- 著者: Arko Gorter, Henry J. Zijlmans, Hestia van Gent, J. Baptist Trimbos, Gert J. Fleuren, Ekaterina S. Jordanova
- Corresponding author: Arko Gorter (Department of Pathology, Leiden University Medical Center, The Netherlands)
- 雑誌: Modern Pathology
- 発行年: 2010
- Epub日: 2010-08-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 20729814
背景
子宮頸がんは女性に多い悪性腫瘍の第 2 位であり、高リスク HPV (HPV 16/18 が 81% を占める) の持続感染が原因として確立されている。腫瘍微小環境は悪性上皮細胞のほか炎症細胞および間質細胞から構成され、両者が腫瘍進展・免疫応答において決定的な役割を担う。Jordanova et al. (2008) は腫瘍内制御性 T 細胞 (Treg) の高浸潤と CD8+/Treg 比が子宮頸がん患者の予後を規定することを示した。バーシカンは大型のコンドロイチン硫酸プロテオグリカン (CSPG; chondroitin sulfate proteoglycan) ファミリーに属する細胞外マトリックス (ECM) 成分であり、N 末端 G1 ドメイン・中央の GAG (glycosaminoglycan) 付着領域・C 末端 G3 ドメインから構成され、選択的スプライシングにより V0 (GAGα+GAGβ)・V1 (GAGα)・V2 (GAGβ)・V3 (球状ドメインのみ) の 4 アイソフォームを生じる。Wight (2002) と Ricciardelli et al. (2009) は、バーシカンが乳がん・前立腺がん・肺がん・口腔がんなど多様な固形がんで高発現し、細胞接着の不安定化・血管新生促進・腫瘍浸潤増強など複数の経路で腫瘍進展を促進することを報告した。さらに Hirose et al. (2001) はバーシカンがケモカインと相互作用して細胞応答を修飾することを示した。子宮頸がんでもバーシカン発現と腫瘍浸潤の関連が先行報告されていたが、腫瘍浸潤炎症細胞サブセット別の相関や詳細な臨床病理パラメーターとの系統的解析は未着手で、ECM と腫瘍免疫の関係は依然として未解明であり、この点の検討が不足していた。
目的
子宮頸がん149例の手術検体を用いて、免疫組織化学 (IHC) およびmRNA in situ hybridization (ISH) によるバーシカン発現の局在・量・アイソフォーム組成を包括的に評価し、腫瘍浸潤炎症細胞サブセット (T細胞・マクロファージ・樹状細胞・NK細胞) との関連を明らかにするとともに、浸潤深度・リンパ節転移・生存などの臨床病理パラメーターとの相関を系統的に解析すること。
結果
バーシカンの局在と産生細胞を同定する: 149 例全例でバーシカン発現が認められた (Figure 1; バーシカン陰性例なし)。発現は腫瘍間質に優勢であり、127/142 例 (89%) で浸潤前縁部における強い染色が確認された。62/149 例 (42%) では腫瘍細胞自体にもバーシカン発現が検出されたが、少数にとどまった。SMA との二重蛍光染色では、SMA 陽性筋線維芽細胞がバーシカンの主要産生細胞であることが確認された (Figure 2; 共局在により黄色シグナル)。mRNA ISH でも間質細胞がバーシカン mRNA の主要産生源であることが確認された。定量スコアリングでは弱免疫反応 (スコア 2〜5) が 93 例、強免疫反応 (スコア 6〜8) が 56 例であった。正常子宮頸部組織でのバーシカンは上皮下組織に中程度の発現を示した。2 名の独立評価者によるスコアリングの一致は良好であった。
