• 著者: James B. Reinecke, Leyre Jimenez Garcia, Amanda J. Saraf, John Hinckley, Amy C. Gross, Helene Le Pommellet, Kelly M. Gutpell, Maren Cam, Matthew V. Cannon, Matthew J. Gust, Sophia Vatelle, Berkley E. Gryder, Ruben Dries, Ryan D. Roberts
  • Corresponding author: Ryan D. Roberts (Center for Childhood Cancer Research, Abigail Wexner Research Institute, Nationwide Children’s Hospital, Columbus, OH)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-11-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 40882022

背景

骨肉腫(osteosarcoma)は、小児、思春期、および若年成人に好発する高悪性度の原発性骨腫瘍であり、1980年代に多剤併用化学療法が導入されて以来、その予後は長期にわたり改善していない。局所限局例における5年生存率は70%から75%に達するものの、診断時または経過中に肺転移を来した患者の5年生存率は20%未満にまで急落し、骨肉腫による死亡のほぼすべてが肺転移に起因する。がん細胞の転移は極めて非効率的なプロセスであり、血中に放出された循環腫瘍細胞(circulating tumor cells)のうち、遠隔臓器で定着・増殖して臨床的に検出可能な転移病変を形成できるのは1%未満にすぎないことが知られている(Massague et al. Nature 2016)。この転移のボトルネックを克服するためには、播種した腫瘍細胞が受け入れ側の微小環境を教育し、自らの生存と増殖に適した「転移ニッチ(metastatic niche)」を形成する必要がある(Peinado et al. NatRevCancer 2017)。

これまで、原発腫瘍が分泌する液性因子や細胞外小胞(extracellular vesicles)を介して、腫瘍の生着に先立って遠隔臓器に形成される「前転移ニッチ(pre-metastatic niche)」の重要性が広く研究されてきた(Deng et al. CellRep 2024)。しかしながら、骨肉腫においては、原発腫瘍の外科的切除後に肺転移が顕在化・進行することが臨床的に極めて多く、原発腫瘍が存在しない状況下でどのように転移病変が維持・拡大されるのかという詳細な細胞・分子機序は依然として未解明である。特に、転移を惹起する能力を持つ少数の細胞集団(metastasis-initiating subpopulations)が、肺の局所微小環境において周囲の間質細胞や他の腫瘍細胞とどのように相互作用しているのかを直接示した知見は著しく不足している。原発切除後の転移再発を予防するための有効な治療標的を同定する上で、このニッチ形成プロセスの解明は極めて重要な課題であるが、従来のバルク解析では細胞の不均一性に阻まれ、詳細な解析が困難であったという歴史的な背景が存在する。

目的

本研究の目的は、骨肉腫における肺転移ニッチ(metastatic niche)形成を駆動する細胞および分子機序を解明することである。具体的には、不均一な骨肉腫細胞集団の中から、転移の定着を主導する極めて少数の「転移惹起サブ集団(metastasis-initiating subpopulations)」を同定し、これらの細胞が肺の局所微小環境(特に肺上皮細胞)や、後続の循環腫瘍細胞と交わすパラクライン(paracrine)相互作用のネットワークをシングルセルレベルで明らかにすることを目指す。さらに、この相互作用を媒介するシグナル伝達経路を遺伝学的および薬理学的に遮断することにより、原発腫瘍切除後の肺転移形成および病変拡大を効果的に抑制できる新たな治療標的を同定し、骨肉腫患者の予後改善に資する革新的な治療戦略(translational approach)を提示することを目的とする。

結果

原発腫瘍の存在および切除が循環腫瘍細胞の肺定着に与える影響: 「Primary-No Primary」モデルにおいて、あらかじめ脛骨に原発腫瘍を形成させたマウス(Primary群、n=20 mice)と、模擬手術を行ったマウス(No Primary群、n=19 mice)に、RFP(red fluorescent protein: 赤色蛍光タンパク質)標識 OS-17 細胞を尾静脈から注入した。その結果、肺転移陽性となったマウスの割合は、Primary群で 40%(8/20 mice)であったのに対し、No Primary群では 11%(2/19 mice)にとどまり、原発腫瘍の存在が循環腫瘍細胞の肺定着を有意に促進することが示された(p=0.035、Fig 1A)。さらに、原発腫瘍の外科的切除(amputation)を行うモデルでは、切除を行わなかった late control 群(n=10 mice)と比較して、切除を行った amputation 群(n=10 mice)において肺転移の検出率が有意に上昇した(70% vs 10%、p=0.036、Fig 1B)。これらの結果は、原発腫瘍が肺微小環境をあらかじめ教育する一方で、循環腫瘍細胞との間で肺定着における競争が生じていることを示唆している。この現象は、免疫正常マウスを用いた F420 マウス骨肉腫肺転移モデル(n=10 mice/group)においても再現され、原発巣の存在が肺転移負荷を同様に制御することが確認された。

