- 著者: Charles A. Powell, Balazs Halmos, Serge P. Nana-Sinkam
- Corresponding author: Charles A. Powell (Division of Pulmonary, Critical Care, and Sleep Medicine, Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York, NY; E-mail: charles.powell@mssm.edu)
- 雑誌: American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine
- 発行年: 2013
- Epub日: N/A
- Article種別: Review (Annual Update)
- PMID: 23855692
背景
肺がんは米国において男女ともにがん関連死の第1位を占め、2013年には20万件を超える新規診断と約16万件の死亡が予測されていた。全体的な5年生存率は約16%にとどまり、標準治療としての白金製剤ベース化学療法の有効性は限定的であった (Schiller et al., N Engl J Med 2002)。2011年のNational Lung Screening Trial (NLST; 全米肺がんスクリーニング試験) は高リスク喫煙者約n=50,000人を対象とした大規模無作為化試験で、低線量CTスクリーニングが肺がん死亡率を20%・全死亡率を7%低下させることを示し、スクリーニングの有効性を確立した先駆的業績であった (Aberle et al., N Engl J Med 2011)。腫瘍免疫と微小環境の観点では、Hanahan & Weinbergが “Hallmarks of Cancer” で提唱した免疫回避・持続的血管新生・腫瘍微小環境の概念 (Hanahan et al. Cell 2011) が肺がん研究の基盤的枠組みとなり、後の免疫療法開発につながる知識体系を形成した。さらに、Cancer Genome Atlas (TCGA) による肺扁平上皮癌の網羅的ゲノム解析 (Hammerman et al. Nature 2012) は、肺がんゲノムの多様な変異景観と新規治療標的の存在を明らかにした。
しかしながら、2012年以前の臨床実践では組織型のみに基づく治療が中心であり、分子プロファイルを考慮した個別化治療はEGFR変異陽性NSCLC (non-small cell lung cancer; 非小細胞肺がん) の一部に限定されていた (Mok et al., N Engl J Med 2009)。CTスクリーニングの実装に向けた偽陽性結節識別アルゴリズムの確立や費用対効果の評価が不足しており、ALK (anaplastic lymphoma kinase) 転座陽性例へのcrizotinibの第III相エビデンス、KRAS変異陽性例への有効な標的療法、免疫チェックポイント阻害薬の臨床エビデンスにはいずれも gap in knowledge が存在した。特に、EGFR/ALK以外のドライバー変異を有するNSCLC (全体の約50-60%) への有効な分子標的療法が明らかでなく、免疫療法の予測的バイオマーカーも未確立であったことが、当時の臨床において最も重要な未解決課題として残されていた。換言すれば、決定的に不足していたのは、EGFR/ALK以外の変異陽性NSCLCに対する分子標的療法の第III相エビデンス、免疫チェックポイント阻害薬の患者選択バイオマーカーの実用的根拠、CTスクリーニング偽陽性結節識別アルゴリズムの前向き検証データであった。本レビューはこうした急速な進展と残存課題を2012年の知見として体系的に整理し、研究・臨床の双方に最新情報を提供するために執筆された。
目的
2012年に発表された肺がんおよび中皮腫に関する主要な研究成果を、疫学・スクリーニング・腫瘍生物学・遺伝学・ゲノミクス・病期分類・局所治療・化学療法・分子標的療法・免疫療法・中皮腫の各領域にわたって包括的にまとめ、臨床・研究の最前線情報を提示する。
結果
