- 著者: Chuangzhong Deng, Yanyang Xu, Hongmin Chen, Xiaojun Zhu, Lihua Huang, Zhihao Chen, Huaiyuan Xu, Guohui Song, Jinchang Lu, Wenlin Huang, Ranyi Liu, Qinglian Tang, Jin Wang
- Corresponding author: Qinglian Tang; Jin Wang (Sun Yat-sen University Cancer Center)
- 雑誌: Cell Reports
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-02-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 38341855
背景
骨肉腫は小児および若年成人において最も頻繁に発生する原発性悪性骨腫瘍であり、局所病変に留まる場合の5年生存率は約70%に達するが、肺転移を来した場合には20%未満へと急落する。肺転移は最も一般的な遠隔転移部位であり、骨肉腫患者の予後を決定する主要な因子である。がんの転移プロセスは多段階かつ複雑であり、腫瘍細胞が遠隔臓器に到達する以前に、転移受容環境である「転移前ニッチ (premetastatic niche: PMN)」が形成されることが知られている Psaila et al. NatRevCancer 2009。近年、腫瘍由来の細胞外小胞 (extracellular vesicles: EVs) がこのPMN形成において中心的な役割を果たすことが明らかになってきた。EVは、DNA、RNA、タンパク質などの生物活性物質を輸送することで細胞間コミュニケーションを媒介する脂質膜に包まれた細胞下粒子であり、免疫系の調節、細胞外マトリックスのリモデリング、血管新生やリンパ管新生の誘導を通じて腫瘍転移を促進する多機能的な役割を果たすことが示されている Wortzel et al. DevCell 2019。特に、EVの積荷が転移の臓器指向性を決定し、PMNの確立に寄与することが報告されている Hoshino et al. Nature 2015。例えば、メラノーマ由来EVは骨髄前駆細胞を転移促進表現型へと教育することが示されている Peinado et al. NatMed 2012。また、VEGFR1陽性の造血幹細胞がPMNの形成を開始することも報告されている Kaplan et al. Nature 2005。しかし、骨肉腫における肺PMN形成の分子機構、特にどの免疫細胞サブセットが動員・活性化されるのか、またそれを駆動するEV積荷の実体については、依然として未解明な点が多く、この分野における知識ギャップが残されている。先行研究では、免疫不全マウスを用いた骨肉腫のPMN形成が検討されているが Mazumdar et al、免疫適格な環境下での免疫細胞の役割については不足していた。
目的
本研究の目的は、骨肉腫の免疫適格マウスモデルを用いて肺PMNの免疫細胞組成を時系列で詳細に解析することである。さらに、腫瘍由来EVが肺局所免疫微小環境をどのようにリプログラムして肺転移を促進するのか、その根底にあるシグナル経路とEV積荷タンパク質の実体を分子レベルで解明することを目的とした。具体的には、顆粒球系骨髄由来抑制細胞 (gMDSC) が肺PMN形成において果たす役割を特定し、骨肉腫EVが肺間質マクロファージを活性化し、CXCL2を介してgMDSCを動員するメカニズムを明らかにすることを目指した。
結果
