• 著者: Forde PM, Spicer J, Lu S, Provencio M, Mitsudomi T, Awad MM, Felip E, Broderick SR, Brahmer JR, Swanson SJ, Kerr K, Wang C, Ciuleanu TE, Saylors GB, Tanaka F, Ito H, Chen KN, Liberman M, Vokes EE, Taube JM, Dorange C, Cai J, Fiore J, Jarkowski A, Balli D, Sausen M, Pandya D, Calvet CY, Girard N
  • Corresponding author: Patrick M. Forde, MD (Bloomberg-Kimmel Institute for Cancer Immunotherapy, Johns Hopkins Kimmel Cancer Center, Baltimore, MD, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-04-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35403841

背景

切除可能非小細胞肺がん (NSCLC) は全NSCLC症例の約20〜25%を占めるが、根治手術後の再発率は30〜55%と高く、患者の予後改善が重要な課題である。術前補助化学療法は、手術単独と比較して5年再発なし生存率および全生存期間 (OS) をわずか5〜6%改善するに過ぎず、その効果は限定的であった NSCLC et al. Lancet 2014。術前化学療法において病理学的完全奏効 (pCR) を達成した患者は長期予後が良好であることが示されているが、化学療法単独でのpCR率は中央値4% (範囲0〜16%) と極めて低い水準にとどまっていた。このため、より効果的な術前治療法の開発が強く求められていた。

近年、免疫チェックポイント阻害薬、特に抗PD-1抗体であるニボルマブは、進行NSCLCにおいて生存期間の延長を示すなど、その有効性が確立されている Borghaei et al. JClinOncol 2021。術前期に免疫療法を導入することには、いくつかの理論的利点があると考えられている Topalian et al. Science 2020。第一に、腫瘍が完全に切除される前に免疫療法を投与することで、腫瘍抗原を最大限に利用したT細胞の活性化を促し、より強力な抗腫瘍免疫応答を誘導できる可能性がある。第二に、全身性の微小転移に対する免疫監視を強化し、術後の再発リスクを低減する効果が期待される。第三に、術前治療による腫瘍縮小が手術の難易度を下げ、より完全な切除 (R0切除) を容易にする可能性がある。

先行する第II相試験 (NADIM試験、Forde et al. NEnglJMed 2018) では、切除可能NSCLC患者に対する術前ニボルマブ単独療法で45%の主要病理学的奏効 (MPR) が示され、その有望な臨床活性が報告された。しかし、これらの初期の知見を大規模な第III相試験で検証し、その有効性と安全性を確立することが未解明な課題として残されていた。特に、術前免疫療法と化学療法の併用が、化学療法単独と比較して、主要な臨床エンドポイントであるイベントフリー生存期間 (EFS) とpCRをどの程度改善するか、また手術の実現可能性や安全性に影響を与えないかについては、さらなるエビデンスが不足していた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的として、術前ニボルマブと化学療法の併用療法の有効性と安全性を評価する初の第III相試験として実施された。

目的

本研究 (CheckMate 816、NCT02998528) は、切除可能Stage IB (腫瘍径4cm以上) からIIIAの非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、術前ニボルマブ (360mg) と白金製剤ベース化学療法 (3サイクル) の併用療法が、化学療法単独 (3サイクル) と比較して、主要評価項目であるイベントフリー生存期間 (EFS) および病理学的完全奏効 (pCR) を改善するかどうかを評価することを目的とした。副次評価項目として、主要病理学的奏効 (MPR)、全生存期間 (OS)、死亡または遠隔転移までの期間、および安全性プロファイルが設定された。また、手術の実施可能性、R0切除率、および循環腫瘍DNA (ctDNA) クリアランスとの関連性も探索的に評価された。本試験は、術前免疫療法と化学療法の併用が切除可能NSCLC患者の予後を改善し、周術期治療の新たな標準となる可能性を検証することを意図している。