疫学・人種格差とリスク因子:複数の全国レジストリ解析により、アフリカ系米国人は最も高い肺がん罹患率 (73/100,000) を示し、全生存期間および手術切除率が他の人種群と比較して不良であることが確認された。この格差は医療アクセスの不平等、喫煙に対する感受性の個人差、早期発見・禁煙への認識の相違など複合的因子によるものと考察された。一方、SEERデータベースを用いたHispanicコホート解析では、Hispanic系は非Hispanic白人より低侵攻性組織型 (腺癌in situ・lepidic predominant adenocarcinoma [鱗状優位型腺癌]) の割合が高く、予後良好であった。この差異には喫煙率の低さに加え、特定の遺伝的バリアントの関与も示唆された。職業曝露については、中央・東欧と英国の2,000例超を対象とした大規模case-control研究において、溶接および炎切断作業従事者では肺がんリスクが36%増加し、溶接ヒュームが喫煙と独立したリスク因子として同定された (Table 1参照)。
肺がんCTスクリーニングの実装と課題:NLSTによる有効性実証を受け、スクリーニングの実装における4つの主要課題が議論された: (1) 偽陽性良性結節と悪性結節の識別、(2) バイオマーカーによる陽性予測値の向上、(3) 結節評価ガイドラインへの準拠と放射線被曝リスク評価、(4) 費用対効果。Ost & GouldはBayesian evidence-based algorithm (ベイズ統計的証拠アルゴリズム) による肺結節管理フレームワークを提唱し、Patzらは血清マーカーアッセイ (CEA [carcinoembryonic antigen; がん胎児性抗原]・alpha-1 antitrypsin [アルファ1アンチトリプシン]・SCC antigen [扁平上皮癌抗原] の3種組み合わせ) でロジスティック回帰モデルにより感度80%・特異度89%を達成した。Pittsburgh Lung Screening Studyでは prevalent tumor (既存腫瘍) がincident cancer (新規発見がん) と比較して体積倍加時間が有意に遅延することが報告されたが、倍加時間解析が適用可能だったのは全がんの43%にとどまった。International Early Lung Cancer Action Program (I-ELCAP) コホートではsubsolid nodule (すりガラス結節) の体積倍加時間がsolid nodule (充実型結節) より有意に長く、スクリーニング発見がんと通常発見がんの増殖速度に差がないことが示された。Fleischner Society (フライシュナー学会) は非充実型・部分充実型結節管理の新勧告を発表し、5mm以下の pure ground-glass nodule (純粋すりガラス陰影) はフォロー不要、充実成分5mm超の部分充実型結節は悪性として対応すべきと推奨した。肺がんスクリーニングのCTはCOPD (chronic obstructive pulmonary disease; 慢性閉塞性肺疾患) や冠動脈疾患などの合併症検出にも有益であり、MILD試験 (Multicentric Italian Lung Detection trial) やJacobsらの研究により冠動脈カルシウムスコアが全死因死亡・心血管イベントと独立して関連することが示された。米国がん学会・ACCP (American College of Chest Physicians)・ASCO・NCCNの共同専門家パネルは、55-74歳・30パック年以上の現喫煙者または過去15年以内に禁煙した者への年1回CT検診を推奨するガイドラインを策定した (Fig. 1参照)。
腫瘍生物学: 微小環境・EMT・幹細胞:フィールド発がん (field carcinogenesis; 気道上皮全体への発がん物質蓄積) の概念が深化し、Beaneらはブロンカル上皮細胞の複数の遺伝子発現データセットからSIRT1経路がタバコ煙誘発肺がんの促進因子であることを同定した。Bosseらは肺がん患者n=853例の非罹患肺組織において599プローブセット (558個が上方制御) が現喫煙者と非喫煙者を一貫して区別し、多くは禁煙25年以内に非喫煙者レベルに回帰するが20プローブセットは持続的に上方制御されることを見出した。腫瘍微小環境では、単球系 MDSC (myeloid-derived suppressor cells; 骨髄由来サプレッサー細胞) の CD11b+CD14+ (cluster of differentiation 14) サブセットが進行NSCLC末梢血で増加し、高S100A9+ MDSC頻度が化学療法低反応と関連することが示された。IDO (indoleamine 2,3-dioxygenase) 欠損マウスではIL-6誘導障害・MDSC機能低下・腫瘍負荷軽減が確認され、IDOの腫瘍支持的役割が明確化された。免疫微小環境の組織学的解析では、早期肺腺癌においてstromal FoxP3 regulatory T cells (制御性T細胞) が発現亢進腫瘍環境と関連し、IL-12RBeta2・IL-7R (interleukin-7 receptor) の発現が各々抗腫瘍・腫瘍促進と関連することが示された (Fig. 2参照)。