• 著者: Jianjun Zhang, Matthew D. Park, Tej Pandya, Elaine Shum, Jia Wu, Simon Heeke, Ramin Salehi-Rad, Thomas U. Marron, Zhubo Wei, Hui Li, Torsten G. Blum, John V. Heymach, Steven M. Dubinett, Pan-Chyr Yang, Charles Swanton, Miriam Merad
  • Corresponding author: Jianjun Zhang (MD Anderson Cancer Center); Charles Swanton (Francis Crick Institute / UCL); Miriam Merad (Icahn School of Medicine at Mount Sinai)
  • 雑誌: Nature Reviews Clinical Oncology
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-02-23
  • Article種別: Review
  • PMID: 41731061

背景

肺癌は年間約200万人が死亡する世界最大のがん死因であり、その最大の構造的要因が進行期での診断である。低線量CT (LDCT: low-dose computed tomography) を用いたスクリーニングは重喫煙歴を持つ高リスク集団における肺癌死亡率低減効果が2つの大規模無作為化試験で確立されている。米国の National Lung Screening Trial (NLST) では55-74歳・喫煙歴30パック年以上の対象者への年次LDCT 3年間の実施が胸部単純X線と比較して肺癌死亡率を20%相対的に低減し (95% CI 6.8-26.7, P=0.04)、オランダ・ベルギーのNELSON試験では50-74歳を対象にした複数回LDCTが肺癌特異的死亡率を24%低減した。これらのエビデンスに基づき米国予防医学タスクフォース (USPSTF: US Preventive Services Task Force) は2021年に開始年齢を50歳・喫煙歴20パック年以上へ基準を緩和した。

しかし明確なエビデンスが存在するにもかかわらず、LDCTの実際の普及率は極めて低く、米国では2024年時点で適格者の16%しかスクリーニングを受けていない。さらにモデル研究では現行ガイドラインの年齢・喫煙歴基準では新たに診断される肺癌患者の約半数がスクリーニング対象外となると推定されている。特に深刻なのが非喫煙者・軽喫煙者の肺癌 (LCINS: lung cancer in individuals with no or light smoking history) の増加であり、世界の肺癌の約1/3を占め、アジアでは63.1%、台湾では全肺癌の3分の2に達する。呼吸器ウイルス感染が肺発癌進展を促進するという近年の知見 (Qian et al. Cell 2026) も示されており、LCINS における多因子的リスクへの対応が急務である。

LDCT自体にも内在的限界がある。NLSTベースライン時の偽陽性率は23.3%であり不必要な侵襲的処置を招くリスクがある。LDCT普及に伴い米国では年間100万件超の「偶発的肺結節 (incidentaloma: incidental pulmonary nodule)」が診断CTで検出されるが、臨床的に重要な癌に進展するものは少数にとどまり過剰診断・過剰治療への懸念が高まっている。現行のリスク分類モデル (Lung-RADS/Brock University/NCCN等) の多様性と中間リスク結節管理の大きなばらつきは均一な臨床対応を妨げており、これらの「量的・質的不足」こそが本総説が取り組む核心的な gap in knowledge である。ラジオミクスAI・液体生検・揮発性有機化合物 (VOC: volatile organic compounds) などの新規バイオマーカー開発と前癌インターセプション戦略が必要とされる根拠となっている。

目的

本総説は、LDCTを基盤とした肺癌スクリーニングの現状および普及上の課題を整理し、(1) 非喫煙者・軽喫煙者 (LCINS) 集団へのスクリーニング拡大のエビデンス、(2) ラジオミクスAI・液体生検 [miRNA (microRNA: マイクロRNA)・cfDNA (cell-free DNA: 無細胞DNA)・断片化解析・CTC (circulating tumor cells: 循環腫瘍細胞)・マルチオミクス] ・VOCなどの新規スクリーニングバイオマーカー、(3) IL-1β経路阻害・PD-(L)1免疫チェックポイント阻害・がんワクチン等を中心とした肺前癌インターセプション (lung precancer interception) 戦略の生物学的根拠と初期臨床エビデンスを包括的に論じ、将来の研究・実装方向性を展望することを目的とする。

