• 著者: Bernhard Gentner, Marica Eoli, Francesca Farina, Matteo Barcella, Alessia Capotondo, Fabio Ciceri, Luigi Naldini, et al.
  • Corresponding author: Bernhard Gentner, Luigi Naldini (IRCCS San Raffaele Scientific Institute / CHUV, Lausanne)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42225991

背景

膠芽腫 (glioblastoma、GBM) は脳内に浸潤性増殖する IDH1/2 野生型の高悪性度神経膠腫であり、腫瘍関連マクロファージ (TAM) を主体とする骨髄系優位の強力な免疫抑制性腫瘍微小環境 (TME) を形成する「免疫学的コールド腫瘍」の代表格である (Lecoultre et al. JImmunotherCancer 2020)。Stupp レジメン (テモゾロミド化学放射線療法) 導入以来約20年間、治療の大きな進歩はなく、MGMTプロモーター非メチル化 GBM では標準治療の mOS は約14ヶ月にとどまっており、PD-1/PD-L1 阻害薬を含む免疫チェックポイント阻害薬も GBM では有効性が示されていない (Cloughesy ら NEJM 2019;Reardon ら NEJM 2020)。キメラ抗原受容体 T 細胞 (CAR-T) 療法の臨床探索 (Brown et al. NEnglJMed 2016) でも腫瘍の抗原不均一性から持続的な奏効は限られ、GBM における免疫療法の課題が残された。骨髄系細胞を標的とした治療戦略として、TAMs の脱抑制化・再プログラム化への関心が高まっているが、成熟マクロファージは増殖能・寿命が限られており細胞療法への応用には困難が伴う。一方、造血幹細胞・前駆細胞 (HSPC) の ex vivo レンチウイルス遺伝子治療はリソソーム蓄積症での中枢神経系 (CNS) 酵素補充においてブスルファン前処置後の骨髄由来ミクログリア置換による血液脳関門透過を実証済みであり (Biffi ら Science 2013;Sessa ら Lancet 2016)、GBM TME への応用基盤が整っていた。TIE2 発現単球・マクロファージ (TEM) はマウス・ヒトの腫瘍で確認された腫瘍血管新生を促進する TAM サブセットであり、IFNα2 産生を TIE2 エンハンサー・プロモーター下で制御しつつ miR-126 ターゲット配列で造血幹細胞での発現を抑制する lentiviral ベクター「TIA126」で遺伝子操作した HSPC(Temferon)は前臨床 GBM モデルで TME 骨髄系リプログラミング・適応免疫活性化・有意な腫瘍制御を示した。GBM TME を標的とした免疫療法の強固な臨床的エビデンスは不足しており (Gao et al. Cell 2026)、MGMT 非メチル化新規 GBM を対象としたヒト初回投与試験はなく、Temferon の安全性・忍容性・TME 局所 IFNα 活性の臨床的証明が未解明のままであった。

目的

MGMT プロモーター非メチル化の新規診断膠芽腫患者において、外科的腫瘍切除・限局照射放射線療法 (CFRT) 後に実施する Temferon(TIA126 導入自家 HSPC 移植)の安全性・忍容性・生物学的有効性を評価すること (TEM-GBM_001 試験、EudraCT 2018-001404-11、NCT03866109)。

結果

患者背景・安全性:DLT なし・ブスルファン単剤前処置の選択:スクリーニング34例中27例が ITT (intention-to-treat) 集団を構成し、24例が Temferon 投与を受けた (Fig. 1)。投与された Temferon 用量の中央値は形質導入 CD34+ 細胞8〜33% (コホート1→8で漸増)。投与後90日以内の主要評価項目である DLT は最高用量 4.0 × 10^6 cells/kg まで認めなかった。全患者が TEAE (treatment-emergent adverse event) を経験したが、75% はグレード1〜2 (CTCAE v5.0) の軽〜中等度であり、主として前処置化学療法に起因する自家幹細胞移植 (ASCT) に一致する血液毒性・感染症であった (Table 1、Fig. 2a)。移植関連死亡 (TRM): 3例 (12.5%)—いずれも二重アルキル化薬前処置コホートの感染症合併死で、ブスルファン単剤コホートでは死亡なし。ブスルファン単剤は TEAE(特に感染症)頻度が低く、DMC 勧告によりさらなる開発前処置レジメンとして選択された。Temferon 注入自体による AE なし;CAR-T 療法で典型的なサイトカイン関連神経毒性は認めず (Fig. 2b)。day +30 での血液回復は全例達成し、好中球・血小板回復の中央値はそれぞれ day +14・+19 であった (Fig. 2c, 2d)。

