- 著者: Jeremy Gungabeesoon, Nicolas A. Gort-Freitas, Máté Kiss, Evangelia Bolli, Marius Messemaker, Marie Siwicki, Mehdi Hicham, Ruben Bill, Peter Koch, Chiara Cianciaruso, Florent Duval, Christina Pfirschke, Michael Mazzola, Solange Peters, Krisztian Homicsko, Christopher Garris, Ralph Weissleder, Allon M. Klein, Mikael J. Pittet
- Corresponding author: Allon M. Klein (Harvard Medical School); Mikael J. Pittet (University of Geneva)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-03-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 37001504
背景
好中球は生体内で最も豊富な循環白血球であり、多様な癌種において固形腫瘍に浸潤することが知られている。その浸潤量が多いほど予後不良と相関することが多いが、好中球は均一な細胞集団ではなく、促腫瘍性および抗腫瘍性の両機能的多様性を示すことが近年の高次元シングルセル解析により明らかになってきた。例えば、血管新生、細胞外マトリックス (ECM) リモデリング、免疫抑制、腫瘍増殖促進、骨髄系細胞の動員など、様々な促腫瘍機能が好中球と関連付けられてきた。一方で、癌細胞の直接殺傷や抗腫瘍T細胞応答の刺激といった抗腫瘍機能も報告されている。これらの多様な機能状態を規定する生物学的メカニズムの多くは未解明なままである。
特に、インターフェロン刺激遺伝子 (ISG) を高発現する好中球状態がマウスおよびヒト腫瘍の両方で同定されていたが、その機能的意義は不明であった。免疫療法が一部の患者で持続的な臨床反応を誘導する一方で、他の患者では効果を示さないことから、成功した免疫療法が腫瘍微小環境をどのように変化させ、腫瘍制御を促進するのかを理解するための多大な努力が払われてきた。シングルセルオミクス研究により、効果的な抗腫瘍T細胞免疫を誘導する治療法が、骨髄系コンパートメントに間接的な影響を与え、ISGやその他の免疫刺激遺伝子を発現する炎症性マクロファージや樹状細胞 (DC) の増殖を伴うことが明らかになっている。しかし、好中球は標準的なサンプル調製および解析パイプラインにおいて不注意に除外されることが多く、その豊富さにもかかわらず、これらのシングルセル転写解析研究ではほとんど注目されてこなかった。さらに、好中球の寿命は数時間から数日と短いため、治療後早期に腫瘍を検査しないと、免疫療法によって誘発される好中球応答が見過ごされる可能性がある。したがって、成功した免疫療法が腫瘍微小環境における好中球の表現型に影響を与えるかどうかは、依然としてほとんど不明なままであった。
好中球が免疫療法応答に与える影響に関する現在の知見は、主に治療中に全ての好中球を枯渇させることを目的としたマウス実験に由来する。しかし、腫瘍における多様な好中球状態の存在に関する新たな証拠に照らすと、広範な好中球枯渇戦略は、有害な好中球状態と有益な好中球状態の両方を排除してしまう可能性がある。例えば、Fridlender et al. CancerCell 2009はTGF-βが好中球の表現型をN1からN2へ分極させることを報告し、Coffelt et al. Nature 2015はIL-17産生γδT細胞と好中球が乳癌転移を促進することを示した。また、Albrengues et al. Science 2018は炎症時に産生される好中球細胞外トラップ (NET) が休眠状態の癌細胞を覚醒させることを報告している。これらの先行研究は好中球の多様な機能を示唆するものの、免疫療法における特定の好中球サブポピュレーションの役割については知識ギャップが残されている。したがって、異なる好中球状態の獲得を促進する因子をより深く理解することで、好中球サブポピュレーションの選択的な操作が可能となり、免疫療法における好中球の役割についてより詳細な全体像が得られると期待される。本研究は、これらの知識ギャップに対処することを目的とした。
目的
本研究は、免疫療法が腫瘍制御を達成する際に、腫瘍微小環境における好中球コンパートメントがどのように変化するかを詳細に解析することを目的とした。特に、抗CD40抗体 (aCD40) および抗PD-1抗体 (aPD-1) による免疫療法が成功した際に、特定のSell^hi好中球サブポピュレーションが治療効果に必要であるか、またその機能的意義を明らかにすることを目指した。
具体的には、以下の点を検証した。
- 成功した免疫療法が腫瘍内の好中球数に急性的な増加をもたらすか、またその増加が特定の好中球状態に起因するかを同定する。
