• 著者: Savas P., Virassamy B., Ye C., Salim A., Mintoff C.P., Caramia F., et al.
  • Corresponding author: Loi S. (Peter MacCallum Cancer Centre, Melbourne)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-05-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29942092

背景

乳癌(特にトリプルネガティブ乳癌(TNBC)やHER2陽性型)における腫瘍浸潤リンパ球(TIL: tumor-infiltrating lymphocyte)は、患者の予後および免疫療法の効果を予測する因子として確立されている (Savas et al. 2016)。しかし、TIL内のT細胞サブセットの構成とその機能的役割の詳細は未解明な点が多かった。T細胞はTILの主要な細胞集団であるが、その量的差異に加え、質的差異(サブセット組成)が患者予後にどのように影響するかは明らかでなかったため、この知識の不足が、乳癌における免疫療法の最適化を妨げていた。

組織常在性メモリーT細胞(TRM: tissue-resident memory T cells)は、リンパ節や循環に帰還せず局所組織に常住する非再循環性T細胞サブセットであり、感染免疫において優れた局所免疫を提供することが示されている (Mueller & Mackay 2016)。TRMは腫瘍免疫においても注目されるサブセットであるが、乳癌における単細胞レベルでの包括的な解析はこれまで報告されていなかった。先行研究では、一次治療後の乳癌TILは原発腫瘍で有意に高値(n=84)であるのに対し、転移巣(n=26)では低値であるというパターンが観察されており、再発・転移乳癌が免疫拒絶環境となる可能性が示唆されていた (Savas et al. 2016)。

免疫チェックポイント阻害療法はTNBCで探索されているが(pembrolizumabやatezolizumabの早期試験)、奏効率は限定的であり、TIL量と応答の相関が示されている一方で、TILサブセットの詳細な解析は不十分であった (Adams et al. 2017, Schmid et al. 2017)。この課題へのアプローチとして、シングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)の登場により、T細胞の質的評価が可能になった。本研究は、乳癌におけるT細胞サブセットの異質性を詳細に解析し、特にTRMサブセットの分子的特徴と臨床的意義を明らかにすることで、この知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、原発性乳癌浸潤T細胞のシングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)を実施し、機能的なT細胞サブセットを網羅的に同定することである。特に、組織常在性メモリーT細胞(TRM)サブセットが存在するかどうか、その分子的特徴、および臨床的予後との関連性を明らかにすることを目的とした。さらに、単細胞データから得られたTRM遺伝子シグネチャーが、既存のCD8単遺伝子発現よりも優れた予後情報を提供するかを検証することも重要な目的であった。最終的には、TRM細胞が乳癌の免疫監視にどのように寄与し、免疫チェックポイント阻害療法の標的となり得るかを評価することを目指した。

結果

scRNA-seqによるT細胞サブセットの同定: 6,311個のCD3+CD45+T細胞に対する非教師ありクラスタリング(t-SNE可視化)により、10個の固有クラスターが同定された (Fig. 2b)。1例目のサンプルは平均read数45,386/細胞、中央値遺伝子検出数833、2例目は218,263/細胞、1,347遺伝子であり、シーケンシング飽和度90%以上を達成した。うち3個はCD8A+、4個はCD4+クラスターであり、制御性T細胞(Treg: regulatory T cells、FOXP3+CTLA-4+)と濾胞性CD4+(CXCL13+)クラスターも含まれた。注目すべきは、CD8A+クラスターの1つがTRMの表現型を示す点であり、他のT細胞クラスターとの比較でFDR <1%で有意差を示す400遺伝子が同定された (Fig. 2d)。このTRM様CD8+クラスターはITGAE(CD103)、CXCR6、CD69の高発現とともに、組織残留マーカー(SELL、KLRG1、KLF2、S1PR1、S1PR5の低発現)を示した。

TRMの分子的特徴と機能: TRM様クラスターはGZMB(granzyme B)、PRF1(perforin)などの細胞傷害性遺伝子を高発現しながら、同時に免疫チェックポイント(HAVCR2/TIM3、PDCD1/PD1、CTLA4、TIGIT、LAG3)も高発現していた (Fig. 2e)。これはTRMが強力な抗腫瘍能力を持ちつつ、腫瘍微小環境で機能抑制を受けている状態を示す。Monocle 2アルゴリズムによるpseudotime解析では、TRM様細胞とTEM(effector memory T cells)様細胞はpseudotime pathの両端に位置し、両者の表現型的差異が確認された (Fig. 2f)。また、小さな増殖性CD8+TRM様クラスター(有糸分裂特徴を持つ)も同定され、腫瘍内でTRMが積極的に細胞分裂していることが示された。in vitro機能解析では、CD8+CD103+TILはCD8+CD103-TILより有意に高いgranzyme B発現を示した(n=5 TNBC患者、p=0.008) (Fig. 3d)。CD3/CD28刺激なしでもTILはgranzyme BとRANTES(CCL5)を分泌したが、IFN-γ分泌にはTCR刺激が必要であった。

