• 著者: Winton T, Livingston R, Johnson D, Rigas J, Johnston M, Butts C, Cormier Y, Goss G, Inculet R, Vallieres E, Fry W, Bethune D, Ayoub J, Ding K, Seymour L, Graham B, Tsao MS, Gandara D, Kesler K, Demmy T, Shepherd F, National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group, National Cancer Institute of the United States Intergroup JBR.10 Trial Investigators
  • Corresponding author: Timothy Winton, MD (University of Alberta Hospital, Edmonton, AB, Canada)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2005
  • Epub日: 2005-06-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 15972865

背景

肺癌は北米におけるがん死亡の主要な原因であり、早期非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する外科的完全切除は唯一の根治的治療法である。しかし、完全切除後であっても、Stage IBおよびIIの患者の5年生存率は30%から60%に留まることが報告されている。再発は主に胸腔外の遠隔転移として生じるため、微小転移を制御するための全身性治療の必要性が理論的に示唆されていた。しかし、本研究が開始された当時、術後補助化学療法の有効性は確立されておらず、無治療観察が標準的な治療方針であった。

1995年に発表されたBritish Medical Research Councilによるシスプラチンベースの化学療法に関するメタアナリシスでは、死亡リスクの13%低減と5年全生存期間 (OS) の5%絶対改善が示唆されたが、統計的有意差には達していなかった (p=0.08) NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995。その後、2004年に発表された大規模な国際共同試験であるIALT (International Adjuvant Lung Cancer Trial) では、シスプラチンとビンカアルカロイドまたはエトポシドの併用療法が、5年OSを4.1%有意に改善すること (ハザード比 [HR] 0.86, p<0.03) が初めて示された Arriagada et al. NEnglJMed 2004。しかし、この利益は比較的小さく、治療に伴う毒性に見合うかという疑問が残り、臨床現場での標準治療としての採用には至っていなかった。他の同時期の試験、例えばECOG (Eastern Cooperative Oncology Group)、ALPI (Adjuvant Lung Project Italy)、Big Lung Trialなどは、補助化学療法の有効性を示すことができなかったため、術後補助化学療法の臨床的意義については依然として課題が残されていた

一方、ビノレルビンは第3世代のプラチナ系ダブレット化学療法として、進行NSCLCにおいてシスプラチンとの併用で高い有効性を示し、以前のレジメンと比較して有意に優れた奏効率とOSを実証していた Kelly et al. JClinOncol 2001。また、オンダンセトロンなどの制吐剤の進歩により、シスプラチン誘発性の悪心・嘔吐の管理が改善され、外来での安全な化学療法投与が可能となっていた。これらの背景から、術後補助療法としてのビノレルビンとシスプラチン併用療法の有効性を検証する目的で、JBR.10試験がNational Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group (NCIC CTG) とNational Cancer Institute of the United States (NCI US) のインターグループ共同で開始された。本試験は、完全切除された早期NSCLC患者におけるこのレジメンの有効性と安全性を評価することを目的とした。特に、IALT試験の結果が発表された直後であり、その利益の小ささから補助化学療法の臨床的意義が疑問視されていた中で、より効果的な補助化学療法の確立が不足している状況であった。

目的

本研究の主要な目的は、完全切除されたStage IB (T2N0) またはStage II (T1N1またはT2N1) の非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、術後補助化学療法としてビノレルビン (25mg/m² 週1回、16週間) とシスプラチン (50mg/m² day1,8、4週ごと、4サイクル) の併用療法が、無治療観察と比較して主要エンドポイントである全生存期間 (OS) を改善するかを検証することであった。副次エンドポイントとしては、無再発生存期間 (RFS) の改善、および当該レジメンの安全性と毒性の評価が含まれた。また、患者のパフォーマンスステータス、組織型、およびras遺伝子変異の状態などの予後因子が治療効果に与える影響についても探索的に評価することを目的とした。本試験は、術後補助化学療法の有効性に関する既存の未確立なエビデンスを補完し、早期NSCLC患者の標準治療を確立することを意図した。

