• 著者: Chia-Yung Wu, Kole T. Roybal, Elias M. Puchner, James Onuffer, Wendell A. Lim
  • Corresponding author: James Onuffer (University of California, San Francisco, CA, USA); Wendell A. Lim (University of California, San Francisco, CA, USA; Howard Hughes Medical Institute)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-09-24
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26405231

背景

CAR-T細胞療法は、B細胞悪性腫瘍において劇的な奏効を示す一方で、重篤な副作用が臨床上の大きな課題となっている。具体的には、サイトカイン放出症候群 (CRS)、腫瘍崩壊症候群、およびoff-tumor on-target毒性(心臓、肺、肝臓などの非腫瘍細胞への攻撃)が挙げられ、これらは致死的となる可能性もある。例えば、HER2を認識するCAR-T細胞を用いた転移性結腸癌の治療では、肺に低レベルのHER2を発現する正常細胞との重篤かつ急速な交差反応が報告されており、CAR-T細胞が注入直後に肺に集中し通過する際に「初回通過毒性」として現れることが示されている Morgan et al. MolTher 2010。このような初回通過毒性は、T細胞が全身に分布するまで活性化を遅らせることで潜在的に制限できる可能性がある。

既存の安全性制御戦略としては、自殺スイッチの導入が挙げられる。例えば、小分子によって誘導されるカスパーゼを介してアポトーシスを誘発するiCasp9 (inducible caspase 9) システムは、T細胞の毒性効果が制御不能になった場合に注入されたT細胞を排除するために用いられる DiStasi et al. NEnglJMed 2011。しかし、これらの自殺スイッチは、高価な治療を不可逆的に中断させるだけでなく、初回投与直後の予期せぬ交差反応を迅速に防ぐには不十分である可能性があり、精密な制御が不足しているという課題が残されている。また、PD-1やCTLA-4に基づく抑制性キメラ抗原受容体 (iCAR) は、特定の「殺傷しない」リガンドを発現する細胞での殺傷を阻止できるが、T細胞活性の全体的な時間的・強度的な制御はできない Fedorov et al. SciTranslMed 2013。これらの既存の制御システムでは、CAR-T細胞の活性を細かく調整する「微調整」機能が未解明であり、より柔軟な「ON-switch」型の制御システムが求められていた。これは、外来性のユーザー提供シグナル(例えば小分子)が活性化に必須となるポジティブ制御を指す。このようなON-switchは、活性を適切な治療レベルに段階的に滴定できるだけでなく、活性化のタイミングを制御することで、細胞移植直後に発生する初回通過毒性を防ぐことができる。

自然のB細胞受容体 (BCR) やT細胞受容体 (TCR) は、抗原結合ドメインと細胞内シグナル伝達ドメインが別々のポリペプチドに存在し、ヘテロ二量体化によって機能する。この天然の分離構造に着想を得て、本研究ではFKBP-FRB*ヘテロ二量体化ドメインを介してCARの2つの部分を小分子 (rapalog AP21967) 依存的に組み立て・解離させるANDゲート型合成受容体を設計した。これにより、抗原と小分子の両方が存在する場合にのみCAR-T細胞が活性化されるような、より精密な制御機構の確立を目指した。このアプローチは、CAR-T細胞の安全性と精密な治療効果の実現に貢献する可能性を秘めている。

目的

本研究の目的は、抗原と小分子の2つの入力を要求するANDゲート型「ON-switch CAR (chimeric antigen receptor)」を合成生物学的に設計・最適化することである。具体的には、rapalogなどの小分子の投与量によって、CAR-T細胞の活性を用量依存的 (titratable)、可逆的 (reversible)、および時間的 (temporally controlled) に制御できる次世代キメラ受容体プラットフォームを構築することを目指した。これにより、CAR-T細胞療法の安全性と精密な治療効果を両立させ、臨床応用における重篤な毒性管理の課題を克服する新たな戦略を提供することを意図した。このON-switch CARの設計は、細胞自律的な疾患シグナル認識(腫瘍抗原)とユーザー制御シグナル(小分子)を統合し、より安全で精密に制御可能な細胞治療薬の開発に貢献することを目指す。最終的には、既存のCAR-T細胞療法が抱える重篤な毒性という課題に対し、より柔軟で精密な制御を可能にする技術基盤を確立することを目指した。

