- 著者: Nahlah Abdel-Wahab, Mehmet Ali Shah, Faisal Khoja, Ahmed Elhamri, Maria E Suarez-Almazor
- Corresponding author: Maria E Suarez-Almazor (Section of Rheumatology and Clinical Immunology, Department of General Internal Medicine, The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
- 雑誌: Annals of Internal Medicine
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-11-07
- Article種別: Review
- PMID: 30014109
背景
がん免疫療法における免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitor: ICI) は、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体を中心に、進行がん治療のパラダイムシフトをもたらした。しかし、ICIの活性化に伴う免疫関連有害事象 (immune-related adverse event: irAE) は高頻度で発生し、全身の多臓器に炎症性病変を引き起こすことが知られている。既存の自己免疫疾患 (autoimmune disease: AID) を有するがん患者は、ICI投与によって潜在的な自己免疫反応が暴走し、重篤な既存疾患の再燃 (フレア) や致死的な新規irAEを誘発する懸念があった。このため、主要な臨床試験では、既存AID合併患者は一貫して除外対象とされてきた。
実臨床において、がん患者における既存AIDの合併率は決して低くなく、例えば肺がん患者の約13.5%に何らかの自己免疫疾患が併存しているとの報告 (Khan et al. JAMAOncol 2016) もあり、治療選択における極めて重要な課題となっている。しかし、既存AID合併患者に対するICI投与の安全性に関するエビデンスは、これまで極めて限定的であった。
先行研究における最大の課題として、以下の4つの知識ギャップ (knowledge gap) が存在していた。第一に、既存AID患者へのICI使用に関するエビデンスが、単一のがん種や特定のICI製剤に限定された小規模な後方視的解析にとどまっており、がん種横断的かつICIクラス横断的な統合評価がなされていなかった。第二に、既存疾患の再燃 (フレア) と、de novo (新規) に生じる新規irAEの発生率が明確に区別されておらず、その定量的な評価が不十分であった。第三に、関節リウマチ、炎症性腸疾患 (inflammatory bowel disease: IBD)、乾癬、甲状腺疾患、多発性硬化症 (multiple sclerosis: MS) など、AIDの疾患種類別におけるフレアリスクの差異が未解明であった。第四に、有害事象発生時のステロイドや追加の免疫抑制薬を用いた管理プロトコールと、治療継続の可否に関する系統的な整理が不足していた。このように、実臨床で直面する重要な課題であるにもかかわらず、既存AID合併患者におけるICIの安全性プロファイルは未解明であり、治療指針を策定するための包括的なデータが決定的に不足していた。
本系統的レビューは、これらの深刻な情報不足を解消し、既存AID合併患者におけるICI治療の安全性と管理可能性を包括的に評価するために実施された。
目的
本研究の目的は、既存の自己免疫疾患 (AID) を合併するがん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 療法の安全性、管理方法、治療継続率、および抗腫瘍効果に関する既存のエビデンスを系統的レビュー (systematic review) により集積・統合することである。
具体的には、既存AIDの再燃 (フレア) 発生率、新規の de novo irAE発生率、Grade 3以上の重篤な有害事象発生率を定量的に評価する。さらに、ICI開始時におけるAIDの活動性 (Active vs. Inactive) や、先行する免疫抑制療法の有無が有害事象発生率に与える影響を明らかにし、有害事象発生時のステロイドおよび追加免疫抑制薬による管理状況と転帰を系統的に整理することで、実臨床における意思決定を支援する包括的なデータを提供することを目的とする。
結果
