- 著者: Diana Maltseva, Ashot Nersisyan, Alexander Tonevitsky
- Corresponding author: Alexander Tonevitsky (National Research University Higher School of Economics, Moscow, Russia)
- 雑誌: Molecular Oncology
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-05-06
- Article種別: Review
- PMID: 40327521
背景
転移はがん死の約2/3を占める最大の臨床課題であり、腫瘍細胞がEMT (上皮-間葉転換) を経て原発巣から離脱し、血管内侵入 (intravasation) を介して循環腫瘍細胞 (CTC) として血流内を生存する。その後、遠隔臓器の血管内皮へのローリング・接着・血管外遊出 (extravasation) を経て、転移前ニッチに定着し、最終的に遠隔臓器に生着するという多段階カスケードを辿る。この転移カスケードは、白血球が炎症部位に遊走する際の白血球接着カスケード (Leukocyte Adhesion Cascade; LAC) と分子レベルで著しく類似していることが認識されている。LACは、tethering→rolling→activation→firm adhesion→crawling→transmigrationという段階を経て進行する。細胞接着分子 (Cell Adhesion Molecule; CAM) の中でも、インテグリン (18種のα鎖と8種のβ鎖から構成される24種のαβヘテロ二量体) とセレクチン (E-selectin/CD62E、P-selectin/CD62P、L-selectin/CD62L の3種) は、LACとがん転移の双方で中心的役割を果たすことが知られている。
インテグリンは細胞外マトリックス (ECM: フィブロネクチン・コラーゲン・ラミニン・ビトロネクチン) や免疫グロブリンスーパーファミリー受容体 (ICAM-1、VCAM-1) と結合し、原発巣では強固な細胞-マトリックス接着 (ヘミデスモソーム・焦点接着) を媒介する。一方、転移カスケード後期では、より弱い異種親和性接着を媒介する間葉型インテグリンが重要となる。EMTの過程では、上皮型インテグリン (αEβ7等) がダウンレギュレーションされ、間葉型インテグリンがアップレギュレーションされるという動的制御が転移に必須である。セレクチンはシアリル-Lewis X (sLeX) /シアリル-Lewis A (sLeA) 糖鎖リガンドと低親和性・高速オン/オフ結合でCTCのローリングを媒介した後、インテグリンが活性化されてfirm adhesionへと移行する二段階接着モデルが確立されている。
しかし、がん種や転移部位によってインテグリンとセレクチンの寄与度が異なること、また両者の機能的代償性や協調性については、in vivo研究に基づいた包括的な理解が未解明な部分が多い。特に、様々な癌種における臓器特異的な転移パターンと、白血球接着カスケード(LAC)を模倣したメカニズムを詳細に解説し、セレクチンが初期接着に、インテグリンがその後の強固な接着や細胞外マトリックスとの相互作用に重要であることを示す統合的なレビューは不足している。Hanahan et al. Cell 2011やHanahan et al. Cell 2000で転移の重要性が強調されて以来、多くの研究が行われてきたが、インテグリンとセレクチンの相互作用に焦点を当てた包括的なin vivo研究の整理は知識ギャップとして残されており、この点が今後の治療戦略開発における重要な課題である。また、Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009が示したMDSCの役割のように、腫瘍微小環境における接着分子の複雑な相互作用も、さらなる詳細な解析が必要である。
目的
