- 著者: Jason Eigenbrood, Nathan Wong, Paul Mallory, Janice S. Pereira, Demond Williams, Douglass W. Morris-II, Jessica A. Beck, James C. Cronk, Carly M. Sayers, Monica Mendez, Linus Kaiser, Julie Galindo, Jatinder Singh, Ashley Cardamone, Milind Pore, Michael Kelly, Amy K. LeBlanc, Jennifer Cotter, Rosandra N. Kaplan, Troy A. McEachron
- Corresponding author: Troy A. McEachron (Pediatric Oncology Branch, National Cancer Institute, Bethesda, MD)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-04-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 40173049
背景
骨肉腫 (osteosarcoma) は、小児および若年成人において最も頻繁に発生する悪性骨腫瘍であり、過去40年間で予後の改善が限定的である領域として認識されている Beird et al. Nat Rev Dis Primers 2022。転移性骨肉腫患者の5年生存率は30%未満であり、中央値の全生存期間 (OS) は約20か月と極めて不良である。これに対し、限局期患者の5年生存率は70%に達する Smeland et al. Eur J Cancer 2019。現在の標準治療は外科的切除と高用量多剤併用化学療法であるが、これには全身毒性や外科的合併症が伴う Kuo et al. Cancer Med 2023。骨肉腫はゲノム的に著しく不均一であり、「n=1 disease」と称されるほどの多様性を示すが、この異質性が転移微小環境の細胞構成や免疫抑制機構にどのように反映されるかは、これまでほとんど明らかでなかった。特に、軟組織において異所性骨を形成する肺転移巣において、悪性骨がその増殖を維持する微小環境特性、ならびに免疫チェックポイント阻害剤の効果が乏しい機構 (リンパ球排除など) の解明は、アンメットメディカルニーズであり、この領域における知識ギャップが残されている。
先行研究では、単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) が骨肉腫の細胞構成に関する貴重な知見を提供してきたが Zhou et al. Nat Commun 2020、これらの研究は主に原発性疾患に焦点を当てており、肺転移における特定の細胞サブセットの空間分布や、それが転移微小環境の全体的な構造と機能にどのように寄与するかは評価できなかった Hao et al. Cell 2021。また、骨肉腫肺転移巣ではT細胞が排除され、骨髄系細胞が腫瘍内微小環境の主要な細胞成分であることが示されているが、これらの細胞がどのように免疫抑制を促進するかは不明な点が多かった。さらに、TGFβシグナル伝達がT細胞排除を促進し、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害に対する抵抗性を媒介することが報告されているが、骨肉腫におけるその広範かつ不均一な活性の全容は未解明であった Voron et al. JExpMed 2015。
本研究は、小児骨肉腫肺転移における空間的な遺伝子発現プログラムと免疫抑制機構を包括的に理解するための重要なステップである。特に、転移性骨肉腫の微小環境における細胞間クロストークを標的とする治療アプローチは、これまで確立されておらず、この領域における知識ギャップが残されている。
目的
本研究の目的は、小児骨肉腫肺転移巣9検体 (7患者由来、組織型は骨芽細胞型7、軟骨芽細胞型1、線維芽細胞型1) に対し、Visium空間トランスクリプトミクス、イメージング質量サイトメトリー (IMC)、免疫組織化学 (IHC)、およびサイトカインアレイを統合的に適用することで、以下の点を明らかにすることである。(1) 転移微小環境に保存された空間構造を解明し、(2) 腫瘍内 (intratumoral) および腫瘍周囲 (peritumoral) 領域における細胞構成と免疫抑制機構の差異を同定し、(3) 薬物-遺伝子相互作用解析を通じて、治療可能な標的を抽出することを目指した。特に、骨肉腫の転移微小環境における免疫抑制のメカニズムを詳細にプロファイリングし、治療介入の可能性を探ることを主眼とした。
結果
保存された腫瘍内/腫瘍外分割構造: unsupervised Leiden clusteringにより、線維芽細胞型骨肉腫OS-7を除く全9検体において、腫瘍コア (intratumoral) とその周囲微小環境 (peripheral microenvironment) の明確な区分が観察された (Fig. 1B, C)。23遺伝子からなる「osteosarcoma signature」は、病理医の病理学的アノテーションと一致して腫瘍部位を識別した (Fig. 1D, E)。このシグネチャは、OS-7およびOS-9検体において、組織学的に腫瘍とアノテーションされた領域内の高腫瘍含有量と低腫瘍含有量の領域を識別するのに役立った。
