Article data
ILC2s regulate a fibroblast progenitor niche in the pancreas
- 著者: Thomas Yip, Julie Stockis, Charlotte Simpson ほか (計 24 名 )
- Corresponding author: Timotheus Y. F. Halim (tim.halim@cruk.cam.ac.uk); Matthew B. Buechler (matthew.buechler@utoronto.ca)
- 雑誌: Science, vol. 393, eaea5113
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-07-02
- Article種別: Original Research Article
- DOI: 10.1126/science.aea5113
背景
線維芽細胞は事実上すべての臓器に存在する tissue-resident な不均一集団で、組織構造・臓器恒常性・炎症・組織修復に関与する一方、その破綻は線維化疾患や腫瘍形成を駆動する。近年のマウス・ヒトの pan-tissue 線維芽細胞アトラスにより、多くの臓器・病態に保存された線維芽細胞サブセットが同定され、これは Pi16 Dpp4 Ly6c1 の発現を特徴とし、計算論的には前駆能を持つと予測されている。注目すべきことに、この集団は alarmin である IL-33 をコードする Il33 を高発現しており、IL-33 は Group 2 innate lymphoid cell (ILC2) を刺激しうる。ILC2 は粘膜バリア部位の上皮幹細胞ニッチに常在する tissue-resident 免疫細胞で、上皮細胞生物学を直接制御し、ILC2 由来 IL-13 は線維芽細胞活性化と線維化を促進することが知られる。こうした所見から、局所の線維芽細胞-ILC2 相互作用が組織線維化を支える feed-forward loop を形成するという仮説が提唱されてきた。
膵外分泌組織はアシナー細胞と導管上皮細胞を主体とし消化酵素を産生する。線維芽細胞サブセットは局所で維持され、傷害誘導性の炎症に関与する。ストレスや壊死を受けた線維芽細胞は IL-33 を放出し、他の DAMP の同時遊離も示唆される。しかし局所の線維芽細胞構成が急性傷害応答をどのように規定するかは不明であった。また、分子的・機能的に多様な cancer-associated fibroblast (CAF) サブタイプは膵管腺癌 (PDAC) で重要な役割を果たすが、その起源には多くの疑問が残されている。これまでの研究では、上皮幹細胞に対する間質ニッチの制御を論じた Roberts et al. CancerCell 2017 や、CAF の不均一性・可塑性を包括的に整理した Pramod et al. NatCancer 2026、腫瘍許容的な初期線維化ニッチ形成を示した Cardoso et al. Nature 2026 が知られる。それでもなお、Pi16 [+] 前駆線維芽細胞と ILC2 の空間的関係、およびその発癌初期での役割は依然として未検証であり、CAF 起源の上流にある免疫制御ノードは十分でなかった。本研究は、膵臓において ILC2 が異なる線維芽細胞サブセットに対しどこに局在し、恒常性・炎症・発癌の過程で線維芽細胞生物学をどう制御するかを問うた。
目的
膵外分泌組織における ILC2 と線維芽細胞サブセット ( とりわけ Pi16 [+] Dpp4 [+] Ly6c [+] 前駆線維芽細胞と分化型 Col15a1 [+] Eng [+] 線維芽細胞 ) の空間的関係を定義し、両者の相互作用が (1) 定常状態の線維芽細胞密度、(2) 急性膵炎における傷害後の修復、(3) 膵発癌における CAF の起源と密度をどのように統御するかを、多数の遺伝子改変マウスモデル・in vivo proximity labeling・scRNA-seq・lineage-trace を用いて機構的に解明することを目的とした。
結果