結果

ON-switch CAR設計の最適化とANDゲート機能の確立: 複数の分離構成を試行した結果、scFv-CD8α-TM-FKBPをPart I、FRB*-4-1BB-CD3ζをPart II(膜アンカー付き)とする構成 (I.b + II.d) が、小分子存在下で強力なNFAT活性化と殺腫瘍活性を示し、小分子非存在下ではほぼベースラインレベルの活性を示す最適configurationとして同定された。Jurkat NFATレポーターアッセイでは、抗原のみ、rapalogのみ、または抗原なし+rapalogありのいずれの条件でもベースラインレベルのレポーター活性しか示さず、抗原とrapalogの両方が存在する場合にのみ、従来型CARとほぼ同等の強力な活性化 (IL-2産生) を示した (Fig. 2B)。これは、ON-switch CARがBoolean ANDゲートとして機能し、抗原特異性を保持しつつ、小分子単独ではT細胞の非特異的活性化を引き起こさないことを明確に示している。この最適化された設計では、IL-2産生が抗原とrapalogの同時存在に依存し、rapalog非存在下ではIL-2産生がほぼ検出限界以下であった (Fig. 2B)。

用量依存的かつ可逆的なT細胞活性制御: rapalog濃度を0 nMから500 nMの範囲で変化させると、CD19+標的細胞の殺傷活性は用量依存的に0%から100%へとスムーズに増加する用量反応曲線を示した (Fig. 4C)。IL-2、IFN-γ、TNF-αなどのサイトカイン産生も同様の用量依存性を示し (Fig. 3B)、高用量rapalog時には従来型CARに匹敵する最大活性を達成可能であった。例えば、500 nM rapalog存在下では、IL-2産生は平均で約2000 pg/mLに達し、これは従来型CARの活性とほぼ同等であった。また、rapalog除去後、ON-switch CAR-T細胞の活性は数時間以内にベースラインに復帰し、再添加によって活性が回復する可逆性を示した (Fig. S8)。この可逆性は、36時間ごとにrapalogの有無を切り替える実験で確認され、rapalog存在下でのみ標的細胞の殺傷が観察された (Fig. S8B)。CD69の発現解析では、小分子の濃度増加に伴い、CD69高発現の活性化状態にある細胞の割合が増加するバイモーダルな応答が観察された (Fig. 3C)。

単一分子イメージングによる作用機序の解明: PALMを用いた単一分子イメージングにより、rapalog非存在下では、ON-switch CARのPart IとPart IIはマクロレベルでは共局在しているように見えても、単一分子レベルでは物理的に結合していないことが明らかになった。Part I分子が抗体によって固定されているにもかかわらず、Part II分子は膜内で高速拡散を示した (平均拡散係数 ~0.1 µm²/s)。しかし、rapalog添加後にはPart II分子も不動となり、Part I分子の軌跡と一致した (Fig. 2D)。この結果は、小分子の存在下でのみ両コンポーネントが密接に会合するというモデルと一致し、ON-switch CARの機能が小分子誘導性の分子会合に依存していることを直接的に示している。この会合はrapalog添加後、数分以内に観察された。

In vivoでの腫瘍退縮と小分子依存性: NSGマウスの皮下異種移植モデルにおいて、ON-switch CAR-T細胞 (n=5 mice) の輸注後、rapalog連日投与群のみで腫瘍増殖が有意に抑制され、腫瘍退縮が観察された。rapalog非投与群 (n=5 mice) では、腫瘍増殖パターンは従来型CAR群の非投与時と類似しており、in vivoでの殺腫瘍活性が小分子に依存していることが実証された (Fig. 5A)。高用量rapalog群では、従来型anti-CD19 CAR-T細胞と同等の抗腫瘍効果を達成した。腹腔内異種移植モデルでは、ON-switch CAR-T細胞とrapalogを投与したマウスにおいて、CD19+標的細胞の選択的な枯渇が観察され、rapalog非投与群やT細胞非投与群と比較して有意な差が認められた (p < 0.0017, p < 0.001) (Fig. 5B)。CD19+細胞の生存率の比率は、ON-switch CAR + rapalog群で約0.2に対し、ON-switch CAR単独群では約0.9であった。

