• 著者: Ian D. Ferguson, Bonell Patiño-Escobar, Sami T. Tuomivaara, Yu-Hsiu T. Lin, Matthew A. Nix, Kevin K. Leung, Corynn Kasap, Emilio Ramos, Wilson Nieves Vasquez, Alexis Talbot, Martina Hale, Akul Naik, Audrey Kishishita, Priya Choudhry, Antonia Lopez-Girona, Weili Miao, Sandy W. Wong, Jeffrey L. Wolf, Thomas G. Martin III, Nina Shah, Scott Vandenberg, Sonam Prakash, Lenka Besse, Christoph Driessen, Avery D. Posey Jr., R. Dyche Mullins, Justin Eyquem, James A. Wells & Arun P. Wiita
  • Corresponding author: Arun P. Wiita (arun.wiita@ucsf.edu) (Department of Laboratory Medicine, University of California San Francisco, San Francisco, CA, USA)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-07-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35840578

背景

多発性骨髄腫 (MM; multiple myeloma) は、形質細胞の悪性腫瘍であり、近年、キメラ抗原受容体 (CAR; chimeric antigen receptor) T細胞療法や二重特異性抗体などの免疫療法が開発されているものの、依然として治癒が困難な難治性疾患である。これらの新規治療法の開発や治療抵抗性メカニズムの解明には、腫瘍細胞表面に発現するタンパク質群(サーフェソーム)の網羅的な同定が不可欠である。既存の免疫療法標的であるBCMA (B-cell maturation antigen) やCD38などは臨床で用いられているが、その有効性は限定的であり、治療抵抗性の獲得が課題となっている。薬剤耐性獲得後のMM細胞の表面プロファイルの変化は、治療脱感作の一因となる可能性が指摘されているが、耐性MM細胞のサーフェソームを網羅的に解析した研究はこれまで不足していた。

従来の質量分析を用いたプロテオミクス研究では、細胞内タンパク質が多数混入するため、真の細胞表面提示タンパク質の同定精度に限界があった。また、フローサイトメトリーやCyTOF (cytometry by time-of-flight) などの抗体ベースのアッセイは、最大でも約50種類の既知の表面タンパク質に限定されるため、MM細胞表面の全体像を包括的に把握することは困難であった (Bausch-Fluck et al. 2015)。さらに、RNA-seqデータは豊富に存在するものの、mRNA発現レベルと細胞表面タンパク質発現レベルの間には中程度の相関しかなく (Liu et al. 2016)、翻訳後修飾やタンパク質輸送の制御を反映できないため、表面プロテオームの予測には不十分である。これらの技術的限界により、MMの診断、治療、生物学的理解に資する包括的なサーフェソーム解析は未解明な点が多く、大きな knowledge gap が存在していた。形質細胞のホメオスタシスや薬剤耐性機構に関わる多数の表面タンパク質については、その機能的意義や臨床的関連性が不明な点が残されており、系統的なプロファイリングアプローチが手薄で不足している状況であった。本研究は、これらの課題を解決することを目的とした。

目的

本研究は、細胞表面捕捉 (CSC; cell surface capture) プロテオミクス法を用いて多発性骨髄腫 (MM) 細胞株のサーフェソームを系統的に解析し、以下の目的を達成することを目指した。 (1) 新規免疫療法標的を同定し、キメラ抗原受容体 (CAR)-T細胞療法戦略の有効性を検証する。 (2) プロテアソーム阻害薬 (PI; proteasome inhibitor) およびレナリドミド (Len; lenalidomide) 耐性MM細胞における細胞表面バイオマーカーを同定し、臨床コホート (CoMMpass) データを用いてその関連性を検証する。 (3) 微量サンプル (<100万細胞) に対応する小型化CSCプロトコルを開発し、一次患者検体への適用可能性を実証する。 これらの知見を通じて、MMの診断、治療、および生物学的理解に貢献する新たなリソースを提供することを目的とした。

