• 著者: Greta Maria Paola Giordano-Attianese, Pablo Gainza, Elise Gray-Gaillard, Elisabetta Cribioli, Sailan Shui, Seonghoon Kim, Mi-Jeong Kwak, Sabrina Vollers, Angel De Jesus Corria Osorio, Patrick Reichenbach, Jaume Bonet, Byung-Ha Oh, Melita Irving, George Coukos, Bruno E. Correia
  • Corresponding author: Bruno E. Correia (Institute of Bioengineering, École Polytechnique Fédérale de Lausanne, Lausanne, Switzerland); George Coukos (Ludwig Institute for Cancer Research, University of Lausanne, Lausanne, Switzerland); Melita Irving (Ludwig Institute for Cancer Research, University of Lausanne, Lausanne, Switzerland)
  • 雑誌: Nature Biotechnology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-02-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32015549

背景

CAR (chimeric antigen receptor; キメラ抗原受容体) を導入したT細胞療法は、血液がんにおいて極めて高い治療効果を示し、持続的な寛解をもたらすことが報告されている (Kalos et al. SciTranslMed 2011Brentjens et al. SciTranslMed 2013Maude et al. NEnglJMed 2014)。しかし、CAR-T細胞療法は、全身性の重篤な炎症反応であるCRS (cytokine release syndrome; サイトカイン放出症候群) や神経毒性、さらには正常組織に発現する標的抗原を攻撃するオンターゲット・オフ腫瘍毒性 (on-target off-tumor toxicity) などの致死的な副作用を引き起こすリスクが常に存在する (Morgan et al. MolTher 2010)。特に固形がん治療への応用においては、安全性の確保が最大の障壁となっている。

既存の安全対策として、iCaspase9などの自殺遺伝子システムが開発されているが、これらは薬剤投与によってCAR-T細胞自体を不可逆的に死滅させるため、治療効果も同時に消失するという課題があった。また、活性化に低分子化合物を必要とするONスイッチ型CAR (Wu et al. Science 2015) や、アダプタータンパク質を介するスプリット型CAR (Lim et al. Cell 2017) も提案されているが、これらは持続的な薬剤投与が必要であり、患者への負担やコスト、免疫原性の懸念が残されていた。さらに、非ヒト由来のタンパク質ドメインを使用するシステムでは、生体内での拒絶反応のリスクが排除できない。したがって、ヒト由来のタンパク質を基盤とし、必要なときだけ一時的かつ可逆的に活性を抑制できる、高親和性で安全な「STOPスイッチ」システムの開発が強く求められていたが、そのような技術はこれまで未確立であり、設計手法や臨床応用可能な分子ペアの知見が著しく不足しているという課題があった。この治療制御における技術的gapが残されている現状を打破するため、新規の可逆的制御システムの開発が急務であった。

目的

本研究の目的は、de novo (新規) タンパク質計算設計技術を用いて、ヒト由来タンパク質を基盤としたCDH (chemically disruptable heterodimer; 化学的破壊可能ヘテロ二量体) を設計し、これを用いた新しい可逆的制御システム「STOP-CAR (chemically disruptable heterodimeric chimeric antigen receptor; 化学的破壊可能ヘテロ二量体キメラ抗原受容体)」を構築することである。具体的には、Rosetta MotifGraftアルゴリズムを活用して、ヒトBcl-XL (B-cell lymphoma-extra large) と極めて高い親和性で結合し、かつ臨床応用可能な低分子阻害薬によって特異的かつ迅速に解離する新規結合パートナーであるLD3 (lead design 3; リード設計体3) を計算設計する。さらに、このCDHをCARの抗原認識鎖とシグナル伝達鎖の間に組み込むことで、通常時は抗腫瘍活性を発揮し、低分子薬の投与期間中のみ一時的に活性を停止できる、安全で動的なCAR-T細胞制御システムをin vitroおよびin vivoの固形がんモデルにおいて実証することを目的とする。

結果

**高親和性CDHの計算設計と低分子薬による解離特性**: Rosetta MotifGraftを用いたスクリーニングにより、11,012種類のヒトタンパク質スキャフォールド候補から、ヒトアポリポタンパク質E4 (ApoE4) の変異体をスキャフォールドとする「LD3」を設計した。SPR解析の結果、LD3はBcl-XLに対して Kd = 3.9 pM という極めて高い親和性で結合し、天然のBIM-BH3ペプチドの親和性 (Kd = 6 nM) を約1500倍 (1500-fold) 上回る結合能を示した (Fig. 1)。結晶構造解析により、LD3とBcl-2の複合体構造は、計算予測モデルと極めてよく一致し、界面のCα原子におけるr.m.s.d. (root mean square deviation) は 1.35 Å であった (Fig. 1)。臨床開発段階にある低分子阻害薬であるDrug-2 (A1155463) を添加したところ、IC50 = 101 nM でLD3-Bcl-XL複合体が迅速に解離することが示され、SEC-MALS解析でも薬物添加による完全なモノマー化が確認された (Fig. 1)。この結果は、de novo設計されたタンパク質界面が、低分子薬によって動的に制御可能であることを示している。

