• 著者: Cuffe S, Booth CM, Peng Y, Darling GE, Li G, Kong W, Mackillop WJ, Shepherd FA
  • Corresponding author: Sinead Cuffe, MD, Department of Medical Oncology, Princess Margaret Hospital, 610 University Ave, Toronto, Ontario, Canada M5G 2M9
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-04-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22529258

背景

NSCLC は高齢者に最も多い悪性腫瘍の一つであり、診断時の中央年齢は約70歳である。加齢社会の進行とともに2030年までに65歳以上の肺癌患者が67%増加すると予測されており、高齢者における早期 NSCLC の適切な管理は喫緊の課題となっている。複数の無作為化第 III 相試験 (IALT、JBR.10、ANITA) および LACE (Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation) メタ解析によって、切除後 stage II-IIIA NSCLC に対するシスプラチン系術後補助化学療法 (ACT) が標準治療として確立されており、5年生存率の絶対改善は8.6-15%と報告されている (Arriagada et al. NEnglJMed 2004Pignon et al. JClinOncol 2008)。しかし、これらの試験における高齢者 (≥65歳) の割合は LACE メタ解析でもわずか9%、他の試験でも≤15%にとどまり、臨床試験での過少代表が問題として残されていた。

高齢者は多くの併存疾患と加齢性臓器機能低下を有するため、組み合わせ化学療法に対する忍容性が低下しやすく、臨床試験から伝統的に除外されることが多い。このため、高齢者集団における ACT 関連の毒性が試験データより高い可能性が指摘されてきた (Asmis et al. JClinOncol 2008)。さらに、高齢であることが内科腫瘍科への紹介を抑制する負の予測因子であることが示されており、補助化学療法が過少利用されている懸念があった。既存の観察研究の多くは単施設報告か、あるいは pivotal 試験の報告以前のデータであり、実臨床における ACT の採用状況と有効性に関する人口ベースのエビデンスが不足していた。Cancer Care Ontario および米国臨床腫瘍学会 (ASCO) のガイドラインでも、75歳以上での補助化学療法については十分な推奨を行うだけのエビデンスが手薄であることが明示されており、この gap in knowledge を埋めることが本研究の出発点となった。

目的

オンタリオ州全体の人口ベースデータを用いて、外科切除 NSCLC 患者における年齢層別の術後補助化学療法の採用状況・関連因子・化学療法の忍容性・および生存への影響を評価すること。

結果

コホート特性と高齢者の分布:最終解析対象6,304例のうち、2,763例 (43.8%) が高齢者 (≥70歳) であり、内訳は70-74歳1,317例、75-79歳980例、80歳以上466例であった (Table 1)。外科切除を受けた患者に占める高齢者の割合は2001-2003年の42.5%から2004-2006年には45.0%へ有意に増加しており (p=0.006)、オンタリオ州全体の NSCLC 患者における高齢者比率も1992-1995年の38.6%から2004-2006年の47.8%へ経年的に増加していた。高齢者は若年者 (70歳未満) に比べて男性比率が高く (54-57% vs 50%、p<0.001)、Charlson 併存疾患スコア≥1の割合が高く (≥1: 32-38% vs 23%)、術後入院日数の中央値が長く (70-74歳・75-79歳7日、80歳以上8日 vs 70歳未満6日、p<0.001)、地域がんセンターへの紹介率が低かった (80歳以上39% vs 70歳未満54%、p<0.001)。組織型では扁平上皮癌が高齢者で高頻度であり (35-39% vs 28%)、腺癌が若年者で多い傾向であった (p<0.001)。

