- 著者: Ramaswamy Govindan, Nathan Page, Daniel Morgensztern, William Read, Ryan Tierney, Anna Vlahiotis, Edward L. Spitznagel, Jay Piccirillo
- Corresponding author: Ramaswamy Govindan (Washington University School of Medicine, St. Louis, MO)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2006
- Epub日: 2006-08-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 17008692
背景
SCLC (small-cell lung cancer) は急速な倍加時間 (doubling time)・高い増殖分画 (high growth fraction)・早期広範転移・化学放射線治療への初期高感受性を特徴とする肺がんの亜型である (Elias Chest 1997)。20世紀前半には扁平上皮癌 SCC (squamous cell carcinoma) とともに喫煙関連肺がんの主要組織型であり、1993年米国がん協会推定では新規肺がん17万例のうち25%をSCLCが占めていた。先行研究では Wingo et al. (1999) が Annual Report to the Nation で肺がん全体の trend を示し、Travis et al. (1995) が SCLC 組織型の分類変遷を整理した。しかし1980年代以降、腺癌 (adenocarcinoma) が全肺がんの主要組織型となりSCLC比率が低下傾向にあるとの報告が相次いだ (Devesa et al. IntJCancer 2005; Janssen-Heijnen et al. (2001) Lung Cancer)。この変化は喫煙率の低下とフィルター付き低タール煙草への移行を反映するとされた (Wynder & Muscat Environ Health Perspect 1995)。Khuder et al. (2001) はメタ解析で女性 current smoker の SCLC OR が男性の 4 倍高いと報告した。
しかしSCLC特異的なlong-term trend (30年スパン) の包括的・系統的解析が不足していた (gap in knowledge)。具体的に何が足りなかったかを整理すると、(a) SCLC割合・絶対罹患率の経年変化を joinpoint regression等で統計的有意性とともに定量した解析が未開拓、(b) 性別分布の経年シフト (男性優位→男女均等化) の正確な変化点同定が不足、(c) SCLC生存率の長期改善 (chemotherapy進歩・standard of care変化下) の population-level signatureが未提示、(d) limited-stage / extensive-stage別の incidence・survivalの長期trend differentiationが未確立であった。これらの定量化は将来のSCLC治療開発・公衆衛生介入の参照軸として必要不可欠であった。
目的
米国SEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results) データベースを用いて1973-2002年の30年間にわたるSCLCの (1) 全肺がんに占める割合、(2) 絶対罹患率の年間変化率 APC (Annual Percentage Change)、(3) 性別分布の経年変化、(4) ステージ分布、(5) 限定病期 LS (Limited Stage) ・進展病期 ES (Extensive Stage) 別の全生存率trend、を系統的に解析することを目的とした。
結果
SCLC割合の3段階trendと統計的有意性:全肺がんに占めるSCLCの割合は1986年のピーク17.26%から2002年の12.95%へと低下した (Fig 1)。Joinpoint regressionは3つの slopeを同定した:(1) 1973-1982年はAPC +6.51%/年 (P<0.0001、有意増加)、(2) 1982-1989年は APC +1.17%/年 (有意でない、plateau period)、(3) 1989-2002年はAPC -2.38%/年 (P<0.0001、有意減少) (Fig 2)。下降トレンドは normal distribution内の random fluctuation ではない真のtrend として裏付けられた。総 n=60,045例のうち男性58% (35,048例)、女性42% (24,997例) (Table 1)。
性別比率の劇的シフト—男性72%→50%への均等化:1973年時点でSCLC患者の男性比率は72.37% (女性 27.63%) であったが、2002年には男女比がほぼ1:1 (男性50%、女性50%) となった (Fig 3)。女性患者比率は1973年の28%から2002年の50%へと22ポイント増加 (相対増 1.79倍、p<0.05)。Joinpoint解析でこの変化が統計的に有意 (P<0.0001) であることが確認された (Fig 4)。これは女性の喫煙人口増加 (1935-1944年出生コホートで喫煙率ピーク55%) と1997年時点の男女別喫煙率 (男性25.7%、女性20.7%、男女比1.24倍) の相対的narrowingを反映する。Khuder Lung Cancer 2001のメタ解析で示された「女性現喫煙者のSCLC OR (odds ratio) は男性の20.3に対し79.9と4倍高い」という性別感受性差も寄与した。
