- 著者: Asmis TR, Ding K, Seymour L, Shepherd FA, Leighl NB, Winton TL, Whitehead M, Spaans JN, Graham BC, Goss GD
- Corresponding author: Glenwood D. Goss, MD (Medical Oncology, The Ottawa Hospital Regional Cancer Centre, University of Ottawa, Ottawa, ON, Canada)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2008
- Epub日: 2008-01-01
- Article種別: Original Article (NCIC CTG 2 試験 prospective RCT の retrospective pooled analysis)
- PMID: 18165640
背景
NSCLC は高齢者に多く発生する疾患で、診断時に 60 歳以上が約 60%、70 歳以上が 30-40% を占め、先進国での中央値診断年齢は 68 歳に達する。化学療法が BSC (best supportive care) 単独に対して生存を改善することは、52 試験の個別患者データを統合した Non-small Cell Lung Cancer Collaborative Group 1995 BMJ (British Medical Journal) meta-analysis を含む複数の大規模解析で確立されている。高齢者に焦点を当てた専用試験でも同様の結果が得られており、MILES study (Gridelli et al., JNCI 2003) や Italian ELVIS trial (1999 JNCI) は、適切な PS (performance status) を有する高齢患者が若年患者と同等の効果と許容できる毒性を示すことを示した。
しかし実臨床では、高齢患者が臨床試験から除外され治療を拒否される事例が後を絶たない。Hutchins et al. (1999, NEJM) は 65 歳以上の患者が癌治療試験に占める割合が実際の患者構成より著しく低いことを定量的に示した。この問題の根底には、「高齢 = 化学療法不耐」という根拠が曖昧な前提がある。重要なのは、暦年齢そのものと、加齢に伴う併存疾患 (comorbidity) の蓄積は別概念であるという点だ。CCI (Charlson comorbidity index; Charlson 1987 JChronicDis) は 19 の comorbid 疾患カテゴリを全死亡率への寄与度で加重集計した validated スケールであり、NSCLC 外科切除 cohort での妥当性も確認されていた (Birim et al., EurJCardiothoracSurg 2003)。それにもかかわらず、prospective NSCLC 化学療法 RCT (randomized controlled trial) の large cohort に CCI を適用して年齢と comorbidity を独立変数として分離評価した研究は手薄であった。Extermann et al. (1998, JClinOncol) が「comorbidity と functional status は高齢がん患者において独立した因子」と示唆していたが、この仮説を RCT の統制 cohort で検証するgap in knowledgeが残されており、「暦年齢が独立予後因子か、それとも CCI が実態を規定するのか」を切り分けるエビデンスが不足していた。
目的
NCIC CTG (National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group) が実施した 2 つの大規模 RCT の統合 cohort において、(1) 暦年齢 (< 65 vs ≥ 65 歳) および CCIS (CCI score; 0 vs 1 vs ≥ 2) が OS の独立予後因子として機能するか否か、(2) 両者が化学療法の delivery (投与量・dose intensity)、Grade 3-5 AE (adverse event; 有害事象)、および objective response に与える影響を、retrospective pooled analysis として定量的に評価する。
結果
患者特性: 高齢と comorbidity は相関しつつも独立した分布を示す: 解析対象 n=1,255 のうち、JBR.10 から 481 例 (38%)、BR18 から 774 例 (62%) が組み込まれた。全体の median age は 61 歳 (range 34-89) で、高齢 (≥ 65 歳) は 428 例 (34%)。CCIS 内訳は CCI = 0 が 864 例 (69%)、CCI = 1 が 310 例 (25%)、CCI ≥ 2 が 81 例 (6%) であった (Table 1)。高齢患者は若年患者と比べ CCI ≥ 1 を有する割合が有意に高く (42% vs 26%、P < 0.0001)、PS ≥ 1 の比率 (P = 0.007)、squamous histology (34% vs 26%、P = 0.005)、診断から無作為割付まで ≥ 6 ヶ月の割合 (13% vs 5%、P < 0.0001) でも差があった。CCI ≥ 1 は男性に多く (35% vs 21%、P < 0.0001)、non-adenocarcinoma histology とも関連した (P = 0.001)。高齢と comorbidity が correlate しながらも overlap しない部分を持つこの分布が、両者を独立変数として評価する必要性を示す。