術後補助化学療法の採用率と年齢別格差:高齢者 (≥70歳) における ACT 採用率は、2001-2003年の3.3%から2004-2006年の16.2%へ大幅に増加した。しかしこの時期の70歳未満の採用率42.7%と比較すると著しく低い水準にとどまった。2004-2006年の年齢別採用率は、70-74歳23.1% (n=694)、75-79歳13.3% (n=534)、80歳以上4.6% (n=282) と年齢上昇とともに急減した (p<0.001; Table 2)。多変量ロジスティック回帰では、地理的地域 (p<0.001)、病理学的病期 (p<0.001)、年齢 (70-74歳 OR 0.4 [95% CI 0.3-0.5]、75-79歳 OR 0.2 [95% CI 0.2-0.3]、80歳以上 OR 0.07 [95% CI 0.04-0.1] vs 70歳未満) が独立した予測因子として残存した。高齢者のみの多変量解析 (Table 3) では病期 II (OR 3.6、95% CI 2.1-6.3) および病期 III (OR 4.7、95% CI 2.5-8.9) で治療提供が多く、ガイドラインへの準拠が確認された。地域間の採用率格差は9.3%から28.4%と3倍以上に達し、地理的アクセスの不均衡が浮き彫りになった。

化学療法レジメンの選択と用量調整:地域がんセンターで ACT を受けた584例のうち、シスプラチン-ビノレルビンが全年齢層で最多使用レジメンであり (70歳未満72%、70-74歳65%、75-79歳67%、80歳以上71%; Table 4)、ガイドラインが支持する標準レジメンへの高い準拠率が示された。一方、カルボプラチンベースレジメン (特にカルボプラチン-パクリタキセル) の使用割合は加齢とともに有意に増加し、70歳未満7%から80歳以上29%へ上昇した (p=0.007)。全評価可能520例のうち29.6%が化学療法用量の調整を要したが、用量減量 (p=0.53) および投与省略 (p=0.48) の頻度は年齢群間で有意差を認めなかった。シスプラチンからカルボプラチンへの変更率 (p=0.22) も、その他の薬剤変更率 (p=0.63) も年齢によって有意に変わらなかった。これは実臨床において医師が個々の患者の忍容性を考慮してレジメンを適切に選択した結果と解釈された。

毒性の代替指標としての入院率:術後6-24週—ACT が実際に投与されるタイミング—の入院率は、70歳未満28.0%、70-74歳26.6%、75-79歳27.6%、80歳以上31.5%であり、年齢群間に有意差はなかった (p=0.54; Table 5)。これは高齢者でも化学療法の全身毒性が若年者と同等であることを示す重要な知見である。一方、術後6週以内の早期入院率は年齢依存的に増加し (70歳未満11.1%、70-74歳12.1%、75-79歳17.2%、80歳以上17.7%、p<0.001)、術後合併症が高齢者でより多いことが示唆された。時系列比較では、高齢者全体の術後6ヶ月内入院率は2001-2003年の40.0%から2004-2006年には38.3%へむしろ低下しており、ACT 採用の増加が重篤な有害事象の増加を招いていないことが人口レベルで確認された。なお LACE 高齢者解析や JBR.10 試験では年齢依存的な忍容性低下が示されていたが、本研究では対照的に差異が認められなかったことは特筆すべき所見である。

生存率の改善と年齢別効果:外科切除を受けた全患者の4年生存率は術前採用期52.5%から術後採用期56.1%へ有意に改善した (p=0.001)。高齢者 (≥70歳) の4年生存率も47.1% (2001-2003年) から49.9% (2004-2006年) へ有意に改善し、絶対差2.8%の向上が認められた (p=0.01)。年齢別の死亡 HR (術後採用期/術前採用期) は、70歳未満 HR 0.85 (95% CI 0.76-0.94)、70-74歳 HR 0.83 (95% CI 0.71-0.98)、75-79歳 HR 0.84 (95% CI 0.70-1.00) であった (Fig 1)。これらの改善は ACT 採用率がわずか16.2%という低水準の中で観察されたものであり、より多くの高齢者が治療を受ければ生存利益はさらに大きくなる可能性がある。対照的に、80歳以上では HR 1.00 (95% CI 0.77-1.3) と生存改善が認められなかった。

考察/結論

本研究はオンタリオ州全体の人口ベースコホートを用いて、実臨床における切除 NSCLC 高齢者への ACT 普及と転帰を系統的に評価した。これまでの研究と異なり、臨床試験への参加基準を満たさない多発性併存疾患を有する高齢者を含む一般集団を対象とした点に本研究の意義がある。また、時間コホート比較というデザインにより、selection bias を最小化しながら ACT 普及と転帰の関連を評価した点も特徴的である。