結果

全生存期間 (OS) の改善: 化学療法群は観察群と比較して、全生存期間 (OS) を有意に延長した。中央値OSは化学療法群で94ヶ月 (95% CI 73ヶ月〜未到達) であったのに対し、観察群では73ヶ月 (95% CI 48ヶ月〜未到達) であった。死亡のハザード比 (HR) は0.69 (95% CI 0.52-0.91, p=0.04) であり、2回の中間解析補正後も統計的に有意な差が認められた。これは死亡リスクの31%低減に相当する。5年OS率は化学療法群で69% (95% CI 62-75%)、観察群で54% (95% CI 48-61%) であり、絶対差は15%ポイントであった (p=0.03)。データロック時までに合計197名の死亡が確認され、観察群で111名、化学療法群で86名であった。死因の82%は肺癌の再発によるものであった。多変量解析では、化学療法 (HR 0.67, p=0.006) と扁平上皮組織型 (p=0.005) が有意な生存改善因子として同定された。これらの結果はFigure 1Bに示されている。

無再発生存期間 (RFS) の改善: 無再発生存期間 (RFS) も化学療法群で有意に延長された。再発または死亡のハザード比 (HR) は0.60 (95% CI 0.45-0.79, p<0.001) であり、再発または死亡のリスクが40%低減されたことを示す。観察群の中央値RFSは46.7ヶ月であったのに対し、化学療法群ではデータロック時までに中央値に到達しなかった。5年RFS率は化学療法群で61% (95% CI 54-68%)、観察群で49% (95% CI 42-55%) であった (p=0.08)。再発は化学療法群の36.0% (87/242例) で認められたのに対し、観察群では49.6% (119/240例) であった (p=0.003)。多変量解析においても、化学療法 (p<0.001) と扁平上皮組織型 (p=0.002) のみが有意なRFS改善因子であった。RFSのKaplan-Meier曲線はFigure 1Aに示されている。

サブグループ解析におけるStage別効果: サブグループ解析では、Stage IB (N0、n=約216例) の患者において、化学療法群と観察群の間でOSの有意な改善は認められなかった (補正後p=0.79)。これはFigure 1Cに示されている。しかし、Stage II (N1、n=約266例) の患者では、化学療法群の中央値OSが80ヶ月であったのに対し、観察群では41ヶ月であり、顕著な利益が示された (HR 0.59, 95% CI 0.42-0.85, p=0.004)。この結果はFigure 1Dに示されている。ただし、治療と病期との交互作用検定は有意ではなかった (p=0.13) ため、このサブグループ解析の結果の解釈には注意が必要である。

Ras変異状態と治療効果: Ras変異状態が判明している450名の患者 (93%) の解析では、野生型rasを有する患者において、観察群の中央値OSが74ヶ月であったのに対し、化学療法群では中央値に到達せず、有意な生存利益が認められた (HR 0.69, 95% CI 0.49-0.98, p=0.03)。対照的に、ras変異を有する患者群では、化学療法による生存利益は認められなかった (HR 0.95, 95% CI 0.53-1.71, p=0.87)。しかし、交互作用解析ではras変異状態が治療結果に与える影響は統計的に有意ではなかった (p=0.29) ため、この観察は探索的なものに留まる。