結果

LDCTスクリーニングの死亡率低減エビデンスと普及障壁:LDCTスクリーニングの肺癌死亡率低減効果は2大無作為化試験により確立されている (Fig. 1)。米国NLST (n=53,454、55-74歳、喫煙歴≥30パック年) では年次LDCT 3年間が胸部単純X線比で肺癌死亡率を20%相対的に低減した (LDCT群247件 vs X線群309件/100,000人年、95% CI 6.8-26.7, P=0.04)。オランダ・ベルギーNELSON試験 (50-74歳、喫煙歴基準を別設定) ではベースライン・1年・3年・5.5年後の計4回LDCTが肺癌特異的死亡率を24%低減した (HR 0.76, 95% CI 0.61-0.94)。これらのエビデンスを受けてUSPSTFは2021年に開始年齢を50歳・喫煙歴20パック年以上へ緩和し、2023年には米国癌学会 (ACS) が禁煙年数基準を撤廃してさらに拡大した。英国では2023年に Targeted Lung Health Checks プログラムが開始し2029年までの全国展開を目標としている。台湾・クロアチア・チェコ・ポーランドでも国家プログラムが先行し、欧州では NELSON・SUMMIT・4-In-The-Lung-Run・CASCADE・HANSE・CASSANDRA等の試験が並行する。

しかし2024年時点でも米国適格者のLDCT受診率は16%にとどまり、米国放射線学会 (ACR: American College of Radiology) レジストリでは100万人超のベースライン受診者のうち推奨フォローアップを受けたのは22.3%のみと報告された。普及障壁は施設・医師・患者・社会の4層にわたる多構造的問題である。施設レベルでは放射線科の処理能力と学際的連携体制、医師レベルでは喫煙歴のパック年算出の煩雑さと外来時間の制約、患者・社会レベルでは喫煙スティグマ・検査への恐怖・予後への誤解が障壁となる。さらに社会経済的・民族的格差として、NLSTへの黒人参加率は約5%・ヒスパニック・ラテン系は約2%にとどまりモデルの汎化性に懸念が残る。Lung-RADS (Lung Imaging Reporting and Data System: 肺癌スクリーニング画像報告データシステム) の導入によりベースライン偽陽性率は23.3%から約13%へ改善された。報告上の誤解として「偽発見率 (96.4%)」と「偽陽性率 (23.3%)」が混同されて広まっているが、これらは異なる統計量であり適切な共有意思決定 (shared decision-making) 教育の重要性が強調される。

LCINS集団へのスクリーニング拡大:TALENT試験と台湾国家プログラム:非喫煙者・軽喫煙者 (LCINS) を対象とした肺癌スクリーニングの実行可能性と有効性については台湾TALENT (Taiwan Lung Cancer Screening in Never-Smoker Trial) 試験が最も充実したエビデンスを提供する (Fig. 1)。TALENTは2015年開始の全国多施設前向き試験で、55-75歳の非喫煙者・軽喫煙者 (<10パック年または15年以上禁煙) であって肺癌家族歴 (LCFH: lung cancer family history)・受動喫煙・COPD (chronic obstructive pulmonary disease: 慢性閉塞性肺疾患) または肺結核歴・室内空気汚染 (調理指数≥110) などの追加リスク因子を持つ n=12,011 名を登録した。ベースラインLDCT後に年次2回・隔年計8年間の追跡を計画した。

初回スクリーニングラウンドでは318名 (2.6%) が肺癌と診断された。そのうち81%が浸潤癌・19%が上皮内癌、77.4%がStage Iで診断されており早期検出能が際立つ。検出率2.6%はNLST (1.1%) の2.4-fold、NELSON (0.9%) の2.9-fold に相当し大幅に上回る (Fig. 3)。LDCTの診断性能は感度92.1%・特異度84.6%・PPV 14.0%・NPV 99.7%であり、NLSTと同等の高い精度を示した。多変量解析では女性・LCFH・60歳超が有意なリスク因子として同定された。ゲノムワイド関連解析 (GWAS: genome-wide association study) では25以上の一塩基多型 (SNP: single nucleotide polymorphism) がLCINSリスク増加と関連付けられており、PM2.5曝露との直接相関も複数研究で確認されている。家族性肺癌の主要原因として germline EGFR T790M変異が同定され、ERBB2 G660D等の他の胚細胞系列変異も報告されている。

