• 著者: Pignon JP, Tribodet H, Scagliotti GV, Douillard JY, Shepherd FA, Stephens RJ, Dunant A, Torri V, Rosell R, Seymour L, Spiro SG, Rolland E, Fossati R, Aubert D, Ding K, Waller D, Le Chevalier T
  • Corresponding author: Jean-Pierre Pignon, MD, PhD (Institut Gustave-Roussy, Villejuilf, France)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2008
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 18506026

背景

肺癌は世界的に最も頻度の高い癌であり、非小細胞肺癌(NSCLC)が全肺腫瘍の80%以上を占める。外科的切除はNSCLCの早期段階における根治的治療法であるが、患者の30%から70%が再発し、その疾患で死亡する。病期IAの患者でさえ、5年生存率は60%から70%程度にとどまるのが現状である。術後補助放射線療法は、少なくとも病期IおよびIIの疾患においては長期生存に有害な影響を及ぼすことが示されており、もはや推奨されていない(PORT Meta-Analysis Trialists Group. Lancet 1998)。1995年のNSCLC協調グループによるメタ解析(NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995)では、52のランダム化臨床試験から得られた9,387例の個別患者データを用いて、シスプラチンベースの術後補助化学療法が5年生存率を5%改善する可能性を示唆したが、OSのハザード比(HR)0.87は統計的に有意ではなかった(P=.08)。このため、術後シスプラチンベース化学療法と手術単独を比較するランダム化試験はその後10年間継続された。

2003年から2006年にかけて、IALT試験(Arriagada et al. NEnglJMed 2004、n=1,867)、JBR.10試験(Winton et al. NEnglJMed 2005、n=482)、ANITA試験(Douillard et al. LancetOncol 2006、n=840)といった大規模試験が相次いでOSの有意な改善を報告した。しかし、ALPI(Adjuvant Lung Cancer Project Italy)試験やBLT(Big Lung Trial)試験では有意な差が得られず、術後補助化学療法の最適な患者選択(病期IAからIIIAの全域への適用可否)、パートナー薬の比較(ビノレルビン対エトポシドなど)、PS(Performance Status)や年齢などのサブグループにおける効果については、個々の試験では検出力が不足していた。また、化学療法群で治療開始後6ヶ月以内に非肺癌死亡が増加する現象が観察されていたが、その原因や機序に関する説明も不十分であった。これらの未解明な問いに答えるため、5つの大規模試験の個別患者データ(IPD)を統合したLACE(Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation)解析が計画された。この統合解析は、先行研究で不足していたサブグループ解析の検出力を高め、術後補助化学療法の真の恩恵を受ける患者群を特定し、有害事象のリスクをより詳細に評価することを目的としていた。

目的

完全切除された非小細胞肺癌(NSCLC)患者を対象としたシスプラチンベース術後補助化学療法の5つの大規模ランダム化試験(合計n=4,584)の個別患者データを統合し、以下の主要な目的を達成することを目指した。主要評価項目として全生存期間(OS)を、副次評価項目として無病生存期間(DFS)、肺癌関連死亡、非肺癌関連死亡、および治療関連毒性を検証すること。さらに、病期(IA/IB/II/III)、PS(0/1/2)、性別、年齢、組織型、術式、放射線療法、シスプラチン総投与量、およびパートナー薬といった患者特性や治療タイプが化学療法の効果に与える影響をサブグループ解析により詳細に評価し、特に治療効果が高い、あるいは有害となる患者群を特定すること。本研究は、術後補助化学療法の臨床的有用性を最大化し、不必要な毒性を最小化するための患者層別化戦略を確立することを目的とした。

結果

全生存期間(OS)の有意な改善: シスプラチンベース術後補助化学療法は、全生存期間において統計学的に有意な利益を示した。全体のハザード比(HR)は0.89(95% CI, 0.82-0.96; P = .005)であり、化学療法群では死亡リスクが11%低減した。これは、5年時点での絶対生存利益が5.4%(3年時点では3.9%)に相当する(Fig 1A, Fig 2A)。試験間の異質性は有意ではなく(P=.37; I^2=6%)、5つの試験全体で化学療法の効果に一貫した方向性が確認された。無病生存期間(DFS)も同様に化学療法群に有利であり、HR 0.84(95% CI, 0.78-0.91; P < .001)であった。DFSの5年絶対改善効果は5.8%(3年時点でも5.8%)であり、DFSにおいても試験間の異質性は軽微であった(P=.27; I^2=23%)(Fig 1B, Fig 2B)。

