• 著者: Lysanne Desharnais, Mark Sorin, Morteza Rezanejad, Bridget Liu, Elham Karimi, et al.
  • Corresponding author: Jonathan D. Spicer; Logan A. Walsh (McGill University, Montreal, Canada)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2025
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Translational)
  • PMID: 39905080

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small cell lung cancer) は世界のがん死因首位であり、全肺癌の約85%を占める。NSCLCはさらに肺腺癌 (LUAD: lung adenocarcinoma) と肺扁平上皮癌 (LUSC: lung squamous cell carcinoma) を中心に分類され、両者は遺伝子変異プロファイル・治療反応性・予後において大きく異なる (Campbell et al. NatGenet 2016)。免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) のNSCLC治療への導入により腫瘍微小環境 (TIME: tumour immune microenvironment) の理解が予後・治療反応予測の鍵となっているが、LUADとLUSCで免疫細胞組成・空間構造がどのように異なるかは未解明であった。先行研究において著者ら自身がimaging mass cytometry (IMC) を用いてLUAD単独コホートのTIMEを解析し、B細胞とCD4+T細胞の空間的相互作用が予後良好と相関することを示した (Sorin et al. Nature 2023)。しかし、(i) LUADとLUSCを臨床因子 (年齢・性別・喫煙歴) でマッチさせた直接比較研究は皆無、(ii) 単純な細胞頻度ではなくk-nearest neighbor (kNN) ベースの細胞近傍 (CN: cellular neighbourhood) 解析を両組織型間で並列実施した研究はない、(iii) NSCLC好中球の機能多様性 (Gungabeesoon et al. Cell 2023) の空間的基盤がLUAD/LUSC間でどう異なるかは未検証、という3つのギャップが残されていた。何が足りなかったかというと、臨床マッチ設計に基づく組織型横断的な空間免疫地図と、CNレベルでの予後相関の独立検証が不足していた。

目的

臨床因子 (年齢・性別・stage・喫煙歴) で1:1マッチさせたLUAD 51例とLUSC 51例 (計102例・204コア) のIMCデータを用いて、(1) 単一細胞レベルでの免疫細胞組成と活性化状態をLUAD/LUSC間で比較し、(2) ペアワイズ細胞間相互作用と複数階層 (10/30 CN) の細胞近傍構造を体系的に解析し、(3) 予後 (overall survival: OS, disease-free survival: DFS) と関連するCNを組織型別に同定すること。

結果

LUADとLUSCで免疫細胞組成・活性化状態が体系的に異なる: IMCで合計893,148細胞を14免疫細胞タイプ + 腫瘍細胞 + 内皮細胞に分類した結果 (Fig 1B-C, Table 1)、LUADの免疫浸潤率は45.3%でLUSC (36.7%) を上回り、これは主にリンパ系細胞の増加に起因した。LUADではCD4+ヘルパーT細胞 (12.5% vs 7.4%)、Treg (0.62% vs 0.33%)、CD163-マクロファージ (8.6% vs 4.3%)、CD163+マクロファージ (2.8% vs 1.0%)、肥満細胞、内皮細胞が有意に多く (Fig 1G)、LUSCでは好中球 (8.1% vs 4.1%)、CD14+CD16-古典的単球 (2.3% vs 1.2%)、Ki67+腫瘍細胞 (8.9% vs 4.7%, p=2.71×10⁻⁶) が増加していた (Fig 1G, J)。活性化状態についてはLUAD T細胞でpERK発現が増加 (CD4+ p=2.48×10⁻⁵、CD8+ p=1.77×10⁻⁵, Fig 1K)、LUSCマクロファージでArginase 1+割合 (p=7.33×10⁻⁶, Fig 1M)、LUSC好中球でα-cleaved H3+ (neutrophil extracellular trap; NETマーカー) 割合 (p=3.18×10⁻¹⁰, Fig 1N) が増加し、組織型ごとに異なる免疫機能的偏倚が明らかになった。免疫細胞内訳でも、LUADではCD4+ヘルパー (26.2%)・CD163-マクロファージ (21.7%)・CD8+ T細胞 (16.5%) が上位3位を占めるのに対し、LUSCでは好中球 (22.5%)・CD4+ヘルパー (18.8%)・CD8+ T細胞 (15.7%) と、好中球が最頻出免疫細胞となった (Gungabeesoon et al. Cell 2023) (Fig 1H-I)。