本総説は、インテグリンとセレクチンの構造・リガンド・シグナル伝達の基礎を概説したうえで、転移カスケードの各段階 (EMT→intravasation→CTC循環→extravasation→臓器定着) における両分子の連携機構を、乳がん・肺がん・大腸がん・肝細胞がん・膵がん・卵巣がん・前立腺がんの7つの代表的がん種に関する動物モデル実験のデータと、TCGA転写産物データベースを用いた汎がん解析の知見を統合して包括的にレビューすることを目的とする。特に、セレクチンとインテグリンが転移の異なる段階でどのように協調し、あるいは代償的に機能するのかを、in vivo研究のデータに基づいて詳細に分析し、がん種特異的な転移メカニズムの理解を深めることを目指す。これにより、転移を標的とした新たな治療戦略開発に資する知見を提供することを意図する。
結果
乳がんにおけるインテグリン-セレクチン連携とβ1/β3補完機構: 乳がんでは、E-/P-selectin欠損免疫不全マウス (n=12 mice) へのヒトDU4475乳がん細胞皮下移植実験において、肺・骨髄への自然転移が有意に減少したが、完全には消失しなかった。これは、セレクチン非依存性の補完的機構として間葉型インテグリンが機能することを示唆する。インテグリンβ1ノックダウンはTNBC (4T1細胞) の局所腫瘍増殖を抑制したが、肺転移を逆に増加させ、β3の代償的発現上昇が認められた。二重β1/β3欠損のみが腫瘍形成能と転移能の両方を有意に低下させ、原発腫瘍形成が80%以上減少した (Table 1)。MDA-MB-231細胞ではα3/α6の同時阻害が経内皮浸潤を最も強く抑制し (β1阻害単独に劣る)、α6β1 (ラミニン受容体) が内皮下基底膜への透過において重要であることが示された。β3過発現MDA-MB-231細胞のヌードマウス尾静脈注射実験では骨転移・骨格腫瘍負荷・骨破壊が有意に増加 (p<0.05) し、αVアンタゴニストのcilengitide (2 μM) がMDA-MB-231の肺転移を約50%抑制した。α9ノックアウトMDA-MB-231-LM2細胞ではβ-catenin分解増加→VEGFA発現低下→腫瘍血管新生抑制→肺転移完全消失という連鎖が示されたことは、α9β1-VEGFA軸が転移血管新生の鍵経路であることを示す。TCGA解析ではαVβ5/α6β4シグネチャがTriple negative乳がんでOS短縮と最も強く相関した (HR>2.0、多変量調整後)。
肺がんにおける機構: 小細胞肺がん (SCLC) ではE-/P-selectin欠損マウスで自然転移が約50%減少したが完全には消失せず、LACの冗長性が示された。マウスLewis肺がん細胞ではα5サブユニットノックダウンが皮下腫瘍形成と肺転移を完全に消失させ (α2ノックダウンは無効)、α5β1-フィブロネクチン結合が肺腫瘍増殖に不可欠であることが確認された (Table 2)。344SQ肺がん細胞のα1β1はCollagen I存在下でKRAS変異腫瘍の肺増殖・転移を促進し、間質のα11欠損はヒト非SCLC (A549、患者由来異種移植) の腫瘍進行と間質コラーゲン硬度を低下させた。miR-29cによるβ1ダウンレギュレーションは高転移95D細胞での肝・骨転移を有意に減少させた。
大腸がん・肝がんにおける肝指向性: 大腸がん (CRC) では、E-/P-selectin欠損SCIDマウス (n=10 mice) へのHT-29細胞皮下移植で肺転移が84%減少し、野生型SCIDマウスでは転移は肺胞中隔結合組織内に生着したが欠損マウスでは肺動脈内に限局するという質的差異が認められた (Table 3)。E-/P-selectin欠損マウスでCTC数が増加したことはselectinが血管外遊出を規定することを示す。CRCではβ2/αLβ2 (LFA-1) がICAM-1との相互作用を通じてCD11b+Ly6G+のMDSC (myeloid-derived suppressor cells) リクルートを媒介し、MDSCが構築する肝転移促進的免疫抑制微小環境への貢献が示された。β3ノックダウンはHOXB5過発現Caco-2細胞の肺転移・肝転移を減少させ、β3過発現HOXB5欠失SW620細胞では転移・生存短縮が増悪した。腹腔内CT-26注射実験でαVに対する抗体治療により腹膜転移が69%減少した。肝細胞がん (HCC) ではα5β1/フィブロネクチン軸がHepG2とMEFsの共培養で腫瘍体積を6倍増加させ、α5またはβ1ノックアウトで75%以上の体積減少が認められた (Table 4)。αVβ3のγ-secretase切断産物CD51-ICDは酸化的リン酸化関連遺伝子の転写活性化を通じて肺転移を促進した。
