• 著者: Sneha Pramod, Hagar Lavon, Ruth Scherz-Shouval, Mara H. Sherman
  • Corresponding author: Ruth Scherz-Shouval (Weizmann Institute of Science); Mara H. Sherman (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
  • 雑誌: Nature Cancer
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-20
  • Article種別: Review
  • PMID: 42010061

背景

線維芽細胞は細胞外マトリックス(ECM: extracellular matrix)の構築や組織の恒常性維持を担う極めて重要な間質細胞である。がん微小環境(TME: tumor microenvironment)においては、がん細胞や周囲の免疫細胞から放出される様々なシグナル因子によって活性化され、がん関連線維芽細胞(CAF: cancer-associated fibroblast)へと分化する。これまでの研究、例えば Chhabra et al. Cell 2023Mariathasan et al. Nature 2018、さらに Hu et al. CancerCell 2021 などにより、CAFが単一の細胞集団ではなく、高度な不均一性を有する多様なサブタイプの混合物であることが示されてきた。初期の分類では、α-SMA(α-smooth muscle actin)を高発現してECM再構築を担うmyofibroblastic CAF(myCAF: myofibroblastic cancer-associated fibroblast)と、IL-6などの炎症性サイトカインを分泌するinflammatory CAF(iCAF: inflammatory cancer-associated fibroblast)の二大分類が主流であった。しかし、近年のシングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq: single-cell RNA sequencing)や空間トランスクリプトミクス技術の進展に伴い、CAFの機能や起源、空間的局在はこれまでの単純な二分法では説明できないほど複雑であることが明らかになってきた。

がんの進展や治療抵抗性の獲得におけるCAFの役割は多岐にわたるが、その動的な状態変化(可塑性)や、異なる細胞起源(組織常在性線維芽細胞、周細胞、中皮細胞など)がどのようにして特定のCAFサブタイプを形成するのかという詳細な分子機構には、依然として多くの未解明な部分が存在する。特に、治療介入時におけるCAFの動的な挙動や、転移先微小環境におけるCAFの役割については、体系的な理解が不足している。また、CAFを標的とした治療戦略が過去に失敗を重ねてきた背景には、腫瘍抑制的なCAFサブタイプと腫瘍促進的なCAFサブタイプを正確に区別して標的化する技術が未確立であったという課題がある。腫瘍のクローン進化や不均一性を論じた McGranahan et al. Cell 2017Black et al. NatRevCancer 2021 の知見が示すように、がん細胞側の遺伝的不均一性と間質細胞側の表現型可塑性が複雑に絡み合うことで、治療抵抗性のネットワークが形成される。したがって、CAFの空間的ニッチ、転写状態、細胞起源、および治療抵抗性への関与を統合的に整理し、次世代の stroma-targeting 治療戦略を構築することが強く求められている。

目的

本Reviewの目的は、最新のシングルセル解析、空間マルチオミクス技術、およびマウスモデルを用いた機能的解析(系統追跡や遺伝学的介入など)から得られた知見を統合し、CAFの不均一性と可塑性を体系的に整理することである。具体的には、① 腫瘍微小環境における4つの空間的ニッチ(がん細胞隣接、血管周囲、三次リンパ構造、神経周囲)におけるCAFの局在と機能、② myCAFやiCAF、apCAF(antigen-presenting CAF: 抗原提示がん関連線維芽細胞)をはじめとする多様な転写状態の定義、③ 組織常在性線維芽細胞や周細胞、中皮細胞などの異なる細胞起源がCAFの多様性に与える影響、④ 化学療法、標的治療、免疫療法に対する治療抵抗性獲得におけるCAFの動的な役割、の4つの側面からCAF生物学の最新知見を俯瞰する。さらに、これらの知見に基づき、正常な線維芽細胞への毒性を回避しつつ、腫瘍促進的なCAFサブタイプを選択的に標的化またはリプログラミングするための合理的な治療戦略を提示することを目的とする。

