• 著者: Qing Deng, Guangchun Han, Nahum Puebla-Osorio, Man Chun John Ma, Paolo Strati, Beth Chasen, Enyu Dai, Minghao Dang, Neeraj Jain, Haopeng Yang, Yuanxin Wang, Shaojun Zhang, Ruiping Wang, Runzhe Chen, Jordan Showell, Sreejoyee Ghosh, Sridevi Patchva, Qi Zhang, Ryan Sun, Frederick Hagemeister, Luis Fayad, Felipe Samaniego, Hans C. Lee, Loretta J. Nastoupil, Nathan Fowler, R. Eric Davis, Jason Westin, Sattva S. Neelapu, Linghua Wang, Michael R. Green
  • Corresponding author: Sattva S. Neelapu (Department of Lymphoma and Myeloma, The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA); Linghua Wang (Department of Genomic Medicine, The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA); Michael R. Green (Department of Lymphoma and Myeloma, The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-11-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33020644

背景

再発・難治性大細胞B細胞リンパ腫 (LBCL) に対するCD19を標的としたキメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法、特にaxicabtagene ciloleucel (axi-cel) は、ZUMA-1試験において54%の完全奏効率 (CR) と39%の2年無増悪生存期間 (PFS) を示すなど、高い有効性を示している。しかし、患者の約40%が再発または治療抵抗性を示し、さらにサイトカイン放出症候群 (CRS) が93%、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群 (ICANS) が64%の患者で発生するなど、重篤な副作用が臨床上の大きな課題となっている。特にICANSは、グレード3または4の重症例が30〜45%に発生し、入院期間の延長や集中治療の必要性、回復の遅延、医療費の増加につながる。稀に痙攣や脳浮腫を伴い、致死的なケースも報告されている。CRSの病態生理は広範に研究され、抗IL-6療法による適切な管理戦略が確立されているが、ICANSの病態生理とその最適な管理法は未だ不明瞭な点が多い。ICANSの発症は、循環中および脳脊髄液中の高レベルの炎症性サイトカインと関連しており、最近では単球由来のIL-1が神経毒性の主要なドライバーとして注目されている。血液脳関門の透過性亢進により、これらのサイトカインや免疫細胞が中枢神経系に侵入し、神経炎症に寄与する可能性が示唆されている。しかし、一部の患者でこの過炎症状態を引き起こし、他の患者では引き起こさないCAR T細胞の特性は、これまで十分に解明されていなかった。

先行研究では、B細胞白血病の文脈でCAR T細胞療法の奏効に関連する細胞特性が検討され、アフェレーシス製品やCAR T細胞輸注製品中の表現型が重要な決定因子であることが報告されている (例: Sommermeyer et al. Leukemia 2016Savas et al. NatMed 2018)。しかし、LBCLにおけるCAR T細胞輸注製品の細胞組成や機能状態が治療効果や毒性をどのように規定するかについては、体系的な単一細胞トランスクリプトミクス解析を用いた詳細な調査が不足していた。特に、長期奏効を予測する因子や、重篤なCRS/ICANSの発症を分ける因子は未解明であった。本研究は、CAR T細胞輸注製品の不均一性が患者間の有効性と毒性の変動に寄与するという仮説に基づき、単一細胞レベルでの詳細な解析を通じて、これらのギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、axi-celを投与されたLBCL患者のCAR T細胞輸注製品を単一細胞レベルで詳細に表現型解析し、長期奏効および重篤な毒性 (高グレードCRS/ICANS) と関連する細胞サブセットおよび遺伝子発現シグネチャーを同定することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。

  1. CAR T細胞輸注製品中の細胞タイプおよび機能状態の不均一性を特徴づけること。
  2. 3ヶ月時点でのPET/CTによる完全奏効と関連するCAR T細胞輸注製品の細胞・分子特性を特定すること。
  3. 輸注後7日目の血漿中cell-free DNA (cfDNA) シーケンスによる早期分子学的奏効 (EMR) と関連するCAR T細胞の疲弊シグネチャーを評価すること。
  4. 高グレードICANSの発症と関連するCAR T細胞輸注製品中の細胞集団および転写特性を同定すること。
  5. これらの知見に基づき、CAR T細胞療法の効果予測および毒性管理のためのバイオマーカーを開発し、将来的な治療戦略の最適化に貢献すること。

