• 著者: Keiichi Asano, Courtney M. Nelson, Sumeda Nandadasa, Noriko Aramaki-Hattori, Daniel J. Lindner, Tyler Alban, Junko Inagaki, Takashi Ohtsuki, Toshitaka Oohashi, Suneel S. Apte, Satoshi Hirohata
  • Corresponding author: Satoshi Hirohata (Graduate School of Health Sciences, Okayama University, Japan)
  • 雑誌: Scientific Reports
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-12-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29222454

背景

血管新生 (angiogenesis) は既存の毛細血管から新たな血管を形成するプロセスであり、悪性腫瘍の増殖と転移に不可欠である。腫瘍に酸素・栄養を供給し、転移経路を提供するため、腫瘍血管新生は治療標的として広く研究されてきた (Weis & Cheresh, Nat Med 2011; Carmeliet & Jain, Nature 2011)。腫瘍増殖は血管内皮細胞、免疫細胞、線維芽細胞、そして細胞外マトリクス (ECM) から構成される複雑な宿主/間質微小環境の中で起こる。ECMに含まれるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸 (HA)、コラーゲン、糖タンパク質は、腫瘍血管新生を制御するが、その機序は十分に解明されていない (Junttila & de Sauvage, Nature 2013)。

バーシカン (versican) はコンドロイチン硫酸プロテオグリカンであり、HAと結合してECMの主要成分を構成する (Ogawa et al. Matrix Biol 2004)。バーシカンにはV0、V1、V2、V3、V4の5つのスプライスアイソフォームがある (Nandadasa et al. Matrix Biol 2014)。V0とV1はグリコサミノグリカン (GAG) βドメインを持ち、ADAMTSプロテアーゼ (ADAMTS-1/-4/-5/-9/-15/-20) によるV1の特定部位 (Glu441-Ala442) 切断によってN末端G1ドメイン含有断片「バーシキン (versikine)」が生成される (Sandy et al. J Biol Chem 2001)。多数の臨床研究でバーシカンの高発現が様々な癌種 (乳癌、結腸癌、前立腺癌、膀胱癌等) での不良予後と相関することが示されている (Ricciardelli et al. Clin Cancer Res 1998; Suwiwat et al. Clin Cancer Res 2004; Kodama et al. Ann Oncol 2007)。

しかし、従来の研究では腫瘍細胞自身が発現するバーシカンと宿主/間質由来バーシカンが区別されておらず、また間質由来バーシカンが腫瘍血管新生に因果的に関与するかどうかの直接的証拠は存在しなかった。例えば、Kim et al. Nature 2009は腫瘍細胞由来のバーシカンがマクロファージを介して転移を促進することを示唆したが、間質由来バーシカンの役割は不明のままであった。ADAMTSプロテアーゼによる切断産物であるバーシキンは四肢発生での血管リモデリングへの関与が示唆されていたが (McCulloch et al. Dev Cell 2009)、腫瘍血管新生との因果関係も未解明であった。これらの知見の不足が、間質バーシカンと腫瘍血管新生の直接的な関連性を確立する上での知識ギャップとなっていた。特に、腫瘍細胞がバーシカンを低発現する場合でも、宿主間質がバーシカンを供給し、それが腫瘍増殖に影響を与える可能性については、これまで十分に検討されておらず、この点が本研究の重要な課題であった。

目的

本研究の目的は、腫瘍微小環境における間質由来バーシカンの腫瘍増殖および血管新生への寄与を詳細に解析することである。具体的には以下の4点を目的とした。

  1. 複数のがん細胞株におけるバーシカン発現と、それらから生じた担腫瘍マウス腫瘍組織におけるバーシカン発現を系統的に比較し、腫瘍微小環境への間質由来バーシカンの寄与を定量的に評価する。特に、MDA-MB231やB16F10のようなバーシカン低発現細胞株を用いた腫瘍形成における宿主間質の役割を明確にする。
  2. 種特異的in situ hybridization (ISH) を用いて、腫瘍内バーシカンの起源 (腫瘍細胞か宿主間質細胞か) を直接的に同定する。これにより、腫瘍細胞と宿主間質細胞のバーシカン産生における相対的な寄与を明確に区別する。
  3. 免疫染色により、腫瘍内バーシカンおよびそのADAMTSプロテアーゼ切断産物であるバーシキンと、血管構造 (内皮細胞) および腫瘍関連マクロファージとの空間的関係を詳細に解析する。特に、バーシキンが血管内皮細胞に特異的に局在する現象の意義を考察する。
  4. バーシカンヘテロ欠損マウス (Vcan hdf/+) を用いて、宿主由来バーシカンが腫瘍増殖および血管新生に因果的に関与することを直接的に実証する。これにより、間質バーシカンの腫瘍形成における必要性を遺伝学的に証明する。