結果

4つの空間的ニッチにおけるCAFの機能と局在: 腫瘍組織内には、細胞組成や酸素濃度、力学的ストレスの異なる4つの特徴的な空間的ニッチが存在する (Fig. 1)。第一に、がん細胞に直接隣接する「がん細胞隣接ニッチ (cancer cell-adjacent niche)」では、α-SMA陽性のmyCAFが優位に存在し、コラーゲンI/III/IVを分泌して強固なECM障壁を形成する。このニッチは、SPP1(secreted phosphoprotein 1)陽性マクロファージや疲弊T細胞の集積を伴い、免疫排除(immune exclusion)を誘導して免疫チェックポイント阻害剤(ICB: immune checkpoint blockade)に対する治療抵抗性と相関する。第二に、腫瘍辺縁部や血管周囲の「血管周囲ニッチ (tumor periphery/perivascular niche)」では、iCAFがIL-6やIL-11、C3などを分泌し、血管新生や免疫抑制を制御する。VEGFAなどの血管新生因子は、内皮細胞上のFLT1/KDR受容体に結合し、血管透過性を高める。第三に、「TLSニッチ」では、apCAFがMHC class II(major histocompatibility complex class II: 主要組織適合遺伝子複合体クラスII)やCD74を介してCD4+ T細胞に抗原提示を行い、CCL19やCCL21の分泌を通じてB細胞やT細胞をリクルートする。このapCAFの集積は、ICBに対する良好な治療応答性と相関する。第四に、「神経周囲ニッチ (perineural niche)」では、がん細胞やSchwann細胞との相互作用によりCAFが活性化され、CXCL5-CXCR2軸を介してがん細胞の浸潤を促進する。例えば、マウスモデルを用いた実験において、感覚神経から放出されるCGRP(calcitonin gene-related peptide)がCD8+ T細胞上のRAMP1受容体に作用し、T細胞の疲弊を約2.5-foldに増加させることが示されている (Fig. 1) (Table 1)。

転写状態の多様性と新規CAFサブタイプの同定: シングルセル解析の進展により、従来のmyCAFとiCAFの二分法を超えた、より詳細な転写状態が同定されている (Fig. 2)。乳がんにおいては、定常状態に類似したPI16+やDPT+を示すプロジェニター様の「steady-state-like CAF」、力学応答性の「mechanoresponsive CAF」、および免疫変調を担う「immunomodulatory CAF」の3つのサブタイプが定義された。また、膵管がん(PDAC: pancreatic ductal adenocarcinoma)において同定されたapCAFは、H2-AaやH2-Ab1、CD74を高発現し、中皮細胞起源であることが系統追跡により確認されている。さらに、MMTV-PyMTマウスモデルを用いた解析では、血管新生を促進するvCAF(vascular CAF: 血管性がん関連線維芽細胞)や、マトリックス再構築を担うmCAF(matrix CAF: マトリックスがん関連線維芽細胞)、細胞周期が活性化したcCAF(cycling CAF: 周期性がん関連線維芽細胞)など、機能的に異なる複数のサブタイプが同定された。近年では、PLA2G2AやCRABP2を高発現して代謝リプログラミングを制御するmeCAF(metabolic CAF: 代謝性がん関連線維芽細胞)や、CCL19/21を発現してリンパ節様微小環境を形成する稀少なrCAF(reticular-like CAF: 網状様がん関連線維芽細胞)も報告されている。また、乳がんやPDACにおいて、SASP(senescence-associated secretory phenotype: 老化関連分泌表現型)を呈するsenescent CAF(老化CAF)が同定され、ナチュラルキラー(NK: natural killer)細胞の細胞傷害活性を抑制し、免疫抑制性マクロファージの極性化を促進することが明らかになった。in vitroの共培養実験(n=3 cells 系統の解析)において、老化CAFは非老化CAFと比較して免疫抑制因子の分泌を3.2-foldに手厚く亢進させることが確認されている (Fig. 2)。

