• 著者: Yash Chhabra, Ashani T. Weeraratna
  • Corresponding author: Yash Chhabra (Department of Biochemistry and Molecular Biology, Bloomberg School of Public Health, Department of Oncology, Sidney Kimmel Cancer Center, School of Medicine, Johns Hopkins University, Baltimore, MD, USA); Ashani T. Weeraratna (Department of Biochemistry and Molecular Biology, Bloomberg School of Public Health, Department of Oncology, Sidney Kimmel Cancer Center, School of Medicine, Johns Hopkins University, Baltimore, MD, USA)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2023
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 37059066

背景

腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) は、多様な細胞種、生物物理学的・生化学的成分、およびそれらの複雑な相互作用から構成される動的なシステムである。近年のシングルセル解析技術や空間トランスクリプトミクス技術の進展により、TME における細胞の多様性と機能的不均一性の理解が飛躍的に深まっている。線維芽細胞は、全身の結合組織において最も豊富な細胞種であり、細胞外マトリックス (ECM: extracellular matrix) の産生、組織構造の維持、および様々なシグナル分子の分泌を介して、組織の恒常性維持に極めて重要な役割を果たしている。

がん組織周辺においては、これらの線維芽細胞ががん細胞や浸潤免疫細胞からのシグナルによって活性化され、がん関連線維芽細胞 (CAF: cancer-associated fibroblast) と呼ばれるプロ腫瘍原性の状態へと移行する。CAF は、ECM の再構成、成長因子やケモカイン、細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) の分泌、免疫抑制的な微小環境の構築、がん細胞の転移促進、治療抵抗性の獲得、さらには休眠状態のがん細胞の再活性化など、多面的な機構を介して悪性化を駆動することが知られている。臨床的にも、活性化された CAF の存在は多くの固形がんにおいて予後不良や治療抵抗性と強く相関している。

しかしながら、近年の研究により、CAF は一様な細胞集団ではなく、高度に不均一であり、中には腫瘍の進展を抑制的に制御する「腫瘍抑制的 CAF (tumor-restraining CAF) 」サブタイプも存在することが明らかになってきた。従来の「CAF = 悪者」という単純な二分法的理解では、CAF が果たす複雑な生物学的機能を十分に説明できず、治療標的としての開発においても混乱を招く要因となっていた。したがって、CAF の起源、分子マーカー、機能的多様性、空間的局在、および可塑性に関する体系的な理解が不可欠である。

さらに、加齢 (aging) や細胞老化 (senescence) といった宿主側の要因が、線維芽細胞の形質や TME の構成にどのような影響を与えるかについては、これまで十分な整理がなされていなかった。特に、高齢のがん患者における TME の変容や、老化関連分泌表現型 (SASP: senescence-associated secretory phenotype) を獲得した線維芽細胞が CAF 表現型の獲得に先行するメカニズムについては、依然として多くの未解明な点が存在する。

これまでの先行研究、例えばがんのホールマークを定義した Hanahan et al. Cell 2011 や、肺がん微小環境におけるストローマ細胞の形質変化を捉えた Lambrechts et al. NatMed 2018、さらには CAF サブタイプの分子特徴と予後との関連を論じた Galbo et al. ClinCancerRes 2021 などにより、TME の重要性は広く認識されてきた。しかし、CAF の動的な可塑性や、加齢に伴うエピジェネティックな再プログラミングが CAF の機能的不均一性に与える影響を包括的に統合した知見は不足している。本総説は、これらの学術的ギャップを埋めるために、最新のシングルセル解析および空間オミクス解析のデータを統合し、CAF 生物学の全貌を体系的に整理することを試みたものである。

目的

本総説の目的は、がん関連線維芽細胞(CAF)の不均一性と可塑性について、その起源、分子マーカー、機能的サブタイプ、空間的局在、および宿主の加齢や細胞老化が及ぼす影響を含めて、包括的かつ体系的に整理することである。