ILC2 は膵臓の間質ニッチで IL-33 [+] 線維芽細胞と共局在する:Il13 [tdTom/][+] Il33 [Cit/][+] マウス膵臓の 2-photon 顕微鏡と multiplex 免疫蛍光 (IF) により、Gata3 [+] CD3 [−] で定義される ILC2 が臓器実質を包む間質中隔 (septae) と被膜に濃縮され、IL-33 [Cit][+] 細胞と同じ collagen-rich ニッチに共局在することを示した。HALO 画像解析では総 ILC2 (n=272) の 68.0% が間質/被膜に、21.0% が実質、7.3% が adventitia、3.7% が islet 周囲に分布した (Fig. 1C)。フローサイトメトリーでは大半の IL-33 [Cit][+] 細胞が Pdpn と汎線維芽細胞マーカー PDGFRα を共発現し、その線維芽細胞同一性を確認した (Fig. 1E, F)。静脈内 anti-CD45.2-PE 標識により CD45 [+] CD3 [−] Lineage [−] CD127 [+] Gata3 [+] ILC2 はほぼ完全に tissue-resident (98.4% ) で、循環系 B 細胞とは対照的であった (Fig. 1G)。
scRNA-seq が niche 特異的な ILC2-線維芽細胞相互作用を示唆する:非免疫細胞 (17,358 cells / 3 匹 ) の scRNA-seq で 9 集団を同定し、Pdpn [+] Pdgfra [+] 線維芽細胞が Pi16 と Col15a1 で分かれる 2 サブクラスターを示した (Fig. 2C)。Pi16 [+] 線維芽細胞は Il33 Ly6c Dpp4 を選択的に発現し、Col15a1 [+] 線維芽細胞は共受容体 Endoglin (CD105) をコードする Eng を共発現した (Fig. 2D)。IF では Pdpn [+] Dpp4 [+] IL-33 [+] 細胞が被膜・間質に局在し ILC2 に近接した (mean distance 20〜30 μm) (Fig. 2F)。Il5 [tdTom-iCre/][+] R26 [uLIPSTIC] マウスによる in vivo proximity labeling では、PBS 対照でも IL-33 駆動炎症下でも ILC2 は Ly6c [+] 線維芽細胞をほとんど標識せず (直接接触なし )、CD172a [+] CD11b [+] cDC2 のみが biotin シグナルを獲得したことから、ILC2 は細胞接触ではなく分泌因子を介して前駆ニッチを制御すると推定された (Fig. 2H, I)。
ILC2 が Pi16 [+] Dpp4 [+] Ly6c [+] 前駆線維芽細胞の in situ 増殖を促進する:Ly6c [+] Dpp4 [+] Thy1.2 [high] (Pi16 [+]) と Ly6c [−] Dpp4 [low] CD105 [high] (Col15a1 [+] Eng [+]) の 2 サブセットをフローで峻別した (Fig. 3A-C)。ILC2 数と両線維芽細胞サブセット数の間に強い正の相関があり (n=150 mice の C57Bl/6 に加え n=29 mice の Il7r [Cre/][+]、n=22 mice の Il7r [Cre/][+] Rora [fl/fl] ほか複数遺伝型で確認 )、内皮細胞数とは相関しなかった (Fig. 3D)。線維芽細胞は Il1rl1 (IL-33 受容体 ) を発現しないにもかかわらず、IL-33 (0.2 μg) 投与後に Ki67 陽性 ( 増殖 ) が特に Ly6c [+] サブセットで早期に増加した (Fig. 3E)。この増殖効果は ILC2 欠損 (Il7r [Cre/][+] Rora [fl/fl]、Rag2 [−][/][−] Il2rg [−][/][−]、DTR 依存的枯渇 ) で消失し、ILC2 が IL-33 の急性効果を媒介することを示した (Fig. 3F-H)。ILC2 由来の IL-13 が重要で、Il13 [−][/][−] マウスでは増殖が部分的に低下し、恒常状態でも Ly6c [+]/Ly6c [−] 両線維芽細胞数が減少した。
Pi16 [+] 前駆細胞は分化して実質内線維芽細胞コンパートメントを再構築する:本データを pan-organ アトラス ( Buechler ら ) と統合 (15,946 cells) し、Monocle pseudotime で Pi16 [+] Dpp4 [+] Ly6c [+] が Col15a1 [+] Eng [+] Ly6c [−] の前駆であることを in silico で示した (Fig. 4B, C)。Pi16 [+] 細胞は幹/前駆マーカー Aldh1a3 を共発現し、Aldefluor アッセイで選択的に標識された (Fig. 4E)。BrdU pulse-chase では IL-33 応答で Ly6c [+] が選択的に BrdU を取り込み、後期には Ly6c を down-regulate、3 週後に一部が Ly6c [−] へ移行した (Fig. 4G)。tamoxifen (20 mg/mL) 誘導した Dpp4 [CreERT2/][+] Rosa26 [lsl-tdTom] 系統追跡では 140 日後に tdTom [+] Dpp4 [−] Ly6c [−] 線維芽細胞の割合が増加し、qRT-PCR で Pi16 低下・Col15a1 上昇を確認、Pi16 [+] Dpp4 [+] Ly6c [+] が bona fide 前駆細胞であることを結論した (Fig. 4M)。