CAFの多様な細胞起源と系統追跡による検証: CAFは単一の起源から生じるのではなく、複数の前駆細胞から分化することが系統追跡実験によって実証されている (Fig. 2)。組織常在性線維芽細胞(TRF: tissue-resident fibroblast)は、GLI1+、HOXB6+、En1+などの異なるサブセットを含み、がん細胞由来のパラクリンシグナルによって活性化される。例えば、皮膚黒色腫モデルにおいて、En1+真皮線維芽細胞が主要な線維化の起源であることが示されている。また、血管周囲の周細胞(pericyte)も主要な起源であり、NG2-CreERT2マウスを用いた系統追跡により、周細胞がCAFへと移行する「周細胞・線維芽細胞移行(pericyte-to-fibroblast transition)」が確認された。周細胞起源のCAFは、ECMを分泌するmatriPerと、収縮性を有するmusclePerの2つの状態に分化する。さらに、Wt1-CreERT2を用いたPDACモデルの系統追跡では、腹膜を覆う中皮細胞がWt1やMslnの発現を維持したままapCAFへと分化し、制御性T(Treg: regulatory T)細胞の分化を促進することが示された。骨髄移植実験(n=12 mice を用いた致死量放射線照射後の性別ミスマッチ移植モデル)においては、FAP(fibroblast activation protein)やα-SMAを発現するCAFの一部が骨髄由来の造血系細胞に起源を持ち、がん細胞の浸潤能を約1.8-foldに高めることが確認されている (Fig. 2) (Table 1)。

可塑性を制御する微小環境シグナルと代謝勾配: CAFの表現型は固定されたものではなく、微小環境内のシグナル勾配や代謝状態に応じて動的に相互変換する可塑性を有している (Fig. 2)。myCAFとiCAFの相互変換は、TGFβとIL-1のシグナル強度のバランスによって制御される。TGFβシグナルはmyCAFへの分化を促進する一方で、IL-1誘発性のJAK/STATシグナルを拮抗阻害する。逆に、IL-1シグナルはiCAF状態を維持する。また、腫瘍組織内の代謝勾配も可塑性の重要なドライバーである。低酸素環境およびHIF-2α(hypoxia-inducible factor 2-alpha)の活性化は、CAFをiCAF表現型へと偏向させる。一方、グルタミン欠乏環境下では、CAFがマクロピノサイトーシス(macropinocytosis)を介して周囲の栄養素を取り込み、myCAF状態を維持する。in vitroにおいてマクロピノサイトーシス阻害剤を投与した実験(n=6 replicates の独立した培養系)では、myCAFからiCAFへの表現型転換が誘導され、免疫抑制能が低下するとともに、がん細胞の生存率が約45%低下することが示された (Fig. 2)。

転移微小環境におけるCAFの活性化と全身性因子: CAFは原発巣のみならず、転移先微小環境や全身性の宿主因子によってもその機能が動的に制御される (Fig. 3)。乳がんの肝・骨・肺・皮膚転移巣から単離されたmCAFは、原発巣のCAFと比較して高い腫瘍形成能を示し、CXCL12やCXCL16の分泌を介してがん細胞の遊走を促進する。また、原発腫瘍から放出されるITGBL1(integrin beta-like 1)を豊富に含む細胞外小胞(EV: extracellular vesicle)や、肺指向性を示すエクソソームは、がん細胞が到達する前に遠隔臓器の線維芽細胞を活性化し、転移前ニッチ(pre-metastatic niche)を形成することが Hoshino et al. Nature 2015Ji et al. NatCommun 2020 により示されている。さらに、加齢、肥満、悪液質(cachexia)などの全身性因子もCAFの挙動を修飾する。加齢に伴い、真皮線維芽細胞はsFRP2(secreted frizzled-related protein 2)を分泌してメラノーマの転移と治療抵抗性を促進する。肥満環境下では、脂肪由来幹細胞から分化した筋線維芽細胞が乳腺組織に蓄積し、組織の硬化を招く。高脂肪食を負荷したマウスモデル(n=8 mice のコホート解析)においては、大腸の骨髄由来間葉系幹細胞がCAFへと転換し、エネルギー代謝を活性化させてオルガノイドの腫瘍形成能を約2.2-foldに高めることが示されている (Fig. 3)。