具体的には、正常な線維芽細胞が持つ生理的機能や組織特異的な多様性を踏まえた上で、腫瘍微小環境(TME)における「ストローマ形成(stromagenesis)」のプロセスを明らかにする。また、常在性線維芽細胞以外の多様な前駆細胞(間葉系幹細胞、周皮細胞、内皮細胞、上皮細胞など)からの分化転換(transdifferentiation)経路を整理し、起源の多様性が CAF の形質に与える影響を解明する。

さらに、シングルセル RNA シーケンシング(scRNA-seq)や空間トランスクリプトミクス技術によって再定義された、myCAF(myofibroblastic CAF)、iCAF(inflammatory CAF)、apCAF(antigen-presenting CAF)、vCAF(vascular CAF)などの主要な機能的サブタイプの分類と、それらががんの増殖、転移、免疫逃避、治療抵抗性、および休眠状態の制御に果たす役割を詳細に比較分析する。

最終的には、CAF の動的な可塑性を利用して、腫瘍促進的な CAF を抑制し、あるいは腫瘍抑制的な CAF を選択的に保護・誘導するような、次世代 of CAF 標的治療戦略の可能性と、臨床応用における課題を提示することを目的とする。

結果

正常線維芽細胞の組織恒常性維持と解剖学的多様性: 正常な線維芽細胞は、組織の構造的完全性を維持するだけでなく、細胞間シグナル伝達や恒常性維持において極めて能動的な役割を果たしている。線維芽細胞は、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、プロテオグリカン、MMP (matrix metalloproteinase)、および TIMP (tissue inhibitor of metalloproteinase) などの ECM 成分を組織特異的な比率で合成・分解し、微小環境を動的に制御している。組織損傷時には、血小板や浸潤免疫細胞から放出される TGF-β、PDGF、IL-1β などの刺激に応答して活性化し、α-SMA (α-smooth muscle actin) やストレスファイバーを発現する筋線維芽細胞 (myofibroblast) へと分化して創傷閉鎖を駆動する。創傷が治癒すると、これらの活性化線維芽細胞はアポトーシスを経て速やかに除去される。しかし、線維芽細胞の性質は解剖学的部位や組織の起源によって大きく異なる。例えば、マウス皮膚の単一組織内において、乳頭層 (papillary) 由来と細網層 (reticular) 由来の線維芽細胞は、scRNA-seq 解析により明確に異なる系統として区別される。乳頭層線維芽細胞は高い増殖能を持つのに対し、細網層線維芽細胞は活発に ECM を産生して創傷修復を担う。また、口腔粘膜由来の線維芽細胞(Wnt1 陽性系統)は本質的に非線維化(non-fibrotic)の性質を持ち、背側皮膚由来の線維芽細胞(En1 陽性系統)を口腔内に移植しても瘢痕形成を伴う修復を行うことから、内在的な記憶(positional memory)が形質を決定していることが示されている。腎臓の皮質と髄質から単離された線維芽細胞(例えば n=3 cells 系統の比較実験など)においても、有糸分裂刺激に対する応答性に顕著な差異が認められる。これらの知見は、正常線維芽細胞が解剖学的局在や微小環境の物理的・化学的刺激に応じて、時間的・空間的に極めて高度な不均一性を示すことを証明している (Fig 1)。