病期別効果の差異(治療選択上の最重要知見): 病期と化学療法効果の間には有意な傾向が認められた(OSの傾向検定P=.04; DFSの傾向検定P=.04)。特に、病期IA(T1N0、n=347)の患者では、HR 1.40(95% CI, 0.95-2.06)と、化学療法が予後を悪化させる傾向が示された(Fig 3A)。病期IB(T2N0、n=1,371)ではHR 0.93(95% CI, 0.78-1.10; P=.40)であり、有意な差は認められなかった。一方、病期II(N1またはT3N0、n=1,616)ではHR 0.83(95% CI, 0.73-0.95; P=.005)、病期III(N2またはT3N1等、n=1,247)ではHR 0.83(95% CI, 0.72-0.94; P=.004)と、両病期で有意な生存改善効果が確認された。病期IAの患者を除外した場合、病期と化学療法効果の間の傾向は有意ではなくなった(OS P=.35; DFS P=.33)。シスプラチンとビノレルビンの併用療法は、Stage IA患者の13%に計画されたのに対し、他の病期では43%に計画されており、このこと自体が治療選択における課題を示唆している。

PS(Performance Status)別効果修飾: WHO PSと化学療法効果の間には有意な交互作用が認められた(OSの傾向検定P=.009; DFSの傾向検定P=.01)。PS 0(n=1,769)の患者ではHR 0.84と化学療法が明確に有益であった。PS 1(n=1,533)の患者でもHR 0.90と有益な傾向が示された。しかし、PS 2(n=183)の患者ではHR 0.99(95% CI, 0.81-1.22)と、化学療法の効果が消失し、有害となる可能性が示唆された(Fig 3A)。この結果から、PS 2の患者に対する術後シスプラチンベース化学療法は推奨できないと結論付けられた。ただし、PS 2の症例数は全体の4%と少なく、ALPI(Adjuvant Lung Cancer Project Italy)試験ではPS不明例が多く、JBR.10試験ではPS 2患者が登録除外されていたため、この所見の解釈には注意が必要である。

パートナー薬別効果: シスプラチンと併用されるパートナー薬の種類によって化学療法効果に差がある可能性が示唆された(OSの交互作用P=.11; DFSの交互作用P=.07)。シスプラチンとビノレルビンの併用療法(n=1,888)はHR 0.80(95% CI, 0.70-0.91)と最も強い効果を示した(Fig 3A)。シスプラチンと他の1剤(エトポシドなど、n=1,373)の併用ではHR 0.92(95% CI, 0.80-1.07)と中程度の効果であった。シスプラチンと2剤(トリプレット、n=1,323)の併用ではHR 0.97(95% CI, 0.84-1.13)と効果は認められなかった。ビノレルビン群と他の2群をまとめた場合のpost-hoc解析では、OS P=.04、DFS P=.02で有意差が認められた。しかし、シスプラチンとビノレルビンの併用群は、他の群と比較してシスプラチンの総投与量が有意に多かった(86%が>300mg/m^2 vs 他の群では54%および0%)ため、この効果がビノレルビン自体によるものか、シスプラチン用量効果によるものかを判別することはできなかった。シスプラチン総投与量と化学療法効果の間には、全体で有意な交互作用は認められなかった(OS P=.26; DFS P=.22)。しかし、2つのカテゴリ(≤300mg/m^2 vs >300mg/m^2)で検討した場合、高用量シスプラチン群に有利な傾向が示された(OS P=.10; DFS P=.09)。

肺癌死亡および非肺癌死亡への影響: 化学療法群では肺癌死亡が有意に減少し、5年絶対改善効果は6.9%であった(HR 0.83; 95% CI, 0.76-0.90; P < .001)(Fig 2C)。これは化学療法の主たる効果を示している。一方、非肺癌死亡は化学療法群で増加する傾向が認められ、HR 1.36(95% CI, 1.10-1.69; P = .004)であった。5年生存率は化学療法群で89.1% vs 対照群で87.7%であり、化学療法群に不利な結果であった。この非肺癌死亡の増加は、特に治療開始後最初の6ヶ月間に集中しており(6ヶ月以内HR 2.41; 95% CI, 1.64-3.55; P < .001)、6ヶ月以降のHRは1.06(95% CI, 0.83-1.37)であった(交互作用P < .001)。最初の6ヶ月間における死亡増加74例(化学療法群) vs 29例(対照群)のうち、40例 vs 21例が肺/心血管疾患による死亡であり、18例 vs 0例が化学療法毒性による死亡であった。化学療法関連死亡は全体で19例(0.9%)報告され、肺塞栓、心筋梗塞、心停止、心肺感染症などが含まれた。化学療法関連死を除外しても、非肺癌死亡の増加は依然として有意であった(HR 1.80; P = .003)。早期の非肺癌死亡は、患者特性(年齢やPS)や併用治療(術式、シスプラチン初回投与量、併用薬、計画された放射線療法)によって有意な差は認められなかった。