結果

網羅的CSCプロテオミクスによるMM細胞表面プロファイルの解明: 4種類のMM細胞株 (KMS-12PE, AMO1, RPMI-8226, L363) の統合CSC解析により、UniProtで膜結合と注釈された1245のタンパク質が同定された。これらのうち530タンパク質は、検証済みプラズマ膜タンパク質セットと一致し、高い表面提示確度を示した。同定されたタンパク質には、既知の免疫療法標的 (BCMA, CD38, CD138/SDC1など) や診断マーカーのほか、多数の未報告表面タンパク質が含まれた (Fig 1C)。MM細胞株とB細胞株の表面プロテオームを比較した主成分分析 (PCA) では、各細胞タイプが明確にクラスターを形成し、それぞれに特徴的な表面シグネチャーを持つことが示された (Fig 1D)。特に、MM細胞をB-ALL細胞から最も区別するタンパク質として、GGT1 (gamma-glutamyl transferase 1), SELPLG (selectin-P ligand), CADM1 (cell adhesion molecule 1) が同定された (Fig 1E)。RNA-seqデータとの比較では、トランスクリプトームと表面プロテオームの間に中程度の相関 (Pearson R=0.54, p<2.2e-16) が認められ、CSCプロテオミクスが表面タンパク質同定においてRNA-seqよりも優位性を持つことが示唆された。また、微量サンプルに対応する小型化CSCプロトコルを開発し、一次患者サンプルへの適用可能性を実証した (Fig 6D, E)。このマイクロプロトコルでは、n=1e6 cells の入力で平均601の膜結合タンパク質が同定された。

新規標的CCR10の同定とCCL27-CAR-T細胞による抗腫瘍活性: 新規免疫療法標的候補のスクリーニングにおいて、CCR10が高スコアを示した (Fig 2A)。CCR10は、全4細胞株およびフローサイトメトリーで解析した全10例の一次MM患者サンプル (CD138+形質細胞) で表面発現が確認された (Fig 2B)。CoMMpassコホート解析では、CCR10高発現群は有意に不良なOS (overall survival) と相関した (p=0.00608) (Fig 2D)。CCR10は新規診断MMと比較して再発MM腫瘍で発現が増加しており、高リスク遺伝子型とも関連していた。CCR10の天然リガンドであるCCL27を融合した新規CAR-T細胞 (CCL27-CAR-T) を構築し、CCR10をノックアウトしたMM.1S細胞に対してin vitroで有意な細胞傷害活性を示した (Fig 2F)。このCAR-T細胞は、エフェクター対ターゲット細胞比 (E:T比) が 1:1 以上の n=3 replicates の実験において細胞傷害活性を発揮し、従来の抗原-抗体形式ではなく、ケモカイン-受容体相互作用を利用したCAR-T戦略の有効性を概念実証するものである。

プロテアソーム阻害薬耐性における表面シグネチャーの変動: PI耐性 (ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ各耐性) MM細胞株のCSC解析により、CD53とEVI2B (ecotropic viral integration site 2B) の有意な表面発現低下、およびCD10 (MME) の有意な上昇が同定された (Fig 3A)。これらの変化は、フローサイトメトリーでもAMO1およびRPMI-8226のPI耐性細胞で確認された (Fig 3B)。CoMMpass longitudinalコホート (n=50、PI処置後再発前後ペア) でのRNA-seq検証でも、再発後にCD53およびEVI2Bの低下、CD10の上昇パターンが一致して確認された (p<0.05) (Fig 3C)。CD53の免疫組織化学染色でも、PI含有レジメン後の再発検体 (n=13) で形質細胞における発現低下が確認された (Fig 3D)。CD50, CD53, EVI2BのCRISPR-Cas9ノックアウトは、ボルテゾミブに対するMM.1S細胞の耐性をわずかに増加させ、IC50 のシフトをもたらした (Fig 3H)。これらの結果は、これらの表面マーカーがPI耐性の直接的な原因というよりは、バイオマーカー候補として有用であることを示唆する。

レナリドミド耐性における表面シグネチャーと急性薬物処理の影響: レナリドミド耐性 (LenR) H929およびOPM2 MM細胞株のCSC解析では、CD33 (骨髄性マーカー) とPTPRC (CD45) の有意な表面発現上昇が同定された (Fig 4A)。CoMMpassのLen処置後再発サンプルでも、CD33およびPTPRCのmRNA発現上昇が確認された (p<0.05) (Fig 4B)。一方、急性レナリドミド処理 (50 μM, 48時間) を行ったAMO1細胞では、MUC1の表面発現が顕著に増加した (Fig 5C, D)。このMUC1発現増加を利用して抗MUC1 CAR-T細胞との組み合わせを評価したところ、Len前処置によりMUC1発現が上昇し、抗MUC1 CAR-T細胞による細胞傷害効果がin vitroで増強されることが確認された (Fig 5E, F)。Len単独では細胞死を誘導しなかったが、Len前処置と抗MUC1 CAR-T細胞の併用により、AMO1-ルシフェラーゼ細胞の腫瘍溶解率が有意に増加した (E:T比 4:1 で p<0.001)。これは、レナリドミドが免疫療法との相乗効果を持つ既存の知見と整合し、MUC1を標的とした組み合わせ戦略の根拠を提供する。