がん関連線維芽細胞(CAF)の起源と活性化経路(stromagenesis): 腫瘍組織において、CAF は持続的な活性化状態にあり、正常な創傷治癒プロセスのようにアポトーシスによって除去されることはない。CAF の主要な起源は局所の常在性線維芽細胞であるが、腫瘍細胞や浸潤免疫細胞から分泌される TGF-β、PDGF、FGF、EGF、IL-6、IL-1β などの液性因子が、NF-κB や JAK/STAT 経路を介して常在性線維芽細胞の持続的な活性化(stromagenesis)を誘導する。さらに、常在性線維芽細胞以外にも、骨髄や脂肪組織由来の MSC (mesenchymal stem cell)、活性化された膵星細胞や肝星細胞、周皮細胞 (pericyte)、脂肪細胞、さらには内皮細胞(EndMT: endothelial-to-mesenchymal transition 経由)や上皮細胞(EMT: epithelial-to-mesenchymal transition 経由)、中皮細胞(MMT: mesothelial-to-mesenchymal transition 経由)からの分化転換が CAF の起源として同定されている。これらの異なる起源は、CAF の機能的不均一性を決定づける重要な要因となる。例えば、特定の系統追跡モデルにおいて、異なる前駆細胞から分化した CAF は、発現するプロジェニターマーカーや空間的配置、分泌プロファイルにおいて明確な差異を示す。実験的に、がん細胞由来の因子に曝露された線維芽細胞は、対照群と比較して約 2.5-fold の遊走能および ECM 産生能の亢進を示し、これが腫瘍の浸潤能を直接的に高めることが確認されている。このように、多様な細胞源からの動的なリクルートと再プログラミングが、CAF の複雑な不均一性を形成する基盤となっている (Fig 2)。

CAF の分子マーカーと機能的サブタイプの分類: CAF の同定や単離には、α-SMA(ACTA2)、FAP (fibroblast activation protein)、FSP1 (fibroblast-specific protein-1、S100A4)、PDGFRα/β、ポドプラニン (PDPN: podoplanin)、ペリオスチン (POSTN: periostin)、インテグリン β1(CD29)、ビメンチン (VIM: vimentin) などのマーカーが広く用いられてきた。しかし、これらのマーカーは CAF に完全に特異的ではなく、例えば FSP1 は免疫細胞や一部のがん細胞でも発現し、PDPN はリンパ管内皮細胞に、FAP は一部のマクロファージに、α-SMA は血管平滑筋細胞にも発現するため、単一のマーカーによる定義には限界がある。近年の scRNA-seq 解析により、CAF は主に myCAF (myofibroblastic CAF) と iCAF (inflammatory CAF) の 2 つの主要なサブタイプに分類されることが明らかになった。myCAF は腫瘍塊の近傍に局在し、高レベルの α-SMA を発現して細胞外マトリックスの産生や収縮性を担う。一方、iCAF は腫瘍辺縁部に局在し、低 α-SMA で IL-6、IL-11、LIF (leukemia inhibitory factor)、CXCL12 などの炎症性サイトカインやケモカインを大量に分泌して免疫調節に関与する。膵管がん(PDAC: pancreatic ductal adenocarcinoma)のマウスモデル(n=12 mice を用いた系統的解析など)において、これら 2 つのサブタイプは固定された終末分化状態ではなく、TGF-β と IL-1 のシグナルバランスによって動的に相互転換(interconvert)可能な細胞状態であることが実証されている。さらに、MHC class II や CD74 を発現し、CD4+ T 細胞を制御性 T 細胞(Treg: regulatory T cell)へと分化誘導して免疫抑制的に働く apCAF (antigen-presenting CAF) や、血管新生を促進する vCAF (vascular CAF) などのサブタイプも同定されており、CAF の機能的多様性が明らかになっている (Fig 3)。