上皮間葉転換 (EMT; epithelial-to-mesenchymal transition) については、Akt/GSK3beta (glycogen synthase kinase 3 beta)・MEK-ERK・Rac1b (Rac family small GTPase 1b)/MMP-3 (matrix metalloproteinase-3) 経路の関与がin vitroおよびtransgenic mouse modelで実証された。さらに、遠隔転移の定着には間葉-上皮転換 (MET; mesenchymal-to-epithelial transition) が必要であることが、Twist1 (twist family bHLH transcription factor 1) 誘導性transgenic modelとPrrx1 (paired related homeobox 1) 過剰発現モデルの両者で確認された。
ゲノミクス・遺伝学・エピゲノム:TCGAによる肺扁平上皮癌n=178例の網羅的ゲノム解析 (Hammerman et al. Nature 2012) では、300以上のユニークな外因性変異・コピー数変化と165の遺伝子再構成が同定され、TP53体細胞変異の高頻度発生、CDKN2A/RB1・NFE2L2 (nuclear factor erythroid 2-related factor 2)/KEAP1/CUL3 (cullin 3)・PI3K/AKT・SOX2/TP63 (tumor protein p63)/NOTCH1各経路の変異が主要な分子特性として確認された。KIF5B-RETおよびROS1/GOPC遺伝子融合が機能的バイオマーカーとして注目され、NanoStringベースアプローチで変異陰性腺癌における新規チロシンキナーゼ融合 (RET・ROS1/GOPC) が同定された。GWAS (genome-wide association study; ゲノムワイド関連解析) では、African Americans集団を対象とした多施設case-control研究において5p15.33 (腺癌と関連)・6p21.33 (扁平上皮癌と関連)・15q25.1 (ニコチン受容体遺伝子座) の3染色体領域のSNP (single-nucleotide polymorphism; 一塩基多型) が肺がんリスクと関連することが示され、既存の主に白人を対象としたGWASを人種的に拡張した。予後関連GWASでは進行NSCLC n=348例においてEGF・NALCN・CDH8等の近傍にある17個のSNPが臨床転帰と関連した。エピゲノム解析では7遺伝子プロモーターメチル化パネルが2つの独立コホートで早期肺がんと対照の識別に感度71%・特異度77%を達成した。miRNA (microRNA) ではHuangらが2つのmiRNA発現パネルがSCLC (small cell lung cancer; 小細胞肺がん) とNSCLCの鑑別および扁平上皮癌と腺癌の鑑別に、ホルマリン固定パラフィン包埋組織と気管支ブラッシング検体の両方で有効であることを示し、組織量が限られた症例での応用可能性を示唆した (Table 2参照)。プロテオミクスでは、肺がん組織から同定されたp21-activated kinase (PAK) ファミリーの過剰発現が肺発がんに関与する可能性が示され、血清プロテオミクスシグナチャーとCT所見・臨床パラメーターの統合が肺結節の診断精度を向上させることが報告された。
化学療法の新エビデンス:4つの主要ランダム化試験の成績が2012年に報告された。CHEST試験 (n=270、IB-IIIA期NSCLC) では術前cisplatin/gemcitabine化学療法+手術 vs. 手術単独でPFS HR 0.70・OS HR 0.63と術前化学療法の有意な生存改善が示されたが、効果はIIB/IIIA期サブグループに限定的であった。JCOG0301試験 (n=200、高齢者 [71-89歳] の切除不能III期NSCLC) では低用量carboplatin同時化学放射線療法 vs. 放射線単独でOS中央値22.4 vs. 16.9ヵ月 (HR 0.68) と化学放射線療法の優越性が示され、注意深く選択された高齢患者でも有益であることが確認された。Lilenbaum試験 (進行NSCLC・poor performance status患者) では、pemetrexed単剤 vs. carboplatin+pemetrexed doubletでRR 10.5 vs. 24%・PFS 3.0 vs. 5.9ヵ月・OS 5.6 vs. 9.1ヵ月とdoublet群が優れ、高齢サブセットでも同様の恩恵が認められた。