- 著者: Joseph T. Roland, Anne K. Kenworthy, Johan Peranen, Steve Caplan, James R. Goldenring
- Corresponding author: James R. Goldenring (Vanderbilt University School of Medicine, Nashville, TN, USA)
- 雑誌: Molecular Biology of the Cell
- 発行年: 2007
- Epub日: 2007-05-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 17507647
背景
真核細胞における膜タンパク質の細胞表面への輸送、内在化、そして再利用(リサイクリング)は、細胞の恒常性維持に不可欠なプロセスである。これらの複雑な時空間的制御には、Rab GTPase (guanosine triphosphatase) ファミリーが中心的な役割を担う。特に、モータータンパク質であるClass V myosin (Myosin Va/Vb/Vc) は、Rab GTPaseと協働して細胞内での小胞輸送を媒介する。先行研究では、Myosin VbがRab11a (Ras-related protein Rab-11A) ファミリーおよびそのアダプターであるRab11-FIP2 (Rab11 family interacting protein 2) と相互作用し、トランスフェリン受容体や各種受容体のリサイクリングに関与することが示されてきた (Lapierre et al. 2001; Hales et al. JBiolChem 2002)。
一方、Rab8a (Ras-related protein Rab-8A) はArf6 (ADP-ribosylation factor 6) 依存的な非クラスリン依存性エンドサイトーシス経路に関与し、EHD1 (Eps-15-homology domain-containing protein 1) 含有管状リサイクリングネットワークへのMHC (major histocompatibility complex) クラスI分子輸送を制御することが報告されている (Hattula et al. 2006; Caplan et al. 2002)。しかし、Myosin VbとRab8aの直接的な相互作用についてはこれまで詳細に検討されておらず、Myosin VbがRab11aとは異なるRab GTPaseと相互作用し、複数の独立したリサイクリング経路を制御する可能性は未解明であった。特に、Rab8aが関与する非クラスリン依存性経路と、Rab11aが関与するクラスリン依存性経路が、同一のモーター分子であるMyosin Vbを共有しうるのか、あるいは完全に独立したメカニズムで機能するのかについては、知識が不足しており、大きなgapが残されていた。この知見の不足が、本研究の動機付けとなった。
目的
本研究の目的は、Myosin VbがRab8aと直接的かつGTP依存的に相互作用するかどうかを、酵母ツーハイブリッドアッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET; fluorescence resonance energy transfer)、免疫蛍光法、および生細胞イメージングを用いて検証することである。さらに、Myosin VbがRab8aとRab11aの両方と相互作用するにもかかわらず、これら2つのRab GTPaseがMyosin Vbを共有しながらも、細胞内で独立したリサイクリング経路を構成していることを明らかにすることを目指す。具体的には、Rab8aとMyosin Vbの共局在性、EHD1およびEHD3 (Eps-15-homology domain-containing protein 3) との関連性、そしてMHCクラスI分子のリサイクリングにおけるMyosin Vbの役割を評価し、Rab8a経路とRab11a経路の機能的区別を確立する。
結果