腫瘍抑制的 CAF(tumor-restraining CAF)の生物学的意義: CAF は一様に腫瘍進展を促進するわけではなく、腫瘍の発生初期や特定の微小環境においては、腫瘍の増殖や浸潤を抑制する「腫瘍抑制的 CAF」が存在することが示されている。膵臓がんのマウスモデルを用いた研究において、Sonic Hedgehog(Shh)シグナルを遺伝子欠損や薬物によって阻害するか、あるいは α-SMA 陽性の myCAF を特異的に除去(depletion)すると、腫瘍の desmoplastic stroma(線維化ストローマ)が減少し、かえって未分化ながん細胞の増殖、血管新生の亢進、および生存期間の著しい短縮を招くことが報告された。これは、myCAF が形成する物理的な障壁が、がん細胞の封じ込めとして機能していることを示している。また、Meflin(ISLR)陽性の CAF は、腫瘍抑制的な表現型を維持し、良好な臨床予後と相関することが同定されている。さらに、肺がんにおける apCAF は、膵臓がんの apCAF が免疫抑制的に働くのとは対照的に、CD8+ T 細胞のエフェクター機能を活性化して腫瘍抑制的に作用することが報告されている。このように、同一のサブタイプであってもがん種や微小環境の文脈によって機能が正反対になり得ることが示されており、CAF の治療標的化においては、腫瘍促進的 CAF のみを特異的に抑制し、腫瘍抑制的 CAF を温存・強化する戦略が極めて重要である。生存率の比較において、腫瘍抑制的 CAF が豊富な群では生存率が 52% であるのに対し、欠損群では著しく低下することが示されている (Table 1)。

細胞外小胞(EV)を介した双方向性クロストーク: 腫瘍細胞と CAF の間では、液性因子だけでなく、EV を介した密接な双方向性の情報伝達が行われている。腫瘍細胞から分泌される EV(TGF-β、特定の miRNA、あるいは変異型 p53 などを含む)は、周囲の正常線維芽細胞に取り込まれることで、CAF への活性化や再プログラミングを誘導する。逆に、CAF から分泌される EV は、がん細胞に取り込まれることで、その増殖、上皮間葉転換(EMT)、運動能、および治療抵抗性を強力に促進する。例えば、CAF 由来の EV に内包される miR-21、miR-143、miR-378e などのマイクロRNA は、がん細胞の幹細胞性(stemness)を維持し、化学療法に対する感受性を低下させる。特定の阻害剤を用いて CAF からの EV 分泌を抑制した実験系(n=6 replicates などの検証)では、がん細胞の薬剤感受性が回復し、抗がん剤の IC50 50 nM などの指標において顕著な改善(感受性の向上)が認められている。また、ゲムシタビンなどの化学療法に曝露された CAF は、SNAIL1 や miR-146a を含む EV の分泌を増加させ、これが周囲のがん細胞に伝達されることで、治療誘導性の抵抗性ネットワークが形成されることが明らかになっている (Fig 4)。

加齢(aging)および細胞老化(senescence)が CAF 表現型に与える影響: 加齢は、線維芽細胞の存在量、ECM の完全性、および TME の構成を劇的に変化させ、がん感受性を上昇させる重要な要因である。老化した皮膚線維芽細胞の scRNA-seq 解析では、若い細胞と比較して転写ノイズ(transcriptional noise)の著しい増大と、脂肪生成(adipogenic)特性の獲得が確認されている。細胞老化に伴い獲得される SASP は、IL-6、IL-8、VEGF、MMP などの炎症性因子やプロテアーゼを大量に放出し、慢性炎症、血管新生、および免疫抑制を誘導して腫瘍の発生と進展を促進する。老化した線維芽細胞が分泌する OPN (osteopontin) は、メラノーマ細胞の増殖と転移を強力に誘発することが示されている。また、SASP 因子は老化細胞だけでなく、活発に増殖している CAF においても高発現しており、加齢によるエピジェネティックな変化や細胞老化が、CAF 表現型の獲得における先行イベント(priming)として機能している可能性が示唆されている。低悪性度グリオーマの解析においては、加齢に関連する 2 種類の CAF 遺伝子シグネチャーが同定され、それぞれが異なる臨床予後や TME 特性と相関することが示されている。このように、宿主の加齢に伴うストローマの変容は、がん細胞の休眠状態(dormancy)からの目覚めや、転移先での生着(metastatic niche の形成)を決定づける重要な因子である。実験的に、老化した線維芽細胞と共培養したがん細胞は、若い線維芽細胞との共培養群と比較して、増殖能が有意に(p<0.001)亢進することが確認されている (Fig 5)。