- 治療によって誘発される好中球がインターフェロン刺激遺伝子 (ISG) シグネチャを獲得するかどうか、およびそのISG応答がヒト患者でも見られるかを評価する。
- この好中球応答が転写因子IRF1に依存するかどうか、およびIRF1の欠損が免疫療法の効果に影響を与えるかを機能的に検証する。
- 治療によって誘発される好中球の蓄積が、BATF3依存性DC、IL-12、およびIFN-γを含む抗腫瘍免疫の主要な構成要素に依存するかどうかを解明する。
- ヒト非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、治療によって誘発される全身性好中球応答が疾患アウトカムと正の相関を示すかを評価し、その臨床的意義を検討する。
結果
免疫療法成功時の好中球急性増殖と治療効果の対応: aCD40処置2日後のKP腫瘍において、SiglecF^lo好中球 (Sell^hi) が2倍以上増加した (フローサイトメトリー、n=5 untreated mice vs n=10 aCD40-treated mice, p<0.01)。21日後の評価では、aCD40処置群は未処置群と比較して有意な腫瘍面積の減少 (n=13 untreated mice vs n=15 aCD40-treated mice; p<0.001) および肺重量の減少 (n=14 untreated mice vs n=15 aCD40-treated mice; p<0.01) を示した (Figure 1A, B)。同様の好中球蓄積はMC38腫瘍モデルでもaCD40 (フローサイトメトリー n=8 untreated mice vs n=24 aCD40-treated mice) およびaPD-1処置後に確認された (scRNA-seqおよびフローサイトメトリー; 各n=2 mice)。一方、腫瘍増殖を抑制しないパクリタキセル+カルボプラチン (pac+carbo)、抗PD-1+抗CTLA-4 (aPD-1+aCTLA-4) では好中球応答が生じなかった。腫瘍制御を誘導するオキサリプラチン+シクロホスファミド (oxa+cyc) では好中球蓄積が観察され、好中球蓄積が治療効果と正確に対応することが示された (Figure 1H)。
7状態の好中球クラスターの同定とISGシグネチャ: KP腫瘍モデルのscRNA-seqにより7つの好中球状態を同定した (Figure 2A, B)。aCD40処置により、N1a (Sell^hi Ngp^hi) とN2 (Sell^hi Cxcl10^hi) が10倍以上増加した (cells/mg tissue比較) (Figure 3A)。N1b (Sell^hi Lst1^hi)、N4 (Siglecf^hi Xbp1^hi)、N5 (Siglecf^hi Ccl3^hi)、N6 (Siglecf^hi Ngp^hi) の細胞数は不変であった。ISG群 (CXCL10、Ifit1、Ifit2、Ifit3など) はSell^hi好中球 (特にN2) で誘導され、Siglecf^hi好中球では増加しなかった。Siglecf^hi好中球では逆に血管新生・ECMリモデリング・免疫抑制・腫瘍増殖促進・骨髄系細胞招集に関連する遺伝子シグネチャが高く発現していた (Figure 4A, C)。CXCL10-BFPレポーターでは、aCD40処置後にSiglecF^lo好中球の40%でCXCL10発現が検出され、CD14+サブセットに限定された (Figure 4F)。MC38腫瘍モデルでも同様のISG増加がSell^hi好中球で認められ、5つの転写状態がKP・MC38・aCD40・aPD-1処置にわたって高い保存性 (reciprocal similarity score RSS解析) を示した (Figure 3C)。この横断的な保存性により、治療誘導好中球応答が腫瘍種・治療法を超えた定型的パターンであることが確認された。
IRF1が好中球ISG応答と治療効果に必須: 好中球特異的IRF1欠失 (LysM-Cre; IRF1^flox) マウスでは、aCD40処置後にSell^hi好中球のISGシグネチャが消失した。KP・MC38腫瘍モデルいずれでも治療効果 (腫瘍縮小、肺重量正常化) が著明に減弱し、IRF1欠損はSiglecF^lo表現型は維持したまま好中球の機能的活性化のみを消失させた (Figure 6D)。MC38腫瘍において、aCD40処置後のCD14+CD101-好中球の増加は、Irf1-/-マウスでは誘導されなかった (Figure 6C, n=7 mice/group, p<0.05)。これは、IRF1がISGを介した好中球の機能的再プログラミングの必須転写因子であることを初めて証明した。