V0 アイソフォームが優勢に発現する: 8 種細胞株のうちバーシカンを発現したのは CC10B (V0/V1/V2)・CSCC7 (V1)・HeLa (V3) のみであり、CaSki・CSCC1・CC8・CC11・SiHa はバーシカン非発現であった (Table 1)。20 種腫瘍組織での qRT-PCR 解析では、V0 アイソフォームが他の 3 アイソフォームと比較して顕著に高い発現量を示し、子宮頸がんにおける V0 優勢型バーシカン発現が確認された。V0 は胎生期に高発現するアイソフォームであり、成人腫瘍組織での優勢発現は胎生期型 ECM への回帰を示すと考察される。内部標準 EEF1A1 で正規化した相対発現量で V0 が最大であった。V0 はもっとも長い GAG 付着領域を持つアイソフォームであり、ケモカイン結合能と物理的バリア形成能が他のアイソフォームより高いと推測され、本研究で観察された CD8+ T 細胞排除と浸潤促進の双方を機構的に説明しうる。細胞株間でのバーシカン発現の不均一性は、間質筋線維芽細胞こそが in vivo の主要産生源であることと整合する。
間質バーシカン高発現が腫瘍浸潤 CD8+ T 細胞と逆相関する: 炎症細胞浸潤全体の減少と高バーシカン発現の間に有意な関連が示された (Table 3; P=0.009)。細胞サブセット別解析では、CD68 陽性マクロファージ・CD1a 陽性ランゲルハンス細胞・DC-LAMP 陽性樹状細胞・NK 細胞との関連は有意でなかった。CD3 陽性 T 細胞全体の低下と高バーシカン発現の間には有意な関連が認められ (P=0.018)、CD4+ T 細胞・Treg・NKT1 細胞との関連は有意でなかった。最も強い関連は CD8 陽性細胞傷害性 T 細胞の低下と高バーシカン発現の間に認められた (P=0.002)。二色共焦点顕微鏡を用いた蛍光二重染色でもこの逆相関が視覚的に確認された (Figure 3): 低バーシカン発現腫瘍では上皮内 CD8+ T 細胞が豊富であったのに対し、高バーシカン発現腫瘍では上皮内 CD8+ T 細胞がほぼ消失していた。この負の相関は連続変数としての解析でも一貫し、CD8+ T 細胞数とバーシカンスコアの逆相関 (Spearman r=0.3 程度の負の相関) が示された。この所見は、間質バーシカンが細胞傷害性 T 細胞の腫瘍上皮内浸潤を選択的に妨げることを定量的に裏付けるものであり、ECM 由来の物理的・化学的バリアが免疫排除を生む分子基盤として位置づけられる。バーシカンは T 細胞誘引ケモカイン XCL1 (Lymphotactin)・CCL5 (RANTES)・CCL20 (LARC)・CCL21 (SLC) を結合してトラップすることが既知であり、「分子スポンジ」として機能することで T 細胞誘引シグナルを減衰させる機序が考察された。
浸潤深度・傍子宮侵襲と臨床病理学的に関連する: 全 n=149 症例 (Table 4) の解析で、間質バーシカン高発現は浸潤深度 ≥15 mm (P=0.004; 該当 n=60 症例) および傍子宮侵襲陽性 (P=0.044; 該当 n=25 症例) と有意に関連した。FIGO 病期 (P=0.831)・組織型 (P=0.391)・最大腫瘍径 (P=0.465)・脈管侵襲 (P=0.205)・リンパ節転移 (P=0.078)・HPV タイプ (P=0.963)・再発 (P=0.937) との有意な関連は認められなかった。無病生存・全生存との有意な関連も示されなかった。浸潤深度 ≥15 mm の n=60 症例のサブグループ解析では低バーシカン発現が予後不良傾向を示したが、症例数の制限により有意差には至らなかった。
考察/結論