**DAP10細胞外ドメイン導入によるSTOP-CARの安定発現と抗腫瘍活性**: 初期プロトタイプではS鎖の細胞表面発現が不安定であったため、細胞外領域にDAP10ドメインを導入した。この改良により、Jurkat細胞および初代ヒトT細胞 (n=13 human donors) において、R鎖とS鎖の共発現率が 75% 以上に劇的に向上し、30日以上にわたり安定して維持された (Fig. 2)。PSMA陽性前立腺がん細胞PC3-PIPに対する48時間のin vitro細胞傷害活性試験 (E:T = 2:1) において、STOP-CAR-T細胞は、従来の2G-CAR (second-generation chimeric antigen receptor; 第2世代キメラ抗原受容体) と同等の強力な細胞傷害活性を示した (p 0.0001) (Fig. 2)。また、標的細胞との共培養において、2G-CARと同等レベルのIFN-γおよびIL-2の産生が確認され、分割型の受容体構造であっても十分なシグナル伝達能を有することが示された。さらに、T細胞の増殖能や分化表現型に対しても、STOP-CARの導入による悪影響は観察されなかった。

**in vitroにおける低分子薬による動的かつ可逆的な活性一時停止**: STOP-CAR-T細胞の活性が低分子薬によって動的に制御可能であるかを検証した。PC3-PIP細胞との共培養系において、10 μM のDrug-2を添加することにより、STOP-CAR-T細胞の細胞傷害活性およびIFN-γ産生能は急速かつ特異的にベースラインまで低下した (p 0.0001) (Fig. 3)。一方、Drug-2を24時間曝露した後に洗浄して除去すると、48時間以内に細胞傷害活性およびIFN-γ産生能が完全に回復することを確認した (Fig. 3)。この可逆的な一時停止機構は、複数回のオン・オフサイクル (薬物添加と除去の繰り返し) を繰り返しても再現され、薬物投与期間中のみ特異的に活性を抑制できることが実証された。これにより、毒性発現時のみ一時的に治療を中断する臨床シナリオの妥当性が示された。

**CD19を標的とした19-STOP-CARの汎用性と制御能**: STOP-CARシステムの汎用性を検証するため、抗原認識部位をCD19標的のFMC63 scFvに置換した19-STOP-CARを構築した。初代ヒトT細胞 (n=6 human donors) におけるR鎖とS鎖の共導入率はCD4+で 42%、CD8+で 32% であり、30日間にわたり安定した発現と細胞傷害活性を維持した。CD19陽性標的細胞 (BV173、Bjab) との共培養において、19-STOP-CAR-T細胞は2G-CARと同等の強力な細胞傷害活性を示した。さらに、10 μM のDrug-2に12時間事前曝露したT細胞では、標的細胞に対する細胞傷害活性が有意に減弱し、抗原が異なるシステムにおいても本CDH設計が極めて有効に機能することが証明された。これは、本システムが様々な標的抗原に対してモジュール式に適用可能であることを示している。

**in vivo腫瘍モデルにおけるSTOP-CAR-T細胞の動的制御**: NSGマウス (n=5 mice per group) を用いたPC3-PIP皮下移植モデルにおいて、STOP-CAR-T細胞のin vivo制御能を評価した。STOP-CAR-T細胞の単独投与は2G-CAR-T細胞と同等の強力な腫瘍抑制効果を示したが、Drug-2 (5 mg/kg) を連日投与した群では、STOP-CARの活性化が阻害され、腫瘍の急速な増殖が観察された (p 0.0001) (Fig. 3)。さらに、Drug-2の投与を途中で中止 (day 5-11に投与し、その後中止) した群では、薬物除去後にT細胞の抗腫瘍活性が速やかに回復し、腫瘍増殖が強力に抑制された (p = 0.0006) (Fig. 3)。逆に、day 11からDrug-2の投与を開始した群では、それまで抑制されていた腫瘍の増殖が速やかに再開し (p = 0.0054)、in vivoにおける極めて動的なオン・オフ制御が実証された (Fig. 3)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究で開発されたSTOP-CARシステムは、iCaspase9などの従来の自殺遺伝子システムと異なり、副作用発生時にT細胞を不可逆的に排除するのではなく、T細胞を生存させたままその活性のみを一時的かつ可逆的に停止できる。また、従来のON-switch CAR (Wu et al. Science 2015) やアダプター依存型CAR (Lim et al. Cell 2017) が活性化のために持続的な薬物投与や高価な組換えタンパク質の投与を必要とするのに対し、本システムは「デフォルトでON」であり、毒性発現時のみ低分子薬を投与して「OFF」にする設計であるため、患者への薬物曝露を最小限に抑えられる点で決定的に異なる。