CD163陰性マクロファージ富化近傍CN3/CN15がLUAD特異的に全生存不良と相関: 10 nearest neighbor + 10 CN解析で10種類のCN (tumour boundary, pan-immune hotspot, macrophage enriched, B cell enriched, vascular niche, tumour compartment, neutrophil enriched, lymphoid enriched, T cell enriched, undefined) を定義 (Fig 2D)。LUADではtumour boundary (CN1)、LUSCではtumour compartment (CN7) が最頻出CN (CN1 p=6.81×10⁻⁵、CN7 p=6.82×10⁻⁷、CN8 p=4.41×10⁻⁵, Fig 2G)。survival解析の結果、CD163-マクロファージ富化近傍CN3 (LUADで有意に増加, p=9.26×10⁻⁷) のhigh群 (z≥0, n=20) はlow群 (z<0, n=31) と比較してLUAD全生存が有意に不良であった (Fig 2H, log-rank Mantel-Cox)。重要なことに、この生存差はCD163-マクロファージの全体頻度単独では説明できず (Supplementary Table 2)、空間的配置がドライバーであることが示された。30 CNへ細分化するとCD163-マクロファージ富化CN15 (CD163-が62%) もLUAD全生存不良と関連し (Fig 3C)、CN23 (CD163- 36% + 腫瘍細胞優位) も同様にLUAD不良予後だが (Fig 3D)、CN26 (CD163- 36% + 好中球) はLUAD全生存への影響を示さず (Fig 3E)、CD163-マクロファージ近傍に好中球が混在することで予後悪化効果が緩和される可能性が示唆された。CN26はむしろLUSC全生存改善と相関したが (n_high=16, n_low=35, Fig 3H)、同じCN26でもLUADでは disease-free survival悪化に作用する (Fig 3I) という divergent な組織型依存性が認められた。

LUAD特異的な好中球-内皮血管ニッチが存在しKi67+内皮細胞増加と相関: LUAD/LUSCを独立に解析した10 CN再発見では、血管ニッチ (vascular niche) の構成が両者で著しく異なった (Fig 4D-F)。LUSCの血管ニッチは内皮細胞43.6%と他免疫細胞の混合であるのに対し、LUADの血管ニッチは好中球17.2% (LUSC血管ニッチでは3.5%) を含み、LUAD特異的に内皮-好中球相互作用が濃縮されていた (Fig 4F)。好中球はLUSCで2倍多いにもかかわらず、内皮細胞との物理的近接はLUADで強かった。Ki67+内皮細胞割合 (proliferative endothelium) の上昇はLUADでOSとDFSの両方の悪化と相関 (high n=15, low n=36, log-rank, Fig 4G) し、LUSCでは同等の相関を認めなかった (Fig 4H)。好中球と相互作用する内皮細胞のKi67+割合はLUADで増加 (Fig 4J) し、neutrophil-derived CXCL8/CXCL1やMMP-9を介した血管新生促進機構の関与が示唆された。さらに30 CN解析でLUSCではCN29 (マクロファージ・内皮・α-SMA陽性 cancer-associated fibroblast を含む heterogeneous niche) がLUSC OS・DFS不良と相関し (Supplementary Fig 4B-C)、組織型ごとに predominant な悪性近傍が異なることが示された。

MLP (multilayer perceptron) 画像解析がLUAD/LUSCの形態学的差異を捉える: PCA (principal component analysis) で細胞頻度や生画像特徴量を解析するとLUADとLUSCは明瞭に分離しなかった (Fig 4A-B) が、ResNet-18 + MLPで画像から抽出した特徴量空間 (512次元/channel) では明確に分離した (Fig 4C)。これは病理医が認識する組織学的差異が単純な細胞頻度差を超えた高次の空間情報に依存することを支持する。