化学療法投与量: 高齢者は全 cytotoxic 薬で有意減量、comorbidity は一部薬剤のみ: 高齢患者 (≥ 65 歳) は若年患者と比べて全 cytotoxic 薬で median total dose が低かった。paclitaxel 1,410.5 mg vs 1,680 mg (P = 0.001)、carboplatin 2,285 mg vs 3,283 mg (P < 0.0001)、cisplatin 326 mg vs 610.5 mg (P < 0.0001)、vinorelbine 248.5 mg vs 418.1 mg (P < 0.0001) と、全薬剤で統計的有意な差があった (Table 2)。一方 BMS-275291/placebo では両群間に有意差はなかった (76,200 vs 99,600 mg、P = 0.19)。CCI ≥ 1 患者でも paclitaxel (1,410 mg vs 1,680 mg、P = 0.04) と carboplatin (2,512 mg vs 3,060 mg、P = 0.02) では有意な減量が確認されたが、cisplatin と vinorelbine は非有意であった (Table 3)。高齢による dose modification の pattern はより広範囲かつ大幅であり、comorbidity による影響とは異なる特性を持つ。
毒性プロファイル: 年齢と comorbidity が独立した Grade 3+ AE 特性を規定: 単変量解析において、年齢 ≥ 65 歳は Grade 3+ GI (gastrointestinal; 消化器) 毒性 (P = 0.03)、神経学的症状 (P < 0.001)、fatigue (P = 0.01) と有意に関連した (Table 4)。これとは独立して、CCI ≥ 1 は GI 毒性 (P = 0.02)、感染症 (P = 0.03)、皮疹 (P = 0.01)、悪心 (P = 0.01) と関連したが、神経学的症状・fatigue との関連は認めなかった。GI 毒性以外では両者の毒性 profile が重ならず、年齢と comorbidity が異なる mechanistic pathway を介して Grade 3+ AE を惹起していることを示す。Cardiovascular events は年齢 (P = 0.09) および comorbidity (P = 0.06) の両方で borderline の傾向を示したが、統計的有意性には至らなかった。
Objective response (BR18 のみ): 年齢・comorbidity ともに反応性に無関係: 年齢・comorbidity はいずれも BR18 における objective response と有意に関連しなかった。多変量解析で response と独立して関連した因子は PS 0/1 (P = 0.01)、squamous histology (P < 0.001)、Stage III at diagnosis (P = 0.002)、serum albumin > 35 g/L (P = 0.02) であった。この結果は、年齢と comorbidity が腫瘍の drug sensitivity そのものを変えるわけではなく、治療 delivery および tolerability の側面を主に規定することを示唆する。
生存: 年齢は OS と無関係、CCIS = 1 のみが独立予後不良因子: 単変量解析で年齢 ≥ 65 歳の OS に対する HR は 1.03 (95% CI 0.89-1.19、P = 0.72、Fig 1)、多変量 Cox regression (治療割付・disease stage 層別化) でも HR 0.97 (95% CI 0.84-1.13、P = 0.72) と非予後因子であった (Table 5)。対照的に CCIS = 1 vs 0 の HR は単変量で 1.28 (95% CI 1.09-1.50、P = 0.003、Fig 2)、多変量でも 1.21 (95% CI 1.02-1.42、P = 0.03) と有意性を保ち、独立した予後不良因子として確認された。CCIS ≥ 2 vs 0 の HR は 1.09 (95% CI 0.83-1.44、P = 0.52) と非有意であったが、n=81 と少数例のため power 不足が指摘される。その他の独立予後不良因子 (多変量) は PS 2 vs 0 (HR 2.24、95% CI 1.70-2.95、P < 0.0001)、PS 1 vs 0 (HR 1.25、95% CI 1.06-1.46、P = 0.006)、男性 (HR 1.27、95% CI 1.08-1.49、P = 0.004)、Hb < 120 g/L (HR 1.30、95% CI 1.08-1.56、P = 0.006)、alkaline phosphatase 上昇 (HR 1.25、95% CI 1.06-1.48、P = 0.007) であった。PFS・DSS では age・CCIS いずれも独立予後因子に到達せず、DSS は CCIS ≥ 1 で P = 0.06 の trend にとどまった。
考察/結論
これまでの研究との違い: Colinet 2005 BrJCancer の研究は simplified comorbidity score を用いた解析で年齢が予後因子と報告したが、本解析の結果と異なり、そこでは Charlson comorbidity index という最も広く検証されたスケールは使用されておらず cohort 規模も限られていた。既報の高齢 NSCLC 専用試験 — MILES study や Italian ELVIS trial — は設計上若年患者との直接比較が困難であったのに対照的に、本研究は若年・高齢が混在する 1,255 例の cohort で両因子を multivariate に分離した点が根本的に相違する。これまでの研究が暦年齢を proxy として comorbidity 効果を混同してきた問題に対し、本解析は大規模 RCT の prospective データを用いて両者を切り分けることで、Extermann 1998 JClinOncol が提唱した「comorbidity と functional status は高齢がん患者で独立」という仮説を、RCT の controlled cohort で初めて実証した。
新規な知見: 本研究の新規な貢献は 3 点に整理できる。第一に、補助化学療法 (JBR.10) と進行 NSCLC (BR18) という設定が異なる 2 大規模 RCT を統合することで、広範な患者層での一般化可能性を高めた点。第二に、年齢と CCI がそれぞれ独立した毒性 signature を持つこと (年齢: 神経毒性 + fatigue;CCI: 感染症 + 皮疹 + 悪心) を大規模 RCT cohort で本研究で初めて定量化した点。第三に、高齢患者が有意に低い chemotherapy dose intensity を受けながら OS は若年患者と等価であるという観察は、NSCLC における白金製剤の dose-response 効果が限定的であることを示す傍証であり (Winton et al. NEnglJMed 2005 JBR.10 高齢者 subset 解析とも consistent)、これまで報告されていない観点からの裏付けとなる。男性で CCI ≥ 1 が有意に多い (35% vs 21%) という知見も、NSCLC における male 予後不良の一因として comorbidity が寄与する可能性を示すnovelな観察である。