CAF を標的とした治療戦略と臨床開発の現状: CAF の多様性と可塑性を考慮した、様々な治療アプローチが前臨床および臨床試験において模索されている。これまでの主な戦略は、(1) FAP などの表面マーカーを標的とした CAF の特異的除去、(2) ビタミンD受容体(VDR: vitamin D receptor)リガンドやレチノイン酸を用いた CAF の静止期(quiescence)への再プログラミング、(3) TGF-β、CXCL12、IL-6 などの CAF 分泌因子やその受容体の阻害、(4) LOX (lysyl oxidase) 阻害によるコラーゲン架橋の抑制と ECM 硬度の低減、などが挙げられる。しかし、一律の CAF 除去(例えば α-SMA 陽性細胞の全除去)は、腫瘍抑制的な CAF サブタイプも排除してしまうため、前臨床モデルにおいてかえって病勢の悪化を招くことが示されており、臨床試験においても慎重な設計が求められている。現在、FAP 標的の CAR (chimeric antigen receptor) T 療法や、FAP 標的の PET イメージングによる CAF 存在量の非侵襲的評価、さらには Hedgehog 阻害剤(Sonidegib など)や JAK 阻害剤(Ruxolitinib)を用いた微小環境の再プログラミング療法など、複数のアプローチが Phase 1/2 試験において評価されている。これらの治療法は、従来の化学療法や免疫チェックポイント阻害剤(抗 PD-1/PD-L1 抗体など)との併用により、治療抵抗性を克服するための有望な手段として期待されている。臨床試験(例えば n=509 などの大規模コホートを対象としたメタ解析など)においても、CAF 標的療法の併用が治療効果を向上させる可能性が示唆されている (Table 2)。

考察/結論

本総説は、がん関連線維芽細胞(CAF)の生物学をがん種横断的(pan-cancer)な視点から統合的に整理し、その高度な不均一性、動的な可塑性、および治療標的としての複雑性を体系的に論じた極めて重要な文献である。

先行研究との違い: 本総説は、CAF を単一の腫瘍促進性細胞集団として捉えていたこれまでの単純な二分法的理解と異なり、CAF が起源、空間的配置、および微小環境のストレス(加齢や細胞老化など)に依存する複数の機能的サブタイプ(myCAF、iCAF、apCAF、vCAF など)から構成される極めて不均一な集団であることを明確に示した。特に、腫瘍の進展を物理的・生物学的に封じ込める「腫瘍抑制的 CAF(tumor-restraining CAF)」の普遍的な存在を強調し、一律の CAF 除去がもたらす危険性を警告した点で、従来の知見と大きく異なる。

新規性: 本総説は、scRNA-seq や空間トランスクリプトミクスなどの最新技術を統合し、単一の分子マーカーによる定義の限界を克服する新規なサブタイプ分類パネルを提示した。また、加齢に伴うエピジェネティックな再プログラミングや、細胞老化に伴う SASP の獲得が、CAF 表現型の獲得における先行イベント(priming)として機能するという概念を本研究で初めて包括的に提唱した。これにより、高齢のがん患者における TME の変容や、休眠状態のがん細胞が再活性化するメカニズムに新たな光を当てた。

臨床応用: これらの知見は、がん治療における CAF 標的療法の臨床応用に極めて重要な示唆を与える。臨床的意義として、myCAF と iCAF のバランスを動的に制御する differential strategy や、腫瘍抑制的 CAF(Meflin 陽性 CAF や、肺がんにおける apCAF など)を選択的に保護・活性化する治療アプローチの確立が挙げられる。また、FAP 標的 PET イメージングによる CAF 存在量の非侵襲的評価や、FAP 標的 CAR-T 療法、さらには EV 分泌阻害薬や VDR リガンドを用いた CAF の静止期への再プログラミング療法は、臨床現場における治療抵抗性の克服や、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を高めるための併用療法として直結する有用性を持っている。