結果

イベントフリー生存期間 (EFS) の大幅な延長: 主要評価項目の一つであるEFSの中間解析において、ニボルマブ+化学療法群のイベントフリー生存期間中央値は31.6ヶ月 (95% CI 30.2ヶ月〜未到達) であったのに対し、化学療法単独群では20.8ヶ月 (95% CI 14.0〜26.7ヶ月) であった。これは、病勢進行、再発、または死亡のリスクを37%減少させることを示し、ハザード比 (HR) は0.63 (97.38% CI 0.43-0.91, p=0.005) と統計学的に有意な改善であった (Figure 1A)。1年EFS率はニボルマブ+化学療法群で76.1%、化学療法単独群で63.4%であり、2年EFS率はそれぞれ63.8%と45.3%であった。ニボルマブ併用により、2年EFS率で18.5%ポイントの絶対差が認められた。EFSの利益は、ほとんどのサブグループで一貫して観察されたが、特にStage IIIA患者 (HR 0.54)、PD-L1発現レベル1%以上の患者 (HR 0.41)、非扁平上皮癌患者 (HR 0.50)、および非喫煙者 (HR 0.33) でより大きな利益が確認された (Figure 1B)。一方で、Stage IB/II患者 (HR 0.87) やPD-L1発現レベル1%未満の患者 (HR 0.85) では利益が小さかった。

病理学的完全奏効 (pCR) 率の劇的な向上: もう一つの主要評価項目であるpCRの最終解析では、ニボルマブ+化学療法群のpCR率は24.0% (95% CI 18.0-31.0) であったのに対し、化学療法単独群では2.2% (95% CI 0.6-5.6) と、10倍以上の大幅な改善が認められた (オッズ比 [OR] 13.94, 99% CI 3.49-55.75, p<0.001) (Figure 2A)。主要病理学的奏効 (MPR、残存腫瘍細胞10%以下) の達成率も、ニボルマブ+化学療法群で36.9%、化学療法単独群で8.9%と有意に高かった (OR 5.70)。pCRの改善は、病期 (Stage IB/IIおよびIIIA)、PD-L1発現サブグループ、および組織型 (扁平上皮癌および非扁平上皮癌) の全ての主要サブグループで一貫して観察された (Figure 2B)。放射線学的腫瘍縮小 (downstaging) の発生率も、ニボルマブ+化学療法群で30.7%、化学療法単独群で23.5%と、ニボルマブ併用群で高かった。

全生存期間 (OS) および長期腫瘍制御: OSの最初の事前計画中間解析では、ニボルマブ+化学療法群の死亡リスクは化学療法単独群と比較して43%減少する傾向が示された (HR 0.57, 99.67% CI 0.30-1.07, p=0.008) (Figure 3)。このP値は、事前設定された統計的有意水準 (p<0.0033) には到達しなかったものの、臨床的に意義深い死亡リスクの減少を示唆するものであった。死亡または遠隔転移までの期間 (HR 0.53, 95% CI 0.36-0.77) および次治療後の再進行または死亡までの期間 (EFS2、HR 0.54, 95% CI 0.37-0.80) の両方で、ニボルマブ+化学療法群が化学療法単独群よりも優れており、長期的な腫瘍制御におけるニボルマブ併用療法の優位性が一貫して示された。

手術実施可能性と外科的アウトカム: 手術施行率は、ニボルマブ+化学療法群で83.2%、化学療法単独群で75.4%であり、ニボルマブの追加が手術の実施を妨げないことが確認された。R0切除 (腫瘍残存なし) の達成率も、ニボルマブ+化学療法群で83.2%、化学療法単独群で77.8%と、ニボルマブ併用群で高かった。また、ニボルマブ+化学療法群では、最小侵襲手術の割合がより多く、肺全摘術の割合が少なかった。手術の遅延や中止につながる有害事象の発生率は両群で同程度であり、ニボルマブ併用療法が外科的アウトカムに悪影響を及ぼさないことが示された。