TALENTの知見を受け台湾は2022年7月に国家肺癌早期発見プログラムを発足させた。45-74歳女性・50-74歳男性を対象に隔年LDCTを実施し、重喫煙者 (≥30パック年) およびLCFH保有の非喫煙・軽喫煙者を対象とした。2023年末までに78,000名をスクリーニングし956件の確定肺癌が検出された。そのうち85.0%がStage 0-Iで診断され、全体の検出率は1.2%・非喫煙+LCFH群では1.7%、重喫煙者の0.7%を大きく上回った。プログラム実施後の進行期肺癌発生率は前実施期比で77%減少した。米国NY-FANSS (Female Asian Nonsmoker Screening Study: アジア系非喫煙女性スクリーニング試験) でも検出率1.5%、シンガポールSOLSTICE試験では1.9%が報告され、アジア系非喫煙者での一貫した高検出率が複数施設で確認された。これらのデータは適切なリスク因子で選別されたLCINS集団へのLDCT拡大の実行可能性を示すが、非アジア集団への汎化については引き続き検討が必要である。

ラジオミクス・AIによる診断精度向上:ラジオミクス (radiomics: CT等の画像から高次元定量特徴を抽出する技術) と深層学習を組み合わせたAIモデルは従来の放射線科医による読影を超える診断精度を示している。NLSTコホートで開発されたエンドツーエンド深層学習モデルはAUC 94.4%で肺癌を検出し放射線科医の読影成績を上回った。続いて開発されたSybilモデルもNLSTコホートで訓練され、ベースラインLDCT後1-6年の肺癌発症リスクをAUC 86% (Massachusetts General Hospitalコホート) およびAUC 94% (アジアコホート) で予測した。放射線科医によるLung-RADS評価と比較してSybilは同等の感度でより低い偽陽性率を達成し、肺結節の有無によらず動的にリスク評価できる点が既報モデルと異なる。2024年に発表された概念実証では、CTからAIで生成した 18F-FDG-PET画像をSybilに統合することでAUCが3-4%さらに改善された。胸部X線ベースのAI (多解像度融合CNN: convolutional neural network) は日本放射線技術学会データセットでfairness-AUC 98%を達成し放射線科医群 (82%) を大きく上回り、LDCT普及が困難な医療資源制約地域への適用可能性を示す。ただしNLSTコホート由来モデルへの黒人 (~5%) およびヒスパニック (~2%) の過少代表は非白人集団への汎化性に懸念を生じさせており、多様な訓練データセットの整備が喫緊の課題として残る。

液体生検の各モダリティとマルチオミクス統合:スクリーニング参加者の25-50%がベースラインで肺結節を有し3-13%が追跡中に新規結節を発症するが、実際に試験期間中に肺癌と診断されるのは1-3%にとどまる。この広大なグレーゾーンの中で液体生検によるリスク層別化への期待が高まっている。液体生検は血液等の体液からcfDNA・miRNA・タンパク・細胞外小胞 (extracellular vesicles)・CTCを検出するアプローチで非侵襲性・再現性・スケーラビリティ・コスト効率性に優れる。

miRNAシグネチャーについてはMILD (Multicenter Italian Lung Detection) 試験が24 miRNAからなる血漿ベース分類器で感度87%・特異度81%を示したが、陰性LDCT例での4年間肺癌発症率は液体生検陰性で0.8%・陽性で1.1%にとどまりLDCT単独を超える増分利益は限定的であった。TREND試験では15 miRNAからなる全血シグネチャーが感度82.8%・特異度93.5%を示し、Stage I-IIでは感度76.3%・特異度97.5%という良好な早期病期検出能を達成した。全血採取の容易さも含め臨床実用性に最も近いモダリティとして位置付けられる。

cfDNAメチル化ベースのMCED (multi-cancer early detection: 多種がん早期検出) テストは全癌種統合で感度51.5%・特異度99.5%を示したが、Stage I肺癌の感度は21.9%にとどまる。NIHが支援する前向きVANGUARD試験ではShield (変異・メチル化解析、大腸癌スクリーニングでFDA承認済み) とAvantect (ヒドロキシメチル化解析) の2アッセイが評価中である。cfDNA断片化解析 (fragmentomics: 断片サイズ・分布・末端モチーフパターン解析) は初期研究で肺癌感度100% (n=12) を報告したが、スクリーニング適格集団での後続検証ではPPV 1.3% (特異度58%) と著しく低下し、Stage I感度71%・Stage II感度89%が示された。