結果

がん細胞株におけるバーシカン発現の多様性: MDA-MB231とB16F10細胞株では、RT-PCRおよびqPCRによりバーシカンV0/V1/V2 mRNAおよびGAGβタンパク質がほぼ検出されなかった (線維芽細胞やLLC細胞と比較して有意に低値)。B16F10培養細胞のVcan V0/V1 mRNAはGAPDH正規化後で線維芽細胞の5%未満であった。一方、LLC細胞は大動脈と同等の高い内在性バーシカン発現を示した。TRAMP-C1/C2およびFCB細胞株も高発現を示したが、MS-1、4T-1、SVR細胞株は低発現であった。これにより、同じがん細胞でも細胞株間でバーシカン発現が著しく異なることが系統的に明らかになった (Figure 1A, Supplementary Figure S2)。本結果は、in vitroでの細胞株のバーシカン発現が、必ずしもin vivoでの腫瘍微小環境におけるバーシカン量と一致しない可能性を示唆する。

腫瘍微小環境による間質バーシカン産生の増加: B16F10腫瘍においてVcan V0/V1 mRNAは培養細胞と比較して有意に高値であり (p<0.05、n=4)、腫瘍形成に伴う間質からのバーシカン産生増加が示された。LLC腫瘍でも培養細胞と比較して高いバーシカン発現が確認された (n=3)。MDA-MB231 xenograft腫瘍ではヒト種特異的VCAN V1 mRNAの腫瘍由来発現は培養細胞と同等レベルに留まった (n=3)。腫瘍ウェスタンブロットでは培養細胞では検出されない多様な切断型バーシカンが豊富に存在し、250 kDa、150 kDa、75 kDa等複数のバンドが確認され、腫瘍内での広範なプロテオリシスが示された。免疫染色ではバーシカンGAGβがB16F10、LLC、MDA-MB231腫瘍の周辺部に特異的に染色された。これらの結果は、腫瘍細胞自体のバーシカン発現が低値であってもin vivoでは宿主間質によるバーシカン供給により腫瘍周囲のバーシカンが増加することを示す (Figure 1B, C, D)。

バーシカンが宿主間質由来であることの直接実証 (in situ hybridization):B16F10腫瘍においてマウス種特異的Vcan exon 7/8プローブによりVcan mRNAが腫瘍周辺の間質細胞に陽性シグナルとして検出され (腫瘍中央部は陰性)、間質細胞がバーシカンの主要産生源であることが確認された。MDA-MB231 xenograft腫瘍ではマウス種特異的プローブが腫瘍周辺の宿主間質組織に陽性を示した一方で、ヒト種特異的VCANプローブは腫瘍組織でほぼ陰性であった。プローブの種特異性はE16.5マウス胚 (マウスプローブのみ陽性) とヒト臍帯 (ヒトプローブのみ陽性) で確認済みである。この実験は、ヒト腫瘍細胞が産生できないバーシカンが宿主由来の間質細胞から産生されることを種特異的プローブで初めて直接的に証明したものである (Figure 1E, F)。

バーシカン・バーシキンの腫瘍脈管構造・マクロファージへの局在: MDA-MB231腫瘍での免疫染色では、バーシカンGAGβがCD105およびCD31陽性血管内皮細胞自体ではなく血管周囲の間質組織に局在した (Figure 2A)。F4/80陽性腫瘍関連マクロファージとバーシカンが血管近傍で共局在した。バーシカン-HA複合体 (HABP陽性) が腫瘍間質の血管近傍に特異的に存在した。これとは対照的に、ADAMTSプロテアーゼ切断産物バーシキン (抗DPEAAE陽性) はMDA-MB231、B16F10、LLCの全腫瘍において血管内皮細胞 (CD31/CD105陽性) に特異的に局在し、完全長バーシカンとは全く異なる分布を示した (Figure 3B, C)。MDA-MB231腫瘍のウェスタンブロットでは抗DPEAAE抗体で220 kDa (V0由来) および70 kDa (V1由来) の切断産物バンドが検出された (Figure 3A)。3Dコンフォーカル解析では完全長バーシカンは内皮に局在しない一方、バーシキンが内皮に特異的に局在することが確認された。これはバーシキンが血管周囲からADAMTSプロテアーゼによって切断された後に血管内皮細胞に移行・局在する可能性を示唆する (Figure 4A, B)。