循環腫瘍DNA (ctDNA) クリアランス: 探索的解析として、ctDNAクリアランスが評価可能な89名の患者において、術前サイクル3前にctDNAクリアランスを達成した患者の割合は、ニボルマブ+化学療法群で56% (95% CI 40-71)、化学療法単独群で35% (95% CI 21-51) であった。ctDNAクリアランスを達成した患者では、両治療群ともにEFSがより長い傾向が示された (ニボルマブ+化学療法群 HR 0.60, 95% CI 0.20-1.82; 化学療法単独群 HR 0.63, 95% CI 0.20-2.01)。また、ctDNAクリアランスはpCRの達成とも関連していた。

安全性プロファイル: Grade 3または4の治療関連有害事象の発生率は、ニボルマブ+化学療法群で33.5%、化学療法単独群で36.9%と、両群で同程度であった (Table 2)。最も一般的なGrade 3または4の治療関連有害事象は、好中球減少症 (ニボルマブ+化学療法群8.5% vs 化学療法単独群11.9%) および好中球数減少 (7.4% vs 10.8%) であった。治療関連死は、化学療法単独群で3例報告されたが、ニボルマブ+化学療法群では報告されなかった。有害事象による手術キャンセル率は、ニボルマブ+化学療法群で1.1%、化学療法単独群で0.6%と極めて稀であった。免疫関連有害事象の発生率は低く、主にGrade 1または2であり、発疹が最も一般的であった (8.5%)。手術関連有害事象の発生率も、ニボルマブ+化学療法群で41.6%、化学療法単独群で46.7%と、ニボルマブ併用群で増加することはなかった。

考察/結論

CheckMate 816試験は、切除可能NSCLC患者において、術前ニボルマブと化学療法の併用療法が、化学療法単独と比較してイベントフリー生存期間 (EFS) および病理学的完全奏効 (pCR) を大幅に改善することを示した初の第III相試験である。EFSのハザード比0.63 (97.38% CI 0.43-0.91, p=0.005) と、pCR率が24.0% vs 2.2% (OR 13.94, 99% CI 3.49-55.75, p<0.001) という結果は、術前治療における免疫療法の腫瘍学的効果を根本的に変える可能性を証明した。

先行研究との違い: これまでの術前化学療法単独ではpCR率が低く、予後改善効果も限定的であった NSCLC et al. Lancet 2014。本研究の結果は、この従来の治療成績と対照的であり、免疫チェックポイント阻害薬の追加が病理学的奏効を劇的に向上させることを明確に示した。また、手術施行率の向上 (83.2% vs 75.4%) やR0切除率の改善 (83.2% vs 77.8%) は、術前ニボルマブ強化療法が手術の実現可能性を損なわないだけでなく、むしろ外科的アウトカムを改善する可能性を示唆しており、これは従来の化学療法単独では見られなかった重要な所見である。

新規性: 本研究は、切除可能NSCLCにおける術前免疫療法と化学療法の併用療法の有効性と安全性を大規模な第III相試験で初めて実証した。特に、pCR率が化学療法単独の10倍以上に向上したことは、本研究で初めて示された画期的な知見である。また、ctDNAクリアランスがEFSと関連する可能性が探索的に示唆されたことも新規性のある発見であり、術前治療の効果を予測するバイオマーカーとしてのctDNAの有用性を示唆する。

臨床応用: 本試験の結果は、切除可能NSCLCの治療パラダイムに大きな変革をもたらす臨床的意義を持つ。術前ニボルマブと白金製剤化学療法の併用療法は、EFSとpCRを大幅に改善し、安全性プロファイルも許容範囲内であり、手術の実現可能性を妨げないことが確認されたため、切除可能NSCLCの新たな標準治療として確立された。この結果に基づき、ニボルマブと化学療法の併用は、米国において切除可能NSCLCの術前治療として承認されている。特に、Stage IIIA患者 (EFS HR 0.54) やPD-L1発現レベル1%以上の患者 (EFS HR 0.41) で大きな利益が確認されたことは、術前免疫療法から最大限の利益を受ける患者層を特定するための患者選択の重要性を示唆し、臨床現場での個別化医療の進展に貢献する。