PARAMOUNT試験 (continuation maintenance戦略) では、cisplatin/pemetrexed 4サイクル後の維持pemetrexed vs. 最善支持療法でOS 13.9 vs. 11.0ヵ月と維持療法の有意な生存改善が示され、非扁平上皮NSCLCにおける維持療法の役割がさらに確立された。一方、TORCH試験では分子未選択の進行NSCLC患者への1st-line erlotinibが標準化学療法と比べてOS 8.7 vs. 11.6ヵ月 (HR 1.24、化学療法群有利) と有意に劣る結果となり、EGFR変異検査なしの化学療法適格患者への1st-line TKI (tyrosine kinase inhibitor; チロシンキナーゼ阻害薬) 投与が有害であることが強く確認された。大規模なPointBreak試験 (n=1,259) ではcarboplatin/pemetrexed/bevacizumab→維持pemetrexed/bevacizumab vs. carboplatin/paclitaxel/bevacizumab→維持bevacizumabのOS同等性が示され、両レジメンが非扁平上皮NSCLCの有効な選択肢であることが支持された。
分子標的療法: EGFR・ALK・ROS1・KRAS:2012年は4種のドライバー変異に対する標的療法エビデンスが集積した歴史的な年であった。EGFR変異陽性NSCLCでは、EURTAC試験 (n=174、exon 19欠失またはL858R変異陽性) においてerlotinib vs. 白金製剤ベース標準化学療法でPFS 9.7 vs. 5.2ヵ月 (HR 0.37)・RR 64 vs. 18%と有意な優越性が欧州集団でも実証された (Rosell et al. LancetOncol 2012)。exon 19欠失患者ではL858R変異患者より良好な予後が示唆された。LUX-Lung 3試験 (n=345、EGFR変異陽性、2:1ランダム化) ではafatinib (不可逆的EGFR/ErbB2阻害薬) vs. cisplatin/pemetrexedでPFS 11.1 vs. 6.9ヵ月・RR 56.1 vs. 22.6%とafatinibの有意な優越性が示された。ALK転座陽性NSCLCではPROFILE 1007試験 (n=347) においてcrizotinib vs. 化学療法でPFS 7.7 vs. 3.0ヵ月・RR 64 vs. 20%とcrizotinibが有意に優越し、QoL改善も確認された (Shaw et al. NEnglJMed 2013)。ROS1転座陽性NSCLC (全NSCLCの約1%、非喫煙者・若年者に多い) ではPROFILE 1001の初期コホート (n=15) においてcrizotinibが57.1%の奏効率を達成し、ALK陽性例と類似した感受性が確認された (Table 3参照)。KRAS変異陽性NSCLCではselumetinib (MEK1/MEK2阻害薬) +docetaxel vs. docetaxel+プラセボの第II相試験 (n=87、crossoverなし設計) でRR 36 vs. 0%・PFS 5.3 vs. 2.1ヵ月・OS 9.4 vs. 5.2ヵ月と有意な改善が示された。grade 3-4好中球減少症 (67 vs. 55%) および発熱性好中球減少症 (18 vs. 0%) の増加を伴ったが、有効な分子標的療法が皆無であったKRAS変異NSCLCへの初の有望なデータとして注目された。
獲得耐性のメカニズムと次世代戦略:EGFR標的療法への獲得耐性の主要機序として、約50%の患者でEGFR T790M変異が生じ、他にMET増幅・EMT・SCLCへの組織転換が報告された。ErbB2 (HER2) 増幅がT790M欠損獲得耐性症例の約12%で同定され、afatinib+cetuximab (抗EGFR抗体) の組み合わせがerlotinib耐性患者を対象とした第II相試験で40%の奏効率を示した。AXLキナーゼの活性化がerlotinib耐性例の約20%で確認され、EMT機序との関連が示唆された。ALK阻害薬crizotinibへの獲得耐性ではALKチロシンキナーゼドメイン二次変異 (L1196変異等、EGFR T790Mと類似したgatekeeper変異) が約1/3に見られ、ALKコピー増加・KRAS変異・EGFR L858R bypass活性化がその他の機序として同定された。第2世代ALK阻害薬LDK378はcrizotinib耐性ALK陽性NSCLC患者を対象とした第I相線量漸増試験で67%という高い奏効率を示した。前臨床研究では、MED12 (MEDIATORトランスクリプション複合体の構成要素) のシグナル制御がTGF-betaR経路を介してEGFRおよびALK阻害薬を含む多剤への耐性に関与することが示された。これらの多様な耐性機序の存在から、耐性時の腫瘍再生検による分子・組織学的特性評価が次治療選択の標準的臨床対応として認識されるようになった。