Rab8aとMyosin Vbの特異的GTP依存性相互作用: 酵母ツーハイブリッドアッセイにより、Myosin Vbテールは野生型Rab8aおよびGTP固定変異体Rab8a-Q67Lと陽性反応を示した(X-Gal変換が4時間以内に青色に変化)(Table 1)。この相互作用はGTP依存性であり、GDP固定変異体Rab8a-T22Nとは相互作用しなかった。また、Myosin VbテールはRab8bとは相互作用せず、Myosin VbとRab8aの相互作用が特異的であることが示された。Myosin VcテールもRab8aおよびRab8a-Q67Lと反応したが、Rab11aファミリー(Rab11a、Rab11b、Rab25)やRab11-FIP2とは反応しなかった。Myosin VaテールはいずれのRabとも反応しなかった。Myosin Vbテールのトランケーション実験から、Rab8a結合にはテール全体の完全な構造が必要であり、Rab11a結合(第一コイル全体が必要)よりも構造的要求が高いことが示唆された。これらの結果は、Myosin VbがRab8aと特異的に相互作用し、その結合様式がRab11aとは異なることを明確に示している。
FRETによるin vivo直接相互作用の定量確認: HeLa細胞におけるアクセプター光退色FRET測定により、Myosin VbテールとRab8a、およびMyosin VbテールとRab11aの直接的な相互作用が定量的に確認された(Figure 4)。mVenus-Rab8a-WTとmCerulean-Myosin VbテールのFRET効率は15.1 ± 1.6%(n=30 cells、p<0.001、Student t-test)であり、mVenus-Rab8a-Q67Lでは10.1 ± 1.1%であった。同様に、mVenus-Rab11a-WTとmCerulean-Myosin VbテールのFRET効率は15.6 ± 1.0%、mVenus-Rab11a-S20Vでは13.9 ± 1.1%であった。mCerulean-Myosin Vbテール単独発現細胞(n=10 cells)のFRET効率は0.6 ± 1.0%であり、全ての相互作用条件において有意なFRETシグナルが検出された(p<0.05)。対照として、Rab8bとMyosin Vbテール、またはRab8aとMyosin VaテールではFRETは観察されず、相互作用の特異性が確認された。これらのFRETデータは、酵母ツーハイブリッドアッセイの結果をin vivoで裏付け、Myosin VbがRab8aおよびRab11aと直接的に結合することを示す。
Myosin VbによるRab8a局在の劇的な変化: 非トランスフェクトHeLa細胞では、内在性Rab8aは長い管状構造体と小型小胞として局在し、細胞の約10%でこの管状パターンが観察された(Figure 1A-C)。EGFP-Myosin Vbテール(ドミナントネガティブ)を発現させた細胞(n=50 cells)では、Rab8aの管状局在が消失し、Myosin Vbテールと共局在する核周囲の凝集したシスターナに再配置された(Figure 1E)。全長EGFP-Myr6(EGFP-full-length Myosin Vb)発現細胞では、Rab8a陽性管状構造体の一部がMyosin Vb陽性であったが、全てのRab8a管にMyosin Vbが存在するわけではなかった(Figure 2A, B)。内在性Rab11aも全長Myosin Vb発現細胞でのみ管状局在を示した(Figure 2C)。Myosin Vcテールも同様にRab8aを管状構造から核周囲小胞への再分布を誘導したが(Figure 1F)、Myosin VaテールはRab8a局在に影響を与えなかった(Figure 1D)。これらの結果は、Myosin VbがRab8aの細胞内局在に決定的な影響を与えることを示唆する。
Rab8aとRab11aの独立した局在と経路: 二重免疫蛍光染色により、内在性Rab8aとRab11aは極めて限られた重複局在しか示さず、大部分が独立した細胞内コンパートメントに存在することが明らかになった(Figure 3A)。EGFP-Rab11aの過剰発現はRab8aの管状局在を変化させず(Figure 3B)、mCherry-Rab8aの過剰発現もRab11aの局在に影響を与えなかった(Figure 3C)。また、Rab4aやRab5aの過剰発現もRab8aの管状局在に影響を与えなかった。特筆すべきは、Rab11aとMyosin Vbの両方に結合するドミナントネガティブなRab11-FIP2(129-512)の発現が、Rab11aの分布を変化させたにもかかわらず、Rab8aの管状局在には全く影響を与えなかったことである(Figure 3D)。生細胞イメージング(mCerulean-Rab8aとmVenus-Rab11a)では、Rab11a陽性小胞がRab8a陽性管状構造に沿って移動する様子が観察されたが(Figure 5)、明確な膜融合や出芽イベントは認められなかった。これらの結果は、Rab8aとRab11aがMyosin Vbを共有しながらも、それぞれ異なるリサイクリング経路を定義することを示唆している。