肺定着したアンカー細胞による後発腫瘍細胞の動員機序: 「Red-green」モデルにおいて、先行して注入した GFP 標識 OS-17 細胞(n=5 mice)が肺に定着した病変部へ、14日後に注入した後発の mCherry 標識 OS-17 細胞が効率的にリクルートされ、混合転移巣(mixed metastasis)を形成することが確認された(Fig 1D, 1E)。この腫瘍細胞間の相互作用を媒介する因子を同定するため、高転移能株(OS-17, 143B, MG63.3, LM7, K7M2)および低転移能株(SaOS2, MG63, OS25)を用いて Transwell 遊走試験を実施した。高転移能株の培養上清(conditioned media)は、骨肉腫細胞の遊走を強力に誘導し、遊走活性はコントロール比で約 2.5-fold に上昇した(Fig 2B)。この遊走活性は、IL6ST 阻害剤 sc144(10 μmol/L)および CXCR1/CXCR2 阻害剤ラダリシン(ladarixin、100 nmol/L)の併用処理によって完全に消失した(Fig 2B)。このことから、肺に先行定着した少数のがん細胞(anchor細胞)が IL6 および CXCL8 を持続分泌し、後発の循環腫瘍細胞を化学走性(chemotaxis)によって呼び寄せていることが明らかになった。また、GFP細胞とmCherry細胞を1:1の比率で同時に注入した対照群(n=5 mice)では、このような不均一な動員パターンは観察されず、先行定着したアンカー細胞の存在が後発細胞の生着に不可欠であることが示された。

肺上皮細胞由来 IL1α による腫瘍細胞の IL6/CXCL8 分泌誘導: 骨肉腫細胞と肺上皮細胞(HBEC3-KT)の共培養システムを用いた scRNA-seq 解析および NicheNet 解析により、上皮細胞由来のリガンドとして IL1α(interleukin 1 alpha)が、腫瘍細胞側の受容体として IL1R1 が同定された(Fig 3D)。実際に、リコンビナント IL1α(10 ng/mL)で OS-17 細胞を刺激すると、IL6 および CXCL8 の分泌が著明に増加し、コントロール比で約 10-fold の増加を示した(ELISA [enzyme-linked immunosorbent assay: 酵素結合免疫吸着測定法] 解析、n=3 replicates、p<0.001、Fig 3G)。また、HBEC3-KT の培養上清による IL6/CXCL8 の分泌誘導作用は、IL1 受容体拮抗薬であるアナキンラ(100 ng/well)の添加によって完全に阻害された(Fig 3H)。興味深いことに、この IL1α に対する応答性は腫瘍細胞全体で均一ではなく、scRNA-seq 解析において IL6/CXCL8 の高発現は全体の約 20%(20%)に相当する特定のサブクラスターに限定されていた(Fig 4A)。免疫染色により、IL1α 刺激下で 72時間経過後も IL6/CXCL8 を持続分泌している細胞は、増殖マーカーである Ki-67 陰性かつ細胞周期抑制因子 p21 陽性の G1 期にある増殖抑制性(hypoproliferative)の少数細胞集団であることが確認された(Fig 6A, 6B)。この持続分泌細胞の約 80% が Ki-67 陰性であり、増殖を停止した状態でニッチ維持に専念していることが示唆された。