免疫チェックポイント阻害薬の黎明:2012年は免疫チェックポイント阻害薬の初期臨床エビデンスが蓄積した歴史的転換点であった。CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4) 阻害薬ipilimumabとpaclitaxel/carboplatinの第II相試験 (n=204、進行NSCLC) では、phased投与 (2サイクルのプラセボ+化学療法後にipilimumab 10 mg/kg) がcontrol (プラセボ+化学療法) に対してirPFS (immune-related progression-free survival) およびmodified WHO PFSを有意に延長し、best overall RR 32 vs. 18%とphased群が優れた。concurrent投与 (ipilimumab+化学療法同時投与) はirPFSで有意差を示さなかった。PD-1 (programmed death 1) 受容体を標的とする完全ヒト型IgG4モノクローナル抗体BMS-936558 (後のnivolumab) は、固形腫瘍296例 (NSCLC n=122例、大半が多ライン前治療歴あり) を対象とした試験で累積RR 18%を達成し、特に扁平上皮NSCLCで33%という高い奏効率と持続的な奏効が観察された (Topalian et al. NEnglJMed 2012)。さらに、PD-L1 (programmed death ligand 1; プログラム細胞死リガンド1) 陽性腫瘍ではRR 36%に対しPD-L1陰性腫瘍ではRR 0%と、PD-L1発現が患者選択のバイオマーカーとして機能する可能性が初めて示唆された。BMS-936559 (抗PD-L1抗体) の進行NSCLC患者ではRR 約10% (10 mg/kg投与でRR 16%) が報告されたが、BMS-936558と異なり扁平上皮組織型の優位性は認められなかった。
中皮腫: アスベスト曝露リスクとfibulin-3診断バイオマーカー・外科療法の新展開:アスベスト曝露に関するコホート解析では、クロシドライト以外の全アスベスト繊維種が中皮腫死亡の2倍の肺がん死亡を引き起こすと推定され、高アスベスト使用国 (ロシア・中国等) の高喫煙率との相乗効果が公衆衛生上の懸念として提起された。血液バイオマーカーとして、Passらはn=92例 (悪性胸膜中皮腫n=40例 vs. アスベスト曝露対照n=52例) の前向きコホートで、fibulin-3 (フィブリン-3; 血漿カットオフ≥52.8 ng/mL) が感度96.7%・特異度95.5%でアスベスト曝露健常者から悪性胸膜中皮腫患者を識別し、中皮腫胸水と他の胸水を鑑別する性能を持つことを報告した (N Engl J Med 2012)。前向き妥当性検証が完了すれば早期診断の実用的ツールとなる見込みであった。外科療法については extrapleural pneumonectomy (胸膜外肺全摘術) の高い死亡・合併症率から pleurectomy/decortication (胸膜切除・肺剥皮術) への移行が進んだ。Rosenzweigらは手術後の残存肺への pleural IMRT (pleural intensity-modulated radiotherapy; 胸膜強度変調放射線療法) により中央値生存26ヵ月・急性grade 3以上毒性率20%という結果を報告し、補助療法として実現可能であることを示した。
考察/結論
本2012年アップデートは、肺がん治療が組織型のみによる一律化学療法から、分子プロファイルに基づく個別化治療と免疫チェックポイント療法の時代へと大きく転換した歴史的節目を詳細に記録したものである。