化学療法の投与コンプライアンスと毒性: 化学療法群の231名 (95.5%) が少なくとも1回の投与を受けた。11名 (4.5%) は治療を受けなかった (拒否9名、不適格1名、誤割付1名)。中央値で3サイクルが投与され、4サイクル全てを完遂したのは45%の患者であった (Table 2)。77%の患者で少なくとも1回の用量減量または省略が必要となり、55%の患者で1回以上の投与延期が必要であった。これは主にday 15のビノレルビン投与時の好中球減少に関連していた。G-CSFは15%の患者に投与された。 最も一般的な重篤な毒性は好中球減少であり、Grade 3または4の好中球減少が73%の患者に認められた。Grade 3または4の発熱性好中球減少は7%であった。Grade 3または4の貧血は7%、血小板減少は1%であった。非血液毒性では、疲労 (81%)、悪心 (80%)、食欲不振 (55%)、嘔吐 (48%)、神経障害 (48%)、便秘 (47%) が高頻度で報告されたが、Grade 3または4の非血液毒性はいずれも10%未満と比較的軽微であった (Table 3)。治療関連死は2例 (0.8%) であった。1例は化学療法中の発熱性好中球減少に続発する敗血症、もう1例は化学療法開始6ヶ月後に間質性肺疾患によるものであった。

考察/結論

先行研究との違い: JBR.10試験で示された5年OSの絶対差15%ポイント (HR 0.69) は、Arriagada et al. NEnglJMed 2004で報告された4.1% (HR 0.86) を大幅に上回る結果であった。この差異にはいくつかの要因が考えられる。IALT試験が第1・2世代のレジメンを用いたのに対し、JBR.10は進行NSCLCで優越性が確立されていた第3世代薬剤であるビノレルビンを採用した点が異なる。また、IALT試験やALPI試験ではそれぞれ31%および43%の患者が術後放射線療法を受けており、PORTメタアナリシスで示された術後放射線療法の生存に対する悪影響が、化学療法の利益を相殺した可能性が考えられる。さらに、JBR.10試験はStage IとIIに限定された患者集団を対象としたことで、高リスクのStage IIIA患者やパフォーマンスステータス不良例の希釈効果を排除できた可能性がある。

新規性: 本研究は、第3世代のプラチナ系ダブレット化学療法であるビノレルビンとシスプラチンの併用が、完全切除された早期NSCLC患者のOSとRFSを大幅に改善することを、北米のインターグループ試験として初めて大規模に実証した。これにより、術後補助化学療法が無治療観察よりも優れているという、当時の臨床現場における未確立な状況に対し、確固たるエビデンスを提供した点で新規性が高い。特に、IALT試験の結果が発表された直後であり、その利益の小ささから補助化学療法の臨床的意義が疑問視されていた中で、JBR.10試験はより大きな利益を示し、その後の補助化学療法の標準化に大きく貢献した。

臨床応用: JBR.10試験の結果は、Arriagada et al. NEnglJMed 2004およびANITA試験 (Douillard et al. 2006) とともにLACE (Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation) メタアナリシス (Pignon et al. 2008) に統合され、「完全切除Stage IB-IIIA NSCLCに対するシスプラチンダブレット補助療法は5年OSを5.4%改善する」という現代の標準治療の確固たるエビデンス基盤を形成した。この結果を受けて、NCCNガイドラインをはじめとする各国の臨床ガイドラインにおいて、Stage II以上の完全切除NSCLC患者に対する術後補助化学療法が標準治療として推奨されるに至った。本知見は、早期NSCLC患者の予後改善に直結する臨床的意義を持つ。

残された課題: 本試験におけるGrade 3〜4の好中球減少は73%と高率であったが、発熱性好中球減少は7%、治療関連死は0.8%であり、毒性は許容範囲内と評価された。また、QOL解析では、化学療法中の機能・症状ドメインの低下は軽微であり、投与終了後3ヶ月以内に回復することが示された Alam et al. LungCancer 2005。しかし、4サイクル全てを完遂した患者が45%に留まり、77%の患者で用量減量または延期が必要であったことは、実臨床における患者管理の難しさを示しており、支持療法の充実がこのレジメンの成否に大きく影響する可能性がある。今後の検討課題として、Stage IB (特に腫瘍径4cm未満) の患者における術後補助療法の適応については、本試験のサブグループ解析では有意な利益が示されなかった (交互作用検定p=0.13) ため、さらなる検証が必要である。その後のメタアナリシスでは、Stage IB単独での利益は小さいとされている。また、ras変異状態と治療効果の相互作用は探索的な観察に留まり、その後の大規模試験での前向き検証が不足している。EGFR変異陽性例に対する術後分子標的薬の成功により、術後補助療法の戦略は変容しつつあるが、JBR.10が示したシスプラチンダブレットの術後補助効果は、変異陰性・Stage II以上例の標準治療の礎として現在も機能している。