フローサイトメトリー解析とバルクRNA-seqによるTRMの確認: 乳癌患者129例のサンプルでの解析で、CD8+TILはCD4+TILより有意に高率でCD103を発現した(TNBC、HER2、Luminal各サブタイプ共通) (Fig. 1c)。CD8+CD103+T細胞の比率はCD8+TIL総数と有意に正相関した。CD8+CD103+TILはCD8+CD103-TILより有意に高率でPD-1(programmed cell death protein 1)を発現し(全解析例n=30 PD-1+、n=30 PD-1-)、CTLA-4(cytotoxic T lymphocyte-associated protein-4)とPD-1の二重陽性率も高かった (Fig. 1d)。多重蛍光免疫組織化学によりTNBC原発腫瘍でCD8とCD103の共発現が確認された (Fig. 1e)。FACS-sortedのCD8+CD103+とCD8+CD103-T細胞のバルクRNA-seq(n=3例:原発腫瘍2例+肝転移1例)で534遺伝子(FDR <5%)が有意差を示した (Fig. 3a)。CD8+CD103+集団ではS1PR1、KLF2(組織退出遺伝子)の発現が有意に低下し、PD1、CTLA4(免疫チェックポイント)が高発現していた。バルクRNA-seqと単細胞RNA-seqから得られたシグネチャーの高い一致がGSEA(limma roast gene set test)で確認され、単細胞データの再現性が独立サンプルで検証された (Fig. 3c)。

TCRレパートリー解析: TCRβシーケンシングで、原発腫瘍2例におけるCD8+CD103+とCD8+CD103-T細胞のTCRレパートリーに重複がないことが示された (Fig. 3e)。これはTRMとTEMが異なる抗原特異性を持つことを示唆する。肝転移では有病率0.5%以上のクローンに一部重複が認められた。TRMのクローン性(平均0.2)はTEMのクローン性(平均0.11)より数値的に高く、抗原認識に伴うクローン増殖が示唆された。

TRMシグネチャーと予後: METABRIC TNBC 329例でのTRMシグネチャーによる予後解析では、TRMシグネチャー高値患者でDFSおよびOSが有意に改善した(log-rank p値有意) (Fig. 4a,b)。Cox多変量解析では、年齢、リンパ節転移、病期、腫瘍サイズ調整後もTRMシグネチャーは有意な独立した予後因子であり、CD8(CD8A)発現単独よりもハザード比が良好で予後識別能に優れていた(DFSのHR 0.65 (95% CI 0.50-0.85, p<0.001); OSのHR 0.61 (95% CI 0.46-0.81, p<0.001)) (Fig. 4f)。TRMシグネチャーは高CD8+TIL群の中をさらに予後良好群・不良群に分けられた(CD8A高発現内のTRM高群 vs. 低群でDFSが有意差) (Fig. 4e)。予後価値の比較では、TRMシグネチャーがCD8、CD3、CD103の単遺伝子発現およびTH1、TFH、STAT1の既報シグネチャーより優れていた。TNBCでのTRMシグネチャー発現は他の乳癌サブタイプ(HER2陽性、Luminal)より高値であった(METABRIC n=1,775例) (Fig. 4g)。

免疫チェックポイント阻害との関連: メラノーマ患者45例(68サンプル)のチェックポイント阻害治療データの公開コホートでは、治療前基準値でのTRMシグネチャー発現がresponder(n=9)でnonresponder(n=36)より有意に高値であり(p<0.001)、ニボルマブ治療中の生検でTRMシグネチャー遺伝子の有意な上方制御が確認された (Fig. 4h)。

考察/結論

先行研究との違い: 先行研究ではTIL全体の量で予後予測が行われてきたが、本研究はT細胞の機能的サブセット(TRM)への焦点が重要であることを初めて乳癌の単細胞レベルで実証した点で、これまでの研究とは対照的である。これまでの研究では、T細胞の量的側面が強調されてきたのに対し、本研究は質的側面が予後予測においてより優れていることを示した。

新規性: 乳癌の6,311個のT細胞に対するscRNA-seqは、当時の乳癌TIL解析として最大規模の単細胞解析であり、本研究で初めてCD8+TRMサブセットを詳細に同定した。TRM単細胞シグネチャーが既存のCD8・CD3・CD103単遺伝子発現および複数の既知T細胞シグネチャーより優れた予後情報を提供したことは、TILの「質的」評価の重要性を示す決定的なエビデンスである。TRMが細胞傷害活性、チェックポイント発現、積極的細胞分裂能の3特性を持つことは、局所免疫応答の「最前線エフェクター」として機能していることを示す新規な知見である。

