- 著者: Antonio Di Stasi, Siok-Keen Tey, Gianpietro Dotti, et al.
- Corresponding author: Malcolm K. Brenner (Center for Cell and Gene Therapy, Baylor College of Medicine, Houston, TX)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2011
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 22047558
背景
がん治療や再生医療の分野において、ドナーリンパ球輸注やキメラ抗原受容体 (CAR: chimeric antigen receptor) 導入T細胞療法などの養子細胞療法は強力な治療効果を示す。しかしその一方で、輸注細胞の制御不能な増殖、正常臓器への傷害、サイトカイン放出症候群 (CRS: cytokine release syndrome)、移植片対宿主病 (GVHD: graft-versus-host disease)、さらにはレトロウイルス組込みによる悪性形質転換といった致死的有害事象が誘発される危険性がある。小分子薬と異なり輸注細胞は投与後に自律的に拡大するため、有害事象発生時に体内の細胞を迅速かつ確実に排除できる安全機構 (自殺遺伝子システム) の確立が不可欠とされてきた。
従来の代表的な安全スイッチとして、ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼを用いた HSV-TK (herpes simplex virus thymidine kinase) システムが開発・臨床評価されてきた。しかし Bonini et al. (1997)、Tiberghien et al. (2001)、Ciceri et al. (2009, TK007試験) などの先行研究において、HSV-TKシステムには重大な制限が報告されている。第一に、HSV-TKは作用機序としてDNA合成阻害を介して細胞死を誘導するため、細胞排除の完了に数日を要し、しかも排除が不完全であり、超急性期の重篤な有害事象に対する迅速介入が困難であった。第二に、活性化には抗ウイルス薬ガンシクロビルをプロドラッグとして要するため、移植後のCMV (cytomegalovirus) などの感染症治療で抗ウイルス薬の選択肢が制限された。第三に、HSV-TKはウイルス由来の異種タンパク質であり、Riddell et al. (1996) が示したように患者体内で免疫原性を誘発して導入T細胞が早期に排除され、長期効果が損なわれる懸念があった。
これらの課題に対し、ヒト由来タンパク質で構成され免疫原性が低く、かつ分単位で迅速に作動する新規の安全スイッチが求められていた。しかし、こうしたシステムが実際の臨床環境、特にハプロ一致造血幹細胞移植後の急性GVHD発症時においてどの程度迅速かつ選択的に機能するかは依然として未解明であり、その有効性と安全性を実証する臨床データが手薄であるという知見の不足 (gap in knowledge) が存在した。
目的
本研究の目的は、ヒトの内因性 (ミトコンドリア) アポトーシス経路を利用した新規安全スイッチである iCasp9 (inducible Caspase 9) システムを導入したドナーT細胞を、ハプロ一致造血幹細胞移植後の急性白血病小児に投与し、その安全性、生着、および体内での増殖動態を評価することである。さらに、GVHD発症時に生物学的に不活性な小分子二量体化薬 AP1903 を単回投与することで iCasp9安全スイッチを臨床的に作動させ、有害なアロ反応性T細胞を迅速かつ選択的に排除してGVHDを制御できるか、そしてその際に抗腫瘍・抗ウイルス免疫を温存できるかを実証することを目的とした。
結果
iCasp9導入T細胞の良好な生着と体内増殖: 本試験には、ハプロ一致CD34選択造血幹細胞移植後に再発リスクを有する小児患者n=5例 (年齢3〜17歳) が登録され、アロ除去およびiCasp9導入処理を施したドナーT細胞 (∆CD19選択後の導入効率90〜93%) が1×10⁶〜1×10⁷細胞/kgの用量で投与された (Table 1, Table S1)。全5例において、輸注されたiCasp9陽性T細胞 (CD3+CD19+) は投与後3〜7日以内に末梢血中で検出可能となり、その後 constitutive (恒常的) なトランスジーン発現にもかかわらず体内での生存および対数的増殖を示した (Fig 2A, 2B)。特に患者2では混合キメリズム排除を目的として2回の細胞輸注が行われ、2回目投与後に遺伝子導入細胞数は当初の輸注量を大幅に超えて拡大した。この結果は、procaspase分子であるiCasp9融合タンパク質の恒常発現自体がT細胞の生存やin vivo増殖能を阻害しないことを証明している。
