• 著者: Thibault Voron, Orianne Colussi, Elie Marcheteau, Simon Pernot, Mevyn Nizard, Anne-Laure Pointet, Sabrina Latreche, Sonia Bergaya, Nadine Benhamouda, Corinne Tanchot, Christian Stockmann, Pierre Combe, Anne Berger, Franck Zinzindohoue, Hideo Yagita, Eric Tartour, Julien Taieb, Magali Terme
  • Corresponding author: Julien Taieb (INSERM U970, Paris Cardiovascular Research Center, Université Paris-Descartes, Paris, France)
  • 雑誌: The Journal of experimental medicine
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-01-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25601652

背景

腫瘍免疫回避は腫瘍の発生と増殖に不可欠なプロセスであり、免疫抑制性細胞の誘導やT細胞疲弊の促進が主要なメカニズムであるとされている Schreiber et al. Science 2011。T細胞疲弊は、PD-1、CTLA-4、TIM-3、LAG-3などの免疫抑制性受容体(免疫チェックポイント)の発現増加と、エフェクター機能の段階的な喪失によって特徴づけられる。近年、PD-1およびCTLA-4を標的とする治療法が開発され、進行性転移性腫瘍患者において持続的な客観的奏効をもたらし、大きな関心を集めている Topalian et al. NEnglJMed 2012Hamid et al. NEnglJMed 2013。しかし、転移性メラノーマ患者における抗PD-1抗体治療の奏効率は17-28%であり、多くの患者が非奏効である。

腫瘍浸潤T細胞におけるPD-1発現および疲弊の誘導メカニズムは完全には未解明であった。抗原の持続性が関連している可能性が示唆されているものの Wherry et al. NatImmunol 2011、腫瘍浸潤CD8+ T細胞のみが疲弊表現型を示しPD-1を発現すること、またワクチン接種によって誘導された抗原特異的CD8+ T細胞が腫瘍部位で低反応性を示すことから、腫瘍微小環境の局所因子がPD-1発現誘導に関与していると考えられていた。

VEGF-Aは腫瘍によって産生される主要な血管新生因子であり、同時に免疫抑制因子としても機能することが知られている。具体的には、樹状細胞の成熟阻害、骨髄由来抑制細胞(MDSC)の蓄積、制御性T細胞(Treg)の増殖誘導などが報告されている (Gabrilovich et al. 1996; Huang et al. 2007)。先行研究では、VEGF-AがVEGFR2依存的にTreg細胞の増殖を直接誘導する可能性も示唆されていた (Terme et al. 2013)。VEGFRを阻害するマルチキナーゼ阻害薬であるスニチニブが、腫瘍浸潤T細胞におけるPD-1 mRNA発現を減少させることが報告されている (Ozao-Choy et al. 2009)。しかし、この効果がVEGF-A-VEGFR軸の直接的な阻害によるものなのか、あるいは他のシグナル伝達経路を介したものなのかは不明であった。また、in vitro研究ではVEGF-AがT細胞機能を低下させる可能性が示されているものの (Gavalas et al. 2012; Ziogas et al. 2012)、腫瘍におけるT細胞疲弊に対するVEGF-Aの直接的な役割、特にPD-1発現の調節における直接的な役割については、これまで十分に検討されておらず、この点に知識ギャップが残されていた。これらの背景から、腫瘍微小環境におけるVEGF-AがCD8+ T細胞の免疫チェックポイント発現に直接的に影響を与えるメカニズム、およびその臨床的意義については、依然として大きな課題が残されていた。

目的

本研究の目的は、腫瘍微小環境で産生されるVEGF-AがCD8+ T細胞のPD-1およびその他の抑制性チェックポイント分子の発現を直接的に制御するかどうかを検証することである。さらに、その分子メカニズム(関与する受容体および下流シグナル伝達経路)を解明し、VEGF-A高産生腫瘍における抗VEGF-A療法と抗PD-1療法の併用効果を評価することを目的とした。具体的には、VEGF-AがT細胞疲弊を促進する新たなメカニズムを確立し、抗VEGF-A療法がPD-1発現を抑制することで、抗PD-1療法への感受性を高める可能性を検討する。