コンプライアンスと毒性: 化学療法群の9%の患者は化学療法を受けなかった(主な理由:患者拒否43%)。59%の患者が計画されたシスプラチン総用量240mg/m^2以上を投与された。治療を受けた患者の14%が1サイクルのみ、10%が2サイクルのみで治療を終了した(主な理由:患者拒否35%、毒性34%、早期死亡または進行9%)。手術から化学療法開始までの中央値は39日であった(7%の患者で60日以上)。対照群の1%の患者が補助化学療法を受けた。グレード3〜4の毒性は、4つの試験の化学療法群1,190例中66%に認められ、グレード4毒性は32%であった。最も頻度の高い毒性は好中球減少症であり、グレード3が9%、グレード4が28%であった。毒性率は試験間で大きく異なり、これは化学療法レジメンの違いだけでなく、毒性監視およびデータ収集方法の違いにも関連している可能性が示唆された。

考察/結論

LACE(Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation)協調グループによる本プール解析(n=4,584)は、完全切除された非小細胞肺癌(NSCLC)患者に対するシスプラチンベース術後補助化学療法の有効性を、個別患者データレベルで確立した最大規模のメタ解析である。全生存期間(OS)のHR 0.89(95% CI, 0.82-0.96; P = .005)および5年絶対改善効果5.4%という結果は、1995年のNSCLC協調グループ解析(HR 0.87; P=.08)で得られた境界的有意な結果から10年を経て、個人データ統合による検出力の向上により、初めて統計学的に有意な結論が導き出された点で歴史的意義がある。

先行研究との違い: 本研究の最重要知見は、病期IAの患者において化学療法が有害な傾向を示したこと(HR 1.40; 95% CI, 0.95-2.06)である。これは、これまでの大規模試験では検出されなかったサブグループ効果であり、現行のガイドライン(NCCNなど)においてStage IA NSCLCへの術後化学療法が推奨されない根拠の一つとなっている。また、PS 2の患者でも有意な効果消失と有害傾向(交互作用P=.009)が示されており、PS評価が治療決定の重要な判断軸となることを明確に示した点で、従来の知見と対照的な、より詳細な患者層別化の必要性を提示した。

新規性: 本研究で初めて、シスプラチンとビノレルビンの併用療法が他のレジメンと比較して最も強いHR改善効果を示した(HR 0.80; 95% CI, 0.70-0.91)。これは、ANITAおよびJBR.10試験がビノレルビンを用いて有意なOS改善を示していたことと整合しており、シスプラチンとビノレルビンの併用が最もエビデンスの厚い組み合わせとして位置づけられる。ただし、この効果がビノレルビン自体によるものか、シスプラチンの総投与量が多いことに起因する可能性も示唆されており、この点は今後の検討課題である。

臨床応用: 本知見は、完全切除NSCLC患者に対するシスプラチンベース術後補助化学療法の臨床応用において、病期およびPSに基づく患者選択の重要性を強調する。特に、病期IIおよびIIIの患者には明確な生存利益がある一方で、病期IAおよびPS 2の患者には有害となる可能性があり、これらの患者群への治療は推奨されない。この層別化されたアプローチは、治療の有効性を最大化し、不必要な毒性を回避するために臨床現場で不可欠な情報を提供する。