方法

本研究は、1994年7月から2001年4月にかけて実施された第III相無作為化比較試験 (NCIC CTG JBR.10) である。本試験は、カナダで開始され、1998年に米国のCALGB (Cancer and Leukemia Group B)、SWOG (Southwest Oncology Group)、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) が加わった北米インターグループ共同試験として実施された。合計532名の患者が登録され、そのうち482名がビノレルビンとシスプラチン併用化学療法群 (n=242) または無治療観察群 (n=240) に1:1の割合で無作為に割り付けられた。無作為化されなかった50名の患者は、患者拒否 (36名)、術後死亡 (2名)、併存疾患 (4名)、パフォーマンスステータス低下 (2名)、転移 (2名)、または不適格 (4名) のためであった。無作為化された患者のうち41名 (8.5%) は、不完全な病期診断、Stage IIを超える進行病期、異常な検査値、または不完全な切除などの理由で適格基準を完全に満たしていなかった。

適格基準は、18歳以上の患者で、完全切除されたT2N0、T1N1、またはT2N1のNSCLCを有し、良好なベースライン特性とECOGパフォーマンスステータス0または1であった。術前のCTスキャンと、術中の縦隔リンパ節郭清または1.5cm以上のリンパ節生検が必須とされた。不完全な術前・術中病期診断、不完全な切除、楔状切除または区域切除、気管支角リンパ節 (station 10) またはより中心部の縦隔リンパ節への浸潤、混合組織型、T3腫瘍、びまん性葉状または多巣性細気管支肺胞癌、および過去5年以内に乳癌、腎細胞癌、悪性黒色腫、その他の癌の治療歴がある患者は除外された。

化学療法群の患者には、術後6週間以内に治療が開始された。レジメンは、シスプラチン50mg/m²をday 1とday 8に4週間ごとに4サイクル、およびビノレルビン25mg/m²を週1回16週間投与するものであった。当初のプロトコルではビノレルビンは30mg/m²であったが、血液毒性のため1995年8月に25mg/m²に減量された (18名の患者のみが30mg/m²の用量を受けた)。全ての患者はオンダンセトロンなどの制吐剤と、必要に応じてコルチコステロイドの投与を受けた。毒性に応じて化学療法はプロトコルガイドラインに従って調整された。

患者背景は両群間で主要な予後因子に関して均等に分布していた (Table 1)。全体として、年齢中央値は61歳 (範囲34〜82歳)、男性65%、腺癌53%、扁平上皮癌38%であった。病理学的病期はStage IBが45%、Stage IIが55%であり、N0が46%、N1が54%であった。Ras変異状態については、約24%の患者に変異が認められ、約69%が野生型であった。

追跡期間は、化学療法群で中央値5.1年 (1.5〜9.3年)、観察群で中央値5.3年 (0.4〜9.0年) であった。データロックは2004年4月に行われた。主要エンドポイントであるOSの統計解析には、2回の中間解析を補正するためのstage-wise ordering法が用いられた。副次エンドポイントであるRFSおよび毒性についても評価された。サブグループ解析およびras変異状態と治療効果の関連性についても探索的に検討された。Cox回帰モデルを用いて、OSおよびRFSにおける群間差を検定し、ノード状態およびras変異状態を層別因子として考慮した。本研究は、NCT00002871としてClinicalTrials.govに登録されている。