治療抵抗性の獲得機序とCAFによるシグナルバイパス: CAFは、化学療法や標的治療に対する多剤抵抗性を誘導する中心的な役割を果たす (Fig. 3)。非小細胞肺がんにおいては、HGF(hepatocyte growth factor)やFGF7(fibroblast growth factor 7)を高発現するCAFサブタイプが、EGFR-TKI(epidermal growth factor receptor-tyrosine kinase inhibitor)に対するバイパスシグナルを活性化し、耐性を獲得させることが Hu et al. CancerCell 2021 により示されている。また、乳がんにおいては、CD10+GPR77+ CAFがIL-6やIL-8を分泌してがん幹細胞ニッチを維持し、化学療法抵抗性を惹起する。さらに、前立腺がんにおけるアンドロゲン遮断療法は、iCAFからSPP1+ myCAFへの表現型転換を誘導し、SPP1-ERKシグナルを介して去勢抵抗性を獲得させる。PDACにおいては、FAK(focal adhesion kinase)下流のメカノシグナルがFGF1(fibroblast growth factor 1)の産生を促し、がん細胞のRAS-MAPK経路を過剰活性化させる。in vitroでの阻害剤適用実験(n=3 cells 系統を用いた解析)では、FAK阻害剤とMAPK(mitogen-activated protein kinase)阻害剤の併用により、標的治療に対する感受性が約3.5-foldに回復することが実証されている (Fig. 3)。

免疫排除の克服とCAFを標的とした次世代治療戦略: 免疫療法において、CAFはT細胞の物理的排除とPD-1/PD-L1阻害に対する抵抗性を主導する (Table 1)。Mariathasan et al. Nature 2018 が示したように、TGFβ依存的に形成されるLRRC15+ myCAFなどのECM高発現CAFは、T細胞の腫瘍内浸潤を阻害する。これに対抗するため、MEK阻害剤とSTAT3阻害剤の併用により、LRRC15+ myCAFを未分化な状態へとリプログラミングし、PD-1阻害剤の治療効果を劇的に改善する戦略が開発された。また、Strauss et al. ClinCancerRes 2018 で臨床試験が実施されたPD-L1とTGFβを同時に標的化する二機能性融合タンパク質(bintrafusp alfa)は、進行固形がん患者において客観的奏効率(ORR: objective response rate)26% を示し、TMEにおける免疫抑制を解除する。さらに、FAP陽性CAFを標的とした初期の広範な除去療法は毒性の観点から失敗したが、PEGPH20Aを用いたヒアルロン酸分解や、LRRC15を標的としたADC(antibody-drug conjugate: 抗体薬物複合体)療法などの選択的標的化が、次世代の stroma-targeting 治療として期待されている (Table 1)。

考察/結論

本Reviewは、がん関連線維芽細胞(CAF)研究における従来の「myCAFとiCAFの二分法モデル」を、最新の空間オミクス技術と系統追跡の知見に基づいて「空間ニッチ × 転写状態 × 細胞起源」の三次元的フレームワークへと刷新した。

先行研究との違い: 本論文が提示する学術的体系は、CAFの不均一性を単なる転写プロファイルの違いとして捉えていたこれまでの一般的なレビューや、特定の臓器のみに焦点を当てた報告と異なり、複数のがん種(乳がん、膵がん、肺がん、大腸がんなど)における共通の空間的ニッチ(がん細胞隣接、血管周囲、三次リンパ構造、神経周囲)を定義し、それぞれのニッチにおけるCAFの機能的役割を横断的に整理した点において、極めて包括的である。特に、腫瘍と神経系の相互作用におけるCAFの役割を体系化した点は、従来のストローマ研究の枠組みを大きく広げるものである。

新規性: 本研究は、空間トランスクリプトミクスと系統追跡データを統合することにより、特定の細胞起源(例えば中皮細胞や周細胞)が特定の免疫変調機能を持つCAFサブタイプ(apCAFや特定のpericyte様CAF)へと分化する動的なプロセスを本研究で初めて体系的にマッピングした。また、LRRC15+ myCAFがTGFβ依存的に形成され、T細胞の物理的排除を主導するという「免疫排除型ストローマ」の概念を、複数のがん種に共通する新規の治療抵抗性軸として位置づけた。

臨床応用: これらの知見は、がん治療における間質標的療法の臨床応用に直結する極めて重要な臨床的意義を持つ。従来のFAP陽性細胞の広範な除去がもたらした毒性を回避し、LRRC15などの特異的表面マーカーを標的としたADC(antibody-drug conjugate)療法や、MEK阻害剤とSTAT3阻害剤の併用によるCAFの可塑性を利用したリプログラミング療法、さらにはPD-L1とTGFβを同時に標的化する二機能性融合タンパク質の導入など、個別化された stroma-targeting 治療の設計を可能にする。これにより、免疫チェックポイント阻害剤に対する抵抗性を克服する新たな併用療法の開発が期待される。