結果

CAR T細胞輸注製品の細胞組成の不均一性: scRNA-seq解析により、各患者のCAR T細胞輸注製品 (IP) は、CD8+CAR-T細胞、CD4+CAR-T細胞、CD8+非CAR-T細胞、CD4+非CAR-T細胞、さらにCD8 T細胞は「記憶様 (memory-like) TCF7+」、「エフェクター (effector) TEFF」、「疲弊 (exhausted) TEX」、「増殖 (proliferating) TPROL」に細分化されることが明らかになった。IP全体のCD8:CD4比は患者間で0.3〜4.0と大きく変動し、細胞組成に顕著な不均一性が認められた (Fig. 2a, b)。CapID+法を用いることで、CAR発現細胞の同定精度が向上し、フローサイトメトリーによる細胞頻度測定との相関が有意に改善された (Extended Data Fig. 3)。

臨床的奏効と関連する細胞シグネチャー: 3ヶ月時点のPET/CTで完全奏効 (CR) を達成した患者のIPでは、記憶様CD8 T細胞の有意な濃縮が認められた一方、部分奏効/病勢進行 (PR/PD) 患者のIPでは、疲弊したCD8およびCD4 T細胞の有意な濃縮が認められた (Fig. 3a)。特に、CR患者のCAR T細胞IPは、初期記憶様CD8 T細胞 (CCR7+/CD27+二重陽性) の割合がPR/PD患者と比較して約3倍高く (p < 2.2 × 10^-16)、疲弊マーカー (PDCD1, LAG3, TIGIT) の発現が低かった (Fig. 3d)。これらの細胞は、エフェクター機能遺伝子 (GZMB, IFNG, PRF1) も一部共発現しており、「記憶-エフェクター二重機能」状態を示唆した。scGSVA解析により、CR患者のCD8 T細胞ではCD8記憶シグネチャーの最高発現が認められ、PR/PD患者では活性化および疲弊シグネチャー (PD-1およびIFNγシグナル伝達など) の高発現が確認された (Fig. 3e)。CD4 T細胞では、CR患者のIPにおいて増殖関連遺伝子セットの濃縮が認められた。

早期分子学的奏効とCD8 T細胞疲弊シグネチャーの関連: axi-cel輸注後1週間 (day 7) の血漿cfDNAシーケンスによる早期分子学的奏効 (EMR) の評価を行った。輸注後7日目におけるVAFの5倍以上の減少 (EMR > 5FMR) は、3ヶ月時点でのCRと有意に相関した (Wilcoxon rank-sum test, p = 0.008) (Fig. 4a, b)。EMR不良 (EMR < 5FMR) の患者のIPでは、T細胞疲弊の転写プロファイルとの顕著な関連が認められた (Fig. 5a)。これは特にCD8 T細胞コンパートメントで顕著であり、疲弊したCD8 T細胞の分類に用いられる全ての共抑制受容体遺伝子 (LAG3, TIM3など) が、EMR < 5FMR患者のCD8 T細胞でより高い割合で発現していた (q < 0.01)。特にLAG3とTIM3の共発現細胞は、EMR < 5FMR群とEMR > 5FMR群を高度に識別可能であった (q < 2.38 × 10^-170)。EMR < 5FMR患者のCD8 T細胞の36.8%がLAG3+TIM3+であったのに対し、EMR > 5FMR患者では22.7%であった (Fig. 5c)。TCRクローノタイプ解析では、EMR < 5FMR患者の各クローノタイプにおいてLAG3+TIM3+細胞の割合が有意に高く (p = 4.8 × 10^-9)、疲弊シグネチャーを持つT細胞がポリクローナルであることが示唆された (Fig. 5d)。さらに、axi-cel後に進行した腫瘍の生検組織では、CAR T細胞非治療の腫瘍と比較して、腫瘍浸潤CD8 T細胞中のLAG3+TIM3+細胞の割合が有意に高かった (34% vs 19%)。CAR+CD8 T細胞に限ると、51%がLAG3+TIM3+であった (Fig. 5e)。Day 7時点での分子学的疾患負荷の減少倍率と3ヶ月時点での臨床的奏効との関連を示す棒グラフでは、5倍以上の分子学的奏効が臨床的奏効と有意に相関した (HR 0.60, 95% CI 0.47-0.77, p=0.008)。