既存自己免疫疾患合併患者の背景特性: 文献検索により同定された 7,157 報の候補から、最終的に 49 報の文献 (症例報告 39 報、症例シリーズ 4 報、後方視的観察研究 6 報) が選択基準を満たし、計 123 例の患者データが統合解析の対象となった (Figure 1)。患者の年齢中央値は 61.4 歳 (範囲: 26-87 歳) であり、男性が 57.1% (n=68)、女性が 42.9% (n=51) であった。がん種の内訳は、転移性メラノーマが 83.7% (n=103) と大半を占め、次いで肺がんが 13.0% (n=16)、腎細胞がんが 2.4% (n=3)、メルケル細胞がんが 0.8% (n=1) であった。合併していた既存AIDは多岐にわたり、乾癬および/または乾癬性関節炎が 22.8% (n=28)、関節リウマチ (RA) が 16.3% (n=20)、自己免疫性甲状腺疾患が 8.9% (n=11)、潰瘍性大腸炎が 6.5% (n=8)、クローン病が 4.1% (n=5)、多発性硬化症 (MS) が 4.9% (n=6)、サルコイドーシスが 4.1% (n=5)、重症筋無力症 (MG) が 3.3% (n=4) などであった。既存AIDの診断からICI開始までの期間は 1.5 か月から 60 年の範囲であった。ICI開始時、46.2% (49/106例) が活動性 (Active) の既存AIDを有しており、43.6% (44/101例) が既存AIDに対する治療を受けていた。治療内容としては、全身性コルチコステロイドが 29.1% (30/103例)、従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬 (sDMARDs) が 34.0% (35/103例)、生物学的製剤 (bDMARDs) が 6.8% (7/103例) であった。使用されたICIは、抗PD-1抗体 (nivolumab、pembrolizumab) が 52.0% (n=64)、抗CTLA-4抗体 (ipilimumab) が 44.7% (n=55)、抗PD-L1抗体 (atezolizumab) が 0.8% (n=1)、両者の併用療法が 2.4% (n=3) であった (Table 1)。
既存AID合併患者における高い有害事象発生率: 解析対象となった 123 例のうち、75% (92/123例) という極めて高い割合で何らかの有害事象 (既存AIDの再燃、新規の de novo irAE、またはその両方) が発生した (Table 2)。内訳として、既存AIDの再燃 (フレア) のみが 41% (50/123例) であり、新規 de novo irAE のみが 25% (31/123例) であり、両方の同時発生が 9% (11/123例) であった。全体として、既存AIDの再燃を経験した割合は 50% (61/123例) であり、新規 de novo irAE を経験した割合は 34% (42/123例) であった。一方で、25% (31/123例) の患者においては、ICI治療中に一切の有害事象やフレアが発生しなかった (Table 2)。
既存AIDの活動性および先行治療の有無による影響: ICI開始時における既存AIDの活動性別解析では、活動期 (Active) の患者における有害事象発生率は 67% (33/49例) であったのに対し、非活動期/安定期 (Inactive/Stable) の患者では 75% (43/57例) であり、ベースラインの疾患活動性による有害事象発生率の有意な上昇は認められなかった (Table 3)。一方で、ICI開始時に既存AIDに対する何らかの治療を受けていた患者における有害事象発生率は 59% (26/44例) であり、治療を受けていなかった患者の 83% (47/57例) と比較して低い傾向がみられた。さらに、免疫抑制療法 (ステロイド、sDMARDs、bDMARDsなど) を受けていた患者における有害事象発生率は 67% (18/27例) であり、受けていなかった患者の 74% (55/74例) と比較して、有害事象の発生が抑制される傾向が示された (Table 3)。
ICIクラス別の有害事象プロファイルの差異: 使用されたICIのクラスによって、発生する有害事象のプロファイルに明確な差異が認められた。既存AIDのフレア発生率は、抗PD-1/PD-L1抗体投与群で 62% (40/65例) であったのに対し、抗CTLA-4抗体 (ipilimumab) 投与群では 36% (20/55例) と有意に低かった。これとは対照的に、新規の de novo irAE 発生率は、抗CTLA-4抗体投与群で 42% (23/55例) であったのに対し、抗PD-1/PD-L1抗体投与群では 26% (17/65例) にとどまった。フレア発生までの期間中央値は、抗PD-1/PD-L1抗体群で 5.1 週間 (範囲: 1.4-20 週間) であったのに対し、de novo irAE 発生までの期間中央値は、抗CTLA-4抗体群で 6 週間 (範囲: 3-9 週間) であった (Table 3)。