高発現表面タンパク質の同定とCD48の「ロックオン」標的としての可能性: MM細胞表面で最も高発現するタンパク質として、4F2 (SLC3A2) とLAT1 (SLC7A5) からなるヘテロ二量体アミノ酸トランスポーターCD98、および中性アミノ酸トランスポーターAAAT (SLC1A5) が同定された (Fig 2G)。これらは形質細胞のタンパク質合成における重要な役割と一致する。また、CD38とCD48の絶対抗原密度をフローサイトメトリーで測定したところ、両抗原ともに高コピー数で発現していたが、CD48はCD38よりも高い密度を示した (CD48の範囲: 59,307 - 2,769,932 copies/cell vs. CD38の範囲: 16,251 - 613,422 copies/cell, p=0.05) (Fig 2I)。この結果は、CD48がCAR-T細胞の親和性を高める「ロックオン」標的として特に有望であることを示唆する。

考察/結論

本論文は、多発性骨髄腫 (MM) 細胞株の包括的な細胞表面捕捉 (CSC) プロテオミクス解析により、新規免疫療法標的の同定と薬剤耐性バイオマーカーの特定という二つの重要な臨床応用に向けた知見を統合して提示した研究である。

先行研究との違い: 従来のプロテオミクス研究では細胞内タンパク質が混入し、フローサイトメトリーでは解析できる表面タンパク質の種類が限られていた。本研究は、CSCプロテオミクスという網羅的な手法を用いることで、これまでの研究では同定が困難であった多数の新規表面タンパク質を特定し、MM細胞のサーフェソームの全体像をより詳細に明らかにした点で、先行研究と対照的である。特に、RNA-seqデータでは予測できなかった表面タンパク質の発現変化を直接定量できたことは、本研究の大きな強みである。

新規性: 本研究で初めて、CCR10という新規MM表面標的の同定と、その天然リガンドCCL27を用いたCAR-T細胞による概念実証を行い、これまでに報告されていない新たな治療アプローチを示した。CCR10が10例中10例の一次患者検体で発現し、高発現がOS不良と相関するという知見は、臨床的意義の高い新規標的である可能性を強く支持する。また、プロテアソーム阻害薬 (PI) 耐性とレナリドミド耐性それぞれで異なる表面プロテオーム変化が確認され、CoMMpassコホートで縦断的に検証された点は、耐性モニタリングバイオマーカーとしての新規性を持つ。急性レナリドミド投与によるMUC1発現上昇とCAR-T細胞との相乗効果は、Len前処置とCAR-T細胞療法の組み合わせ戦略の合理的根拠を、表面プロテオームレベルで初めて提示した。

臨床応用: 本研究で同定されたCCR10は、MM患者の予後予測因子となる可能性があり、CCL27-CAR-T細胞療法は将来的な臨床応用が期待される。PI耐性およびレナリドミド耐性に関連する表面バイオマーカー (CD53, EVI2B, CD10, CD33, PTPRC) は、薬剤耐性MMの診断やモニタリングに利用できる可能性がある。特に、CD10の治療後上昇は、アグレッシブなサブクローンの選択を示唆し、再発期の新規標的としての可能性を持つ。レナリドミドと抗MUC1 CAR-T細胞の併用戦略は、既存薬と免疫療法の組み合わせによる治療効果増強という臨床的有用性を示唆する。さらに、CSCプロトコルの小型化により、微量な一次患者サンプルからの表面プロテオームプロファイリングが可能となり、患者個別の表面プロテオーム解析に基づく個別化免疫療法設計への橋渡しとして重要な臨床応用が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、CCL27-CAR-T細胞のin vivoでの有効性および安全性試験、そして臨床試験設計が必要である。CD10やCCR10などのバイオマーカー候補については、前向き臨床試験での検証が不可欠である。レナリドミドと抗MUC1 CAR-T細胞の最適投与スキームの探索や、一次MM患者での個別CSCプロファイリングに基づく個別化免疫療法選択の実現に向けたさらなる最適化が求められる。本研究のlimitationとして、初期の表面プロファイリングの大部分がMM細胞株で実施された点が挙げられる。細胞株は患者腫瘍を完全に代表するものではないが、既知のMM表面マーカーの同定や、薬剤耐性シグネチャーが患者腫瘍で確認されたことから、その広範な適用可能性は高いと考えられる。また、CSCプロテオミクスは低コピー数や非糖鎖化タンパク質の検出感度がフローサイトメトリーより低い可能性があり、バックグラウンドの細胞内タンパク質標識による偽陽性の可能性も排除できない。これらの課題を克服し、本手法をMMの基礎研究、橋渡し研究、臨床研究に広く普及させることが今後の目標である。