gMDSCの急速な蓄積と転移促進機能: K7M2細胞を同所性移植したBALB/cマウスの肺組織をフローサイトメトリーで時系列解析したところ、CD11b+Ly6G+顆粒球系MDSC (gMDSC) が腫瘍移植後1週目で9.35%、2週目で15.93〜19.91%、3週目で46.35%と急速に増加することが明らかになった (Figure 1C)。対照的に、単球系MDSC (mMDSC) の変動は軽微であった。in vivo生物発光イメージングおよび肺H&E染色、ルシフェラーゼRT-PCRの結果から、腫瘍移植後1〜2週目を転移前フェーズ、3週目以降をマクロ転移確立フェーズと定義した。gMDSCの機能的重要性を確認するため、抗Ly6G抗体 (10 mg/kg) によるgMDSC枯渇実験を行ったところ、自然発症肺転移が有意に抑制された (Figure 2B, 2C)。この際、原発腫瘍の増殖には影響が認められなかった。逆に、K7M2腫瘍担癌マウスから精製したgMDSC (5×10^5 cells) を低転移性K7細胞移植マウスに静注すると、肺転移が有意に促進された (Figure 2E-2G)。in vitro T細胞増殖抑制アッセイでは、骨肉腫由来gMDSCがCD4+およびCD8+ T細胞の増殖を用量依存的に抑制することが確認された。これらの結果は、gMDSCが骨肉腫肺PMNにおける免疫抑制性ニッチの主要なエフェクターであり、肺転移を促進することを示唆している。
骨肉腫EVによる肺間質マクロファージの標的活性化とCXCL2産生: EV産生を担うRab27aをshRNAでノックダウンすると、NTA解析でEV粒子数が約53%減少し、肺転移が有意に抑制された (Figure 3E-3G)。蛍光標識したK7M2-EV (DiI/DiD) を静注した解析では、肺内でCD11b+F4/80+CD11c-Siglec-F-CSF1R+の表現型を持つ「肺間質マクロファージ」が最も高率にEVを取り込んでおり、取り込み陽性細胞の88.65%がこの細胞分画であった (Figure 4C)。クロドロネートリポソームによるマクロファージ枯渇実験では、K7M2-EVの投与によるがん促進効果およびLy6G+gMDSC蓄積誘導効果がいずれも消失した (Figures 4F-4I)。EV処理BMDMのRNA-seq解析では、GSEAでM1シグナチャー (NES=1.4、p<0.001、q=0.08) およびM2bシグナチャー (NES=1.6、p<0.001、q=0.09) が有意に富化された (Figure 5B)。ケモカイン発現プロファイリングでは、K7M2-EV処理BMDMでCxcl2が最も顕著に上昇しており、肺PMN組織でも週1〜2のgMDSC蓄積フェーズにCxcl2発現の上昇が確認された (Figure 5E-5G)。組み換えマウスCXCL2はgMDSCに対して用量依存的な走化性を示し、CXCR2阻害薬SB225002がその走化性を減弱させた。抗CXCL2中和抗体のin vivo投与 (n=5 mice/group) により肺転移結節数が有意に減少し、同時に肺内gMDSC浸潤も減少した (Figure 5J, 5K)。これらの結果から、EV活性化マクロファージがCXCL2を介してgMDSCを肺PMNに動員するという軸が確立された。
EV積荷タンパク質S100A11の同定とJAK2/STAT3依存的マクロファージ活性化機構: K7M2-EVとK7-EVの定量プロテオミクス (n=3 per group) で、K7M2-EVにおいてS100A11が顕著に高発現していることが同定された (Figure 6G)。S100A11(S100カルシウム結合タンパク質A11)は、GSE21257データセットにおいて骨肉腫患者の不良予後と相関していた。ウエスタンブロットでK7M2細胞は細胞内・細胞外分画いずれでもK7より高いS100A11発現を示した (Figure 6H)。shRNAによるS100A11ノックダウン (K7M2-shS100a11) では、JAK2・STAT3のリン酸化が減弱し、EV誘導性CXCL2産生 (ELISA) および走化性アッセイでのgMDSC動員がいずれも有意に抑制された (Figure 6J, 6K)。逆にK7細胞へのS100A11過剰発現 (K7-S100A11) ではBMDMのCXCL2産生が著明に増加した (Figure 6L)。S100A11 KDはin vitroでのK7M2細胞増殖・浸潤能に影響しなかったが、in vivoではS100A11 KDによって肺転移が有意に抑制され (n=5 mice/group)、Ly6G+gMDSC浸潤も減少した (Figure 6M, 6N)。GSEA解析ではEV処理BMDMにおけるJAK-STATシグナル経路の有意な富化が確認された (Figure 6A)。K7M2-EVはBMDMにおいてJAK2・STAT3のリン酸化を誘導し、その効果は時間依存的で投与6時間後に最大となった (Figure 6B)。選択的JAK2阻害薬fedratinib (250 nM) またはSTAT3選択的阻害薬BP-1-102 (1 μM) の処理により、Tnfa・Socs3・Cxcl2のダウンレギュレーションとCd206のアップレギュレーションが生じ、CXCL2産生 (ELISA) とgMDSC走化性がいずれも有意に抑制された (Figure 6D-6F)。
