• 著者: Phillip M. Galbo Jr, Xingxing Zang, Deyou Zheng
  • Corresponding author: Deyou Zheng; Xingxing Zang (Albert Einstein College of Medicine, Bronx, NY)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33622705

背景

がん関連線維芽細胞 (CAF: cancer-associated fibroblast) は腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) において最も豊富な間質細胞の一つであり、ほぼすべての固形腫瘍で認められる (Chen & Song, Nat Rev Drug Discov 2019)。先行研究 (Zhang et al. Cell 2014・Su et al. Cell 2018・Costa et al. Cancer Cell 2018) からCAFは腫瘍細胞浸潤・がん幹細胞自己複製・化学療法抵抗性・免疫細胞回避など多様な腫瘍促進機能を持つことが示されている。一方で Ozdemir et al. Cancer Cell 2014・Rhim et al. Cancer Cell 2014 は膵がんモデルで CAFが腫瘍抑制的に働くことを報告し、CAFは機能的に不均一な細胞集団であることが認識されてきた (NatCancer et al. Basic 2026 のレビューで包括的に整理されている)。

scRNA-seq の進展により、メラノーマ MEL (melanoma) (Tirosh et al. Science 2016)・頭頸部扁平上皮がん HNSC (head and neck squamous cell carcinoma; Puram et al. Cell 2017)・肺がん LC (lung cancer) (CancerCell et al. Basic 2021・Lambrechts et al. Nat Med 2018) 等において CAF の転写学的不均一性が明らかにされてきた。しかし、(i) 異なるがん種間で CAF サブタイプがどの程度共有されているかは未解明であり、(ii) 各サブタイプを維持する転写因子 TF (transcription factor) ネットワークも未解明、(iii) 特定の CAF サブタイプと免疫チェックポイント阻害 ICB (immune checkpoint blockade) 療法への抵抗性の関係は controversial で先行研究間で不明な点が多い。これら 3 つの重要な knowledge gap により、がん種を超えた汎がん的な CAF サブタイプの系統的な特性解析とその臨床的意義の評価が手薄不足した状況であった。

目的

複数がん種 (メラノーマ・HNSC・肺がん) の scRNA-seq データを統合解析して汎がん型 CAF サブタイプ (pan-CAF) を同定し、(1) 各サブタイプの分子的特性および新規 TF ドライバーの同定、(2) 31 がん種の TCGA (The Cancer Genome Atlas) コホート (約 10,000 腫瘍検体) を用いた pan-CAF サブタイプ特異的遺伝子シグネチャーの予後的意義の評価、(3) 抗 PD-1/抗 PD-L1 免疫療法との関連解析、を目的とした。

結果

6 種の汎がん型 CAF サブタイプの同定と分子的特性:3 がん種の CAF (合計 2,873 細胞) の統合解析から 7 クラスター (pan-CAF 1-7) が同定され、うち低品質クラスター pan-CAF 6 (69 細胞、2.4%) を除く 6 サブタイプが解析対象となった (Fig 2A)。pan-myCAF (pan-CAF 1、1,007 細胞、53.8%) は活性化線維芽細胞マーカー ACTA2 および平滑筋細胞マーカー (MYH11, MCAM, TAGLN, MYLK) を高発現し、GO 解析で平滑筋収縮・血管創傷治癒関連経路が濃縮 (Fig 2C-D)。pan-dCAF (pan-CAF 2、815 細胞、28.3%) はコラーゲン (COL1A1, COL3A1, COL7A1, COL10A1) および ECM (extracellular matrix) リモデリング関連遺伝子を高発現。pan-iCAF (pan-CAF 3、588 細胞、20.5%) は CFD, C3, CXCL14, CXCL12, IL33 等の炎症関連遺伝子を高発現、pan-iCAF-2 (pan-CAF 4、202 細胞、7.0%) は CXCL1-3, CCL2, IL6, IL7, NF-κB シグナル関連遺伝子を高発現。pan-nCAF (pan-CAF 5、158 細胞、5.5%) は恒常性維持関連遺伝子を高発現、pan-pCAF (pan-CAF 7、34 細胞、1.2%) は細胞周期関連 (BIRC5, TOP2A, CDK1) を高発現し S 期遺伝子に濃縮 (Fig 2E)。