方法

本研究では、MM細胞株4種 (KMS-12PE (KMS-12-PE), AMO1, RPMI-8226, L363) を用いて細胞表面捕捉 (CSC) プロテオミクスを実施した。この手法では、N-結合型糖タンパク質をビオチン-アジドで標識し、クリック化学反応後にストレプトアビジンビーズで捕捉し、質量分析 (LC-MS/MS) により表面タンパク質を選択的に同定した。質量分析データはMaxQuantおよびPerseusを用いて解析し、統計解析には Student t-test、Welch’s t-test、および Pearson correlation を用いて有意差や相関を評価した。

薬剤耐性モデルの解析のため、PI耐性細胞株 (AMO1-BtzR (bortezomib resistant), AMO1-CfzR (carfilzomib resistant), L363-BtzR, L363-CfzR, RPMI-8226-BtzR) およびレナリドミド耐性細胞株 (H929-LenR (lenalidomide resistant), OPM2-LenR) を樹立し、それぞれの表面プロテオーム変化を解析した。PI耐性細胞株は、以前に報告された方法に基づき、ボルテゾミブ (Btz; bortezomib) またはカルフィルゾミブ (Cfz; carfilzomib) への耐性を誘導した。レナリドミド耐性細胞株は、Lenの漸増濃度で培養することにより樹立した。

同定されたバイオマーカー候補の臨床的関連性を検証するため、Multiple Myeloma Research Foundation (MMRF) CoMMpass longitudinalコホートのRNA-seqデータを用いて、遺伝子発現レベルでの相関を解析した。また、CD53については、PI含有レジメン後の診断時と再発時の骨髄生検サンプル (n=13) を用いて免疫組織化学 (IHC) 染色を行い、タンパク質レベルでの発現変化を確認した。

新規免疫療法標的の同定では、CSCプロテオミクスデータと公開されているトランスクリプトームデータ (CCLE (Cancer Cell Line Encyclopedia), GTEx, Human Blood Atlas) を統合し、表面発現量と形質細胞特異性に基づいて5つの基準でスコアリングシステムを構築した。高スコアのCCR10 (CC chemokine receptor 10) については、10例の一次MM患者サンプルから分離したCD138+形質細胞でフローサイトメトリーにより表面発現を確認した。CCR10を標的とするCAR-T細胞戦略の概念実証のため、CCR10の天然リガンドであるCCL27を融合した新規CAR-T細胞 (CCL27-CAR-T) を構築した。このCAR-T細胞は、T細胞上のCCR10発現によるフラトリサイド(互い殺し)を避けるため、CRISPR-Cas9を用いてCCR10をノックアウトしたCD8+ T細胞に導入した。MM.1S-ルシフェラーゼ細胞に対するin vitro細胞傷害試験を実施し、抗腫瘍活性を評価した。

急性薬物処理の影響を評価するため、MM細胞株をボルテゾミブ (7.5 nM, 48時間) またはレナリドミド (50 μM, 48時間) で短期処理し、表面プロテオームの変化をCSCプロテオミクスおよびフローサイトメトリーで解析した。特に、急性レナリドミド処理後のMUC1 (Mucin-1) の発現増加に着目し、抗MUC1 CAR-T細胞との併用効果をin vitroで評価した。

微量サンプル対応のCSCプロトコル開発では、InStageTip (integrated stage tip) 戦略を応用した小型化CSCプロトコルを開発し、1e6 cells以下の入力サンプルでの膜タンパク質同定効率と定量再現性をRS4;11 B-ALL (B-cell acute lymphoblastic leukemia) 細胞およびAMO1細胞で評価した。さらに、このマイクロプロトコルを、CD138+磁気ビーズ分離により得られた一次MM患者骨髄吸引サンプルおよび健常ドナーB細胞サンプルに適用し、その実用性を検証した。一次サンプルでは、TMT (Tandem Mass Tag) アイソバリック標識と質量分析を組み合わせて、MM細胞とB細胞間の表面プロテオームの差異を比較した。