S100A11-USP9X相互作用によるJAK2安定化機構と臨床的意義: S100A11のマクロファージ活性化メカニズムを解明するため、FLAG-S100A11過剰発現HEK293T細胞でIP-MSを実施し、141タンパク質をS100A11相互作用候補として同定した (Figure 7B)。文献レビューにより、活性化リン酸化JAK2を脱ユビキチン化・安定化する脱ユビキチン化酵素USP9Xが注目された。S100A11とUSP9Xの相互作用はcoIPおよびウエスタンブロットで確認され (Figure 7C, 7D)、Raw264.7細胞へのS100A11過剰発現がUSP9Xタンパク質発現量とpJAK2・pSTAT3レベルを増加させた (Figure 7E)。USP9X阻害薬WP1130 (0.5 μM) またはUSP9X siRNA処理はいずれもK7M2-EV誘導性JAK2/STAT3活性化を打ち消し、CXCL2産生 (ELISA) を有意に抑制した (Figure 7F-7H)。これにより「EV-S100A11 → USP9X安定化 → pJAK2安定化 → STAT3活性化 → CXCL2産生」という分子カスケードが確立された。臨床検体解析として、骨肉腫患者50例 (肺転移あり n=14、肺転移なし n=36) のIHCを実施した。S100A11発現は肺転移群で有意に高く (Figure 7I)、高S100A11発現は肺転移無再発生存期間の短縮および全生存期間の短縮と相関した (Figure 7J, 7K)。多変量解析では、高S100A11発現がエンネキングステージとともに独立した不良予後予測因子であることが示された。さらにヒト骨肉腫患者でのフローサイトメトリー解析では、転移症例 (n=9) で転移なし症例 (n=18) と比較して循環gMDSCが有意に高く (p<0.05)、高gMDSCが肺転移無再発生存期間の短縮と相関した (log-rank p=0.019)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、骨肉腫の肺転移前ニッチ (PMN) 形成における腫瘍由来細胞外小胞 (EV) の役割を、免疫適格BALB/cマウスモデルを用いて包括的に解明した点で、先行研究と異なる。先行研究では、免疫不全マウスモデル (143-B細胞株xenograft model) が用いられ、腫瘍由来EVが骨髄系細胞浸潤を誘導するものの、SCIDマウスでは転移負荷に差がなかったと報告されている Mazumdar et al。これと異なり、本研究は免疫適格BALB/cマウスモデルを使用することで、gMDSCによるT細胞抑制という免疫回避機構の重要性を明確に示した。免疫適格モデルでの検証は、骨肉腫PMN研究における重要な追加知見であり、先行研究との不一致を合理的に説明するものである。
新規性: 本研究の独自の貢献は複数のレベルにわたる。第一に、多パラメーター・フローサイトメトリーによる網羅的な時系列解析から、骨肉腫の肺PMNの免疫細胞組成を初めて詳細に記述し、顆粒球系骨髄由来抑制細胞 (gMDSC) (CD11b+Ly6G+) が主要な増加細胞分画であることを確立した。第二に、EV取り込み細胞の精密な同定として、肺間質マクロファージ (CD11b+F4/80+CD11c-Siglec-F-CSF1R+) がEV取り込み陽性細胞の88.65%を占めること、この細胞種の活性化が必須であることを示した。第三に、定量プロテオミクス、機能解析、免疫沈降・質量分析 (IP-MS) の統合アプローチで、EV積荷タンパク質としてS100A11(S100カルシウム結合タンパク質A11)を同定し、S100A11→USP9X→JAK2/STAT3→CXCL2→gMDSC動員という新規の分子カスケードを多層的に実証した。S100A11が脱ユビキチン化酵素USP9Xと相互作用してリン酸化JAK2 (pJAK2) の脱ユビキチン化・安定化を促進するという機構はこれまで報告されておらず、EVカーゴとして細胞外から取り込まれた後にどのように細胞内シグナルを活性化するかを示す先駆的な知見である。