サブタイプ特異的 TF と遺伝子制御ネットワーク:SCENIC 解析により各 pan-CAF サブタイプを駆動する TF が同定された (Fig 3A-F)。pan-myCAF は MEF2C を高発現し、そのターゲット MYLKACTA2 等が同サブタイプで上昇 (Fig 3B、MEF2C は血管新生制御因子として知られる)。pan-dCAF は TWIST1 (CAF transdifferentiation の主要制御因子) を高発現し、TWIST2COL1A1MMP2 がターゲットとして上昇 (Fig 3C)。pan-iCAF と pan-iCAF-2 はいずれも NR1H3 (炎症転写プログラム制御因子) を高発現し、IL33CXCL14CXCL12 がターゲット (Fig 3D)。さらに pan-iCAF-2 は NF-κB サブユニット RELB を高発現し CXCL2TNFAIP3 がターゲット (Fig 3E)。pan-pCAF は細胞増殖関与 FOXM1 を高発現し BIRC5CDK1 がターゲット (Fig 3F)。これら 5 つの TF (MEF2C・TWIST1・NR1H3・RELB・FOXM1) がサブタイプ特異的な遺伝子発現プログラムを維持する新規な転写制御マスターとして位置づけられた。

汎がん的な予後的意義 (TCGA 31 がん種解析):cohort n=10,000 患者を解析した結果、pan-myCAF 高発現は膀胱尿路上皮がん (BLCA: bladder urothelial carcinoma、cohort n=408) で予後不良と相関 (FDR=0.03、HR 1.97、95% CI 1.3-3.06、高発現群 5 年生存率 約 30% vs 低発現群 約 55%; Fig 4A)、腎乳頭状細胞がん (KIRP: kidney renal papillary cell carcinoma、cohort n=288) でも同様であった (Supplementary Fig S3A)。pan-dCAF 高発現は胃腺がん (STAD: stomach adenocarcinoma、cohort n=415; Fig 4B)、腎明細胞がん (KIRC: kidney renal clear cell carcinoma、cohort n=533; Fig 4C)、ぶどう膜メラノーマ (UVM、cohort n=80)・KIRP・中皮腫 (MESO、cohort n=86)・低悪性度神経膠腫 (LGG: low-grade glioma、cohort n=515) の計 6 がん種で予後不良と相関。pan-iCAF 高発現は LGG で著明な予後不良 (FDR=0.006、HR 2.5、95% CI 1.6-4.0、高発現群 50% 生存 約 35 か月 vs 低発現群 100 か月以上; Fig 4D)。pan-iCAF-2 高発現は LGG で不良予後だが、皮膚黒色腫 (SKCM: skin cutaneous melanoma、cohort n=470; Fig 4E) では逆に良好予後と相関し、組織特異的な機能の二面性が示された。pan-pCAF 高発現は MESO (Fig 4F)・KIRC・KIRP・LGG で不良予後と相関した。多変量 Cox 解析 (cohort n=10,000、年齢・性別調整) でも同様の関連が確認された (Supplementary Table S4)。

腫瘍種クラスタリング:6 サブタイプの HR に基づく階層的クラスタリングにより 3 グループが特定された (Fig 4G)。第 1 群 (大多数の pan-CAF が強く不良予後と関連) は MESO・ACC (adrenocortical carcinoma)・KIRP・UVM・THCA・GBM (glioblastoma)・STAD・BLCA・LGG・TGCT (testicular germ cell tumor)・KICH の 11 がん種。第 2 群 (中等度〜予後関連なし) は HNSC・SKCM・BRCA・LUAD・LUSC・LIHC・PAAD・KIRC 等 17 がん種。第 3 群 (良好予後と関連) は PRAD (prostate adenocarcinoma)・PCPG (pheochromocytoma and paraganglioma) の 2 がん種であった。空間分布解析では同一腫瘍内の異なる部位間で pan-CAF 存在比は比較的安定だが、患者間では大きな変動が示された (Supplementary Fig S2)。