臨床応用: TRMがPD-1高発現でPD-L1陽性腫瘍細胞と接触しているという位置情報は、TRMの腫瘍殺傷活性がPD-L1/PD-1軸で抑制されており、免疫チェックポイント阻害剤がTRMを活性化することで抗腫瘍効果を発揮するという機構と整合する。メラノーマ公開コホートでのresponderにおけるTRM富化は、TRMシグネチャーが免疫チェックポイント応答の予測バイオマーカーとなる可能性を示唆し、臨床応用への大きな意義を持つ。この知見は、乳癌患者における免疫療法の奏効予測と治療戦略の最適化に貢献する可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、TRM誘導のための治療戦略(局所放射線療法、腫瘍ワクチンなど)の開発、HER2陽性・HR陽性乳癌でのTRMの役割の解明、前向き臨床試験でのTRMバイオマーカーの検証、そして他の固形腫瘍(非小細胞肺癌、大腸癌を含む)でのTRM役割の検証が重要である。原発腫瘍でのTRMのTCRクローン性(平均0.2)と転移巣でのTCRレパートリーの一部重複は、TRMが腫瘍微小環境で抗原特異的に拡大したクローン集団であり、転移巣への再配分が起こりうることを示唆するが、そのメカニズムは未解明である。TRM分化のメカニズム(IL-15・TGF-βシグナルの関与)、PD-L1高発現腫瘍でのTRM応答性予測なども今後の研究課題として残されている。本研究データはウェブツールとして公開され(tilsinbreastcancer.org)、研究コミュニティによる二次解析が可能であり、n=6,311細胞の単細胞転写産物データが乳癌TIL研究の共通リソースとして機能している。

方法

本研究はレトロスペクティブコホート解析として実施された。原発性TNBC患者2例から新鮮凍結腫瘍組織を採取し、6,311個の腫瘍浸潤T細胞のシングルセルRNAシーケンス(Smart-seq2法)を施行した。細胞はフローサイトメトリーでCD3+CD45+T細胞としてソーティングされた。シーケンスデータはCell Rangerソフトウェアパイプライン(バージョン1.3.1)で処理され、Seuratパッケージ(バージョン1.4.0.14)を用いて品質管理、正規化、バッチ補正が行われた。教師なしクラスタリング(t-SNEによる可視化)によりT細胞サブセットを同定し、10個の固有クラスターが特定された。TRMシグネチャー遺伝子セットは、CD8+CD103+とCD8+CD103-T細胞のバルクRNAシーケンス(別の患者3例:原発腫瘍2例+肝転移1例)で検証された。このバルクRNAシーケンスデータはkallisto(バージョン0.43.0)で定量化され、Ritchie et al. NucleicAcidsRes 2015(バージョン3.32.8)を用いて差次的発現解析が行われた。FDR <5%で534遺伝子が有意差を示した。

予後解析はMETABRICコホート(基底様/TNBC 329例)の公開遺伝子発現データを用いて実施された。TRMシグネチャースコアはRパッケージgenefu(バージョン2.8.0)の’sig.score’関数を用いて算出された。無再発生存期間(DFS: disease-free survival)および全生存期間(OS: overall survival)はKaplan-Meier法およびCox回帰分析で解析された。Cox多変量解析では、年齢、リンパ節転移、病期、腫瘍サイズで調整された。フローサイトメトリー解析は、乳癌患者129例(原発腫瘍84例、転移45例、リンパ節転移を除く)から分離されたTILを用いて実施された。抗体パネルにはCD45-BV510、CD3-APCH7、CD8-BV605、CD103-BV421、PD-1-BV785、CTLA4-APCなどが含まれた。多重蛍光免疫組織化学は、TNBC原発腫瘍のFFPE切片でCD8とCD103の共発現を確認するために行われた。

T細胞受容体(TCR: T cell receptor)レパートリー解析は、バルクRNAシーケンスデータからmixcr(バージョン2.1.5)を用いてTCRβ CDR3配列を抽出し、クローン性(clonality)を評価した。機能解析では、TNBC患者5例から得られたTILを自己乳癌細胞と共培養し、CD3/CD28刺激の有無でグランザイムB(GZMB)、RANTES(CCL5)、インターフェロンγ(IFNγ)の分泌を評価した。メラノーマ患者45例(68サンプル)の免疫チェックポイント阻害治療に関する公開コホートデータ(Riaz et al. Cell 2017)も解析され、治療前基準値でのTRMシグネチャー発現と治療応答の関連が評価された。統計解析には、Wilcoxon rank-sum test、Kruskal-Wallis rank-sum test、Spearmanの順位相関、およびRobinson et al. Bioinformatics 2010が用いられた。