臨床応用: 本研究の最も直接的な臨床的意義は、「暦年齢のみを根拠とした治療拒否は推奨されない」という明確な提言にある。臨床現場における実践として、≥ 65 歳患者であっても CCI = 0 であれば fit-elderly として標準的な platinum doublet 化学療法の対象とすること、CCI ≥ 1 では reduced-intensity 治療や single-agent regimen への移行を検討すべき根拠を定量的に与えた。PS だけでなく comorbidity 評価を治療選択基準に組み込む流れを支持し、この臨床応用のエビデンスが後続の SIOG (International Society of Geriatric Oncology) geriatric assessment ガイドラインにおける comorbidity 重視方向性の礎となった。臨床試験設計への含意として、臨床的含意として eligibility criterion から年齢単独での除外基準を削除し CCI を用いた screening を採用することが推奨され、この知見は clinical trial の retrospective 解析から real-world の診療決定へと還元される橋渡し型エビデンスの典型例である。
残された課題と今後の方向性: 本研究のlimitationとして、JBR.10・BR18 ともに PS 低値や重篤な comorbid 疾患を持つ患者が eligibility 基準で除外されており、解析 cohort の median age (61 歳) が real-world NSCLC 患者の中央値 (68 歳) より若く、より高齢・comorbidity 重症の患者群への generalizability は限られる。CCIS ≥ 2 の subgroup が n=81 にとどまったことも残された課題であり、重度 comorbidity の予後寄与を十分に評価できていない。CCI ががん患者専用に設計されたスケールでない点も制約の一つで、oncology 特化型 comorbidity scale の開発が必要とされる (Extermann 2000 EurJCancer)。今後の研究の方向として、本解析は retrospective であるため、CCI・年齢・functional status を統合した個別化治療戦略の有効性を前向きに検証する試験が求められる。現代の免疫療法 (PD-1/PD-L1 checkpoint inhibitor を含む) 時代における高齢 + comorbidity プロファイルの予後・毒性への影響を評価した前向き研究も不足しており (Winton et al. NEnglJMed 2005 が確立した adjuvant 設定との比較を含め)、更なる検討が期待される。高齢者で化学療法 dose reduction が顕著でも OS が等価となるメカニズム — 加齢に伴う drug clearance 低下による実効 exposure 維持の可能性 — も今後の展望として重要な研究課題となる。
方法
対象試験と cohort: JBR.10 試験 (NCIC CTG JBR.10、NCT00002583、Winton et al. NEnglJMed 2005) は Stage IB/II 完全切除後 NSCLC 482 例を、vinorelbine + cisplatin 補助化学療法 × 4 サイクル (n=242) vs 観察 (n=240) に 1:1 無作為割付した試験。BR18 (NCIC CTG first-line NSCLC phase II/III randomized trial、NCT00046514; Leighl 2005 JClinOncol) は進行 NSCLC 774 例を、paclitaxel + carboplatin + BMS-275291 (MMPI (matrix metalloproteinase inhibitor)、oral、n=388) vs placebo (n=386) に割付し、化学療法最大 8 サイクル後は oral MMPI または placebo を進行・不忍容まで継続した Phase II/III 試験。両試験合計 1,256 例から baseline データ欠損 1 例を除いた n=1,255 を解析対象とした。
Comorbidity 評価: 各患者の baseline 医学的状態と内服薬を CCI でスコアリングし、CCIS を 0・1・≥ 2 の 3 群に分類した。毒性評価: NCI-CTC (National Cancer Institute Common Toxicity Criteria) Expanded version (JBR.10) および version 2.0 (BR18) でグレーディングし、因果関係を問わず全 AE を解析対象とした。Objective response は BR18 のみ RECIST guidelines で判定した。Endpoints: OS は randomization から死亡まで (生存例は最終生存確認日で censoring)、PFS (progression-free survival) は randomization から進行または死亡まで、DSS (disease-specific survival) は肺がん死または治療合併症死のみを event とした。
統計手法: Cochran-Mantel-Haenszel カイ二乗検定で categorical 変数間の association を評価した。Kaplan-Meier 法で生存時間分布を推定し、Cox 比例ハザード回帰 (治療割付・disease stage で層別化) で age・CCIS・その他 baseline 因子の prognostic 効果を univariate および multivariate の両方で評価した。Response と toxicity に対する age・CCIS の影響は logistic 回帰で他の予後因子を調整して評価した。全解析は SAS version 8.1 で実施し、P 値は両側検定とした。