上流シグナル依存性の解明:BATF3 DC→IL-12→IFN-γ軸: BATF3欠損マウス (cDC1欠失)、Il12b欠損マウス、IFN-γ中和抗体投与マウス、およびCxcr3欠損マウスのいずれにおいても、aCD40処置後のMC38腫瘍におけるCD14+CD101-好中球の蓄積が障害された (Figure 6E, n=3-18 mice/group, p<0.05)。これは、BATF3+ DC→IL-12産生→IFN-γ産生→好中球IRF1活性化という既知の抗腫瘍T細胞免疫中心軸と同一の経路への依存を示す。この結果は、免疫療法が好中球を「副次的な」免疫細胞としてではなく、主要な抗腫瘍機序の一部として動員することを示唆する。
免疫療法によって誘発される好中球の成熟状態と表現型: aCD40処置後、末梢血中および骨髄中の好中球の一部がすでにCXCL10-BFP発現の増加を示し、循環好中球の活性酸素種 (ROS) 産生も増加した (Figure 5A, B, n=4-5 mice/group, p<0.0001)。scRNA-seqデータに基づくRNA速度解析では、N1a (Sell^hi Ngp^hi) からN1b (Sell^hi Lst1^hi) を経てN2 (Sell^hi Cxcl10^hi) 好中球への経路と、N6 (Siglecf^hi Ngp^hi) からN4 (Siglecf^hi Xbp1^hi) 好中球への2つの明確な状態遷移経路が予測された (Figure 5E)。治療によって、SiglecF^lo好中球ではCD101、CD11b、Ly6Gなどの成熟マーカーの発現が低下し、核の分葉度が低い未成熟な細胞の出現が観察された (Figure 5F, G, H, n=50-100 cells/condition, p<0.0001)。これは、aCD40によって未成熟なSiglecF^lo好中球が腫瘍に動員されることを示唆する。
ヒトNSCLC患者における全身性好中球応答と予後相関: ヒトNSCLC患者 (n=78 patients) のSTIMULI臨床試験データ解析では、治療前の高NLR (>2.5) がアジュバント免疫療法後の予後不良と相関した (HR 0.4712, 95% CI 0.2392-0.9282, p=0.0296) (Figure 6F)。さらに、化学放射線療法後のNLR変化を評価したところ、NLRが10%以上増加した患者 (n=54 patients) は、NLRが10%以上減少した患者 (n=16 patients) と比較して、アジュバント免疫療法後の無増悪生存 (PFS) が有意に良好であった (HR 0.4635, 95% CI 0.2323-0.9251, p=0.0292) (Figure 6G)。これらの結果は、治療によって誘発される全身性好中球応答が肺癌患者の疾患アウトカムと正の相関を示すことを示唆する。
考察/結論
本研究は、免疫療法成功時の好中球応答の分子的実態を初めて大規模かつ多角的に解明した。従来「好中球は免疫療法において阻害的」という見解が優勢であったが、本研究はSell^hi/SiglecF^lo ISG+好中球サブポピュレーションが抗腫瘍免疫の能動的な媒介者であることを機能的に証明した点で根本的な視点転換をもたらす。
先行研究との違い: 先行研究では、腫瘍関連好中球 (TAN) のSiglecf^hiサブタイプが予後不良と関連することが示されていたが、本研究はSell^hi ISG+好中球が逆に良好な治療応答と相関することを示し、好中球の機能的二極性 (促腫瘍Siglecf^hi vs 抗腫瘍Sell^hi ISG+) をより解像度高く確立した点で、これまでの知見と対照的な結果を示した。好中球を一括して全数除去する実験デザインでは有益なサブセットも除去してしまうため、本研究で示された「サブセット選択的操作」の重要性が浮き彫りになる。また、BATF3+ DC→IL-12→IFN-γ→好中球IRF1という軸は、ICI応答の中心的機序として既知のT細胞免疫軸と同一であり、抗腫瘍免疫において好中球がT細胞応答と協調的に機能することが示唆される。
新規性: CITE-seq形式の多次元プロファイリングにより転写状態と表面タンパク質の対応が同時に確認され、N1a・N2の10倍超の増加が定量的に明示されたことは新規性が高い。CXCL10-BFPレポーターを用いたin vivoのISG誘導可視化は、ISG+好中球の存在を細胞レベルで直接示した点でこれまで報告されていない知見である。またKP・MC38という2つの腫瘍モデルにまたがる一貫した知見と、ヒトNSCLC患者 (n=78) での相関確認により、メカニズムの種を超えた保存性が示された。特に、IRF1が好中球のISG応答と治療効果に必須の転写因子であることを、好中球特異的IRF1欠損マウスを用いた骨髄キメラ実験で初めて機能的に証明した。
臨床的含意: ISG+好中球の血中測定が免疫療法奏効の早期バイオマーカーとなる可能性がある。特に治療開始2〜3日後という早期時点での好中球応答追跡は、従来の腫瘍縮小評価よりも早い予後予測指標として有用かもしれない。CCR5+好中球や低密度好中球 (LDN) が免疫療法不応患者で増加するという先行報告と組み合わせると、好中球サブセット解析による患者層別化が実臨床に応用される可能性を秘める。治療によって誘発される全身性NLRの増加が良好なPFSと相関するというヒト患者データは、臨床応用への強い含意を持つ。