残された課題: OSの中間解析が統計的有意水準に達しなかった (HR 0.57, p=0.008) ことは、早期のデータカットオフによる成熟度不足が原因であると考えられ、今後の長期追跡によるOSデータの成熟が残された課題である。また、PD-L1発現レベルや組織型、ctDNAクリアランスなどのバイオマーカーによる患者選択の最適化には、さらなる研究が必要である。特に、Stage IB/II患者やPD-L1発現レベル1%未満の患者ではEFSの利益が小さかったため、これらのサブグループにおける治療戦略の最適化が今後の検討課題となる。さらに、術後補助療法との組み合わせや、異なる免疫チェックポイント阻害薬との比較など、周術期免疫療法のさらなる発展に向けた研究が継続される必要がある。

方法

本研究は、国際多施設共同、無作為化、オープンラベルの第III相試験 (CheckMate 816) として実施された。対象患者は、切除可能Stage IB (腫瘍径4cm以上) からIIIAのNSCLC患者で、EGFR遺伝子変異またはALK転座陰性、ECOGパフォーマンスステータス0または1、および先行する抗がん治療歴がない成人であった。合計505名の患者が無作為化され、そのうち358名がニボルマブ+化学療法群 (n=179) または化学療法単独群 (n=179) に1:1の割合で割り付けられた。

治療プロトコルは以下の通りである。ニボルマブ+化学療法群の患者は、ニボルマブ360mgと白金製剤ダブレット化学療法を3週間ごとに3サイクル投与された。化学療法単独群の患者は、白金製剤ダブレット化学療法を3週間ごとに3サイクル投与された。化学療法レジメンは、組織型に応じてシスプラチン+ペメトレキセド (非扁平上皮癌) またはシスプラチン+ゲムシタビン (扁平上皮癌) が選択されたが、カルボプラチンベースのレジメンも許容された。術前治療完了後、両群の患者は6週間以内に根治手術を受けることが計画された。手術後、患者は最大4サイクルの術後補助化学療法、放射線療法、またはその両方を受けることが可能であった。

主要評価項目は、独立中央判定によるイベントフリー生存期間 (EFS) と、盲検化された独立病理学的レビューによる病理学的完全奏効 (pCR、原発腫瘍およびサンプリングされたリンパ節における残存腫瘍細胞0%) であった。EFSは、無作為化から、手術を妨げる病勢進行、術後の病勢進行または再発、手術なしでの病勢進行、またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目には、主要病理学的奏効 (MPR、残存腫瘍細胞10%以下)、全生存期間 (OS)、死亡または遠隔転移までの期間、および安全性プロファイルが含まれた。探索的評価項目として、次治療後の再進行または死亡までの期間 (EFS2) も定義された。

統計解析計画では、pCRの解析は全患者が手術を受ける機会を得た後に実施され、両側α水準0.01で比較された。EFSの解析は、pCRの群間差が有意であった場合に、両側α水準0.05で実施されることになっていた。OSは階層的に検定される主要な副次評価項目であった。EFSの中間解析は、2021年10月20日のデータカットオフ時点 (中央値追跡期間29.5ヶ月) で実施され、pCRの最終解析は2020年9月16日のデータカットオフ時点で行われた。安全性は、治療を受けた全患者で評価された。循環腫瘍DNA (ctDNA) の解析は探索的に行われ、術前サイクル1前の検出可能なctDNAレベルからサイクル3前の検出不能なctDNAレベルへの変化がctDNAクリアランスと定義された。EFSおよびOSの比較には層別ログランク検定が用いられた。