急性膵炎で ILC2-線維芽前駆軸が組織修復を駆動し、負のフィードバックが数を制約する:caerulein (75 μg/kg) を毎時 6 回投与して誘導した急性膵炎では day 1 でアシナー壊死、day 3 で acinar-to-ductal metaplasia、day 7 で組織再生が起こり、線維芽細胞は急速に消失後に回復した (n=61 mice の定常状態から day 1 で n=20 mice へ減少ののち回復 ) (Fig. 5B, C)。ILC2 は 6 時間で IL-13/IL-5 を産生し ( Il33 [−][/][−] で低下 )、day 1 の Ly6c [+] 線維芽細胞増殖も Il33 [−][/][−] で減弱した (Fig. 5D-F)。RNA velocity は分裂中の Pi16 [+] Dpp4 [+] Ly6c [+] が前駆ニッチと Col15a1 [+] サブセットの双方を再構築することを示した (Fig. 5H)。SCENIC 解析では定常状態の Pi16 [+] が Zeb1・Foxo1・Klf3・Smad1 の幹/前駆ネットワークに濃縮された (Fig. 5M)。一方、負のフィードバックも存在し、Tim4 [+] tissue-resident マクロファージが直接の phagocytosis を介して Ly6c [+] 線維芽細胞数を制約し、その枯渇は IL-33 後の増殖・総 Ly6c [+] 数を増加させた (fig. S7T-V)。慢性 IL-33 投与は線維化を招かず、むしろ組換え OSM (0.5 μg) や LIF などの IL-6-family サイトカインが Ly6c [−] 線維芽細胞をアポトーシスに導き数を抑制した (fig. S8)。
線維芽細胞密度が急性傷害の閾値を規定し、Pi16 [+] 前駆細胞が特定の CAF サブセットの起源となる:baseline で線維芽細胞が少ない ILC2 欠損マウスや Il13 [−][/][−] マウスは、アシナー壊死と血清アミラーゼ活性 ( 疾患バイオマーカー ) が対照より低く、線維芽細胞密度が sterile tissue damage のセンサーとして機能することを示した (Fig. 6A-C)。OSM で Ly6c [−] 線維芽細胞を事前枯渇させると caerulein 傷害が軽減した (Fig. 6D)。Ptf1a [Cre/][+] Kras [lsl-G12D/][+] (KC) マウスでは PanIN 病変が Dpp4 [+] IL-33 [+] Pdpn [+] 線維芽細胞の密なネットワークに包まれ、αSMA [+] Pdpn [+] myCAF 様細胞が PanIN コアに浸潤、この Dpp4 [+] ニッチ内で ILC2 密度が増加した (Fig. 6F, G)。orthotopic KPC モデルの Dpp4 [CreERT2/][+] 系統追跡と scRNA-seq (tdTom [+] 17,384 cells / tdTom [−] 7,044 cells) では、Dpp4 lineage-traced 細胞が iCAF・myCAF・Sox6 [+] CAF へ分化した (Fig. 6L-N)。さらに ILC2 欠損 (Il7r [Cre/][+] Rora [fl/fl]) では myCAF/iCAF 数が減少し、mesothelium 由来 apCAF は不変で、ILC2-_Pi16_ [+] ニッチが特定 CAF コンパートメントの供給源であることを示した (Fig. 6O)。
考察/結論
本研究は、膵臓において ILC2 が Pi16 [+] Dpp4 [+] Ly6c [+] 線維芽前駆細胞の恒常性を統御する中心的制御ノードであることを確立した。先行研究との違いとして、これまで局所の線維芽細胞-ILC2 相互作用は ILC2 由来 IL-13 が線維芽細胞活性化を直接駆動し組織線維化を促す feed-forward loop として理解されてきた。しかし本研究は、ILC2 と Pi16 [+] 線維芽細胞は物理的に接触せず (in vivo proximity labeling で確認 )、慢性 IL-33 刺激も線維化を招かない点で従来モデルとは対照的であり、ILC2 が前駆細胞増殖を促進する一方で分化型 Col15a1 [+] 線維芽細胞を IL-6-family サイトカインや Tim4 [+] マクロファージを介して制約するという双方向の恒常性回路を提示した。