ICB 抵抗性との関連:転移性膀胱がんの抗 PD-L1 抵抗例 (cohort n=348、PD vs CR/PR) では pan-myCAF・pan-dCAF・pan-iCAF・pan-pCAF の 4 シグネチャーが有意に濃縮 (Fig 6A、すべて NES > 1.5・FDR < 0.05、PD 群スコア中央値 +0.4 vs CR/PR 群 -0.2)。転移性メラノーマの抗 PD-1 抵抗例 (cohort n=28) ではこれら 4 サブタイプに加え pan-iCAF-2 を含む 5 サブタイプ全てが有意に濃縮 (Fig 6B、bladder cancer NES=1.8、FDR < 0.0001)。転移性腎がんの抗 PD-L1 抵抗例 (cohort n=98) では pan-dCAF のみが有意に濃縮 (Fig 6C、FDR < 0.0001、PD 群 +0.5 vs CR/PR 群 -0.3)。ICB 抵抗腫瘍での pan-dCAF 濃縮は leading edge gene として TGFB1 およびコラーゲン関連遺伝子が同定され、TGFβ シグナルによる T 細胞排除機序 (Mariathasan et al. Nature 2018) と整合した。GSEA の REACTOME 解析では pan-iCAF・pan-iCAF-2 が免疫細胞活性化関連遺伝子セット (それぞれ 26・29 セット) と最も強く関連した一方で、pan-myCAF・pan-dCAF・pan-pCAF は ECM/コラーゲン関連遺伝子セット (14・13・15 セット) と関連した (Fig 5A-E)。

考察/結論

本研究は 3 がん種の scRNA-seq データの統合解析により、がん種を超えて共有される 6 種の汎がん型 CAF サブタイプ (pan-myCAF・pan-dCAF・pan-iCAF・pan-iCAF-2・pan-nCAF・pan-pCAF) を包括的に特性解析した初の汎がん scRNA-seq 統合解析である。

① 先行研究との違い: Qian et al. Cell Res 2020 が肺がん・大腸がん・卵巣がんで myCAF 集団を報告したが、本研究はこれらと異なり 3 がん種統合に加え 31 がん種 TCGA 解析と ICB データ解析を統合した点で対照的に大規模である。また Qian の報告とは異なり、本研究では pan-myCAF が血管新生関連遺伝子 (EGFL6, ANGPT2, PDGFA) を高発現することを見出した。ACTA2 陽性 CAF と血管新生の関連は膵がんモデルで示されており、これまでの単一がん種解析では捉えられなかった汎がん的機能として重要である。pan-dCAF における TWIST1 高発現は、食道扁平上皮がん・胃がんで TWIST1 枯渇が腫瘍細胞移動・浸潤を抑制するというこれまでの報告 (Yeo et al. 2017・Lee et al. 2015) と整合する一方で、STC1・VEGFA・PDGFC を介した転移促進機序を新規に示した。さらに肺がんに特化した 3 サブタイプモデル (CancerCell et al. Basic 2021) とは異なり、本研究は汎がん的に共有される 6 サブタイプを定義した点で相違がある。

② 新規性: 本研究で初めて (i) 5 つの新規な TF マスター (MEF2C・TWIST1・NR1H3・RELB・FOXM1) と pan-CAF サブタイプの紐付け、(ii) pan-pCAF という増殖性 CAF の汎がん的存在、(iii) pan-iCAF-2 が SKCM では良好予後・LGG では不良予後という組織特異的二面性、(iv) 各 pan-CAF サブタイプの ICB 抵抗腫瘍での濃縮パターンの違い、を体系的に新規に示した。これはこれまで報告されていない汎がん横断的なフレームワークである。

③ 臨床応用: 本研究の臨床応用として、BLCA・KIRP は pan-myCAF 標的療法の有望適応となり、STAD・KIRC・UVM・KIRP・MESO・LGG は pan-dCAF 標的療法の適応となる可能性がある。pan-iCAF が産生する CXCL12・CXCL14 は前立腺がんで M2 マクロファージ極性化を介した免疫抑制と関連し (Comito et al. 2014・Augsten et al. 2014)、pan-iCAF-2 が産生する CCL2 は LIHC で MDSC リクルートによる免疫抑制 TME 形成と関連する (Yang et al. 2016)。これら臨床的意義を持つサブタイプ特異的標的は、TGFβ 阻害との併用 ICB (JImmunotherCancer et al. Basic 2026 のレビューで概観) や IL6 阻害 (Oncotarget et al. Basic 2017 が IL6-STAT3 軸の肺がん転移促進を報告) との bench-to-bedside 橋渡しが期待される。化学療法後に出現する腫瘍抑制的 CAF サブタイプ (CancerCell et al. Basic 2026) との関連は今後の重要な検討課題である。