Vcan hdf/+ マウスでの腫瘍増殖・血管新生の有意な抑制: Vcan hdf/+マウスはWTリテラメートと比較してB16F10腫瘍体積が移植後10日目 (p=0.045) および13日目 (p=0.043) の両時点で有意に小さかった (n=15 mice/群) (Figure 5B, C)。エンドムシン染色による毛細血管密度解析ではVcan hdf/+マウスの腫瘍でWT腫瘍と比較して有意に低い毛細血管密度が認められ、腫瘍内血管数が約30〜50%減少する傾向を示した (n=10 mice/群) (Figure 5D, E)。特に血管分布パターンに質的な差異が見られ、WT腫瘍では毛細血管が腫瘍内部・周辺に均一に分布していたのに対し、Vcan hdf/+腫瘍では毛細血管が腫瘍周辺部に偏在し、腫瘍内部への血管侵入が阻害されていた (Figure 5F)。Vcan hdf/+マウスの腫瘍でウェスタンブロットによりバーシカンGAGβタンパク質量がWTと比較して一貫して低下することも確認された (Figure 5A)。これらの結果は宿主由来バーシカンの部分的な欠損 (ヘテロ欠損: 約50%減少) だけでも腫瘍増殖と血管新生を有意に抑制するのに十分であることを示す。

考察/結論

宿主間質由来バーシカンが腫瘍血管新生に必要十分であることの初証明:本研究の最大の貢献は、バーシカンをほとんど産生しないB16F10細胞株を用いたVcan hdf/+マウス移植実験により、腫瘍細胞由来バーシカンを除外した状態で宿主間質由来バーシカンが腫瘍増殖・血管新生に必要であることを初めて直接的に実証したことである。移植後10日目と13日目の両時点での有意な腫瘍体積差 (p=0.045, p=0.043) と毛細血管密度の有意な低下は、間質バーシカンが腫瘍血管侵入と血管形成を促進する因果的役割を持つことの直接的証拠である。

先行研究との比較と新規性:先行研究の多くは腫瘍細胞が産生するバーシカンに注目してきたが、細胞株レベルのバーシカン発現のみでin vivoの腫瘍バーシカン機能を評価することの危険性を本研究は明確に示した。MDA-MB231やB16F10のようなバーシカン低発現細胞株でも、in vivoではバーシカンリッチな腫瘍間質が形成されることは、細胞株スクリーニングのみに依存した研究の解釈に重要な警鐘を鳴らす。本研究はVcan hdf/+マウスという独自の遺伝学的ツールと種特異的in situ hybridizationを組み合わせた設計の優位性によって、間質バーシカン産生の直接的な因果関係の証明を初めて可能にした点で新規性が高い。これは、Wight et al. MatrixBiol 2014がバーシカンと炎症の関連性を示唆したものの、腫瘍血管新生における間質由来バーシカンの直接的な役割までは踏み込んでいなかったことと対照的である。また、Kim et al. Nature 2009が腫瘍細胞由来バーシカンとマクロファージの関連性を示したのに対し、本研究は宿主間質由来バーシカンの役割に焦点を当てた点でこれまでと異なるアプローチをとっている。

バーシカン-バーシキン軸による血管新生メカニズムの提唱と臨床応用への示唆:本研究から、腫瘍周辺間質細胞 (線維芽細胞、マクロファージ等) が産生する完全長バーシカン (血管周囲・マクロファージに局在) → ADAMTSプロテアーゼによる切断 → バーシキン (血管内皮に選択的局在) という連続的プロセスが示唆される。バーシキンの血管内皮への移行と局在は、血管周囲からの内皮への特異的シグナリングを支持する。類似した概念 (ECMタンパク質断片であるマトリキン/マトリクリプチンによる血管新生制御) が他のECM分子でも報告されており、バーシキンも同様のメカニズムで機能する可能性がある。この知見は、間質バーシカンの産生抑制または切断産物バーシキンのシグナリング阻害が抗腫瘍血管新生戦略として有望であることを示唆し、臨床応用への道を開く。具体的には、ADAMTSプロテアーゼの選択的阻害によるバーシキン産生の抑制、またはバーシキンの血管内皮への移行・受容体への結合を阻害する抗体・低分子化合物の開発が考えられる。