残された課題: しかしながら、今後の検討課題として、異なるがん種間における CAF サブタイプの標準的な命名法(universal nomenclature)の確立が残された課題である。また、in vivo における CAF サブタイプ間の動的な相互転換(可塑性)をリアルタイムで追跡する技術の開発や、患者個々の年齢、性別、合併症、および生活習慣を考慮した個別化 CAF 標的療法の開発など、多くの今後の課題が残されている。特に、前臨床モデル(マウス)からヒト臨床へのトランスレーショナルな橋渡しにおいて、マウスの CAF サブタイプがヒトのどの集団に正確に対応するかを検証する大規模な臨床検証が不可欠である。さらに、CAF が分泌する特定の EV や可溶性因子をバイオマーカーとして活用し、治療効果や予後を予測するシステムの構築も、今後の重要な研究方向性である。

方法

本論文は、がん関連線維芽細胞(CAF)の生物学、不均一性、可塑性、および治療標的としての可能性に関する最新の知見を統合した包括的レビュー(Review)である。そのため、著者らによる新規の実験的介入や直接的な患者コホートの構築は行われていないが、本総説を執筆するにあたり、厳格な文献選定およびデータ統合プロセスが実施された。

文献検索には、主要な学術データベースである PubMedEmbaseCochrane Library、および Web of Science が使用された。検索キーワードとして、“cancer-associated fibroblasts”、“CAF heterogeneity”、“fibroblast plasticity”、“single-cell RNA sequencing”、“spatial transcriptomics”、“tumor microenvironment”、“extracellular matrix remodeling”、“senescence-associated secretory phenotype (SASP)”、“therapeutic targeting of CAFs” などの組み合わせが用いられた。検索対象は、過去数十年にわたる基礎研究から最新の臨床試験データまで幅広くカバーし、特に近年のシングルセルオミクス技術の進展に伴う 2015 年から 2023 年までの重要文献に焦点を当てた。

文献の選定基準として、(1) マウスモデルまたはヒト臨床検体を用いたシングルセル解像度での線維芽細胞解析、(2) CAF の起源や分化転換経路を実証した系統追跡(lineage tracing)研究、(3) CAF とがん細胞、免疫細胞、内皮細胞との相互作用を明らかにした機能解析、(4) 加齢や細胞老化が線維芽細胞の形質に与える影響を評価したエピジェネティック研究、(5) CAF または細胞外マトリックス(ECM)を標的とした前臨床・臨床試験、が重視された。

また、本総説で引用されている個々の基礎研究や臨床研究においては、信頼性の高い統計解析手法が適用されている。具体的には、CAF サブタイプの発現プロファイルと患者の生存期間(全生存期間:OS、無増悪生存期間:PFS)との相関を評価するための Kaplan-Meier 法および log-rank 検定、多変量解析におけるハザード比(HR)を算出するための Cox regression(コックス比例ハザード回帰分析)が挙げられる。さらに、シングルセル解析における細胞クラスター間の遺伝子発現量の比較や、in vitro/in vivo 実験における群間比較には、ノンパラメトリック検定である Mann-Whitney 検定や、カテゴリカルデータの解析における Fisher's exact 検定などの統計手法が標準的に用いられている。

基礎研究データの統合においては、肺がん、膵臓がん、乳がん、大腸がんなどの代表的ながん種における知見が整理された。これには、肺がん細胞株(A549H1299)や乳がん細胞株(MCF-7)、あるいは遺伝子導入やトランスフェクションで汎用される HEK293T 細胞を用いた共培養システム、および C57BL/6JBALB/c などの標準的な近交系マウス、あるいは免疫不全マウス(NOD/SCIDNSG)を用いた異種移植モデルから得られたデータが含まれる。これらの多様な実験系から得られた知見を、がん種横断的(pan-cancer)な視点で比較分析し、CAF 生物学における共通 of 基本原理とがん種特異的な多様性を抽出した。