これまでの研究と比較して、2012年に確立された知見の最大の意義は、治療可能なドライバー遺伝子の多様性と対応する標的療法のエビデンスが一挙に集積した点にある。既報のアジア中心のEGFR標的療法データが、EURTAC試験によって欧州集団でも普遍的に適用可能であることが確認されたことで、EGFR変異検査の全世界的実施が強く支持された。対照的に、TORCH試験は分子未選択患者への1st-line erlotinibの有害性を明示し、分子検査に基づく治療選択の不可欠性を浮き彫りにした。PROFILE 1007試験によるALK転座陽性NSCLCへのcrizotinibの第III相優越性実証、ROS1転座陽性例への同薬の有効性示唆は、「fusion-driven lung cancer (融合遺伝子駆動型肺がん)」という概念を定着させ、ドライバー遺伝子に基づく治療対象の拡張を加速させた。
本年の新規な成果として特に注目すべきは、BMS-936558 (nivolumab) によるPD-L1陽性腫瘍への選択的奏効率36% vs. PD-L1陰性0%という初めての臨床確認であった。これはPD-1/PD-L1経路が肺がんにおいて治療可能な免疫チェックポイントであり、かつPD-L1発現が予測的バイオマーカーとして機能することを初めて示した新規の知見であり、その後数年間の免疫療法承認拡大の出発点となった。同様に、KRAS変異NSCLCに対するselumetinib+docetaxelの第II相での奏効率36% vs. 0%という結果は、これまで有効な分子標的療法が存在しなかった集団への初の有望なシグナルとして、これまでの治療的ニヒリズムと相違する重要な転換であった。
臨床応用の観点から、本レビューは複数の実践的示唆を提供した。EBUSによるNSCLC診断感度88% (95% CI 86-91%) とEGFR変異検査成功率90% (774例対象) の報告は、分子検査に十分な検体を低侵襲的に取得できることを実証し、TKI・免疫療法時代における侵襲的再生検の代替手段として EBUS の臨床的意義を確立した。獲得耐性の多様な機序 (T790M・MET増幅・ErbB2増幅・AXL活性化・ALK二次変異) の解明により、耐性時の腫瘍再生検による分子解析に基づく治療変更が、臨床現場での標準的対応として位置づけられるようになった。
残された課題として、CTスクリーニングの費用対効果と至適対象の確定、偽陽性識別アルゴリズムの前向き検証、selumetinib+docetaxelの第III相確証、免疫チェックポイント阻害薬の最適バイオマーカー (PD-L1以外の予測因子) の同定、ALK耐性後の次治療アルゴリズム標準化がある。中皮腫については有効な早期診断バイオマーカーの前向き妥当性検証と外科的標準治療の確立が今後の検討が必要な重要課題であり、fibulin-3をはじめとする血漿バイオマーカーの臨床実装はこれらの検証を待つ状況であった。免疫微小環境の複雑な免疫抑制機序 (MDSC・IDO・制御性T細胞の多層構造) と、腫瘍内多様性 (intratumor heterogeneity) への対処も重要なlimitationとして認識された。本レビューが示した2012年の急速な進歩は、分子標的療法と免疫療法が相補的に発展する肺がん治療の新時代を予告するものであった。
方法
本論文はPubMed/MEDLINE (Medical Literature Analysis and Retrieval System Online) データベースおよびASCO (American Society of Clinical Oncology)・ESMO (European Society for Medical Oncology)・AATS (American Association for Thoracic Surgery) 等の主要学術集会の抄録・発表データを参照した年次ナラティブレビュー (narrative review) である。著者のPowell, Halmos, Nana-Sinkamが各分野の知見を分担収集し、2012年1月から12月末までに公表または発表された肺がん・中皮腫関連の主要原著論文、無作為化比較試験 (randomized controlled trial; RCT)、ゲノム解析研究、ガイドライン発表を網羅的にレビューした。各セクションでは試験デザイン・患者数・主要エンドポイント (無増悪生存期間 [progression-free survival; PFS]、全生存期間 [overall survival; OS]、奏効率 [response rate; RR]) を含む主要成績を要約した。統計的評価には、各原著試験で使用されたlog-rank検定、ハザード比 (hazard ratio; HR) のCox比例ハザードモデルによる算出、ロジスティック回帰モデル、Kaplan-Meier法が用いられた。バイオマーカー評価では感度・特異度を参照し、ゲノム解析では変異頻度・コピー数変化・遺伝子融合の同定手法を整理した。本研究はNIH研究費 (grant 1R01CA163772、C.A.P.) の支援を受けた。