CTC (循環腫瘍細胞) アッセイについてはAIR試験の「腫瘍細胞サイズ分離 (Isolation by SizE of Tumour Cells)」技術が感度26.3%・特異度96.2%と低感度を示し現状では主要スクリーニングツールとしての有用性は限定的である (Gvozdenovic et al. TrendsCancer 2025)。一方、同試験でCOPD患者n=614のスクリーニングにより肺癌19件に加えて肺外癌27件が検出されたことは、肺癌特化スクリーニングが系統的にエクストラ胸部悪性腫瘍も発見しうる点で臨床的意義がある (Carter et al. NatMed 2017)。マルチオミクス統合アプローチとして、8種循環タンパク・1,933変異を統合したCancerSEEKアッセイの後継DETECT-A試験ではPPV 19.4%、PET-CT併用でPPV 28.3%を達成した。ASCEND-LUNGはラジオミクス・ctDNA変異・cfDNAメチル化・血清タンパクを統合し、良性肺結節または肺癌を持つ患者での検証コホートで感度81.1%・特異度76%を示したが、スクリーニング集団有病率0.7%想定でのPPVは約2%と見込まれる。重要な比較として、NLSTではPPV 3.8%でも死亡率20%低減が実現されており、低PPVが臨床的無効を直接意味しないことは認識が必要である。偽陽性の実臨床負荷としてPATHFINDER試験ではMCED偽陽性例が癌除外まで平均162日を要し、不必要な侵襲的処置を受けたケースも報告された。VOCについては25研究のメタ解析でプール感度85%・特異度86%・AUC 0.93が報告されたが、25研究中11研究が病期情報を未報告であり、食事・薬剤・COPD等の交絡因子と標準化プロトコールの未整備が課題として残る。

前癌インターセプション:IL-1β経路とPD-(L)1経路の初期臨床エビデンス:前癌インターセプションとは前癌病変が浸潤癌に進展する前に治療的介入で阻止するアプローチであり、腸管ポリープの大腸癌予防・乳管癌in situの切除等と類似したパラダイムを肺癌に適用するものである (Fig. 2)。LDCT普及に伴いIPNs (indeterminate pulmonary nodules: 不確定肺結節) 検出が増加し、多くが LUAD (lung adenocarcinoma: 肺腺癌) 前駆病変 (異型腺腫様過形成・上皮内腺癌・微小浸潤腺癌) に相当する。一方でLUSC (lung squamous cell carcinoma: 肺扁平上皮癌) 前癌病変は野生型癌化フィールド概念で気管支上皮に広く分布し外科切除が困難であることから、いずれの組織型においても前癌インターセプションの生物学的合理性と臨床的需要が高い。LUAD・LUSC双方の前癌病変研究から免疫チェックポイント (PD-L1等) アップレギュレーションおよびIL-1β経路活性化が浸潤前段階から認められることが示されており、前癌段階での免疫介入の生物学的根拠を提供している (Fig. 2)。

IL-1β経路については、心血管高リスク患者を対象とした CANTOS試験 (Canakinumab Anti-Inflammatory Thrombosis Outcome Study) の後ろ向き解析が抗IL-1β抗体canakinumabによる肺癌発生率・死亡率の実質的低下を示したことが前癌インターセプション仮説の契機となった。Can-PreventLung (Phase II) は3か月以上の間隔を置いた複数CTで確認された持続的高リスク (Brock大学基準>10%) 肺結節を持つ患者 (LUAD前駆病変を想定) を対象にcanakinumabを投与した単腕試験で、計画中間解析 (n=15) ではgrade≥3有害事象はゼロ・grade 2好中球減少が4名 (感染合併なし)・他はすべてgrade 1という良好な安全性プロファイルを示した。有効性として15名中11名で測定可能な結節縮小が観察された。3次元体積解析ではcanakinumab群の高リスク結節体積が年率-7%、外部傾向スコアマッチドコントロール群は年率+15%と対照的な変化を示した。さらに病変内空間的不均一性の有意な低下 (P=0.049) および平均細胞密度の有意な低下 (P<0.001) が観察され、腫瘍エコシステムの均一化と細胞増殖抑制を反映し前癌から静止状態への移行を示唆する。一方で局所進行・転移性肺癌を対象としたCANOPY試験群 (CANOPY-1/2/A等) ではcanakinumab+抗PD-1抗体の臨床的上乗せ効果は示されず、マウスモデルでもIL-1β阻害は前癌段階でのみ有効で浸潤性LUAD確立後は効果を喪失した。この「治療ウィンドウの前癌限定性」はIL-1インターセプション戦略の本質的特性を示す。