考察/結論

本研究は臨床因子マッチした102例NSCLC (LUAD 51 + LUSC 51) のIMC解析で893,148細胞を分類し、LUADとLUSCがTIME組成・活性化状態・CN構造のすべてで体系的に異なることを示した。(1) 既存研究との違い: 先行研究 (Sorin et al. Nature 2023) はLUAD単独コホートでB細胞-CD4+T細胞相互作用の予後意義を示したが、本研究は同設計をLUSCに拡張しマッチ比較を行うことで「LUAD/LUSCで pan-NSCLC な共通免疫構造は存在しない」という対照的結論に到達した。これまでLUAD・LUSCは「NSCLCに包含される」として混合解析されることが多かったが、本研究の結果はそれが空間免疫構造の本質的差異を覆い隠していたことを示す。(2) 新規性: 本研究で初めて、(a) k-nearest neighborベースCN階層解析を臨床マッチ NSCLCコホートに適用し、(b) CD163-マクロファージの予後効果が空間的近傍コンテキスト依存的であること (CN15/CN23 vs CN26で逆方向)、(c) LUAD特異的な好中球-内皮血管ニッチがKi67+内皮細胞増加と関連すること、を実証した。LUSC CN29 (マクロファージ + 線維芽細胞 + 内皮) のLUSC特異的不良予後相関も新規所見である。(3) 臨床応用: これまで pan-NSCLC で開発されてきた TIME ベースバイオマーカー (例: PD-L1 IHC、TMB) の組織型特異的再評価が必要となる。LUSCでの好中球優位/CD163-マクロファージ + α-SMA niche の同定はCXCR2阻害薬・抗fibroblast治療との併用戦略の根拠を与え、LUADでの好中球-内皮血管ニッチはVEGF阻害+ICI併用の合理性を支持する。臨床現場ではLUAD/LUSCを別個に分類し、IMCまたはmultiplex IHCによる空間免疫評価を取り入れることで neoadjuvant chemoimmunotherapy (Forde et al. NEnglJMed 2022) や周術期 ICIの個別化戦略に bench-to-bedside で繋がる。(4) 残された課題: (a) 患者あたり2コア (2×1 mm) の TMA解析はsampling bias を残し、whole slide IMCでの再検証が必要、(b) ICI治療コホートではないため、特定された CN がneoadjuvant ICI 応答予測バイオマーカーとして使えるかは前向き検証が今後の検討事項、(c) CD163-マクロファージや好中球の機能的サブセット (例: NETs+, MMP-9+ neutrophil; M1-like macrophage 等) を空間情報と統合する scRNA-seq + spatial transcriptomics による分子的解像度向上が今後の研究の方向性、(d) 治療経過に伴う TIME 動的変化の解析、(e) LUSC では限られたサンプル数 (n=51) であり stage III 比率の差 (LUAD 5.9% vs LUSC 15.7%) が結果に影響している可能性。これらの limitation を超えて本研究はNSCLC TIMEの空間プロテオミクス参照コホートとして今後の研究・臨床応用の基盤となる。

方法

臨床コホート (n=102 patients, 204 cores): McGill University Health Centreで治療歴のないLUADまたはLUSCと診断された患者から、RStudioのpropensity score matching (1:1 nearest neighbor, no replacement) によりLUAD 51例 (102コア) とLUSC 51例 (102コア) を選定。プロトコル番号 IRB 2014-1119 および 2019-5253で承認、書面同意取得。LUADコホートのフォローアップ中央値5.59年 (range 0.0054-10.06)、LUSCコホート4.22年 (range 0.15-9.04)。各患者から病理医選定の2腫瘍コア (2×1 mm) をTMAに搭載。IMC測定: 著者ら確立の35plex抗体パネル (Sorin et al. Nature 2023) で染色、Hyperion mass cytometerで取得。細胞セグメンテーションと系統割り当て: 機械学習ベースのコンピュータビジョンパイプラインで合計893,148細胞をセグメント化、腫瘍細胞・内皮細胞および14種の免疫細胞 (CD4+/CD8+ T細胞、Treg、B細胞、CD163-/CD163+マクロファージ、CD14+CD16-/CD14+CD16+/CD14-CD16+ monocyte、好中球、肥満細胞、樹状細胞、NK細胞) に分類。LUADではTTF1とpan-cytokeratin、LUSCではpan-cytokeratin単独で腫瘍細胞を同定。ペアワイズ相互作用解析: 各コアにつき細胞種ラベルを10,000回ランダム置換し、interaction (観測≥置換) とavoidance (観測≤置換) のスコアを算出、two-sample testで群間比較。CN解析: 各細胞の最近接k=10またはk=3隣接細胞を考慮し、10または30 CNを教師なしクラスタリングで定義。各CNの患者内平均をz-score化し、z≥0 (high) vs z<0 (low) でKaplan-Meier解析。MLP画像解析: 1024×1024画素にリサイズした各チャンネルを256×256パッチ (16/channel) に分割、pre-trained ResNet-18で512次元embedding抽出、多層パーセプトロン (MLP) でLUAD/LUSC分類モデル構築。統計: MATLAB 2019b、Python 3.7.12、RStudio 4.2.2、GraphPad Prism 10.2.0。比較はBenjamini-Krieger-YekutieliのFDR補正two-tailed Student’s t test、生存はlog-rank (Mantel-Cox) testで評価、p<0.05を有意とした。