生着・IFNα 産生:骨髄長期生着と CSF 内 IFNα 検出:全 Temferon 投与例が末梢血 (PB) および骨髄 (BM) でベクター標識細胞の生着を確認した (Extended Data Fig. 2)。BM CD33+ 前駆細胞での VCN は day +30 にピークに達し、入力 TIA126 形質導入 CD34+ 細胞分画とよく一致し (Fig. 3a)、その後漸減して安定し、submyeloablative 前処置による内因性 HSC 回復で希釈される想定と一致した。PB血漿 IFNα レベルはデータカットオフまで低値 (<31 pg/mL) を維持し VCN との相関なし (Fig. 3c);一方 CSF IFNα はベースラインで全例検出限界以下 (<1.95 pg/mL) であったが、day +30 で評価可能12例中6例 (50%)、day +90 で15例中11例 (73%)、day +180 および +360 では全例で検出可能となり (Fig. 3d)、頻繁に day +180 でピーク値を示した。これは BM 由来形質導入単球の GME への持続的浸潤と一致する所見であった。

腫瘍内 Temferon 進達と IFNα 駆動性 TME リプログラミング:9例の腫瘍サンプル (剖検1例+再手術8例) で全評価可能サンプルにベクターコピーを検出 (VCN 範囲1〜6%、1例を除く)。CD45+ 腫瘍消化物の VCN と対応 PB CD14+ 単球 VCN の比較では、腫瘍白血球の VCN は単球 VCN の中央値 48% (範囲11〜212%) であり (Fig. 3e)、Temferon グラフトからの TAM 補充が3年超で検出可能であった (患者 TEM-G29)。腫瘍内 TIE2+ TEM (TEMs) は TAM コンパートメントの 2〜25% を占め、再手術サンプルでは診断時と比較して IRG (interferon-responsive gene) 発現が最大10倍に上昇した (OAS1 FC: 0.7〜76×、IFIT1 FC: 0.7〜89×、IRF7 FC: 2.1〜12×;Fig. 3e)。また CD34+ 血管密度は Temferon コホートで診断〜再発間に有意に減少したが対照コホートでは減少せず (P=0.008、Mann-Whitney test)、抗血管新生効果を示唆した (Fig. 4b)。

scRNA-seq による TME 骨髄系・T細胞リプログラミング:Temferon 投与後腫瘍 n=7 例と対照再発 GBM n=6〜14 例の scRNA-seq 比較 (Fig. 4) では、Temferon 腫瘍全体で IFN・炎症性シグナル経路の pervasive な濃縮、酸化的リン酸化・MYC シグナルの減弱、アポトーシス・低酸素の増加が GSEA で確認された (BH adjusted P<0.01)。骨髄系マクロ群分類では M-IV 炎症性マクロファージ優位クラスターへの集積率は Temferon vs 対照で 71% vs 34% を示し (Fig. 4c)、IFNα 駆動の骨髄系リプログラミングを裏付けた。DGE 解析では IFN 誘導遺伝子・炎症活性化マーカーが上昇し、APOC1・リボソームタンパク遺伝子が低下、M2 様→M1 様サブセットシフトが有意であった (Extended Data Fig. 6f)。T細胞コンパートメントでは Temferon 後に GZMK+ CD8 エフェクター細胞増加と stem-like/活性化 T 細胞の有意な増加、終末分化 CD8 エフェクター (CD8tdEff) の減少が確認された (Fig. 4g)。単一患者 (TEM-G11) の安定病変 vs 進行病変の intrapatient 比較では、安定病変で IRG・抗血管新生遺伝子発現高値・TEMs 比率高値 (TL1: 16% vs TL2: 3%) および腫瘍反応性 CD8 T 細胞 (neoTCR8+) 蓄積が示され (Fig. 5)、TME での Temferon 誘導骨髄系リプログラミングと腫瘍反応性 T 細胞活性化の連動が実証された。

臨床転帰:mOS 16.7ヶ月・良好な QoL 維持:mOS は診断からの推定で 16.7ヶ月、mPFS は 8.1ヶ月。Temferon 投与からの OS 率は6ヶ月 86.7%・12ヶ月 53.4%・18ヶ月 31.1%・24ヶ月 37.3%、PFS 率は6ヶ月 50.2%・12ヶ月 16.7%・24ヶ月 11.2% (Fig. 3b)。2例の長期生存者が day +300 / +420 に後期部分奏効を追加治療なしに達成した。患者の80%が day +180 で Karnofsky 良好 PS を維持、day +360 で評価可能7例中5例が KPS ≥80%。EORTC QLQ-C30 および GBM 特異的 QLQ-BN20 は1年間にわたる global health・機能スケールの安定を示した (Extended Data Fig. 3)。ベクター挿入部位解析では挿入変異誘発やクローン優位性の証拠なし (Supplementary Fig. 3)。