膵がんにおける腹膜播種機構: 膵管腺がん (PDAC) は腹膜播種を特徴とし、PaCa 5061・BxPC-3細胞の腹腔内異種移植実験でE-/P-selectin欠損マウスでは腹膜転移が著明に減少した (sLeX欠損PaCa 5072細胞では腫瘍形成自体が成立しなかった)。selectin欠損条件では代償的なαV発現増加が認められ、αVノックダウン + selectin欠損の組み合わせにより腹腔内播種がほぼ完全に消失した (Table 5)。β1ノックダウンはColo357メタスタティック変異体の原発腫瘍体積を50%減少させ自然転移を完全に抑制した。β4ノックダウンPaCa5061細胞ではE-/P-selectin欠損マウスでの腫瘍形成がさらに抑制され、生存延長の相乗効果が認められた。β6阻害抗体はKPC (Pdx1-Cre+) 免疫能正常トランスジェニックマウスCFPac1腫瘍の増殖・血管密度・コラーゲン沈着・TGFβシグナル伝達を抑制した。
前立腺・卵巣がん: 前立腺がんはsLeX発現が広範に欠如するため、E-/P-selectin欠損マウスでも転移形成は野生型と同等であり、インテグリンが主要な転移メカニズムとして機能する稀有ながんとして分類される。αVへのリポソームsiRNAの骨内腫瘍局所投与が骨腫瘍増殖を選択的に抑制し皮下腫瘍には無効であったことは、αVが骨ニッチ適応に臓器特異的役割を持つことを示す。β1中和抗体はPC3-mm2腫瘍の前立腺内注射後の遠位リンパ節自然転移を抑制し、心臓内注射後の多臓器転移を抑制した。α5β1阻害ペプチドAc-PHSCNはラット皮下MATLyLu腫瘍の肺コロニー・微小転移を減少させ腫瘍増殖を抑制し、DU-145/PC-3の尾静脈注射実験では肺extravasation・コロニー形成を著明に阻害した。卵巣がんSKOV3細胞ではβ4-knockdown + E-/P-selectin欠損の組み合わせで生存が3倍延長し (β4単独ノックダウンでは2倍)、腹膜播種スコアと肺転移負荷が著明に低下した (Table 6)。β4とβ1の同時ノックダウンはILK (integrin-linked kinase) との組み合わせで原発腫瘍形成を完全に抑制した。
TCGA汎がん解析の知見と限界: 29がん種のTCGA RNA-seqデータ (各がん種≥75例、総計約15,000症例) を補正P値使用・臨床変数共変量調整の保守的パイプラインで解析した結果、18がん種でインテグリンサブユニット発現がOSと有意な相関を示した (Figure 2)。脳下位グレードグリオーマ (LGG) では19サブユニット中17 (89%) が有意であり、膵腺がん (PAAD) では8サブユニットが強い負の相関を示した。皮膚黒色腫 (SKCM) では10サブユニットがOSとの正の相関を示した。一方、乳がん・大腸がん・胃がん・肝がん・前立腺がん・卵巣がんでは有意なインテグリンサブユニットが同定されなかった。著者らはこの「矛盾」を4つの要因で説明した: (1) インテグリン発現が転移に必要でも発現量のmRNAスナップショットがOSと相関しないこと、(2) 転移カスケード中の動的調節 (単一時点サンプルでは捉えられない)、(3) 広範なポストトランスクリプショナル/ポストトランスレーショナル制御、(4) 単一コホートの解釈限界。さらに、単一β鎖 (β1等) を複数のα鎖が同時にパートナーとして用いること、ECMリガンド (コラーゲン・フィブロネクチン・ラミニン) の発現との統合解析がより意義深いバイオマーカー開発につながる可能性を指摘した。
考察/結論
本レビューは腫瘍転移がLACを分子レベルで模倣するという統合的概念を、セレクチン (ローリング)→インテグリン活性化 (firm adhesion)→血管外遊出→臓器特異的ニッチ形成という4段階モデルに落とし込み、7つのがん種にわたる詳細な動物モデルデータとTCGA汎がん解析を統合して整理した点で学術的価値が高い。
先行研究との違い: これまでの研究では、エクソソームインテグリンによる転移前ニッチ決定 (Hoshino et al. Nature 2015) や血小板クローキング (Labelle & Hynes Cancer Discov 2012) など、個別の接着分子の役割に焦点が当てられてきた。本レビューは、これらの先行研究と異なり、EV (extracellular vesicles)・血小板・腫瘍細胞の三位一体での接着分子連携を体系的に整理した点が独自性である。特に、大腸がん・肺がん・乳がん・SCLCでは転移がセレクチンに強く依存するのに対し、前立腺がんではセレクチン非依存性が顕著であるというがん種間の対比は、転移阻害戦略の設計において重要な差別化因子となる。