高グレードICANSと関連する単球様転写シグネチャーを持つ細胞集団: 高グレードICANS (グレード3-4) を発症した患者のIPにおいて、特徴的な細胞集団 (ICANS関連細胞: IACs) が同定された (Fig. 6a)。この稀な細胞集団 (n=254) は、高グレードICANS患者のIPで有意に過剰に存在していた。IACsは、他の細胞と比較してCAR発現 (10.6% IACs vs 36.2% other cells, p < 0.001)、TCR再構成 (14.6% IACs vs 92% other cells, p < 0.001)、CD3D発現 (22.4% IACs vs 93.3% other cells, p < 0.001)、CD8B発現 (4.3% IACs vs 49.3% other cells, p < 0.001) が有意に低かった (Fig. 6b, c)。IACsは、CD68, LYZ, SPI1, LILRB4, SIRPAなど、骨髄系細胞で通常発現する複数の遺伝子の発現が有意に高かった (q < 0.01, fold change > 2) (Fig. 6b-d)。また、ICANSの病態生理に関与するとされるIL1BやCXCL8 (IL8) などのサイトカインおよびケモカインの遺伝子発現もIACsで高かった。ssGSEA解析により、IACシグネチャーはリンパ系細胞よりも骨髄系細胞で有意に高く (p < 2.2 × 10^-16)、特に古典的単球で最も高い発現を示した (Fig. 6e)。ただし、IACsはCD14やCD16などの典型的な単球マーカーを発現していなかった。24名の発見コホートと16名の検証コホート (合計n=40) を用いた独立した検証では、高グレードICANS患者の18名中11名 (61.1%) でIACsが検出されたのに対し、低グレードICANS患者の22名中2名 (9.1%) でのみ検出された (Fisher’s exact test, p = 0.0007)。高グレードICANS患者のIPにおけるIACsの平均細胞割合は0.39% (範囲0-2.27%) であり、低グレードICANS患者の0.003% (範囲0-0.4%) と比較して130倍高かった (Wilcoxon rank-sum test, p = 0.0002)。

考察/結論

本研究は、LBCL患者におけるCD19 CAR T細胞輸注製品の細胞および分子レベルの多様性が、治療効果と毒性の患者間変動に大きく寄与することを示した。輸注製品の定量可能な表現型は、製造プロセスにおいて望ましい細胞集団を濃縮したり、望ましくない細胞集団を除去したりすることで、介入可能である可能性がある。さらに、特定の細胞集団が不良な奏効や高グレードの毒性につながるメカニズムを理解することは、CAR T細胞輸注後の有効性を改善し、毒性を軽減するための治療的介入の道筋を特定する可能性がある。

先行研究との違い: 過去の研究では、慢性リンパ性白血病において記憶様CD8表現型が良好な奏効と関連することが報告されていたが (Fraietta et al. NatMed 2018)、本研究はLBCLにおいて、単一細胞トランスクリプトミクスを用いて、中心記憶表現型と一致するCCR7の高発現を伴うCD8記憶T細胞の濃縮が、3ヶ月時点での持続的CRと関連することを明らかにした点で、これまでの報告と異なる。また、CAR T細胞の疲弊に関する研究は、主にPD-1シグナル伝達を標的とすることに焦点を当ててきたが (Cherkassky et al. JClinInvest 2016)、本コホートではPD-1 (PDCD1) の発現はごく一部の細胞に限られ、LAG3とTIM3の共発現が最も情報量の多い疲弊マーカーであった点が対照的である。

新規性: 本研究で初めて、axi-cel輸注製品中の細胞および分子特性が、LBCL患者における有効性と毒性の変動に寄与することを単一細胞レベルで体系的に明らかにした。特に、輸注後7日目のcfDNAシーケンスによる早期分子学的奏効 (EMR) が、3ヶ月時点でのPET/CTによる臨床的奏効と相関することを示したことは新規の知見である。また、高グレードICANSの発症と有意に関連する、単球様転写特性を持つ稀な細胞集団 (IACs) を同定したことは、これまで報告されていない重要な発見である。これらのIACsは、IL1BやCXCL8などの炎症性サイトカインを高く発現しており、ICANSの病態生理におけるその役割が示唆される。

臨床応用: 本研究の知見は、CAR T細胞療法の製造プロセス最適化、患者選択、および毒性管理戦略に重要な臨床的含意を持つ。製造条件を調整して中心記憶CD8 T細胞の生成を促進することで、有効性を高めることができる可能性がある。また、輸注製品中のLAG3+TIM3+CD8 T細胞の割合が高い患者に対しては、LAG3および/またはTIM3阻害抗体による併用療法が有効性を改善する可能性がある。さらに、IACsの検出は、神経毒性の高リスク患者を特定し、IL-1受容体拮抗薬などの骨髄系細胞機能を標的とする予防的治療の恩恵を受ける患者を選択するためのバイオマーカーとして臨床応用できる可能性がある。EMRは、輸注後1ヶ月の最初の臨床評価よりも早期に患者の転帰を予測する指標として、臨床現場での有用性が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で同定されたバイオマーカーの予測能力を大規模な独立した前向きコホートで検証する必要がある。また、IACsの起源と機能、およびin vivoでの神経毒性促進メカニズムをさらに詳細に解明する必要がある。他のCAR T細胞製剤 (例: tisagenlecleucel, liso-cel) や他の疾患 (例: 急性リンパ性白血病、多発性骨髄腫におけるBCMA CAR T細胞) への本知見の一般化可能性も今後の研究で評価すべきである。製造工程への介入 (例: メトホルミンやIL-7/IL-15培養など) による記憶様細胞の富化や、IACsの除去・抑制を目指す製造改良の実装検証も重要な方向性である。