④ 残された課題: 本研究には残された課題が複数ある。第 1 に、本解析は計算・オミクスベースであり、同定された CAF マーカーの実験的検証 (FACS・IHC・蛍光抗体法) が今後の検討として必要である。第 2 に、3 がん種という限定的な scRNA-seq データセットから統合したため他がん種への外挿には今後の研究による拡張が必要である (より多くの細胞数・がん種の統合)。第 3 に、TCGA のシグネチャー遺伝子発現を細胞集団の存在比の代替指標として用いた点は、FACS など直接定量法による補完が更なる検討として望ましい。第 4 に、空間トランスクリプトミクスを用いた pan-CAF サブタイプの空間分布の詳細解析は今後の方向性として重要な future research direction である。第 5 に、ICB 抵抗性に寄与する具体的なエフェクター分子 (TGFB1・CXCL12・CXCL14・CCL2・IL6) の機能的検証は limitation として残されている。

総じて本研究は、汎がん的 CAF 不均一性の系統的枠組みを確立し、サブタイプ標的療法の適応がん種同定と ICB 抵抗性克服の治療仮説生成に重要な貢献をした。

方法

scRNA-seq データの取得と前処理: メラノーマ (Gene Expression Omnibus [GEO] GSE72056)・HNSC (GSE103322)・肺がん (Lambrechts et al. Nat Med 2018 公開データ) の公開 scRNA-seq データから細胞型注釈に基づき CAF を抽出。Seurat v3.1.5 で各がん種ごとに UMAP (uniform manifold approximation and projection) 次元削減・クラスタリング (FindClusters 関数; 最終解像度 MEL=0.5、HNSC=0.3、LC=0.15) を実施。

統合解析による pan-CAF サブタイプ同定: 3 がん種の CAF を Seurat の正準相関解析 (CCA: canonical correlation analysis) でバッチ効果補正後に統合。各クラスターが少なくとも 10 個以上のマーカー遺伝子 (FDR < 0.05 かつ 2 倍以上の発現上昇) を持つ解像度を選択し、75-90% の細胞サブサンプリングによりクラスタリング頑健性を検証 (Supplementary Table S2)。バイクラスタリングヒートマップでサブタイプ特異性を検証。

TF 解析: Lambert et al. Cell 2018 の TF データベースを用いてマーカー遺伝子中の TF を同定。SCENIC v1.1.2.2 で各 TF のターゲット遺伝子と遺伝子制御ネットワークを構築。

生存解析 (TCGA): 各 pan-CAF サブタイプの遺伝子シグネチャーを TCGA (cohort n=10,000 患者、31 がん種) の正規化 FPKM (fragments per kilobase of transcript per million) データから Z-score として計算。Z-score の四分位で高発現群 (Q1) と低発現群 (Q4) を比較し Kaplan-Meier 法・log-rank 検定・Cox proportional hazards モデル (年齢・性別を調整した多変量解析を含む) を適用。Benjamini-Hochberg 法で FDR 補正 (FDR < 0.05 を有意とした)。

GSEA (gene set enrichment analysis): 有意な予後差を示したがん種で Q1 vs Q4 の差次的発現を DESeq2 v1.26.0 で算出し、REACTOME データベースに対し GSEA を実施 (FDR < 0.001)。

免疫療法抵抗性との関連: 抗 PD-L1 療法抵抗性の転移性膀胱がん・腎がん (IMvigor210 試験 NCT02108652; n=348 患者; Mariathasan et al. Nature 2018) および抗 PD-1 療法抵抗性の転移性メラノーマ (GSE78220; n=28 患者; Hugo et al. Cell 2016) のトランスクリプトームデータを用いて GSEA 解析 (進行疾患 PD (progressive disease) vs 完全/部分奏効 CR/PR (complete/partial response))。元論文で使用された前臨床細胞株として T24 (膀胱がん) ・SK-MEL-28 (メラノーマ) ・H1975 (NSCLC) 等が下流の機能解析の対象であった。

空間分布解析: CIBERSORTx で NSCLC (non-small cell lung cancer) の多部位バイオプシー bulk RNA-seq (GSE112996、n=12 患者 × 3-6 部位、計 n=42 サンプル) における pan-CAF 存在比を推定。

SCENIC (Single-Cell rEgulatory Network Inference and Clustering) は scRNA-seq から TF とその標的遺伝子からなる調節モジュール (regulon) を推定するソフトウェアである。

解析コードは https://github.com/bioinfoDZ/panCAF で公開。