残された課題と将来展望:本研究でVcan haploinsufficiencyが腫瘍内血管侵入を抑制することが示されたが、完全長バーシカンとバーシキンそれぞれの血管新生促進における相対的寄与は不明である。切断耐性バーシカンを発現するマウスや組換えバーシキンの外因性投与によって、完全長対切断断片の機能を区別する実験が今後の検討課題である。バーシキンが血管内皮細胞に結合する際の具体的受容体・シグナル経路 (VEGFR、β-インテグリン等との相互作用) の解明も残された課題である。また、ADAMTS酵素群が複数のタンパク質基質を持つことから、バーシカン以外の基質を介した経路の腫瘍血管新生への寄与についても検討が必要である。

方法

がん細胞株のバーシカン発現解析:MDA-MB231 (ヒト乳癌)、B16F10 (マウスメラノーマ)、LLC (Lewis肺癌)、MS-1、4T-1、SVR、TRAMP-C1/C2、FCBの各細胞株でバーシカンV0/V1/V2 mRNA発現をRT-PCRおよびqPCRで解析した。コントロールとしてヒト皮膚線維芽細胞 (HSF)、マウス胚線維芽細胞 (MEF)、マウス胎仔ライセート (E13.5) を使用した。ウェスタンブロットは抗GAGβ抗体 (バーシカンV0/V1を代表) で実施した。qPCRでは、マウスバーシカンV0/V1 mRNAはGapdhで、ヒトバーシカンV1 mRNAはRPLP2でそれぞれ正規化した。これらの実験は各細胞株におけるバーシカン発現レベルの多様性を系統的に評価するために実施された。

腫瘍微小環境でのバーシカン評価:B16F10細胞をC57BL/6 WTマウスに、MDA-MB231細胞をBALB/c nudeマウスに皮下移植して腫瘍を形成させた。培養細胞と腫瘍組織でのVcan mRNA発現をqPCR (各n=3〜4) で比較した。腫瘍組織のウェスタンブロット・免疫染色 (抗GAGβ、CD31/CD105、F4/80、HABP) を実施した。ウェスタンブロットではE13.5マウス胚抽出物を陽性コントロールとして使用した。この解析により、in vivo環境における宿主間質由来バーシカンの寄与を評価した。

種特異的in situ hybridization (ISH):マウスVcan exon 7 (Vcan V0/V2) およびexon 8 (Vcan V0/V1) 特異的プローブ、ヒトVCAN exon 7特異的プローブを用いてMDA-MB231 xenograft腫瘍のバーシカン産生源を同定した。プローブ特異性はE16.5マウス胚およびヒト臍帯組織で検証した。RNAScope法 (Advanced Cell Diagnostics) を使用し、7 µm厚のパラフィン包埋切片を用いた。この手法は、腫瘍細胞と宿主間質細胞のバーシカン産生を明確に区別するために不可欠であった。

バーシキンの局在解析:ADAMTSプロテアーゼ切断部位特異的抗体 (抗DPEAAE) を用いて、切断バーシカン (バーシキン) の局在をウェスタンブロットおよび免疫染色で解析した。MDA-MB231、B16F10、LLC腫瘍組織でのバーシキン局在とCD31/CD105 (内皮細胞)、F4/80 (マクロファージ)、HABPとの共局在を3Dコンフォーカル顕微鏡で解析した。抗DPEAAE抗体はE13.5マウス胚の指間組織を陽性コントロールとして使用した。

Vcan hdf/+ マウスを用いた機能解析:C57BL/6 Vcan hdf/+マウス (バーシカンヘテロ欠損) とWTリテラメートにB16F10細胞 (1.0 × 10^6^個) を皮下移植し、腫瘍体積を10日間および13日間後に比較した (n=15/群)。腫瘍体積は「長さ × 幅^2^ × 0.52」の式で算出した。腫瘍組織のCD31染色およびエンドムシン (endomucin) 染色で毛細血管密度を定量した (n=10/群)。腫瘍内部と周辺部での血管分布パターンを比較した。統計解析には両側t検定を用い、p値 < 0.05を有意とした。