新規性: 本研究は、de novoタンパク質設計技術 (Rosetta MotifGraft) を細胞療法の安全性工学に初めて適用した代表的成果である。ヒト由来タンパク質 (ApoE4およびBcl-XL) を基盤とし、わずか11残基の変異導入のみで、pMレベルの超高親和性 (Kd = 3.9 pM) と臨床応用可能な低分子薬による解離能 (IC50 = 101 nM) を両立させたCDHを新規に設計した点は、これまでに報告されていない極めて独創的なアプローチである。

臨床応用: 本システムは、固形がんに対するCAR-T細胞療法の臨床応用における最大の課題であるCRSやオンターゲット・オフ腫瘍毒性の管理に直結する。臨床現場において、患者に毒性の兆候が見られた場合、Bcl-XL阻害薬 (抗がん剤として開発中) を一時的に投与することで、T細胞を死滅させることなく安全に副作用を回避し、毒性が消失した後に投与を中断すれば、治療効果を再開させることが可能となる。また、断続的な薬物投与によりCAR-T細胞を一時的に休止させることで、持続的な抗原刺激によるT細胞の疲弊 (exhaustion) を防ぐという、新たな治療戦略 (bench-to-bedside) への展開も期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、STOP-CAR-T細胞自体におけるBcl-XLの過剰発現が、T細胞のアポトーシス抵抗性や長期生存性に与える影響を詳細に検証する必要がある。また、Bcl-XL阻害薬の既知の副作用である血小板減少症などの毒性と、CAR活性抑制に必要な薬物濃度とのトレードオフの最適化が求められる。さらに、臨床応用に向けて、人工的な変異導入部位における潜在的な免疫原性 (ネオエピトープ) のリスクを最小化するためのさらなる配列最適化や、臨床試験における薬物動態 (PK/PD) の相関性の検証が今後の重要な検討課題である。

方法

計算設計およびスクリーニング: Bcl-XLとBIM-BH3ペプチドの複合体構造 (PDB ID: 3FDL) を基に、Rosetta MotifGraftプログラムを用いて、11,012種類の単量体ヒトタンパク質スキャフォールドのデータベースから結合モチーフ (12アミノ酸のαヘリックス) をグラフト可能な候補を探索した。立体障害の回避、相互作用エネルギー (ddG < -10 REU)、球状度 (globularity)、およびスキャフォールド内でのモチーフのパッキング状態を指標にフィルタリングを行い、リード設計体 (LD1、LD2、LD3) を選出した。

生化学的・構造生物学的解析: 大腸菌 BL21 (DE3) を用いて重組タンパク質 (Bcl-XL、LD3) を発現・精製した。SPR (surface plasmon resonance; 表面プラズモン共鳴) 法を用いて、Bcl-XLと設計されたLD3との結合親和性 (Kd) を測定した。また、臨床開発段階にあるBcl-XL阻害薬であるA1155463 (Drug-2) およびA1331852 (Drug-1) による複合体解離能を、SPRおよびSEC-MALS (size-exclusion chromatography coupled with multi-angle light scattering; 多角度光散乱検出器接続サイズ排除クロマトグラフィー) により評価した。さらに、LD3とBcl-2 (Bcl-XLの近縁ホモログ) の複合体結晶を調製し、X線結晶構造解析 (解像度 2.5 Å) を行って計算モデルの妥当性を検証した。

STOP-CARの構築とT細胞への導入: R鎖 (recognition chain; 認識鎖) として、PSMA (prostate-specific membrane antigen; 前立腺特異的膜抗原) を標的とするJ591 scFv (またはCD19を標的とするFMC63 scFv)、CD8αヒンジ、CD28 TMD (transmembrane domain; 膜貫通ドメイン)、CD28 ED (endodomain; 細胞内ドメイン)、およびLD3を連結した。S鎖 (signaling chain; シグナル伝達鎖) として、DAP10細胞外ドメイン、CD8αヒンジ、CD28 TMD、CD28 ED、Bcl-XL、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを連結した。これらをT2A自己開裂ペプチドを介して1つのレンチウイルスベクターに組み込み、Jurkat 6xNFAT-mCherryレポーター細胞および初代ヒトT細胞 (CD4+およびCD8+) に導入した。HEK293T細胞を用いてレンチウイルスのパッケージングを行った。

in vitroおよびin vivo機能評価: in vitroにおいて、PSMA陽性前立腺がん細胞株 PC3-PIP またはCD19陽性細胞株 (BV173、Bjab) との共培養系を用い、IncuCyteシステムによる細胞傷害活性試験、およびELISA法によるIFN-γやIL-2の産生量測定を行った。統計解析には、Student’s t-test、Mann-Whitney U-test、および二元配置分散分析 (two-way ANOVA) を用いた。in vivo評価では、免疫不全マウスであるNSG (NOD SCID gamma) マウスの皮下に PC3-PIP 細胞 (5 × 10^6 cells) を移植し、day 5にSTOP-CAR-T細胞 (2 × 10^6 cells) を投与した。Drug-2 (5 mg/kg) を連日または特定の期間に腹腔内投与し、キャリパーを用いて腫瘍体積を測定することで、in vivoにおける動的な治療制御能を評価した。