新規性:本研究で初めて、膵外分泌組織の間質・被膜という解剖学的に明確なニッチに ILC2 と Pi16 [+] 前駆線維芽細胞が共局在すること、そしてこの前駆細胞が in vivo で Col15a1 [+] 実質内線維芽細胞へ分化し傷害後の組織を再構築する bona fide progenitor であることを、複数の lineage-trace (Dpp4 [CreERT2]、Pi16 [IresCre]) と RNA velocity で証明した。加えて、定常状態の線維芽細胞密度そのものが急性膵炎における sterile tissue necrosis の「閾値=センサー」として作用するという novel な概念を、ILC2 欠損・Il13 [−][/][−]・OSM 枯渇・Fap [DTR] という相補的アプローチで裏付けた。
臨床的意義:膵臓の代表的病態である急性/慢性膵炎と PDAC はいずれも進行を促す間質反応を特徴とする。本研究は Pi16 [+] Dpp4 [+] Ly6c [+] 線維芽細胞が PDAC の CAF ( iCAF・myCAF・Sox6 [+] CAF・LRRC15 [+] myCAF) の相当部分の局所前駆プールであり、ILC2-線維芽細胞回路が発癌初期の PanIN 周囲で拡大することを示した点で臨床応用上重要である。CAF 起源とその上流の免疫制御ノードを標的とする translational な介入 ( ILC2 活性や IL-13/gp130 経路の調節 ) が、膵炎重症化抑制や腫瘍間質のリモデリングに資する可能性を示唆する。
残された課題:今後の検討として、Pi16 [+] 線維芽細胞における真の分化 (bona fide differentiation) と transdifferentiation・表現型可塑性の峻別が未解明であり、他臓器・他病態での本前駆細胞の機能と機構的基盤の解明が残されている。また ILC2 が膵癌で pro- あるいは anti-tumor いずれの役割を担うかは報告が分かれており、疾患進行の全過程で ILC2-線維芽細胞回路がどのように engage されるかの解明が今後の課題である ( 本研究の limitation としてマウスモデル中心でヒト検証は限定的な点も挙げられる )。
方法
マウスは C57Bl/6 背景で、Dpp4 [CreERT2]、Pdgfra [mGFP-CreERT2]、Il5 [tdTom-iCre] (JAX 030926)、Nmur1 [iCre-eGFP] (JAX 038197)、Rosa26 [lsl-DTR] (JAX 008040)、Rosa26 [uLIPSTIC] (JAX 038221)、Il7r [Cre/][+] Rora [fl/fl]、Rag2 [−][/][−] Il2rg [−][/][−]、Il33 [Cit/Cit]、Il13 [tom/tom] ほか多数を使用し、新規に Pi16 [IresCre] ノックイン (C2 ES 細胞、MGI:7466219) を作出した。急性膵炎は buprenorphine 前投与後に caerulein 75 μg/kg を毎時 6 回投与して誘導。腫瘍は KPC/KPCY 由来細胞株 (6419c5・2838c3) を orthotopic (2.5×10 [4] cells) または subcutaneous (1×10 [5] cells) に移植。in vivo proximity labeling は Biotin-Ahx-LPETGS-NH2 を 20 分毎に 2 時間投与。scRNA-seq は droplet-based で実施し、UMAP・Monocle pseudotime・RNA velocity・CellRank・CellChat・SCENIC・GSEA で解析。統計は two-tailed Student’s t test、one-way/two-way ANOVA (Tukey’s / Š idák’s multiple comparison test)、Pearson correlation を用い、有意水準は *P ≤ 0.05、**P ≤ 0.01、***P ≤ 0.001、****P ≤ 0.0001 とした。フローは BD Fortessa/Symphony・Cytek Aurora で取得し FlowJo X で解析、細胞数は CountBright beads で定量した。