考察/結論

① 先行研究との違い:GBM に対する PD-1/PD-L1 阻害薬(CheckMate 143 / Keynote-028 等)が有効性を示さなかったこれまでの免疫療法と異なり、本試験では TME 内のマクロファージを遺伝子操作された HSPC 由来細胞で置換し tumor-restricted な IFNα 産生を実現する新たなアプローチを採用した。また全身 IFNβ 投与の RCT(放射線化学療法への追加)が生存利益を示せなかった先行試験とも対照的であり、局所・持続的・低用量という Temferon の薬動学的特性が systemic exposure を回避しつつ免疫活性を維持する戦略的優位性と相違する。

② 新規性:本試験は HSPC 遺伝子治療が GBM TME に浸潤する骨髄系後代細胞を継続的に生成し、局所 IFNα を産生して内因性の抗腫瘍免疫(炎症性マクロファージシフト・GZMK+ CD8 T 細胞の増殖・腫瘍反応性クローンの蓄積)を誘導することを、本研究で初めてヒト臨床試験で実証した。TIE2/miR-126 制御による腫瘍選択的 IFNα 発現という二重制御機構が骨髄での全身曝露を最小化しつつ CNS での IFNα 活性を実現するという新規の概念的枠組みは、これまでにないものである。

③ 臨床応用:ブスルファン単剤前処置の選択により TRM リスクを低減しながら忍容性を担保する方向性が確立され、Phase 2 ランダム化試験への移行基盤となる。臨床応用の観点から、Temferon は CAR-T 細胞療法(抗原異質性による短命な奏効が課題)の有望な併用相手として位置づけられ、HSPC プラットフォームは二重特異性 T 細胞エンゲージャー等の他のペイロード送達にも適用可能である。また抗 VEGF 薬 (ベバシズマブ) との組み合わせで持続奏効が観察された患者もおり、臨床現場での多剤併用設計に示唆を与える。

④ 残された課題:本試験は Phase 1 デザインであり患者数が少なく無作為化対照がないため、16.7ヶ月の mOS が Temferon 自体の効果によるものか選択バイアス(MGMT 非メチル化 GBM の SoC mOS 約14ヶ月と比較して有利な方向性はあるが)かを確定できない。GBM のネオ抗原負荷の低さが自発的腫瘍拒絶を制限し、完全奏効を達成するには外来性の強腫瘍反応性 T 細胞(CAR-T 等)との組み合わせが必要な可能性がある。ブスルファン前処置と TME 置換効率の最適化、形質導入効率の向上、HSPC 由来細胞の engraftment と IFNα 産生に必要な最小有効用量の規定が今後の検討課題として残されており、Phase 2 ランダム化 Proof-of-concept 試験での有効性検証が期待される。

方法

試験デザイン: Phase 1/2a、オープンラベル、単アーム、用量漸増試験。イタリア多施設共同 (複数神経外科・血液腫瘍科施設)。HSPC 動員・採集 → 製造 (TIA126 レンチウイルス形質導入、VCN 目標約1) → CFRT (60 Gy / 6週間、テモゾロミド省略) → 前処置 (busulfan または BCNU ± thiotepa) → Temferon 静脈投与 (0.5〜4.0 × 10^6 CD34+ cells/kg) + supporter apheresis 同日投与 (≥2〜3 × 10^6 CD34+ cells/kg、血液回復支援)。8コホートで3変数 (Temferon 用量・前処置レジメン・supporterCD34+細胞量) を検討。データモニタリング委員会 (DMC) が各コホートの day +30 完了後に用量制限毒性 (DLT) 不在を確認してから次コホートを開始。

対象: 組織学的に確認された MGMT プロモーター非メチル化 IDH 野生型 GBM(外科的切除後)、補助放射線療法の禁忌なし、予後余命 ≥6ヶ月。

主要評価項目: 投与後90日以内の安全性・忍容性(DLT:投与後30日以内のTemferon 起因グレード3〜5有害事象)。副次評価項目: 長期安全性 (2年)、Temferon 生着、臨床応答 (iRANO 基準)、QoL (EORTC QLQ-C30 v3.0)、OS・PFS。後解析として血液・CSF・腫瘍組織での Temferon 進達・局所 IFNα 活性 (ベクターコピー数 VCN・免疫組織染色・scRNA-seq・scTCR-seq) を探索的に実施。

統計: 記述統計。Kaplan-Meier 法による OS・PFS 推定。DGE は MAST 法 (2-sided、Benjamini-Hochberg FDR 補正)。Mann-Whitney 検定 (2-sided)。GSEA はpreranked logFC gene lists。

登録: 2019年4月〜2024年2月。データカットオフ: 2024年6月20日。