PD-(L)1阻害については、IMPRINT-Lung (Phase II、n=40) が高リスク肺腺癌前駆病変にpembrolizumabを投与した単腕試験で予備結果を報告した。grade 3有害事象は2名 (網膜剥離・高血圧各1名、いずれも非関連)、grade 2は3名 (掻痒感1名・甲状腺機能低下症2名)、残りはすべてgrade 1であった。KEYNOTE-042試験の進行期NSCLCにおける治療関連grade≥3有害事象18%と比較して顕著に安全性が良好であり、前癌設定固有の安全性プロファイルを示す。有効性として6か月後評価では36名中2名が病勢進行 (主病変は縮小)、34名中18名 (53%) が何らかの結節縮小 (-0.43%〜-29.41%) を示し、1名がmodified RECIST基準 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors: 固形腫瘍効果判定基準) で部分奏効 (-34%) を達成した。さらに追跡前CT画像利用可能例20名中19名 (95%) でpembrolizumab投与前の結節増大が記録されており、治療による成長軌跡の反転効果が示唆される。LUSC前駆病変 (NCT03347838、nivolumab) の結果は執筆時点で未報告。新興インターセプション戦略としてTIM3免疫チェックポイント阻害 (前臨床で前癌段階特異的効果確認)、共有新抗原ワクチン [BNT116 (claudin 6・KK-LC-1・MAGEA3・MAGEA4・MAGEC1・PRAMEの6抗原mRNA) およびVTP-600 (ChAdOx1/MVAベクターベース)] が試験中であり、さらにKRAS・EGFR変異が前癌病変のみならず肺癌非罹患者の非悪性肺組織でも検出されることから、ドライバー変異標的アプローチを選択的集団に適用する合理性も示唆されている。

考察/結論

本総説は肺癌スクリーニングと前癌インターセプションという2つの補完的戦略を体系的に論じており、既報の研究と対照的にいくつかの重要な知見を統合している。

LCINS集団スクリーニングにおける「非喫煙者のリスク逆転」とこれまでの研究との相違:これまでの研究では喫煙歴主体のリスク評価が中心であり、非喫煙者へのスクリーニング拡大の有効性は十分に確立されていなかった。これに対し本総説が統合したTALENT試験・台湾国家プログラムデータは非喫煙+LCFH群の検出率1.7%が重喫煙者の0.7%を逆転するという従来のパラダイムと異なる結果を示す。検出率2.6%・Stage I診断率77.4%・進行期発生77%減は重喫煙者対象プログラムに匹敵するかそれを上回るアウトカムであり、LCFH・PM2.5曝露・GWAS同定SNP・女性などのリスク因子を組み込んだ専用リスク予測モデルの開発が新たな優先課題として浮上した。一方、現在利用可能なデータの大部分がアジア集団・EGFR変異優位のLCINSに由来しており、非アジア集団・低腫瘍変異負荷LCINSへの汎化は今後の検討課題として残る。

新規バイオマーカー統合の臨床応用への橋渡し:各バイオマーカーモダリティの臨床応用への距離は大きく異なる。臨床的意義の観点では、ラジオミクスAI (Sybil AUC 94%・胸部X線CNN fairness-AUC 98%) は既に放射線科医の読影精度を超えているが主要訓練データの非白人過少代表問題が公平性の障壁となる。miRNA全血シグネチャー (感度82.8%・特異度93.5%) は全血採取の利便性と良好な精度から実用化に最も近い一方、LDCT単独との差分便益の証明が必要である。マルチオミクス統合アプローチはスクリーニング集団でのPPV約2%という制約があるが、NLST (PPV 3.8%で死亡率20%低減) の既報実績を踏まえると低PPVの臨床的意義を頭から排除すべきではない。VOCは非侵襲性と資源制約地域での適用可能性から魅力的だが、交絡因子対策と標準化プロトコールの確立が前提条件となる。新規な視点として前癌病変特化液体生検アッセイは神経鞘腫瘍で概念実証が得られたが、肺前癌病変への適用は本論文で初めて問題提起された領域であり、インターセプション試験の需要に応えるための精緻化が臨床応用の鍵となる。