異物肉芽腫様構造の発見: 腫瘍周囲 (peritumoral) 領域には、Langhans巨細胞様の多核巨細胞が観察され (Fig. 2A)、トリクローム染色ではコラーゲンが腫瘍を囲むように沈着していることが示された (Fig. 2B, C)。空間GSEA (gene set enrichment analysis) では、異物反応の代理マーカーであるdefense response signatureがperitumoral領域に強く濃縮し、osteosarcoma signatureと有意に逆相関を示した (Spearman, p≤0.05) (Fig. 2D, E)。IMC解析では、n=4検体においてCD68+マクロファージ、SMA+線維芽細胞、CD8+T細胞がすべてperitumoral領域に同心円状に局在することが確認された (Fig. 2F)。MARCO+マクロファージもperitumoral領域に集積し、腫瘍内には認められなかった (Fig. 2G)。これらのデータは、肺実質および肺門リンパ節の転移性疾患が異物肉芽腫様の反応を誘発することを示唆する。
「炎症性砂漠」としての腫瘍内微小環境: CytoSig解析により、炎症性ケモカイン/サイトカイン (IFNγ、TNFα) の活性は腫瘍外領域に限定され、腫瘍内領域では増殖因子活性が優位であることが示された (Fig. 3A, B, C)。独立コホート10検体の腫瘍ライセートおよび患者由来骨肉腫細胞株 (n=5 cell lines) の培養上清を用いたサイトカインアレイプロファイリングでは、SPP1、VEGFA、EMMPRIN、MIF、uPAR、cystatin C、CHI3L1などが検出されたものの、ほとんどの炎症促進性サイトカインは検出限界以下であった (Fig. 3D, E)。p65/NFκBのIHCでは、腫瘍内領域で核内p65染色が認められず、計算論的予測を裏付けた (Fig. 3F)。CellChatによるリガンド-レセプター解析では、腫瘍内クラスターがTNFα/CXCL/CCL/IL経路において最も非伝達性であることが示された (Fig. 4)。
TGFβファミリーシグナル伝達の広範かつ異質な活性: TGFβ1、TGFβ3、BMP2/4/6/7、GDF11、activin AのすべてがCytoSigで広範囲に活性を示し、腫瘍内領域でSMAD4の核内局在 (IHC) が検出され、canonical TGFβ-SMAD4経路の活性化が確認された (Fig. 5A, B, C, D, E)。この活性は、腫瘍内および腫瘍外微小環境の両方で複雑かつ不均一なパターンを示した。
統合解析と治療標的同定: Harmony統合により10個の統合クラスター (IC) が得られ、IC-3とIC-6 (peritumoral) は骨髄系抑制プログラムを示すことが明らかになった (Fig. 6A, B, C, D)。薬物-遺伝子相互作用解析では、CXCR4アンタゴニストであるplerixaforが最高スコアでIC-3に主にマッチした (Fig. 7A, B)。CXCR4高発現は骨肉腫患者のOS不良傾向と関連し (p=0.052)、CXCL12低発現は有意にOS不良 (p<0.05)、MIF高発現は有意にOS不良 (p<0.05) であった (Fig. 7C, D, E)。
リガンド特異的効果: plerixafor (CXCR4阻害) と4IPP (MIF阻害) は、患者由来骨肉腫細胞株 (n=5 cell lines) において用量依存的に細胞生存率を低下させた (Fig. 7F, H)。例えば、plerixaforは10 µMで約50%の細胞生存率低下を示した。しかし、LIT927 (SDF1アンタゴニスト) は細胞生存率に影響を与えなかった (Fig. 7G)。これは、細胞株がMIFを産生するがCXCL12/SDF1を産生しないというサイトカインアレイの結果と一致しており、腫瘍内在的にCXCR4-MIF軸が優位であることを示唆する。
空間的リガンド利用: CXCR4は広範に発現するがperitumoral領域に濃縮し、CXCL12も末梢優位、MIFは腫瘍内領域に濃縮していた (Fig. 8A)。CellChat解析により、canonicalなCXCR4-CXCL12経路とnon-canonicalなCXCR4-CD74-MIF経路が空間的に異なるコンパートメントで利用されていることが示された (Fig. 8B)。
考察/結論
本研究は、小児骨肉腫肺転移巣が、これまで「n=1 disease」とされてきた遺伝的異質性とは対照的に、組織アーキテクチャレベルで共通の保存された空間構造を有することを初めて系統的に示した。この構造は、末梢炎症ハブ、線維性コラーゲン被包、腫瘍内炎症性砂漠、広範なTGFβ活性という四要素からなる異物肉芽腫様の組織化を呈する。これは、骨肉腫の硬度・密度の高い悪性骨基質が周囲組織を機械的に損傷し、宿主の異物反応を誘発することで腫瘍がカプセル化され、結果的に免疫攻撃から防御されるというフィードフォワードループが存在するという仮説を提唱する。
先行研究との違い: これまでの骨肉腫研究は主にゲノム解析やバルクトランスクリプトミクスに焦点を当ててきたが、本研究は空間トランスクリプトミクスを用いることで、転移微小環境の細胞構成と免疫抑制機構の空間的異質性を詳細に解明した点で、これまでの研究と異なるアプローチをとった。特に、転移巣が異物肉芽腫様の構造を呈するという所見は、これまで報告されていない新規な発見である。