疾患特異的な再燃リスクと重症度: 乾癬および乾癬性関節炎 (n=28) では 89% (25/28例) に有害事象が発生し、既存の皮膚プラークの再燃・悪化が 64% (18/28例) に認められた。関節リウマチ (n=20) では 75% (15/20例) に有害事象が発生し、関節炎のフレアが 35% (7/20例) に認められ、フレア管理のために 87% (13/15例) でステロイド投与を要した。炎症性腸疾患 (n=13) では 62% (8/13例) に有害事象が発生し、39% (5/13例) で既存の腸炎症状の増悪が認められた。潰瘍性大腸炎の1例において、ipilimumab投与後に生命を脅かす腸管穿孔が発生した。また、活動性潰瘍性大腸炎の患者において、ipilimumab投与後に大腸炎フレアと de novo の中毒性表皮壊死症 (TEN) を併発し、敗血症により死亡した症例が1例存在した (Table 2)。多発性硬化症 (n=6) では 33% (2/6例) に有害事象が発生し、1例は glatiramer acetate による維持療法中に ipilimumab 投与を受け、投与後 1 か月および 6 か月時点で2回の臨床的再発を経験した。重症筋無力症 (n=4) では全例 (4/4例) で有害事象が発生し、3例で筋無力症状の重篤な増悪が認められたが、ステロイド、免疫グロブリン製剤、血漿交換、および rituximab により改善した。腎移植歴があり、IgA腎症 (n=1)、IgM腎症 (n=1)、1型糖尿病 (n=1) を有する3例において、抗PD-1抗体投与後に急性腎移植拒絶反応が誘発された。発生時期は投与開始後中央値 8 日 (範囲: 7-21 日) であり、高用量ステロイド治療が行われたが、全例で血液透析への移行を余儀なくされた。
有害事象の管理状況と抗腫瘍効果: 発生した有害事象の管理において、62% の症例で高用量コルチコステロイドの全身投与が必要とされ、16% の症例ではステロイド抵抗性のため、追加の免疫抑制薬 (infliximab、adalimumab、methotrexate、azathioprine、tocilizumab、vedolizumab など) の投与を要した。しかし、適切な管理により、有害事象が発生した症例の 90% で症状の改善または回復が得られた。有害事象を理由に ICI 治療を永久中止せざるを得なかった割合は、全体で 17.1% (21/123例) にとどまった。有害事象に関連した死亡は 2.4% (3/123例) で報告された (ipilimumab による大腸炎悪化 1 例、pembrolizumab 投与後の原因不明死 1 例、および ipilimumab 投与後の大腸炎フレアと TEN 併発による敗血症死 1 例)。抗腫瘍効果の解析では、有害事象を経験した患者における客観的奏効率 (ORR) は 50.0% (25/50例) であったのに対し、有害事象を経験しなかった患者における ORR は 35.7% (5/14例) であり、有害事象の発生が良好な抗腫瘍効果と相関する傾向が示された (Table 4)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、既存の自己免疫疾患 (AID) を有したがん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 投与の安全性データを、世界で初めて包括的に統合した系統的レビューである。本研究は、単一のがん種や特定のICI製剤の後方視的解析にとどまっていた先行研究と異なり、メラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞がんなど複数のがん種を網羅し、抗CTLA-4抗体と抗PD-1/PD-L1抗体の両クラスを横断的に比較解析した。特に、既存AIDの再燃 (フレア) と新規の de novo irAEを明確に区別して定量化し、フレア率 50%、de novo irAE率 34% という「二重のリスク構造」を明らかにした点は、これまでの断片的な報告と対照的である。
新規性: 本研究で初めて、ICI開始時における既存AID의活動性 (Active vs. Inactive) が、その後の有害事象発生率に有意な影響を与えないことを新規に示した。さらに、ICI開始時に免疫抑制療法を受けていた患者の方が、受けていなかった患者よりも有害事象の発生率が低い傾向 (59% vs. 83%) にあることを本研究で初めて見出した。これは、既存AIDがコントロール不良であっても、適切な管理下であればICI投与を直ちに断念する必要はないことを示唆する極めて新しい知見である。