AP1903単回投与によるGVHDの超迅速な制御: T細胞輸注後14〜42日以内に、n=5例中4例 (患者1、2、4、5) でグレード1〜2の皮膚GVHDが発症し、さらに患者1ではビリルビン値上昇を伴う肝GVHDが併発した。これら4例に対し二量体化薬AP1903を0.4 mg/kgの用量で単回投与した。点滴開始後わずか30分以内に、末梢血中のCD3+CD19+ T細胞はフローサイトメトリー解析で90%以上が急速に排除された (Fig 2A)。さらに投与後24時間以内に、定量PCR解析で1.0 logの追加減少 (累積99%以上の排除) が確認された (Fig 2B)。AP1903投与に伴う急性または遅延性の有害事象は一切観察されなかった。臨床的には投与後24〜48時間以内に全4例で皮膚発疹が消失し、患者1の総ビリルビン値も投与前2.1 vs 投与24時間後0.8 mg/dLへと迅速に正常化した (Fig 3)。その後、最長1年間の追跡でGVHDの再発は認められなかった。CAR-T療法で報告された致死的有害事象 (Morgan et al. MolTher 2010、Brentjens et al. Blood 2011) と対比すると、本システムが提供する制御速度は際立っている。
選択的細胞排除と抗ウイルス機能の温存: AP1903はiCasp9導入細胞 (CD3+CD19+) のみを選択的に排除し、非導入のドナーT細胞 (CD3+CD19-) やその他の血球数には影響を与えなかった (Table S2)。投与後に末梢血中へ極めて低頻度 (約1〜10%) で残存したiCasp9陽性T細胞は、時間の経過とともに緩やかに再増殖した。これらの残存細胞を投与後5ヶ月 (患者1) および9ヶ月 (患者2) に採取してin vitroでAP1903に再曝露させたところ、約85%の細胞死誘導感受性が維持されており、長期経過後も自殺遺伝子システムとしての機能が保持されていた (Fig 4A, 4B)。さらに回復したCD3+CD19+ T細胞は多クローナルなTCR Vβ (T細胞受容体 variable beta chain) レパトワを維持しており (Fig 5A, 5B)、ADV (adenovirus)、CMV、EBV (Epstein-Barr virus) などのウイルス抗原刺激に対してIFN-γを産生する機能的T細胞を含んでいた (Fig 4C, 4D)。臨床的にも全5例で重篤なウイルス感染症や再活性化は認められず、安全スイッチ作動後も非アロ反応性のウイルス特異的免疫が温存されることが実証された。
長期臨床転帰と免疫再構成への寄与: 主要評価項目であるAP1903によるGVHD制御効果は、急性GVHDを発症した4例全例で達成された。免疫再構成および抗腫瘍効果も良好で、患者3 (T細胞性急性リンパ性白血病、用量3×10⁶細胞/kg) はGVHDを発症することなく12ヶ月以上の完全寛解を維持した。患者5 (B細胞性急性リンパ性白血病) は、高値であった糞便中・血中のADVコピー数がT細胞輸注後に陰性化し、AP1903によるGVHD治療後もウイルスの再上昇を伴わずに3ヶ月以上の完全寛解を継続した (Fig S5)。少数例 (n=5) ながら、iCasp9システムがGVHDという致死的合併症のリスクを抑えつつハプロ一致移植後の免疫再構成を安全に促進し、感染症予防および白血病再発抑制に寄与しうる実用的手段であることが示された。
考察/結論
先行研究との違い:本研究で実証されたiCasp9システムは、従来の代表的自殺遺伝子であるHSV-TKシステムと対照的な特性を持つ。これまでの研究 (既報) でHSV-TKが細胞死誘導に数日を要し排除も不完全であったのに対し、iCasp9はAP1903単回投与により30分以内に90%以上、24時間以内に累積99%以上を急速かつ選択的に排除できた。またHSV-TKがウイルス由来で免疫原性による早期排除が問題となったのと相違して、iCasp9はヒト由来タンパク質 (FKBP12 [FK506-binding protein] および Caspase 9) で構成され免疫原性が極めて低く、実際に1年以上の長期生着が確認された。さらにAP1903は生物学的に不活性な小分子であり、ガンシクロビルなど既存の抗ウイルス薬と競合しない点でも従来システムと大きく異なる。
新規性:本研究は、iCasp9安全スイッチを導入したドナーT細胞が、ヒト臨床環境 (ハプロ一致造血幹細胞移植後) において極めて迅速かつ選択的に急性GVHDを制御できることを本研究で初めて実証した novel な臨床的証拠である。とりわけ、AP1903投与後も少数のiCasp9陽性T細胞が残存し、多クローン性を保ちながら再増殖してウイルス特異的免疫を維持したという、これまで報告されていない知見は、本システムが単なる一括排除スイッチではなく「腫瘍・ウイルスに対する有益な免疫を温存しつつ、GVHDを惹起するアロ反応性T細胞を精密に制御する」高度な選択的制御手段として機能することを明らかにした。