結果

VEGF-A-VEGFR軸阻害が腫瘍浸潤CD8+ T細胞のPD-1発現を減少させる: CT26大腸癌マウスモデルにおいて、腫瘍微小環境におけるVEGF-A濃度は血漿中濃度(31.4 ± 4.38 pg/ml)の約10倍(366.9 ± 53.8 pg/ml)であった。腫瘍浸潤CD8+ T細胞におけるPD-1発現率は54.85 ± 16.16%と、脾臓CD8+ T細胞の3.12 ± 2.60%と比較して有意に高かった(p < 0.0001)。スニチニブおよび抗VEGF-A抗体(B20-4.1.1)による治療は、腫瘍浸潤CD8+ T細胞のPD-1発現を有意に減少させ、抗腫瘍効果を示した(図1a-c)。例えば、抗VEGF-A抗体治療により、PD-1陽性CD8+ T細胞の割合は対照群の54.85%から30%未満に減少した(p = 0.0439)。一方、VEGFRを阻害しないマシチニブはPD-1発現に影響を与えず、抗腫瘍効果も示さなかった。抗VEGF-A治療により、腫瘍浸潤CD8+ T細胞のIFN-γ産生能は対照群の28.35 ± 5.7%から62.11 ± 5.3%に回復した(p = 0.0015)。CD8+ T細胞を枯渇させると抗VEGF-A治療の抗腫瘍効果が消失し、その効果がCD8+ T細胞に依存することを示した(図1d)。腫瘍内VEGF-A濃度と腫瘍浸潤CD8+ T細胞のPD-1発現数には有意な正の相関が認められた(r = 0.502, p = 0.0398)(図1e)。さらに、VEGF-Aを欠損するVEGF-KO MEF腫瘍(n=5 mice)では、WT MEF腫瘍(n=5 mice)と比較して腫瘍浸潤CD8+ T細胞のPD-1発現が著しく減少した(p < 0.01)(図1f)。

VEGF-AはVEGFR発現CD8+ T細胞に直接作用する: 未刺激の脾臓CD8+ T細胞ではVEGFR1およびVEGFR2の発現はほとんど認められなかったが、腫瘍浸潤活性化CD8+ T細胞ではVEGFR2が強く発現していた(図2a)。このVEGFR発現は、in vitroでの抗CD3抗体刺激によるT細胞活性化に依存して誘導され、抗CD3 3 μg/mlで誘導され始め、10 μg/mlで有意な発現が認められた(48時間後)(図2b-d)。活性化CD8+ T細胞にVEGF-A(50 ng/ml)を添加すると、PD-1発現が用量依存的に増強され、この効果は抗VEGF-A抗体によって阻止された(図2e-f)。例えば、VEGF-A 50 ng/ml添加により、PD-1発現は対照群と比較して約2.5-fold増加した(p < 0.001)。このことから、VEGF-Aが活性化CD8+ T細胞に直接作用し、PD-1発現を増加させることが示された。

VEGF-Aは複数の抑制性チェックポイントの共発現を増強する: VEGF-A刺激により、PD-1だけでなくTIM-3、CTLA-4、LAG-3の発現率および平均蛍光強度(MFI)も用量依存的に増加した(図3a-d)。例えば、VEGF-A 50 ng/ml添加により、TIM-3陽性細胞の割合は対照群の約10%から約40%に増加した(p < 0.05)。T細胞疲弊の程度を示す指標である3-4種類の抑制性受容体の同時発現(疲弊表現型)は、VEGF-A非存在下では0-1種類の受容体発現が主流であったが、高用量のVEGF-A存在下では2/3以上のT細胞が3-4種類の受容体を同時に発現するようになった(図3e)。さらに、qRT-PCR解析により、CD244/2B4、CD160、BTLAといった他の抑制性受容体およびNFATの発現もVEGF-A刺激により増加することが確認された(図3g)。NFATのmRNA発現はVEGF-A刺激により約1.5-fold増加した。

VEGFR2-PLCγ-Calcineurin-NFAT経路がVEGF-AによるT細胞疲弊を媒介する: VEGF-A誘導性の抑制性チェックポイント発現増強は、抗VEGFR2抗体(クローン91202)によって阻止されたが、抗VEGFR1抗体では阻止されなかった(図3f)。これはVEGFR2がこの現象に特異的に関与することを示唆する。NFAT阻害剤11R-VIVIT(5 μM)は、VEGF-A誘導性の4種類の抑制性受容体の同時発現を阻止した(図3h)。VEGF-A処理によりCD8+ T細胞においてPLCγのリン酸化が検出され、PLCγ阻害剤U73122およびカルシニューリン阻害剤CsAも抑制性受容体発現を阻止した。これらの結果は、VEGF-AがVEGFR2-PLCγ-カルシニューリン-NFAT経路を介してT細胞疲弊に関与する抑制性受容体の発現を増強することを示している。