IL1R1 シグナルの遺伝学的および薬理学的阻害による肺転移抑制効果: CRISPR/Cas9 を用いて IL1R1 をノックアウトした OS-17 細胞(CRISPR-B および CRISPR-C 株、n=15 mice/condition)を尾静脈接種したマウスでは、コントロール群(CRISPR-NG群)と比較して、肺転移病変の数が劇的に減少した(p<0.0001、Fig 7B, 7C)。さらに、治療モデルとして、腫瘍細胞接種の1日後からアナキンラ(250 mg/kg、1日2回皮下投与、n=8 mice/group)を投与したところ、OS-17 異種移植モデルにおいて肺転移病変の数および総腫瘍負荷(tumor burden)が有意に減少した(p<0.01、Fig 7D, 7E)。同様の転移抑制効果は、免疫正常マウスを用いた F420 骨肉腫肺転移モデル(n=8 mice/group)においても再現され、アナキンラ投与群で肺転移負荷が著明に低下した(p<0.0001、Fig 7F, 7G)。薬理学的効果の検証として、アナキンラ投与群の肺組織において、IL1R1 の下流シグナル分子である phospho-IRAK4(phosphorylated interleukin 1 receptor associated kinase 4)の発現低下がウェスタンブロット法により確認された。なお、低用量のアナキンラ(25 mg/kg、1日2回)では転移抑制効果および phospho-IRAK4 の抑制が不十分であり、効果的な転移抑制には高用量による持続的なシグナル阻害が必要であることが明らかになった。

考察/結論

先行研究との違い: 従来の転移研究の多くは、原発腫瘍が放出する液性因子や細胞外小胞が遠隔臓器にあらかじめ形成する前転移ニッチ(pre-metastatic niche)の重要性を強調してきた(Deng et al. CellRep 2024)。これらこれまでとのアプローチは原発巣が存在する状況を前提としていたが、骨肉腫においては原発巣の外科的切除後に肺転移が顕在化するという臨床的特徴がある。本研究は、原発巣切除後の環境において、肺に定着した少数の播種腫瘍細胞(anchor細胞)自体が局所微小環境を教育し、後続の循環腫瘍細胞を直接動員するという「自己播種(self-seeding)」に類似した二段階の転移定着モデルを提示しており、従来の知見と異なり、原発切除後の転移維持機構に焦点を当てている点で大きく異なる。

新規性: 本研究は、肺上皮細胞から放出される IL1α に応答して、骨肉腫細胞の一部(約 20%)を占める p21陽性/Ki-67陰性の G1期増殖抑制性サブ集団が、NF-κB 経路を介して IL6 および CXCL8 を持続的に分泌し、転移ニッチ形成を主導することを本研究で初めて明らかにした。この「増殖抑制性でありながら高分泌能を有する」特殊なアンカー細胞の存在、およびそれが肺上皮細胞とのパラクライン相互作用によって維持されるという機序は、これまで報告されていない極めて新規の発見である。

臨床応用: 本研究の成果は、骨肉腫の肺転移予防における極めて重要な臨床的意義を持つ。すでに他疾患(関節リウマチや自己炎症性疾患)で臨床使用されており、小児における安全性データも確立している IL1 受容体拮抗薬アナキンラ(anakinra)が、骨肉腫の肺転移を効果的に抑制することを示した。これは、既存薬の臨床応用(ドラッグリポジショニング)を加速させる有望な知見であり、外科的切除後の補助化学療法期における転移予防薬としての実用化(translational な展開)が期待される。

残された課題: 一方で、今後の検討課題として、この IL1R1陽性アンカー細胞のより詳細な分子プロファイルや、増殖抑制状態から再増殖へ移行するトリガーの解明が挙げられる。また、本研究におけるlimitationとして、CRISPR による IL1R1 ノックアウト細胞を用いた実験において、一部のノックアウトを免れた細胞が選択的に転移巣を形成したことが示されており、FACS(fluorescence-activated cell sorting: 蛍光活性化セルソーティング)による完全な遺伝子欠損モデルでの検証や、標準的な化学療法(シスプラチンやドキソルビシンなど)とアナキンラとの併用効果についての今後の研究が必要である。