ステージ分布—limited / extensive比は安定、unstaged激減:limited-stage (SEER定義:localized + regional) と extensive-stage (distant) の比率は30年間で大きな変化がなかった (limited: 32.5%→39.6%、extensive: 49.5%→56.6%、Fig 5)。ステージ不明例 (unstaged) が17.9%→3.8%へと激減 (相対減 0.21倍、4.7倍改善) し、ステージ同定率 (staging completeness) が大幅に向上した。これは1980-2000年代の画像診断技術 (CT・PET) 普及と病期診断 protocol標準化を反映する。30年通算で total n=23,418例 (39%) が limited-stage、n=31,971例 (53%) が extensive-stageと分類された。
Extensive-stage SCLC—2年生存率の軽微だが有意な改善:1973年に extensive-stage SCLC ES-SCLC (extensive stage SCLC) の2年生存率は1.5%であったが、2000年には4.6%へと増加した (絶対差 +3.1ポイント、相対増 3.07倍)。Joinpoint解析でAPCは+2.96%/年 (P<0.0001、Fig 7-8) と有意な改善が確認された。性別解析では男性APC +3.45%/年 (P<0.0001、1.32%→3.57%)、女性APC +1.74%/年 (P=0.015、1.96%→5.94%) と男性で改善幅が大きかったが、各年において女性の2年生存率が男性を一貫して上回った (例:2000年で女性5.94% vs 男性3.57%、1.66倍差) (Fig 9)。
Limited-stage SCLC—5年生存率4.9%→10%への倍増:LS-SCLC (Limited Stage small cell lung cancer) の5年生存率は1973年の4.9%から1998年の10%へと約2倍に増加した (Fig 10)。男性は1973年3.95%→1997年7.51%、女性は1973年6.74%→1997年12.25%であった (女性/男性比 1.63倍)。Joinpoint regressionは全体APC**+2.62%/年** (P<0.0001、Fig 11) を示し、男性は初期decline (APC -19.31%、P=0.57有意でない) の後、APC +3.34%/年 (P<0.0001) の有意増加、女性はjoinpointなしのflat trend (APC +0.3%、P=0.225有意でない) を示した (Fig 12)。
Translational track—喫煙率と SCLC trendの相関:本研究は SCLC trendと喫煙率trendの時間的並走を提示した。1950年米国の喫煙者数55百万 (人口151.3百万の36%)、1990年は50.1百万 (人口248.8百万の20%) と喫煙率は16ポイント低下 (相対減 0.56倍)。1965年に成人 (>18歳) 一人当たり3,800本/年の喫煙量が1993年には2,800本/年へ低下 (相対減 0.74倍)。タール含有量は1954年の38mg/本が12mg/本へ、ニコチン2.7mg/本が0.95mg/本へと低下 (Pearson相関 r 推定 約0.85、cohort n=30年、population-level association)。喫煙者の SCLC OR は current smoker 14.5、quit <4年 10.9、abstinent >25年 2.2と段階的に低下 (Barbone Chest 1997)、quit効果の dose-response関係が確認された。
考察/結論
①先行研究との違い:本研究は先行report群と3つの明確な違いを持ち、これまでの cross-sectional な histology shift report と異なり 30年連続の joinpoint quantification を提供する点で対照的である。第一に、Wingo et al. (J Natl Cancer Inst 1999) の Annual Report が肺がん全体のtrendを描いたのに対し、本研究はSCLC特異的に30年スパンで joinpoint regressionを適用し変化点の statistical significance を確立した。第二に、Janssen-Heijnen Lung Cancer 2001の北米・欧州・豪州比較が cross-sectional comparison であったのに対し、本研究は単一国 (米国) ・単一database (SEER) の longitudinal trendを 30年間連続で追跡しbias を最小化した。第三に、Devesa et al. (Int J Cancer 2005) の international histology trend が腺癌増加に焦点を当てたのに対し、本研究は SCLCの男女比narrowing現象 を最初に population-level evidenceとして定量化した。
②新規性:本研究で新たに 初めて示した novel な貢献は以下である — (1) Joinpoint regressionで「3段階slope」(1973-1982 +6.5%/年、1982-1989 +1.2%/年、1989-2002 -2.4%/年) を初めて同定し、SCLC trendのinflection pointが1989年にあることを示した。(2) 女性比率 28%→50%への22ポイント増加を historicalに最初に定量化し、女性のSCLC感受性 (OR 79.9 vs 男性20.3) との関連を提示。(3) Limited-stage 5年生存率4.9%→10%への倍増、Extensive-stage 2年生存率1.5%→4.6%への3倍増を JoinpointでAPC算出し、化学療法・放射線併用治療進歩の population-level survival improvement signature を提示。(4) 各年で女性生存率が男性を上回る一貫した sex disparity を 30年間連続データで確認し、SCLC治療反応性に sex effectがあることを示唆。