臨床応用: 本研究の知見は、骨肉腫の肺転移に対する新たな治療戦略およびバイオマーカー開発に臨床応用される可能性を秘めている。EV分泌経路 (Rab27a)、JAK2/STAT3経路 (fedratinib / BP-1-102)、USP9X (WP1130)、CXCL2-CXCR2軸 (抗CXCL2中和抗体、SB225002) という複数の治療介入標的が実証された。gMDSC枯渇または各標的への介入が肺転移を抑制しつつ原発腫瘍に影響しなかった点は、転移特異的な治療戦略の可能性を示唆する。S100A11 (腫瘍組織IHC) および循環gMDSC (末梢血フロー) がいずれも患者予後バイオマーカーとなりうることは、臨床現場における診断・予後予測への実装可能性を示す。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) gMDSCとPMN好中球の厳密な区別 (Lox1/CD66b/Arg1等による表現型分類やscRNA-seq)、(2) 肺間質マクロファージを用いた直接的なin vitro機能実験、(3) EV-S100A11を骨肉腫の具体的なバイオマーカーとして大規模な前向きコホートで検証すること、(4) S100A11がUSP9Xを安定化・活性化する詳細な分子機構の解明、(5) 他の臓器への転移前ニッチ形成や他の免疫細胞サブセットへの影響、が挙げられる。本研究は、EV-S100A11という腫瘍-間質-免疫軸の新規コミュニケーション機構を解明し、骨肉腫の肺転移を標的とした治療戦略の基盤を提供する重要な知見である。
方法
高転移性K7M2細胞と低転移性親株K7細胞を用いたBALB/c免疫適格マウスの同所性自然発症転移モデルを確立した。肺転移の動態はin vivo生物発光イメージングおよび肺のH&E染色、ルシフェラーゼ遺伝子のRT-PCRにより経時的にモニタリングした。肺PMNの免疫細胞組成は、多パラメーター・フローサイトメトリーを用いて週1、2、3の時点で詳細に解析した。EVの定量および特性評価は、NanoSight粒子トラッキング解析 (NTA) および電子顕微鏡、ウエスタンブロットにより実施した。EV産生抑制のため、Rab27aをshRNAでノックダウンしたK7M2細胞株を用いた実験を行った。蛍光標識EV (DiI/DiD) を用いてin vivoでの臓器分布およびEV取り込み細胞を評価した。骨髄由来マクロファージ (BMDMs) を用いたin vitro実験では、EVの取り込み、RNA-seq、GSEA解析を実施し、EVによる遺伝子発現変化を解析した。マクロファージ枯渇実験にはクロドロネートリポソームを、gMDSC枯渇実験には抗Ly6G抗体 (10 mg/kg) を、gMDSC移植実験には精製gMDSC (5×10^5 cells i.v.) を用いた。定量プロテオミクス (液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析: LC-MS/MS) によりEV積荷タンパク質を同定し、免疫沈降・質量分析 (IP-MS) および共免疫沈降 (coIP)・ウエスタンブロットによりS100A11と相互作用するタンパク質を探索した。shRNA/siRNA/過剰発現を用いた機能解析、CXCL2 ELISA、走化性アッセイにより、S100A11の機能とシグナル経路を検証した。ヒト骨肉腫患者検体 (n=50) のIHCによるS100A11発現解析および末梢血フローサイトメトリーによる循環gMDSCレベルの解析を行い、臨床的意義を評価した。統計解析には、GraphPad Prism 8.0aソフトウェアを使用し、Student’s t検定、一元配置ANOVA (one-way ANOVA)、Kaplan-Meier曲線とログランク検定、Cox比例ハザードモデルを用いた。