新規性: 本研究で初めて、小児骨肉腫肺転移巣が異物肉芽腫様の保存された空間構造を有し、リンパ球排除と腫瘍周囲マクロファージ蓄積を伴うことを明らかにした。また、SPP1/オステオポンチン、VEGFA、CHI3L1の高発現がM2マクロファージ分極やMDSC (骨髄由来抑制細胞) のリクルートメントによる免疫抑制機構と関連することを示した。さらに、CXCR4シグナル軸が空間的に不均一な治療標的候補として同定され、特にMIF-CXCR4経路がin vitroで細胞増殖を抑制することが新規に示された。
臨床応用: CXCR4-MIF軸の同定は、既に造血幹細胞動員で臨床使用されているplerixafor (Mozobil) の骨肉腫転移巣への適応拡大の可能性を示唆する点で、翻訳的価値が高い。これは、フェーズI試験NCT02179970でCXCR4阻害がMSS大腸癌・PDACにおいて免疫チェックポイント阻害剤への感受性を回復させた先行データとも整合する。MIF軸については、4IPPなどの開発中のMIF阻害剤や抗CD74抗体との組み合わせ戦略が考えられる。これらの知見は、骨肉腫患者の治療選択肢を拡大し、免疫療法効果を高めるための新たな戦略を開発する臨床応用につながる可能性がある。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、サンプルサイズが小規模 (n=9) であり、小児患者に限定されている点である。年齢が骨肉腫微小環境の免疫学的特徴に影響を与える可能性が示唆されており、今後は大規模コホートや成人検体での検証が残された課題である。第二に、Visiumアッセイの55µmというスポット解像度では、単一細胞レベルの空間遺伝子発現データを得ることができないため、腫瘍内間質細胞や腫瘍細胞集団の正確な特徴付けが困難であった。今後は、Visium HDのようなより高解像度の空間プロファイリング技術の適用が望まれる。第三に、IRB (治験審査委員会) の免除の性質上、治療歴やアウトカムなどの詳細な臨床データが得られなかったため、臨床的意義のさらなる検証には、より詳細な臨床情報を持つコホートでの研究が不可欠である。今後の検討課題として、syngeneicマウスモデルを用いたCXCR4-MIF軸の機能的解明と、免疫チェックポイント阻害剤との併用試験が次のステップとなる。
方法
小児骨肉腫肺転移のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 検体9例 (7患者由来、肺実質7例、肺門リンパ節2例) を対象とした。組織型は骨芽細胞型7例、軟骨芽細胞型1例、線維芽細胞型1例であった。各検体は、10x Genomics Visium CytAssistプラットフォーム (11×11mmキャプチャエリア、whole transcriptome probe v2) を用いて空間トランスクリプトミクス解析に供された。
データ処理と解析には、SpotCleanによるスポットスワッピング補正後、Seurat (v4.25.1) を用いて正規化 (SCTransform) および統合 (Harmony、theta=2, res=0.3, dims=15) を行った Korsunsky et al. NatMethods 2019。STdeconvolveを用いて各スポットの細胞種デコンボリューションを実施し、最大20種類の細胞タイプ (topics) を同定した。遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) にはescape Rパッケージを用い、Hallmarks、Reactome、Biological Processesの遺伝子セットライブラリを適用した。CytoSigを用いてサイトカインシグナル活性を推定し、CellChatを用いて空間的制約を考慮したリガンド-レセプター相互作用解析を行った。薬物-遺伝子相互作用の同定には、Enrichrの”IDG (Illuminating the Druggable Genome) Drug Targets 2022”ライブラリを使用した。
補助実験として、以下の手法を組み合わせた。(1) イメージング質量サイトメトリー (IMC) では、CD8、CD68、SMA (平滑筋アクチン)、vimentinなど20種類以上の抗体を用いて細胞の局在と表現型を解析した。(2) トリクローム染色によりコラーゲン沈着を評価した。(3) 免疫組織化学 (IHC) では、p65/NFκB、SMAD4、MARCOの発現を調べた。(4) 独立した骨肉腫肺転移検体10例の腫瘍ライセートおよび患者由来骨肉腫細胞株 (Sweet-Cordero提供) の培養上清に対し、Human XL Cytokine Array (105種類の分析物) を用いてサイトカインプロファイリングを行った。患者由来骨肉腫細胞株は、plerixafor、4IPP (MIFアンタゴニスト)、LIT927 (SDF1アンタゴニスト) の72時間CyQUANT細胞生存率アッセイに用いられた。統計解析にはANOVAおよびDunnett検定を用いた。 (5) NCIのclinomicsデータベースを用いて、CXCR4、CXCL12、MIFの発現と全生存期間 (OS) の関連をカプラン・マイヤー解析で評価した。統計解析にはANOVAおよびDunnett検定を用いた。