In vivoにおけるVEGF-A中和がT細胞疲弊関連抑制性分子の発現を回復させる: CT26腫瘍担持マウスにおいて、抗VEGF-A治療は腫瘍浸潤CD8+ T細胞におけるPD-1/TIM-3、PD-1/CTLA-4、PD-1/LAG-3の共発現を有意に減少させた(図4a-c)。例えば、PD-1/TIM-3共発現細胞の割合は対照群の約60%から約30%に減少した(p < 0.05)。治療開始時の腫瘍サイズが約10 mm²の場合、3-4種類の抑制性受容体を同時発現するCD8+ T細胞の割合も減少した(図4d)。しかし、治療開始時に腫瘍が非常に大きい場合(>90 mm²)には、この効果は認められなかった。肝転移モデル(CT26細胞の肝被膜下注入)においても、抗VEGF-A治療によりPD-1/TIM-3共発現が減少し、3-4種類の抑制性受容体を発現するCD8+ T細胞の割合が減少した(図4e-f)。VEGF-Aレベルが低い腫瘍モデル(MC38腫瘍:133.3 ± 15.35 pg/ml、VEGF-KO MEF腫瘍)では、3-4種類の抑制性受容体を発現するCD8+ T細胞の割合はもともと25%未満と低かった(図4g)。

抗VEGF-Aと抗PD-1の併用がVEGF-A高産生腫瘍で相乗的な抗腫瘍効果をもたらす: VEGF-KO MEF腫瘍(n=5 mice)では抗PD-1単剤が有意な抗腫瘍効果を示したが(図4h)、WT MEF腫瘍(n=5 mice)では効果がなかった(図4i)。これは、腫瘍が産生するVEGFが抗PD-1誘導性の抗腫瘍効果を制限する可能性を示唆する。VEGF-Aを高レベルで産生するCT26腫瘍モデルにおいて、抗VEGF-A単剤治療は腫瘍増殖を抑制したが(123 ± 56.21 mm²、p < 0.0001 vs. 対照)、抗PD-1単剤では有意な効果は認められなかった(227 ± 28.9 mm²)。しかし、抗VEGF-Aと抗PD-1の併用療法は、単剤療法と比較して強力な抗腫瘍効果を示し(71.91 ± 64.66 mm²)、抗VEGF-A単剤と比較して有意に優れていた(p = 0.05)(図4j)。この結果は、高レベルのVEGF-Aが抗PD-1治療への抵抗性に関与する可能性があり、VEGF-A高発現腫瘍において抗血管新生療法と抗PD-1治療の併用が相乗効果をもたらすことを示唆する。ヒト結腸癌患者の腫瘍浸潤CD8+ T細胞の48.4 ± 14.25%がVEGFR2陽性であることも確認され、本研究の臨床的関連性が示唆された。

考察/結論

本研究は、腫瘍微小環境で産生されるVEGF-Aが、単なる血管新生因子としてだけでなく、活性化CD8+ T細胞に直接作用し、PD-1、TIM-3、CTLA-4、LAG-3などの抑制性チェックポイント分子の発現を増強することでT細胞疲弊を促進する、新たな免疫抑制メカニズムを体系的に解明した。この分子機序は、VEGFR2-PLCγ-カルシニューリン-NFAT経路を介しており、NFATがPD-1およびCTLA-4の転写を直接制御するという既報の知見 (Oestreich et al. 2008; Gibson et al. 2007) と統合される。VEGF-A高産生腫瘍では、このメカニズムによりT細胞が機能的に疲弊し、抗PD-1単剤療法では抑制解除が不十分となる可能性が示唆された。

新規性: 本研究で初めて、VEGF-Aの免疫抑制効果に「T細胞疲弊の直接誘導」という第4の機序を確立した。これまでの「Treg増殖促進」「樹状細胞成熟抑制」「MDSC蓄積」に加え、VEGF-Aが活性化CD8+ T細胞に直接作用し、VEGFR2を介して複数の主要な抑制性チェックポイントの共発現を増強することを新規に同定した。また、腫瘍浸潤活性化T細胞でVEGFR2が特異的に発現することを発見した点も新規性がある。

先行研究との違い: これまでの研究では、VEGF-AがT細胞機能を低下させる可能性が示唆されていたものの (Gavalas et al. 2012; Ziogas et al. 2012)、PD-1発現の直接的な調節やT細胞疲弊への関与については未解明であった。本研究は、VEGF-AがPD-1を含む複数の抑制性チェックポイントの共発現を直接的に増強し、T細胞疲弊を促進するという点で、これまでの知見と異なり、VEGF-Aの免疫抑制作用のメカニズムをより深く理解する上で重要な貢献をした。