EHD1/EHD3含有管状ネットワークとの共局在: myc-EHD1と抗Rab8a抗体を用いた免疫蛍光染色により、EHD1の管状ネットワークとRab8aが完全に一致して共局在することが示された(Figure 6A)。同様に、myc-EHD3もRab8aと管状共局在を示した(Figure 6C)。一方、内在性Rab11aはEHD1とほとんど共局在せず(Figure 6B)、EHD3とも共局在しなかった(Figure 6D)。Myosin VbテールはEHD1をRab8aと共局在する核周囲シスターナに再分布させ(Figure 7A)、EHD3は一部がMyosin VbテールとRab8aが共局在するシスターナに再分布し、残りはシスターナ周囲の管状構造に残存した(Figure 7B)。これらの結果は、Rab8a経路がEHD1およびEHD3を含む管状ネットワークと密接に関連していることを強く示唆する。
MHCクラスIリサイクリングへのMyosin Vbの関与: 内在化MHCクラスI分子のリサイクリングアッセイにおいて、非トランスフェクト細胞では120分後にMHCクラスI分子が分散した弱い染色パターンを示したのに対し、EGFP-Myosin Vbテール発現細胞(n=30 cells)では、120分後もMHCクラスI分子がMyosin Vbテールと共局在する核周囲シスターナに蓄積していた(Figure 7C)。Myosin Vbテールの発現は、コントロールと比較してMHCクラスIの再循環を抑制し、細胞内蓄積を2.5-fold increase(p=0.003、one-way ANOVA、n=10 cells)させることが明らかになった。この所見は、Myosin VbがMHCクラスI分子のRab8a経路を介したリサイクリングに関与していることを示している。
考察/結論
本研究は、Myosin VbがRab11aに加えてRab8aとも直接相互作用し、両Rabが同一のモーター分子を共有しながらも独立したリサイクリング経路を運営することを初めて実証した。
先行研究との違い: これまでの研究では、Myosin Vbは主にRab11a経路との関連が強調されてきたが (Lapierre et al. 2001; Hales et al. JBiolChem 2002)、本研究はRab8a経路との相互作用も明確に示した点で、これまでの理解を拡張する。特に、Rab8a結合にはMyosin Vbテールの全体構造が必要であるのに対し、Rab11a結合は第一コイルで十分であるという構造的要求の違いは、同一モーターの異なる結合領域が異なるRabを認識するという点で対照的であり、Myosin Vbの多機能性を裏付ける。また、Rodriguez & Cheney (2002) が示したMyosin VcとRab8aの相互作用は本研究でも確認されたが、Myosin VcがRab11aファミリーと相互作用しないという違いが明確化され、Myosin V三種類の機能分担が整理された。これは、Seabra et al. Traffic 2004 が提唱したRabとMyosinの協調的オルガネラ輸送モデルをさらに精緻化するものである。
新規性: 本研究で初めて、Rab8a経路がEHD1/EHD3含有管状ネットワーク、MHCクラスI分子、および非クラスリン依存性エンドサイトーシス経路に対応し、Rab11a経路がトランスフェリン受容体やCXCR2のような受容体のERC(Endocytic Recycling Compartment)経路に対応するという、それぞれの経路の明確な区別を提示した。さらに、ドミナントネガティブなRab11-FIP2(129-512)がRab11aの分布のみを変化させ、Rab8aには影響を与えないという結果は、両経路がMyosin Vbを共有しつつも、その下流のエフェクター分子レベルで独立性を保っていることを示唆するこれまで報告されていない知見である。
臨床応用: 本研究の知見は、細胞表面受容体のリサイクリング異常が関与する疾患(例えば、免疫疾患におけるMHCクラスI提示異常や、がんにおける受容体過剰発現)の病態理解に貢献し、将来的な治療戦略の臨床応用に向けた基盤を提供する。Myosin Vbの機能制御が、特定の疾患関連タンパク質のリサイクリング経路を標的とする新たな治療介入の可能性を秘めているという臨床的意義がある。