臨床応用:本知見は養子細胞療法の臨床応用における安全性を飛躍的に高めるものであり、明確な臨床的意義を持つ。Morgan et al. MolTher 2010 で報告されたCAR-T輸注後の致死的オンターゲット・オフタキシティや、Grupp et al. NEnglJMed 2013・Porter et al. NEnglJMed 2011 で顕在化した重篤なサイトカイン放出症候群に対しても、iCasp9システムは迅速かつ確実なオンデマンド排除手段として臨床現場に橋渡し可能である。これにより、安全性懸念から臨床開発が躊躇されてきた強力な抗腫瘍活性を持つ新規細胞療法の bench-to-bedside の導入が大きく加速されると考えられる。
残された課題:今後の検討課題として、レトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入に伴う挿入変異原性 (insertional oncogenesis) の潜在的リスクが挙げられる。T細胞への遺伝子導入で悪性形質転換の報告は現時点でないものの、長期安全性モニタリングと、より安全な導入手法 (レンチウイルスやゲノム編集) の検討が今後の方向性として重要である。また、AP1903投与後にアロ反応性T細胞のみが選択的に排除されGVHDが再発しなかった詳細な免疫学的メカニズムの解明や、より大規模な臨床試験における感染症発生率・白血病再発率の低減効果の検証が limitation を埋めるための更なる検討課題として残されている。
方法
本研究は、ベイラー医科大学で実施された単一施設・用量漸増第I相臨床試験 (NCT00710892) である。ハプロ一致CD34陽性選択造血幹細胞移植後に急性白血病 (B細胞性/T細胞性急性リンパ性白血病、または骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病) の再発リスクを有する小児患者5例 (年齢3〜17歳) を対象とした。
細胞調製および遺伝子導入:ドナー末梢血単核細胞を、レシピエント由来の EBV (Epstein-Barr virus) 形質転換リンパ芽球様細胞株 LCL (lymphoblastoid cell line) と40:1の比で共培養して同種反応性T細胞を刺激した。72時間後、活性化CD25陽性アロ反応性T細胞を、抗CD25モノクローナル抗体クローンRFT5 (anti-CD25 monoclonal antibody clone) に脱グリコシル化リシンA鎖を結合させた免疫毒素RFT5-dgA (RFT5 conjugated to deglycosylated ricin A-chain immunotoxin) で除去した (アロ除去)。残存CD3+CD25+細胞が1%未満かつ残存増殖反応が10%未満であることを確認後、SFGレトロウイルスベクター (Moloney murine leukemia virus-based retroviral vector backbone) でSFG.iCasp9.2A.∆CD19トランスジーンを導入した。iCasp9は、ヒト FKBP12 (FK506-binding protein) のF36V変異体と、活性化ドメインを欠失させたヒト Caspase 9 を融合させたキメラ分子である。選択マーカーとして truncated CD19 (∆CD19) を共発現させ、CD19免疫磁気選択システム (CliniMACS) で導入細胞を純化した。
T細胞輸注とAP1903投与:患者には移植後30〜90日目に、1×10⁶、3×10⁶、または1×10⁷細胞/kgの用量でiCasp9導入T細胞を単回静脈内投与した。用量漸増は logistic 用量反応曲線に基づく continual reassessment method (CRM) で実施し、各用量2例ずつ評価した。輸注後にグレード1〜2の急性GVHDを発症した患者には、AP1903を0.4 mg/kgの用量で2時間かけて単回点滴投与した (薬物動態データでは0.01〜1.0 mg/kgの投与で血漿濃度10〜1275 ng/mL、終末相半減期5時間)。
評価項目と統計解析:主要評価項目は輸注細胞の安全性とAP1903によるGVHD制御効果とした。末梢血中CD3+CD19+遺伝子導入T細胞の動態はフローサイトメトリーおよび定量PCRで経時測定し、TCR Vβレパトワ解析とスペクトラタイピングで多クローン性を、IFN-γ産生アッセイでADV・CMV・EBVに対する抗ウイルス機能を評価した。GVHD重症度は臨床所見および生化学指標 (ビリルビン値など) で判定した。少数例 (n=5) のため統計解析は記述統計 (descriptive statistics) を基本とし、細胞動態や転帰は記述的に提示した。