残された課題: 今後の検討課題として、病期IBのNSCLC患者に対する化学療法の有効性は本解析では確定できなかった(HR 0.93; P=.40)。その後のCALGB 9633試験(カルボプラチン+パクリタキセル、HR 0.80)など、腫瘍径4cm以上のT2N0症例を選択してのエビデンスが積み上がっているものの、病期IB全例への適用の是非は依然議論の余地がある。また、生物学的マーカー(ERCC1発現など)と化学療法効果の交互作用についても、LACEグループによる後継解析が進められており、個別化医療のさらなる進展が期待される。非肺癌死亡の短期的な増加は、シスプラチンの心血管毒性や静脈血栓塞栓症との関連が示唆されており、特に喫煙歴のあるNSCLC患者が化学療法の心血管合併症に脆弱である可能性があり、今後の研究で詳細なメカニズム解明と予防策の確立が求められる。

方法

本解析は、LACE協調グループによって実施されたプール解析であり、プロトコルは2005年11月にステアリングコミッティーによって最終決定された。対象試験は、1995年のNSCLCメタ解析以降に実施された、シスプラチンベース術後補助化学療法と非化学療法を比較した大規模ランダム化比較試験(RCT)のうち、300例以上の患者を登録した5つの試験(JBR.10、ALPI、ANITA、IALT、BLT)から個別患者データ(IPD)を収集した。これらの試験は、術後放射線療法を併用する群としない群を比較する試験も対象としたが、シスプラチンベース以外の化学療法、術前化学療法、または同時化学放射線療法を用いる試験は除外された。

対象5試験の概要:

  • JBR.10: n=482。シスプラチン(50mg/m^2×2日/サイクル)とビノレルビン(25mg/m^2×16)の4サイクル。
  • ALPI: n=1,088。シスプラチン(100mg/m^2)とマイトマイシン、ビンデシンによる3サイクル。
  • ANITA: n=840。シスプラチン(100mg/m^2)とビノレルビン(30mg/m^2×16)の4サイクル。
  • IALT: n=1,867。シスプラチン(80〜120mg/m^2)とエトポシド、ビノレルビン、ビンデシン、ビンブラスチンのいずれかによる3〜4サイクル。
  • BLT: n=307。シスプラチン(50〜80mg/m^2)と2〜3剤レジメン。

データ収集と検証: 各試験のステアリングコミッティーメンバーが事前に合意した変数(患者背景、腫瘍特性、計画・実施された治療、毒性、アウトカム)を収集した。すべてのデータは個々の試験の治験責任医師および統計家と協力して検証され、各試験の解析も個別に検証された。

解析方法: 主要評価項目はOS、副次評価項目はDFS、肺癌死亡、非肺癌死亡、治療実施状況、および毒性であった。DFSイベントには、局所再発、遠隔転移、および再発のないあらゆる原因による死亡が含まれた。非肺癌死亡は、再発報告のない治療関連死や二次癌を含む、NSCLC以外の原因による死亡と定義された。重篤な毒性はWHOスケールまたは同等スケールでのグレード3、4、または5とされた。追跡期間中央値は5.2年(試験別で4.7〜5.9年)であった。治療群間の比較はintention-to-treat原則に従って実施された。生存解析には、試験で層別化した標準的なログランク検定(log-rank test)と、試験、計画された放射線療法、地域、施設規模で層別化し、年齢、性別、病期、併用薬で調整したCox回帰モデルが用いられた。両手法で同様の結果が得られたため、ログランク検定の結果が報告された。個々のHRおよび全体HRは、固定効果モデルを用いて計算された。非肺癌死亡の解析は、再発前の期間のみを対象とし、最初の再発時にデータが打ち切られた。肺癌死亡のログランク解析は、全死因死亡から非肺癌死亡のログランク統計量を差し引くことで間接的に得られた。試験間の異質性はカイ二乗検定およびI^2統計量(25%以下を低異質性と定義)で評価された。治療と共変量との交互作用は、試験で層別化し、共変量で調整した解析により評価された。サブグループ解析の共変量カテゴリは事前に規定された。層別化された生存曲線は、年間死亡率とHRを用いて推定され、3年および5年時点での絶対利益が算出された。すべてのP値は両側検定である。解析はSAS Software, Version 8.2を用いて実施された。

患者背景: 化学療法群n=2,281、対照群n=2,303。患者背景は、男性80%、年齢中央値59歳(化学療法群)/60歳(対照群)、扁平上皮癌49%、腺癌40%であった。病期の内訳は、Stage IA 8%、Stage IB 29%、Stage II 35%、Stage III 28%であった。術後放射線療法は、pN0患者の4%、pN1患者の39%、pN2患者の74%に計画されていた。WHO PSは、PS 0が39%、PS 1が33%、PS 2が4%であった。