採用率の増加 (3.3%→16.2%) は JBR.10・LACE の報告を受けた臨床家の行動変容を反映しているが、依然として若年者 (42.7%) に大きく及ばない。新規の知見として、本研究では実臨床におけるシスプラチン-ビノレルビン使用の継続 (~70%) によるガイドライン準拠が確認された一方で、高齢患者ではカルボプラチン系への適応的切り替えが行われており、医師が個別患者の忍容性に応じた現実的な判断を行っていることが明らかになった。JBR.10 高齢者サブグループ解析では、65歳超での HR 0.61 (p=0.04) という有意な生存利益が示されている (Winton et al. NEnglJMed 2005)。本研究でも70-79歳での HR 0.83-0.84 という一貫した改善が実臨床で確認され、試験データの臨床的意義が裏付けられた。

化学療法の忍容性については、入院率という代替指標において高齢者と若年者の間に有意差がみられなかったことは、臨床現場においてレジメン選択の工夫 (カルボプラチン導入等) が毒性管理に寄与していることを示唆する。既報の後ろ向き試験サブグループ解析 (LACE、JBR.10) と対照的に、一般集団では忍容性が良好に維持されており、この差異は試験参加者と一般集団の特性の違いだけでなく、臨床医による個別化されたレジメン選択を反映していると考えられる。

一方で残された課題として、80歳以上では生存改善が認められず (HR 1.00)、この年齢層での ACT の適応については今後の検討が必要である。JBR.10 の75歳超サブグループ解析では HR 2.41 という懸念すべき結果も報告されており、超高齢者での ACT のリスク・ベネフィットバランスは慎重な評価が求められる。また、今後の研究として地域別の治療格差 (9.3%-28.4%) を解消するための介入策の検討、高齢者への積極的な内科腫瘍科紹介の促進、および患者拒否という観察不能な要因の解明も重要な課題である。本研究の limitation として、病理学的病期不明例が多く (67-81%)、肺癌特異的死亡率の評価が困難であった点、および観察研究であるため未知の交絡因子の影響を排除できない点が挙げられる。

総括すると、fit な高齢 NSCLC 患者を年齢のみを理由として補助化学療法から除外することは適切でなく、積極的な治療適応の検討と医療機関への紹介促進が必要という臨床現場へのメッセージを本データは強く発信している。

方法

本研究は、オンタリオ州 (人口約1,100万人、カナダ全土の38.5%) を対象とした人口ベース後ろ向きコホート研究である。オンタリオ州癌登録 (Ontario Cancer Registry、OCR) を用いて、2001年から2006年に NSCLC と診断され診断後24週以内に手術 (肺全摘術・葉切除術・区域切除術) を受けた全例を同定した。術前化学療法・放射線療法施行例 (n=266、4%) を除外した最終解析集団は6,304例であった。患者は診断時年齢に基づき70歳未満、70-74歳、75-79歳、80歳以上の4群に分類した。また、ACT の普及前 (2001-2003年) と普及後 (2004-2006年) の2コホートに区分して比較した。

データソースとして、OCR はカナダ公衆衛生情報研究所 (CIHI) の入院記録・術式データ、オンタリオ州医療保険計画 (OHIP) の化学療法請求コード、Cancer Care Ontario 地域がんセンターの臨床データベースとリンクされた。組織型は ICD-9 (国際疾病分類第9版) および ICD オンタリオ版組織型コードを用いて分類した。併存疾患は術前5年以内の非がん入院記録に基づく修正 Charlson 指数で評価した。術後補助化学療法は手術後16週以内に開始された化学療法と定義した。

主要エンドポイントは4年全生存率 (OS) であり、Kaplan-Meier 法で算出した。年齢群間および時間コホート間の差異は log-rank 検定で評価した。ACT 受療に関連する因子の単変量解析には χ² 検定または Fisher’s exact 検定を、多変量解析にはロジスティック回帰 (ステップワイズ選択、入退基準 p=0.10) を使用した。手術後6ヶ月以内の入院率を化学療法関連毒性の代替指標とした。全解析には SAS 9.1 (SAS Institute、Cary, NC) を使用した。