残された課題: 今後の検討課題として、Myosin VbがRab11aとRab8aの結合をどのように使い分け、異なる経路を同時に、あるいは選択的に制御しているのか、その分子メカニズムを詳細に解明する必要がある。また、Myosin Vbテール発現がトランスフェリンリサイクリング阻害のみならずMHCクラスI分子のリサイクリングも阻害することから、同一ドミナントネガティブ構築物が複数の独立経路を同時阻害するという解釈上の注意点が提示された。この現象の背後にあるメカニズムを理解することも今後の研究の重要な方向性である。
方法
酵母ツーハイブリッド (Y2H) アッセイ: 出芽酵母Y190株に、pBD-GAL4-Rab構築物(野生型、GTP固定変異体Q67L、GDP固定変異体T22Nなど)とpAD-GAL4-Myosin V tail(Va/Vb/Vc)を共発現させた。形質転換酵母は、ロイシンおよびトリプトファン欠損培地で選択培養し、30°Cで72時間増殖させた。生存コロニーをフィルターペーパーディスクに移し、液体窒素で2回凍結融解して溶解後、300 µg/mlのX-Gal (5-bromo-4-chloro-3-indolyl-beta-D-galactoside) 溶液中で最大4時間インキュベートし、beta-ガラクトシダーゼ活性(青色発色)を確認した。
細胞培養とプラスミド構築: HeLa (Human Epithelial Cells) 細胞をMatTekディッシュまたはガラスカバーガラス上で培養した。pEGFP-、pAD-、mCerulean-、mVenus-、mCherry-タグ付きの各種Myosin Va/Vb/VcテールおよびRab8a構築物を作製した。Myosin VbテールはpEGFP-Myosin Vb-tailからBamHIとSalI制限酵素サイトを用いてmCerulean-C1、mVenus-C1、mCherry-C1に挿入した。Rab8aの野生型および変異体は、EcoRIとSalI制限酵素サイトを用いてpBD-GAL4、mCerulean、mVenus、mCherryに挿入した。ヒトEHD1およびEHD3もEcoRIとSalIを用いてmCherryにサブクローニングした。
免疫蛍光法および共焦点顕微鏡観察: HeLa細胞への遺伝子導入はEffectene試薬(QIAGEN)を用いて18時間行った。細胞はPBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、0.1% Triton X-100を含むPBS/1%BSAで透過処理およびブロッキングを1時間以上行った。一次抗体(抗Rab8aポリクローナル、抗Rab11a VU57ポリクローナル、抗Rab11a 8H10モノクローナル、抗myc 9E10モノクローナル)と二次抗体(Cy3/Alexa488標識)を用いて染色した。画像はZeiss LSM510共焦点顕微鏡(40倍油浸レンズ)で取得した。
FRETアッセイ(アクセプター光退色法): HeLa細胞にmCerulean-Myosin VbテールとmVenus-Rab8a(WT/Q67L)またはmVenus-Rab11a(WT/S20V)を共発現させた。固定後、Zeiss LSM510(40 mW Arレーザー)で画像を取得した。514 nmのレーザーを100%出力で100バースト照射し、mVenus(アクセプター)を光退色させた。光退色前後のmCerulean(ドナー)蛍光強度を3回の平均で比較した。FRET効率Eは、E = 100(mCerulean_post - mCerulean_pre)/mCerulean_postとして算出した。各条件でn=10 cellsを測定し、各実験を3回繰り返した(合計30回測定)。統計解析には、Bonferroni補正を伴うStudent t-testおよびone-way ANOVAを用いた。
MHCクラスIリサイクリングアッセイ: EGFP-Myosin Vbテールを発現させたHeLa細胞を4°Cに冷却し、抗ヒトMHCクラスIモノクローナル抗体W6/32(1 µg/mL、Abcam)で30分間処理した。PBSで洗浄後、37°Cの培地に戻し、MHC/抗体複合体の内在化を0、30、60、90、120分で観察した。4°C PBSで洗浄後、0.5%酢酸/0.5M NaCl、pH 3.0で表面抗体を除去し、固定後、Cy3標識二次抗体で染色した。