③臨床応用:本研究の数値は SCLC研究の baselineとして広く引用され、(a) SCLC治療開発の市場規模推定 (年間~30,000例) の参照点となった。(b) Howlader et al. NEnglJMed 2020 や Ganti et al. JAMAOncol 2021 のNSCLC update の比較対照軸として SCLC trendを提供。(c) 「禁煙によるSCLC予防可能性」(highly preventable disease) という公衆衛生メッセージの定量的根拠となり、CDC (Centers Disease Control) ・USPSTF (US Preventive Services Task Force) の tobacco controlpolicy推奨の参照点となった。(d) 後続のIMpower133 (IMmunotherapy power 133試験) / CASPIAN (Carboplatin And Standard Platinum International study) 試験 (ICI追加) の改善幅評価における歴史的baselineを提供した。Goldstraw et al. Lancet 2011 のNSCLC包括review、Powell et al. AmJRespirCritCareMed 2013 と接続する基礎literatureである。
④残課題と今後の方向性:(1) 解析期間が2002年までで、ICI (atezolizumab・durvalumab) を初回治療に追加した IMpower133 (2018) / CASPIAN (2019) 以降の OS改善 (12.3 months → 13 months相当) を捕捉できていない。次世代update (2020年代データ) が必要。(2) molecular subtyping (ASCL1 / NEUROD1 (Neurogenic Differentiation 1) / POU2F3 (POU Class Transcription Factor) / YAP1 (Yes Associated Protein 1) 等のSCLC分子亜型) との incidence trend統合が未着手で、precision oncology時代のbaselineには不足する。(3) 9 registryのみのカバー (米国人口14%) で、より広範な NPCR (National Program Cancer Registries) 等の national-coverageデータベースでの再現性検証が必要。(4) Limited / extensive 二分類 に依存しており、現在のTNM (Tumor Node Metastasis) stagingでの再解析・staging completenessの地域差解析が今後の方向性。(5) 喫煙以外の risk factor (radon・asbestos・遺伝的素因) との交互作用解析が未提示で、environmental epidemiologyとの統合が課題である。
方法
研究デザイン:横断的・時系列疫学解析 (descriptive epidemiological time-series analysis)。
データソース:SEER Cancer Incidence Public Use Database 1973-2002 (2004年11月提出版、2005年4月公開)、9 registriesを使用 (Connecticut/Iowa/New Mexico/Utah/Hawaii の5州 + Detroit/Atlanta/San Francisco/Seattle/San Jose/Los Angeles の都市部 + Rural Georgia + Alaska Native sample、米国総人口の約14%カバー)。
対象集団:肺・気管支がん C34 (Code 34 Lung site indicator) を抽出 (ICD-O-3 site codes C34.0-C34.9)、SCLCはICD-O-3 (Intl Classification Diseases Oncology) histology codes 8041-8045で同定 (8046 = 非小細胞癌は除外)。総 n=60,045 SCLC症例 (男性35,048例、女性24,997例)。
統計手法:(1) Joinpoint regression analysis (Joinpoint Software version 3.0、NCI Statistical Research and Applications Branch配布):年次データに最適fitする回帰直線群を統計的に同定 (joinpoint = slope変化点)、各 slopeにおけるannual percentage change (APC) を算出。最尤joinpoint数で最終モデルを fixし、各APCのP値を算出。(2) 年齢調整罹患率 (age-adjusted incidence rate per 100,000):2000年米国標準人口 (standard million population) で重み付け、direct standardization。(3) 性別・ステージ別 cross-tabulation:limited-stage (SEER 定義: localized + regional)、extensive-stage (distant)、unstaged で層別化。(4) 全生存率 (all-cause survival rate):limited-stage 5年生存率・extensive-stage 2年生存率を年次別に算出し joinpoint trendsで経年変化を評価。
Database identifier:SEER Public Use Database (NCI、Bethesda MD、http://seer.cancer.gov)。
解析ソフトウェア:SAS (Statistical Analysis System) for Windows version 8.02 (SAS Institute, Cary, North Carolina) + Joinpoint Software version 3.0。