前癌インターセプションの「治療ウィンドウの前癌限定性」という新規概念:最もnovelな洞察はIL-1β阻害とPD-(L)1阻害が共に「前癌段階に限定された治療ウィンドウ」を共有するというコンセプトである。これはCANOPY試験 (進行期肺癌でcanakinumab無効)・KEYNOTE-042試験 (進行期NSCLC標準治療) とのステージ対照的な文脈において新規に統合された知見である。canakinumab (Can-PreventLung: 11/15結節縮小、体積年率-7% vs 対照+15%) とpembrolizumab (IMPRINT-Lung: 18/34縮小、19/20の事前成長軌跡を反転) の初期データは、免疫学的に「適切なタイミング」に介入することで有効性が発揮されるという前提を支持する。TIM3阻害の前臨床データも同様のステージ依存性を示し、IL-1α→IL-1R1シグナルによる造血幹前駆細胞 (HSPC) 動員・病原性骨髄球産生・T/NK細胞制御という前癌固有の免疫回避メカニズムへの介入が、浸潤癌では機能しない理由の生物学的根拠を提供する。ただし大規模無作為化対照試験 (RCT: randomized controlled trial) による浸潤性肺癌発生および死亡率への影響の証明が今後の最重要課題として残された課題である。

過剰診断・倫理的考慮と今後の展望:確定診断のない前癌インターセプション試験における安全性とスクリーニング集団への偽陽性負担は、limitation として慎重な評価が必要である。PATHFINDER試験の偽陽性例が平均162日を費やしたデータは、臨床的実装における偽陽性管理体制の整備の重要性を示す。NLSTでは参加者の4分の1が65歳以上であり、COPD・心血管疾患・糖尿病等の競合死亡リスクを持つ高齢・脆弱患者への画一的スクリーニング適用への警告が今後の政策に必要である。著者らが提唱する “Seed and Soil 2.0” フレームワーク — 前悪性上皮細胞 (seed) と免疫細胞・間質成分 (soil) の動的相互作用の縦断的研究 — は前癌インターセプションの次世代研究設計の礎となり、他の悪性腫瘍の予防研究への適用可能なblueprintとして提示されている。AIと機械学習による多モーダルデータ統合・多民族コホートによるバイオバンク整備・ヒト化動物モデル開発が今後の研究の重要軸であり、国際的な協調投資とインフラ整備のもとで肺癌予防・早期介入の個別化戦略が現実化していくことが展望される。

方法

本論文はPubMedを主要データベースとした系統的文献収集に基づくナラティブレビューである。NLST・NELSON・TALENT・SUMMIT等の主要肺癌スクリーニング無作為化試験、液体生検の各モダリティ評価試験 (MILD・TREND・PATHFINDER・DETECT-A・ASCEND-LUNG・VANGUARD等)、ラジオミクス/深層学習モデル (Sybil等) の検証コホートデータ、および前癌インターセプション試験 (Can-PreventLung Phase II・IMPRINT-Lung Phase II・NCT03347838) の暫定・予備結果を網羅的にレビューした。肺前癌病変の分子生物学については Human Tumour Atlas Network・PreCancer Atlas等の大規模マルチオミクス研究を参照した。スクリーニング基準・管理指針については USPSTF2021・Lung-RADS v2022・英国NHSターゲット肺健康チェックプログラムの最新ガイドラインを参照した。統計指標として感度・特異度・陽性予測値 (PPV: positive predictive value)・陰性予測値 (NPV: negative predictive value)・AUC (area under the curve: 受信者操作特性曲線下面積)・95%信頼区間を用いた。レビュー対象の試験における生存解析はCox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) またはlog-rank検定 (log-rank test) で実施された。前癌インターセプション試験の安全性評価にはCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) grading を使用した。