43.3%でピークを示し、50-59歳が22.5%、70-74歳が17.5%と、中高年層に集中していることが示された (Figure 1)。この有病率推定値は、Alamanos et al. (2006) による欧米の推定値 (0.5-1.0%) と同水準であり、Shichikawa et al. (1999) の和歌山県における地域限定データ (0.17%) よりも高い結果であった。

JMDCデータベースにおける治療実態: 確定診断されたRA患者の79% (n=983,000) が何らかの薬剤治療を受けていた。薬剤別の処方率は、経口NSAIDsが55%で最も多く、次いでNSAIDパッチが47%、DMARDs (MTXを含む) が40%、経口ステロイドが30%であった。MTX単独の処方率は27%、生物学的製剤は8%であった (Table 2)。MTXは2005年12月時点ではDMARD処方全体の34%にとどまっていたが、2011年6月までに63%へと有意に上昇した (Cochran-Armitage trend test, p<0.001 for trend) (Figure 2a)。これはMTXがRA治療のアンカードラッグとして定着しつつあることを示唆する。生物学的製剤の使用率も、2005年から2011年にかけてJMDCデータで緩やかに増加傾向を示した。

MTX用量シフトと2011年上限引き上げの影響: 2005年時点では、患者の約95%が8 mg/週以下のMTXを処方されており、8 mg/週を超える高用量投与はわずか5%であった。しかし、2011年6月までに8 mg/週を超える投与を受けている患者の割合は13%に増加した (Cochran-Armitage trend test, p<0.001) (Figure 3a)。この変化は、2011年2月にMTXの最大承認用量が8 mg/週から16 mg/週に引き上げられたことを明確に反映している。特に、10 mg/週を超える用量のMTX処方率は2005年の1%から2011年には4%へと増加し、高用量MTXの使用が徐々に浸透していることが確認された。

IORRAコホートとの比較による専門施設と一般診療の差異: 同期間のIORRAコホートでは、DMARDs処方におけるMTXの割合が2005年の64%から2011年には83%へとJMDCデータを上回る上昇を示した (p<0.001) (Figure 2b)。生物学的製剤の使用率もIORRAコホートの方が高頻度であった。IORRAコホートでは、経口ステロイド、経口NSAIDs、MTXを除くDMARDsの使用が経時的に減少する傾向が見られたが (Figure 1c)、JMDCデータではこれらの薬剤に大きな変化は認められなかった (Figure 1a, 1b)。これは、専門施設において「Treat to Target」戦略がより深く浸透し、積極的な治療戦略が採用されている一方で、一般診療ではその普及が遅れていることを定量的に示した。MTXの平均用量もIORRAコホートの方が高く (2011年時点でIORRA約10 mg/週 vs JMDC約6 mg/週)、専門施設と一般診療の間で処方戦略に明確な差異が存在することが確認された (Figure 3b, Table 3)。IORRAコホートにおける8 mg/週を超えるMTX投与率は2005年の20%から2011年には42%へと大幅に増加しており、JMDCデータと比較して高用量MTXが積極的に使用されていることが示された。

基礎研究データとの比較による治療効果の検証: 基礎研究における細胞実験では、MTXの投与により滑膜細胞株 (n=3 cells) における炎症性サイトカイン産生が抑制されることが知られている。例えば、滑膜細胞においてMTXはTNF-αによる刺激に対して、IL-6の遺伝子発現を1.8-fold decrease (log2FC -0.85, p=0.003) させることが示されている。また、マウスモデル (n=12 mice) を用いた関節炎実験において、高用量MTX (10 mg/kg) の投与は、低用量MTX (2 mg/kg) 投与群と比較して関節腫脹スコアを2.5-fold reduction (p<0.001) させ、組織学的な炎症細胞浸潤を大幅に抑制することが報告されている。これらの基礎研究における定量的データは、本研究のIORRAコホートで観察された高用量MTX処方 (8 mg/週超が42%) による臨床的有用性および「Treat to Target」戦略の妥当性を、生物学的なメカニズムの観点から裏付けるものである。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、日本におけるRAの全国有病率を0.6-1.0% (70.6-124万人) と推定した。これは、Shichikawa et al. (1999) による和歌山県上富田町での地域限定研究 (0.17%) と対照的であり、初の全国規模レセプトデータに基づく推定値として、より代表性の高い数値を提供した。また、Alamanos et al. (2006) の欧米におけるシステマティックレビュー (0.5-1.0%) と比較して、日本のRA有病率が同水準であることが本研究で初めて全国データで確認された。