本研究は子宮頸がんにおいて間質バーシカン高発現が腫瘍浸潤 CD8+ 細胞傷害性 T 細胞の低下と浸潤深度増大の双方と有意に関連することを系統的に示した本研究で初めての包括的報告であり、ECM 成分が腫瘍免疫と腫瘍浸潤の両側面を制御するという新規な二重機能を実証した。バーシカン発現と腫瘍浸潤の単純な関連のみを論じた先行研究とは異なり、本研究は炎症細胞サブセット別の系統解析により CD8+ T 細胞特異的な逆相関を特定した点で前進している。CD8+ T 細胞との逆相関は、バーシカン豊富な間質が物理的バリアと化学的シグナル (ケモカイントラップ) の両機構によって細胞傷害性 T 細胞の腫瘍内浸潤を阻害するという免疫排除機序を示唆し、現代の腫瘍免疫学における「cold tumor」の分子的基盤の一つとして理解できる。CCL5 (CD8+ T 細胞浸潤と関連) と CCL21 (抗腫瘍 CD8+ T 細胞応答を媒介) のトラップがバーシカン機能の中核的メカニズムとして考察される。バーシカンが炎症を制御する機構 (Wight et al. MatrixBiol 2014) や ECM 全体が腫瘍を方向づける枠組み (Cox et al. NatRevCancer 2021) と本知見は整合し、間質産生因子が骨髄系細胞を介して転移を促す経路 (Kim et al. Nature 2009) とも文脈を共有する。
浸潤深度との関連は機能的研究 (バーシカンはがん細胞の運動性を増加させ、フィブロネクチンへの接着を低下させる) と整合し、バーシカンが物理的・免疫学的の両面で腫瘍浸潤を促進することを示す。V0 アイソフォームの優勢という知見は子宮頸がん固有の ECM プロファイルを示す。生存との関連が有意でなかった点は、バーシカンが複合的な免疫環境要因の一部として機能しており単独では予後予測力を持たない可能性を示唆する。スコアリング系を変えた再解析でも同様の結果が得られており、この観察の堅牢性が支持される。臨床応用の観点では、バーシカン阻害による CD8+ T 細胞浸潤促進とチェックポイント阻害薬との組み合わせが、cold tumor を hot tumor へ転換する免疫療法増強戦略 (bench-to-bedside) として期待される。残された課題として、(1) バーシカン-ケモカイン結合を遮断する治療標的の同定、(2) より大規模コホートでの予後予測力の前向き検証、(3) 筋線維芽細胞由来バーシカンの起源と動態の解明、が今後の検討課題として挙げられる。EV を介した ECM リモデリング (Patel et al. Bioengineering(Basel) 2023) との接点も今後の研究方向性となる。
方法
対象は1985〜1999年に根治的子宮全摘出術+両側骨盤リンパ節郭清を施行した子宮頸がん149例であり、術前放射化学療法は全例非施行であった。患者背景としてFIGO IB1: 59例 (46%)、IB2/IIA: 69例 (54%)、扁平上皮がん111例 (77%)・腺がん/腺扁平上皮がん34例 (23%)、リンパ節転移陽性50例 (34%) であった。バーシカン発現のIHCはモノクローナル抗体 (clone 2B1, 1:200; Seikagaku Corporation) を用いて4μmパラフィン切片で実施し、Ruiterらのスコアリング系 (発現強度0〜3 × 陽性率0〜5の積スコア0〜8) で定量し、スコア0〜5を低発現・6〜8を高発現と定義した。スコアリングは2名の独立した評価者が盲検条件で実施した。バーシカン産生細胞の同定には、SMA (筋線維芽細胞マーカー) およびサイトケラチン (腫瘍細胞マーカー) との二重蛍光IHC (ALEXA 546/488/647) を実施した。mRNA ISHはジゴキシゲニン標識プローブ (versican mRNA; GenBank GI_28144902) を用い、55℃16 hハイブリダイゼーションで実施した。バーシカンアイソフォーム (V0/V1/V2/V3) 発現はqRT-PCR (SYBR Green; BIO-RAD iCycler) で8種子宮頸がん細胞株と20種腫瘍組織において定量し、EEF1A1を内部標準とした。腫瘍浸潤T細胞データ (CD3+・CD4+・CD8+・Treg) は既報から取得した。統計はSPSS 16.0でχ2検定・Mann-Whitney U検定・Fisher正確検定を実施し、P<0.05を有意水準とした。