残された課題: ヒトn=78のデータはまだ探索的であり、前向き大規模コホートでの検証が必要である。ISG+好中球の抗腫瘍作用の詳細な機序 (直接殺傷能、T細胞活性化促進、CXCL10を介した細胞傷害性免疫細胞招集など) は未解明のままである。Sell^hiとSiglecf^hiのどちらの状態が優勢かを決定する腫瘍微小環境因子の特定も重要な課題であり、特にTGF-β・G-CSF・腫瘍由来因子の役割解明が今後の検討課題として期待される。また、STING活性化薬・腫瘍内投与型免疫アジュバントなど他のISG誘導アプローチとの組み合わせによるSell^hi ISG+好中球選択的増強戦略の探索が、今後の治療開発に有望な方向性として示される。本研究で用いた骨髄キメラ技術では、非好中球系免疫細胞の一部もIRF1欠損となる可能性が残されており、好中球特異的条件付きIRF1ノックアウトマウスの生成が今後の研究のlimitationを克服する上で重要である。
方法
本研究では、KrasG12D/p53欠損KP肺腺癌モデル (マウス肺内正所移植) およびMC38皮下腫瘍モデルを用いて、免疫療法後の好中球応答を解析した。KP腫瘍モデルでは、腫瘍細胞を静脈内注射し、腫瘍形成14日後にaCD40アゴニスト抗体 (5 mg/kg) を腹腔内投与した。MC38腫瘍モデルでは、腫瘍細胞を皮下移植し、腫瘍形成7日後にaCD40 (5 mg/kg) またはaPD-1抗体 (200 µg/mouse) を投与した。治療効果は、腫瘍面積の測定 (H&E染色)、肺重量 (腫瘍量の代理)、およびデジタルキャリパーによる腫瘍体積測定で評価した。
好中球応答の解析には、治療開始2〜3日後の早期腫瘍を採取し、フローサイトメトリーおよびシングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) を用いた。scRNA-seqは、TotalSeq抗体タグ付き多重表面タンパク質プロファイリング (CITE-seq形式) と組み合わせて実施し、合計n=42,007細胞 (うちn=30,468が好中球) を解析した。これにより、7つの好中球状態 (N1a: Sell^hi Ngp^hi、N1b: Sell^hi Lst1^hi、N2: Sell^hi Cxcl10^hi、N3: Cxcl3^hi、N4〜N6: Siglecf^hi) を同定した。scRNA-seqデータ解析には、Wolf et al. GenomeBiol 2018のSCANPYやHafemeister et al. GenomeBiol 2019のsctransform、Stuart et al. Cell 2019のSeuratなどのソフトウェアを用いた。RNAシーケンスデータはDobin et al. Bioinformatics 2013のSTARsoloでアラインメントされた。
機能実験では、好中球特異的IRF1欠失マウス (LysM-Cre; IRF1^flox/flox) を作製するため、Csf3r-/-細胞とIrf1-/-細胞を50%ずつ混合した骨髄キメラマウスを用いた。これにより、末梢好中球のみがIRF1欠損となるようにした。IRF1欠損が治療効果に与える影響を評価した。また、BATF3 (Basic Leucine Zipper ATF-Like Transcription Factor 3) 欠損マウス (cDC1欠失)、IL-12欠損マウス、IFN-γ中和抗体投与マウス、およびCXCR3欠損マウスを用いて、好中球応答の上流シグナル依存性を検討した。ISG誘導のin vivo可視化には、CXCL10-BFP (CXCL10-Blue Fluorescent Protein) レポーターマウス (REX3トランスジェニックマウス) を使用した。
好中球の成熟状態は、CD101、CD11b、Ly6Gなどの表面マーカーの発現、核の分葉度 (サイトスピン後の形態学的解析)、およびGrieshaber-Bouyer et al. NatCommun 2021で定義された「neutrotime」遺伝子発現スコアを用いて評価した。活性酸素種 (ROS) 産生はCellROX Green試薬を用いたフローサイトメトリーで測定した。
ヒト非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者 (n=78) のデータは、STIMULI (Study of Ipilimumab in Limited-disease Small Cell Lung Cancer) 臨床試験 (NCT02046733) から取得した。標準治療である化学放射線療法とイピリムマブ (抗CTLA4) およびニボルマブ (抗PD-1) 免疫チェックポイント阻害剤の併用療法を受けた患者の末梢血中の好中球対リンパ球比 (NLR) を解析し、無増悪生存 (PFS) との相関を評価した。統計解析には、Studentのt検定、Mann-Whitney検定、一元配置ANOVA、およびログランク検定を用いたCox回帰分析が使用された。