モジュラー設計と汎用性: ON-switch CARの設計はモジュラーであり、scFv部分をanti-Her2やanti-mesothelinなどの他の認識ドメインに置換可能であることが示された (Fig. S4)。また、ヘテロ二量体化ドメイン (FKBP-FRB*) をGID1-GAI (gibberellin) などの別の小分子誘導性二量体化システムに交換可能であることも実証された (Fig. 2B)。このGID1-GAIシステムを用いた場合も、CD19抗原とgibberellinの同時存在下でのみIL-2産生が誘導され、同様のANDゲート機能を示した (Fig. 2B)。これにより、将来的に臨床用に最適化された、rapalog以外の生体不活性な薬剤を用いた直交的な制御系への置き換えが可能となる柔軟性が示された。

考察/結論

本研究は、抗原と小分子の2つの入力を要求するANDゲート型合成受容体「ON-switch CAR」を初めて実現し、CAR-T細胞療法の臨床安全性を大幅に向上させる合成生物学的制御プラットフォームを提示した記念碑的研究である。本システムは、用量依存的 (titratable)、可逆的 (reversible)、時間的 (temporal) という3つの制御様式すべてを達成しており、既存の自殺スイッチ (iCasp9、EGFRt) では不可能な「微調整」可能な治療を実現した点で根本的に新しい。

先行研究との違い: これまでのCAR設計が抗原認識とシグナル伝達を単一のポリペプチドに統合していたのに対し、本研究は自然のTCRやBCRの分離アーキテクチャを模倣し、CARの主要コンポーネントを2つの独立したポリペプチドに分割した点で対照的である。これにより、小分子依存的なヘテロ二量体化を介してCAR活性を制御するという、これまで報告されていない新たな制御軸を導入した。

新規性: 本研究で初めて、Boolean ANDゲート型受容体という合成生物学の抽象概念を治療T細胞に応用し、抗原と小分子の同時存在を必須とする二重制御システムを確立した。この小分子依存的ヘテロ二量体化(FKBP-FRB-rapalog系)の治療応用は新規であり、CAR-T細胞の活性をin vitroおよびin vivoで用量依存的、可逆的、かつ時間的に制御できることを実証した。また、モジュラー設計により、抗原認識ドメインや二量体化システムを柔軟に交換できる汎用性も示した。

臨床応用: 本知見は、CAR-T細胞療法の臨床応用における安全性プロファイルを大幅に改善する可能性を秘めている。例えば、CRS発症時には小分子の投与を中断することでCAR-T細胞の活性を即座に減衰させることが可能である。また、初回投与時のcross-reactionを回避するためにrapalogの投与を段階的に開始したり、腫瘍量に応じた用量滴定により腫瘍崩壊症候群を回避したりすることも考えられる。さらに、小分子の局所投与(腫瘍内rapalogデリバリー)により、CAR-T細胞の活性を空間的に制御し、off-tumor毒性を軽減する可能性も示唆される。本論文から発展して、Calibr/ScrippsのCAR-Tアダプタープラットフォーム、Cartherics、Obsidian TherapeuticsのcytoDRiVE、ArsenalBioのlogic gate CARsなど、臨床開発への応用が進んでいる。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で使用されたAP21967は臨床未承認薬剤であり、臨床応用には薬物動態および毒性評価が必要である。また、rapalogの誘導タイミング(薬物動態)と腫瘍への曝露の調整、従来型CARと比較してon-rateが遅く初期の急速な腫瘍縮小が得られない可能性、長期的な安全性データの蓄積が挙げられる。さらに、抗原逃避変異(CD19陰性再発)に対する戦略、in vivoでのFKBPやFRB*に対する免疫原性(ヒト化ドメインの開発)、固形腫瘍における障壁(腫瘍微小環境からの排除、物理的障壁)との併用戦略も今後の研究で解決すべき点である。本研究は、合成生物学ベースの次世代T細胞療法プラットフォームの基盤となり、Lim研究室と関連会社(Cell Design Labs、後にGileadに買収)を通じて臨床応用への道筋が進展した歴史的意義を持つ。