方法

患者コホート: MD Andersonがんセンターでaxi-celを投与された再発/難治性LBCL患者24名を対象とした。このコホートには、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) 16例、形質転換濾胞性リンパ腫 (tFL) 6例、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 (PMBCL) 2例が含まれた。患者はZUMA-1試験または商業使用のいずれかのプロトコルで治療を受けた。3ヶ月時点のPET/CT評価に基づき、完全奏効 (CR, n=9)、部分奏効/病勢進行 (PR/PD, n=14)、評価不能 (NE, n=1) の群に分類された。また、毒性評価に基づき、グレード3以上のCRS (n=4) およびグレード3以上のICANS (n=12) の患者群を特定した。アフェレーシス時に活動性の治療を受けていた患者は、CAR T細胞輸注製品の表現型への潜在的な交絡効果を考慮し、除外された。患者は、MD Andersonがんセンターの施設内審査委員会によって承認されたプロトコルの一環として、細胞および血液サンプルの使用、ならびに非識別化された健康情報の研究目的での使用および開示についてインフォームドコンセントを提供した。

CAR T細胞輸注製品の調製とscRNA-seq: CAR T細胞輸注後、輸注バッグをPBSで洗浄して残存細胞を回収した。これらの細胞は、単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) およびTCRシーケンス (scTCR-seq) のために新鮮な状態で処理された。scRNA-seqは10x Genomics Chromiumプラットフォームを用いて実施され、各サンプルあたり平均約5,000細胞、合計137,326細胞が解析された。品質管理 (QC) 基準を満たした133,405細胞が最終解析に用いられた。

CapID+による細胞同定の強化: scRNA-seqライブラリからマーカー遺伝子およびCARコンストラクト配列のハイブリッドキャプチャーシーケンス (CapID+) を実施し、CD4およびCD8 T細胞の分類を改良した。CapID+は、情報量の多い遺伝子のシーケンス飽和度を高め、検出感度とシグナル対ノイズ比を向上させることで、細胞の同定精度を高めた。これにより、CAR発現状態と細胞の遺伝子発現を正確に割り当てることが可能となった。

バイオインフォマティクス解析: Cell Ranger (10x Genomics, v2.1.1) を用いて生データを前処理し、Seurat (v3.0.2) を用いて正規化、細胞クラスタリング、次元削減を行った。主要な細胞タイプ (CD4、CD8) および機能状態 (活性化、記憶、疲弊、制御性) は、既報のマーカー遺伝子およびCapID+データに基づいて定義された。細胞周期段階は、Seuratに実装されたRコードを用いて計算的に割り当てられた。差次的発現遺伝子 (DEG) 解析は、SeuratのFindMarkers関数を用いて実施され、偽発見率 (FDR) q値 < 0.05、発現量変化 (fold change) > 1.2の基準でフィルタリングされた。遺伝子セット変異解析 (GSVA) は、Hanzelmann et al. BMCBioinformatics 2013のGSVAソフトウェアパッケージを用いて、各細胞のパスウェイスコアを計算するために適用された。

早期分子学的奏効 (EMR) の評価: 血漿由来cfDNAシーケンスにより、治療開始後1週間 (day 7) のEMRを評価した。輸注時 (day 0-1) に同定された体細胞変異を用いて、輸注後1週間、2週間、1ヶ月時点での変異アレル頻度 (VAF) の相対的変化を測定した。VAFの5倍以上の減少をEMRの閾値として設定し、臨床的奏効との関連を評価した。

統計解析: 免疫学的特徴の群間差 (CR vs PR/PD、高グレードCRS vs 低グレードCRS、高グレードICANS vs 低グレードICANS) は、ノンパラメトリックな両側Wilcoxon rank-sum testを用いて決定された。多重比較補正にはBenjamini-Hochberg法が適用され、FDR (q値) が計算された。統計的有意性はp < 0.05とされた。