臨床応用: 本知見は、既存AID合併患者におけるICI治療の意思決定プロセスに直接的な臨床的有用性をもたらす。既存AIDはICI治療の絶対的禁忌ではなく、綿密なモニタリングと適切な免疫抑制療法の併用により、多くの症例で管理可能であることが実証された。この成果は、Brahmer et al. JImmunotherCancer 2021 などのSITC臨床実践ガイドラインや、Castelo-Branco et al. ESMOOpen 2023 による知識ギャップの整理において、既存AID合併患者へのICI投与推奨基準を策定する際の重要な臨床的意義を持つ基盤データとなった。
残された課題: 本研究の主な limitation として、解析対象が症例報告や小規模な後方視的研究に依存しているため、選択バイアスや出版バイアスが避けられない点が挙げられる。また、前向きの対照試験が存在しないため、正確な発生頻度の算出や、詳細な統計学的検定には限界がある。今後の検討課題として、特定の自己免疫疾患における詳細なリスク階層化、ベースラインの疾患活動性スコアを用いた前向きレジストリによる検証、およびICI投与が既存AID患者の長期生存アウトカムに与える影響の解明が必要である。
方法
文献検索戦略: 本系統的レビューのプロトコールは2016年5月に策定された。検索データベース (search database) として、PubMed、Embase、Web of Science、PubMed ePubs、およびCochrane Central Register of Controlled Trialsを使用し、2017年9月14日までに発表された文献を言語制限なしで網羅的に検索した。検索式には、“immune checkpoint inhibitor”、“ipilimumab”、“nivolumab”、“pembrolizumab”、“atezolizumab”、“autoimmune disease”、“flare”、“rheumatoid arthritis”、“inflammatory bowel disease”、“systemic lupus erythematosus” などのキーワードおよびMeSH用語を組み合わせた。また、採択された文献の参考文献リストを手動で確認するハンドサーチも実施した。
選択基準と除外基準: 選択基準は、(1) 免疫チェックポイント阻害薬 (FDA承認済みの抗CTLA-4、抗PD-1、抗PD-L1抗体) の投与を受けた、既存の自己免疫疾患 (AID) を有するがん患者、(2) 有害事象 (フレア、de novo irAE) または抗腫瘍効果に関する詳細な臨床データが記載されていること、(3) 症例報告 (case report)、症例シリーズ (case series)、または観察研究 (observational study) であること、とした。ICI開始後に初めて自己免疫疾患と診断された症例や、臨床症状を伴わず自己抗体のみが陽性であった症例は除外した。
データ抽出と品質評価: 3名の独立したレビュワーが2段階のアプローチ (タイトル/抄録によるスクリーニング、およびフルテキストの精読) で文献選定を行い、不一致は合意形成により解決した。2名のレビュワーが独立して患者背景 (年齢、性別、がん種)、既存AIDの特性 (疾患名、活動性、ICI開始時の治療内容)、ICIの種類、有害事象の発生状況 (発生時期、CTCAEによる重症度)、管理方法 (ステロイド、免疫抑制薬の使用)、および転帰 (腫瘍奏効率、治療中止、死亡) を抽出した。文献の品質評価には、有害事象報告に関する推奨ガイドラインに基づき、必須とされる12項目を用いて評価を行った。
統計解析: 本研究は系統的レビューであり、対象となった症例レベルのデータを統合し、記述統計学的に要約した。連続変数については中央値および範囲 (range) を、カテゴリ変数については頻度および割合 (%) を算出した。既存AID의活動性 (Active vs. Inactive) や、ICI開始時の免疫抑制療法の有無、および使用したICIのクラス (抗CTLA-4抗体 vs. 抗PD-1/PD-L1抗体) によるサブグループ解析を実施した。統計解析の過程において、特定の2群間比較や生存期間の解析には必要に応じてカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法やログランク (log-rank) 検定、あるいはコックス比例ハザード回帰 (Cox regression) モデルなどの概念を背景とした記述的統合を行った。