方法

受容体分子設計: ON-switch CARは、従来のCARの主要なシグナル伝達モジュールと認識モジュールを分離し、小分子依存的なヘテロ二量体化ドメインを介して結合させることで構築された。Part Iは、抗CD19 scFv (single-chain variable fragment) にCD8αヒンジ、CD8α膜貫通ドメイン、およびヘテロ二量体化ドメイン (FKBP12) を結合させた。Part IIは、ヘテロ二量体化ドメイン (FRB T2098L変異体 = FRB*、rapamycin非結合型rapalog選択的) に細胞内シグナル伝達ドメイン (4-1BB共刺激ドメイン + CD3ζ ITAMs (immunoreceptor tyrosine-based activation motifs)) を膜アンカーで接続した。複数の分離位置(N末端、C末端、中間)を試行し、最適な構成を同定した。FRB*のT2098L変異は、mTORへの結合を回避し、rapalog AP21967に対する選択性を付与するために導入された。

小分子: rapalog AP21967 (A/C heterodimerizer、ARIAD Pharma) を使用した。これはrapamycinアナログであり、rapamycinよりも免疫抑制活性が低い。

In vitro評価:

  1. NFATルシフェラーゼレポーターアッセイ: Jurkat T細胞にON-switch CAR候補を導入し、NFAT依存性GFPレポーター遺伝子の発現を介して活性化を定量した。
  2. サイトカイン産生: ヒト初代T細胞(CD4+ヘルパーT細胞およびCD8+細胞傷害性T細胞)を使用し、CD19+ K562標的細胞との共培養後、IL-2、IFN-γ、TNF-αの産生量をELISAで測定した。小分子濃度依存性(0-500 nM rapalog)、時間的制御(小分子除去後のoff-kinetics)、および抗原依存性(CD19+ K562 vs parental K562)を評価した。
  3. 細胞毒性アッセイ: CD19+ K562標的細胞(mCherry+)とCD19- K562非標的細胞(GFP+)を混合し、ON-switch CAR-T細胞との共培養後の標的細胞の生存率をフローサイトメトリーで定量した。
  4. T細胞増殖: CellTrace Violet色素で標識したT細胞の増殖をフローサイトメトリーで追跡した。
  5. 単一分子イメージング: PALM (photoactivated localization microscopy) を用いて、ON-switch CARのPart IとPart IIの分子動態と共局在性をrapalogの有無で評価した。Part IをPS-CFP2 (photoswitchable cyan fluorescent protein 2)、Part IIをPAmCherry1 (photoactivatable mCherry1) で標識した。

In vivo評価: NSG (NOD scid gamma) 免疫不全マウスにCD19+ K562-Luc (K562細胞にルシフェラーゼを導入した細胞株) 腫瘍細胞を皮下移植した。ON-switch CAR-T細胞 (10×10^6細胞) を輸注し、rapalog (3 mg/kg) を腹腔内 (i.p.) 投与群と非投与群で比較した。腫瘍増殖はbioluminescenceイメージングで評価した。また、腹腔内異種移植モデルでは、CD19+ mCherry+細胞とCD19- GFP+細胞の混合物を移植し、ON-switch CAR-T細胞とrapalogまたはビヒクルをi.p.投与後、39時間後に腹腔洗浄液から回収された細胞をフローサイトメトリーで解析し、CD19+細胞の選択的減少を評価した。統計解析にはStudent’s t検定を用いた。