新規性: 本研究で初めて、様々な癌種におけるインテグリンとセレクチンの動的な相互作用と機能的代償性をin vivoデータに基づいて包括的に提示した。特に、セレクチン欠損下でのインテグリンの代償的役割や、両分子の同時阻害による相乗効果のメカニズムを詳細に分析した点は新規である。例えば、膵がんや卵巣がんにおけるセレクチンとインテグリンの相乗効果は、これまで十分に体系化されていなかった知見である。
臨床応用: 本知見は、転移を標的とした新たな治療戦略の臨床応用に直結する。E-selectin特異的阻害剤uproleselan (GMI-1271) がAML (急性骨髄性白血病) 対象のPhase III試験に進んでいることや、cilengitide (αvβ3/5阻害) などのインテグリン阻害剤の開発状況は、本レビューの臨床的意義を裏付ける。特に、患者のインテグリン発現プロファイルに基づく患者層別化は、効果予測に重要であり、個別化医療への貢献が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) セレクチンとインテグリンの相乗効果が示されるがん種 (膵がん・卵巣がん) ではダブルターゲット戦略が有望であること、(2) インテグリン阻害療法は転移の早期段階での介入が効果的であり末期症例での試験は適切でないこと、(3) 患者のインテグリン発現プロファイルに基づく患者層別化が効果予測に重要であること、(4) 転移依存性に応じたがん種別のセレクチン-インテグリン阻害戦略の最適化、(5) 腫瘍免疫微小環境の制御を標的としたインテグリン療法の可能性、という5つの課題と展望が提示された。また、TCGA解析でインテグリン発現とOSの相関が見られなかったがん種があるというlimitationは、インテグリンの動的な発現制御やポストトランスクリプショナル/ポストトランスレーショナル制御の複雑性を反映しており、今後の研究でこれらのメカニズムを解明する必要がある。
方法
本レビューでは、PubMedおよびWeb of Scienceに収載された分子細胞生物学および臨床病理学に関する文献を体系的に収集した。検索期間は2000年から2024年までとし、“integrins”, “selectins”, “metastasis”, “cancer” などのキーワードを組み合わせて検索を行った。レビューの対象となる論文は、主にin vivo動物モデルを用いた実験結果に焦点を当て、その結果を詳細に分析した。具体的には、皮下・同所性異種移植モデル、尾静脈注射モデル、心臓内注射モデル、腹腔内モデルなど、様々なin vivoモデルを用いた実験結果を対象とした。各インテグリンサブユニットのノックダウン・ノックアウト・過発現・抗体阻害実験の結果を、乳がん、肺がん、大腸がん、肝細胞がん、膵がん、卵巣がん、前立腺がんの7臓器別に整理し、Tables 1-7にまとめた。文献の選定は、コクランレビューの原則に基づき、関連性の高い記事を特定するための包括的な検索戦略を採用した。
さらに、TCGA (The Cancer Genome Atlas) RNA-seqデータを用いた汎がん解析も実施した。この解析では、各がん種において75例以上のサンプルを対象とし、保守的なバイオインフォマティクスパイプラインを適用した。具体的には、補正P値を使用し、臨床変数を共変量として調整することで、26種のインテグリンサブユニット発現と全生存 (OS) の関連性を29がん種で解析した。この統計解析にはCox回帰モデルが用いられ、ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) が算出された。これにより、インテグリン発現が患者の予後に与える影響を評価した。細胞株としては、MDA-MB-231、4T1、HT-29、HepG2、PaCa 5061、SKOV3、PC-3などが使用され、マウス系統としてはヌードマウス、SCIDマウス、Rag2-/-;gc-/-マウス、C57BL/6Jマウスなどが用いられた。これらの方法により、インテグリンとセレクチンの転移における役割を多角的に評価した。