方法

本研究では、ヒト骨肉腫細胞株として OS-17(PDX [patient-derived xenograft: 患者由来異種移植片] 由来)、NCH-OS-4(Nationwide Children’s Hospital Osteosarcoma 4: 肺転移生検から樹立された患者由来骨肉腫細胞株)、MG63.3、143B、SaOS2、LM7(Lung Metastasis 7: 肺転移能を有するヒト骨肉腫細胞株)、および MG63(ヒト骨肉腫細胞株 MG63)を使用した。また、免疫正常マウスモデル用として F420 および K7M2(マウス骨肉腫細胞株 K7M2)を用いた。肺微小環境のモデルとして、不死化ヒト気管支上皮細胞株である HBEC3-KT(Human Bronchial Epithelial Cells 3-KT)を用い、OS-17 細胞とのオルガノタイプ(organotypic)共培養システムを Transwell インサート(ポアサイズ 0.4 μm)上に構築した。

シングルセル解析として、10x Genomics Chromium システムを用いた scRNA-seq(single-cell RNA sequencing: 1細胞RNAシーケンシング)を実施し、共培養細胞、マウス異種移植片(xenograft)肺、および骨肉腫患者から採取された臨床検体(原発巣および肺転移巣)を解析した。細胞群の同定には Seurat ツールキット(version 5)を用い、細胞間相互作用の解析には NicheNet アルゴリズムを適用した。GSEA(gene set enrichment analysis: 遺伝子セット富裕化解析)および AUCell を用いて、TNFA signaling via NF-κB 経路などの活性化度を AUC(area under the curve: 曲線下面積)として算出した。

In vivo 転移モデルとして、CB17SC SCID(severe combined immunodeficiency: 重症複合免疫不全)マウス(CB17/Icr-Prkdc^scid/IcrIcoCrl)および C57BL/6 マウスを用いた。原発腫瘍が循環腫瘍細胞の肺定着に与える影響を評価するため、脛骨内への腫瘍細胞注入による原発巣形成群(Primary)と模擬手術群(No Primary)を比較する「Primary-No Primary」モデル、および原発巣形成後に coxo-femoral disarticulation による肢切断(amputation)を行うモデルを構築した。さらに、先行して肺に定着した細胞(anchor細胞)と後発の動員細胞(recruited細胞)の挙動を区別するため、GFP(green fluorescent protein: 緑色蛍光タンパク質)標識 OS-17 細胞を先行投与し、14日後に mCherry 標識 OS-17 細胞を後発投与する「Red-green」モデルを用いた。

遺伝子ノックアウトには CRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR-associated protein 9)システムを用い、IL1R1(interleukin 1 receptor type 1)をターゲットとする gRNA(guide RNA: ガイドRNA)として CRISPR-B および CRISPR-C を設計し、HiFiCas9-RNP(ribonucleoprotein: リボヌクレオタンパク質)複合体をエレクトロポレーションにより OS-17 細胞に導入して IL1R1 KO(knockout)株を樹立した。薬理学的阻害実験として、IL1 受容体拮抗薬であるアナキンラ(anakinra)を 250 mg/kg の用量で1日2回(BID: bis in die)皮下投与(s.c.: subcutaneous)した。また、NF-κB(nuclear factor-kappa B)経路の阻害には TPCA-1 および IKK-16 を使用した。遊走能の評価には Transwell migration assay を用い、IL6ST(interleukin 6 cytokine family signal transducer)阻害剤 sc144(10 μmol/L)および CXCR1/CXCR2(C-X-C motif chemokine receptor 1/2)阻害剤ラダリシン(ladarixin/DF2156A、100 nmol/L)による阻害効果を測定した。

組織学的評価として、肺組織を 10% NBF(neutral buffered formalin: 中性緩衝ホルマリン)で固定後、FFPE(formalin-fixed paraffin-embedded: ホルマリン固定パラフィン包埋)ブロックを作製し、4 μm の切片を用いて IHC(immunohistochemistry: 免疫組織化学)および IF(immunofluorescence: 免疫蛍光染色)を実施した。抗原賦活化(AR: antigen retrieval)にはクエン酸緩衝液または Tris-EDTA 緩衝液を用い、Ki-67、p21、IL6、CXCL8 などの発現を評価した。

統計解析には GraphPad Prism(version 10)を用い、2群間の比較には Student’s t-test(Welch’s correction を含む)、多群間比較には ANOVA(Dunnett’s または Tukey’s 複数比較検定)、および頻度比較には Fisher’s exact test を適用した。有意水準は p<0.05 とした。