臨床応用: 本研究の知見は、VEGF-A産生が高い腫瘍(大腸癌、肝細胞癌、腎細胞癌、グリオーマなど)において、抗PD-1単剤療法が十分な効果を示さない理由を説明し、抗VEGF-A/VEGFR阻害剤(ベバシズマブなど)との併用療法が合理的であるという強力な分子論拠を提示する。実際に、本研究発表後、肝細胞癌におけるアテゾリズマブとベバシズマブの併用療法(IMbrave150試験、奏効率30%、OS有意改善)や、腎細胞癌におけるペムブロリズマブとアキシチニブの併用療法(KEYNOTE-426試験)など、多くの併用療法が成功を収めている。非小細胞肺癌分野でも、アテゾリズマブとベバシズマブ、カルボプラチン/パクリタキセルの併用療法(IMpower150試験)でOS改善が示されている。これらの臨床的成功は、本研究が示したメカニズムの臨床的意義を裏付けるものである。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒトCD8+ T細胞におけるVEGF-Aの直接作用のさらなる検証が必要である(本研究ではVEGFR2発現確認に留まる)。また、制御性T細胞とエフェクターT細胞におけるVEGF-A感受性の差異、VEGFR1の役割(マクロファージなどでの作用)、長期併用療法における抵抗性メカニズム、VEGF-A低発現腫瘍における代替経路(例:TGF-β)の解明などが挙げられる。これらの課題は、VEGF-Aを標的とした免疫療法の最適化と、より広範な患者群への臨床応用に向けて、今後の研究で取り組むべき重要な方向性である。

方法

マウスモデル: BALB/cマウスおよびC57BL/6マウスをCharles River Laboratoriesから購入し、特定の病原体フリー条件下で飼育した。BALB/cマウスにCT26大腸癌細胞(高VEGF-A産生)を、C57BL/6マウスにMC38大腸癌細胞(低VEGF-A産生)を皮下移植した。また、VEGF-Aノックアウト(VEGF-KO)MEF細胞および野生型(WT)MEF細胞を用いた線維肉腫モデルも使用した。さらに、CT26細胞を肝臓被膜下に直接注入する肝転移モデルも確立した。動物実験はパリ・デカルト大学倫理委員会(CEEA34.MT.072.12)の承認を得て実施された。

治療プロトコル: 腫瘍が9-10 mm²に達した時点で治療を開始した。スニチニブ(40 mg/kg、経口、毎日)またはマシチニブ(30 mg/kg、経口、1日2回)を投与した。マシチニブはc-Kit、PDGFR、Fakを標的とするがVEGFRを阻害しないため、スニチニブの対照として用いた。抗VEGF-A抗体(B20-4.1.1、5 mg/kg、週2回、腹腔内投与)および抗マウスPD-1抗体(RPM1-14、0.25 mg、週2回、腹腔内投与)も投与した。CD8+ T細胞枯渇実験には抗CD8抗体(クローン2.43)を使用した。

フローサイトメトリー: 腫瘍組織をGentle Macs dissociator (Miltenyi Biotec) で解離後、CD8+ T細胞をゲーティングし、PD-1 (J43)、TIM-3 (RMT3-23)、CTLA-4 (UC10-4B9)、LAG-3 (C9B7W)、VEGFR1 (141522)、VEGFR2 (89B3A5)、Ki-67などの表面マーカーを染色した。死細胞はLive/Dead Fixable Aqua Dead Cell Kit (Invitrogen) で除外した。共発現解析にはSPICE v5.3ソフトウェアを用いた。

in vitro解析: マウスおよびヒトの脾臓からCD8+ T細胞をMiltenyi CD8 isolation kitで精製した。精製したCD8+ T細胞を抗CD3抗体(プレート結合、0-10 μg/ml)と組換えマウスVEGF-A(0-50 ng/ml)の存在下または非存在下で48時間培養した。VEGFR1/2中和抗体(R&D Systems)、NFAT阻害剤11R-VIVIT(5 μM)、PLCγ阻害剤U73122、およびカルモジュリン/カルシニューリン阻害剤シクロスポリンA(CsA)を用いて、シグナル伝達経路の関与を評価した。

遺伝子発現解析: TaqMan Low Density Array(マウス免疫カード、Applied Biosystems)を用いた定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)により、PD-1、TIM-3、CTLA-4、LAG-3、CD244/2B4、CD160、BTLA、NFATなどの疲弊関連遺伝子の発現を比較した。RNA18Sを内因性コントロールとして遺伝子発現を正規化した。

共焦点顕微鏡: SP8 Leica顕微鏡を用いて、VEGFR2の細胞表面発現を確認した。

VEGF-A濃度測定: 腫瘍組織をT-PER Tissue Protein Extraction Reagent (Thermo Fisher Scientific) でホモジナイズし、ELISA(マウスVEGF DuoSet; R&D Systems)によりVEGF-A濃度を測定した。

統計解析: 結果は平均±SEMで表した。2群間の比較にはMann-Whitney U検定、3群以上の比較にはKruskal-Wallis検定を用いた。腫瘍増殖曲線は2-way ANOVA検定で比較し、多重比較はBonferroni補正を行った。統計的有意水準はp<0.05とした。統計解析にはPrismソフトウェア (GraphPad Software) を使用した。