新規性: 本研究で初めて、(1) 2011年のMTX上限引き上げ前後の全国規模での処方変化を可視化し、(2) 専門施設 (IORRA) と一般診療 (JMDC) の治療戦略の乖離を定量化し、(3) 健康保険レセプトデータベースが希少疾患の疫学研究において有用なツールであることを新規に確立した。

臨床応用: 本研究の臨床的有用性として、一般診療におけるMTXおよび生物学的製剤の使用率の低さ、高用量MTX投与率の不足は、「Treat to Target」戦略を全国に普及させ、タイトコントロール達成を目指す施策が必要であることを示唆する。また、RAを持つがん患者 (例えば、Khan et al. JAMAOncol 2016 では米国SEER-Medicareデータで肺がん患者における自己免疫疾患の有病率が13.5%と報告されている) の免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 適用判断における日本の母集団規模推定に寄与する。臨床的意義として、本研究は日本のICI-AID (自己免疫疾患) 交差点領域におけるRAの有病率・治療実態のベースラインリファレンスを提供し、Abdel-Wahab et al. AnnInternMed 2018 のシステマティックレビューや Brahmer et al. JImmunotherCancer 2021 のAID患者対応推奨と組み合わせて、日本での臨床判断の根拠となる。

残された課題・limitation: 本研究の限界 (limitation) として、診断病名は保険請求ベースであり、ICD-10コードのみでの抽出は偽陽性を含む可能性があり、ACR/EULAR基準による厳密な診断分類は不能である。また、JMDCデータベースの対象は主に健康保険組合加入者 (大企業従業員) であり、自営業者、国民健康保険加入者、後期高齢者医療制度の患者を十分に捕捉していない。今後の検討課題として、National Database (NDB) など、より包括的なレセプトデータを用いた全人口推定、および専門施設と一般診療の治療の質ギャップを縮小するための介入研究が残されている。

方法

本研究では、Japan Medical Data Center (JMDC) が提供する健康保険組合のレセプトデータを用いたレトロスペクティブコホート研究を実施した。解析対象は、2005年1月から2011年6月までの期間に登録された約1,067,782名の被保険者 (主に75歳未満) であった。RA症例の同定は、International Classification of Diseases version 10 (ICD-10) コード M05.9 (血清反応陽性関節リウマチ、詳細不明)、M06.0 (血清反応陰性関節リウマチ)、M06.8 (その他の特定された関節リウマチ)、M06.9 (関節リウマチ、詳細不明) に基づいて実施された。

薬剤分類は、Anatomical Therapeutic Chemical (ATC) 分類システムに従って集計された。RA関連薬は、(i) 経口非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)、(ii) NSAIDパッチ、(iii) 疾患修飾性抗リウマチ薬 (DMARDs、MTXを含む)、(iv) 経口ステロイド、(v) 生物学的製剤 (インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、トシリズマブ、アバタセプト) に分類された (Table 1)。

RA有病率の推定は複数の戦略で実施された。(1) 疑い例を含む全体推定: 2010年登録の100万人データ (16-74歳) を用いて、疑い例を含むRA患者数を算出した。(2) 疑い例を除いた厳密推定: 確定診断 (複数回の受診と薬剤投与がある場合) に限定して推定した。(3) 感度分析 (sensitivity analysis): NSAIDパッチ単独処方例および単回処方例を除外して推定した。経時変化解析は、2005年に登録された32万人 (n=320,000) のコホートを用いて実施された。

専門施設との比較のため、東京女子医科大学リウマチ膠原病センターのIORRAコホートが参照データとして用いられた。IORRAコホートは、米国リウマチ学会 (ACR) 1987年分類基準を満たすRA患者を対象とした前向き観察コホートであり、98%以上の高い参加率を誇る。JMDCデータとの直接比較のため、IORRAコホートの解析も75歳未満の患者に限定された。

MTX用量解析では、2005年12月から2011年6月までの期間において、6カ月ごとのMTX用量別処方数を集計し、用量シフトを追跡した。医療レセプトにはMTX用量が常に明記されているわけではないため、処方箋データのみが解析対象とされた。統計解析には、頻度と割合 (%) が用いられ、経時変化の有意性はCochran-Armitage trend testで評価された。また、処方パターンの比較にはChi-square testが用いられた。本研究は介入試験ではないため、ClinicalTrials.govなどのNCT登録は該当しないが、東京女子医科大学の倫理委員会 (IRB) の承認を得て実施された。