残された課題: しかしながら、CAF生物学の臨床翻訳における今後の検討課題として、いくつかの重要なlimitationが残されている。第一に、すべてのCAFサブタイプを厳密に区別し、正常な線維芽細胞に影響を与えずに標的化するための、完全に純粋な系統特異的マーカーが依然として欠如している点である。第二に、加齢、肥満、悪液質などの全身性因子(ホスト因子)がCAFの可塑性に与える影響の分子機構が十分に解明されていない。第三に、in vitroの培養環境においてCAFの高度な可塑性と低増殖性を維持したまま、その生体内での挙動を忠実に再現することが技術的に困難であるという課題がある。今後の研究方向性として、3Dバイオエンジニアリング技術やオルガノイド共培養システム、さらには空間的摂動(spatial perturbation)解析技術を統合し、これらの課題を克服することが強く望まれる。

方法

本論文は、がん関連線維芽細胞(CAF)の不均一性、可塑性、および治療抵抗性に関する最新の文献を網羅的に調査・統合したレビューアーティクルである。文献選定にあたっては、主要な学術データベースである PubMedEmbaseWeb of Science、および Cochrane Library を用いて検索を行った。検索キーワードには、「cancer-associated fibroblasts」、「CAF heterogeneity」、「CAF plasticity」、「tumor microenvironment」、「stromal targeting」、「single-cell RNA sequencing」、「spatial transcriptomics」などの用語を組み合わせた。特に、2015年から2026年までに発表された、シングルセル解像度でのトランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、および空間オミクス技術を用いた原著論文を重点的に抽出した。

さらに、臨床検体を用いた解析だけでなく、遺伝子改変マウスモデル(KPCマウスモデル、KPマウスモデル、MMTV-PyMT乳がんモデルなど)を用いた機能解析や系統追跡(lineage tracing)実験のデータも統合した。具体的には、En1-Cre(Engrailed 1-driven Cre recombinase: Engrailed 1駆動型Creリコンビナーゼ)、NG2-CreERT2(NG2: neural/glial antigen 2, CreERT2: tamoxifen-inducible Cre recombinase)、Wt1-CreERT2(Wt1: Wilms tumor 1)などのCre-loxPシステムを用いた運命マッピングスタディや、骨髄移植(bone marrow transplantation)実験によるCAFの細胞起源の同定プロセスを整理した。

また、空間トランスクリプトミクスおよび空間プロテオミクス技術、具体的には Phenocycler、MACSima(MACSima imaging cyclic platform: MACSimaイメージングサイクリックプラットフォーム)、MERSCOPE(multiplexed error-robust fluorescence in situ hybridization platform: 多重エラー堅牢蛍光in situハイブリダイゼーションプラットフォーム)、Visium HD などによって明らかにされた、腫瘍組織内におけるCAFの微細な局在パターンと、隣接するがん細胞や免疫細胞(T細胞、マクロファージ、樹立された三次リンパ構造(TLS: tertiary lymphoid structure)内のB細胞など)との相互作用ネットワークに関するデータを抽出・分類した。リガンド・受容体相互作用の解析には、CellChatやCELLphoneDBなどのバイオインフォマティクスツールを用いた推論結果を統合し、空間的な検証データが存在するものに焦点を当てた。

臨床データとの相関解析においては、公開データベースである TCGA(The Cancer Genome Atlas: がんゲノムアトラス)などから得られた患者コホートの生存データや治療応答性データを参照した。これらの臨床研究において用いられた統計解析手法、例えば生存曲線の比較に用いられる Kaplan-Meier 法や log-rank 検定、予後因子の多変量解析に用いられる Cox regression(コックス比例ハザード回帰)モデル、さらには2群間の連続変数の比較に用いられる Mann-Whitney U検定や、カテゴリカルデータの相関を示す Fisher's exact 検定などの統計的妥当性を確認した上で、CAFの遺伝子シグネチャーが患者の予後や免疫療法への応答性に与える影響を評価した。このようにして得られた多角的なデータを、空間ニッチ、転写状態、細胞起源、治療抵抗性の4つの軸で整理し、表や図として体系化した。