• 著者: Louise Carter, Dominic G Rothwell, Barbara Mesquita, Christopher Smowton, Hui Sun Leong, Fabiola Fernandez-Gutierrez, Yaoyong Li, Deborah J Burt, Jenny Antonello, Christopher J Morrow, Cassandra L Hodgkinson, Karen Morris, Lynsey Priest, Mathew Carter, Crispin Miller, Andrew Hughes, Fiona Blackhall, Caroline Dive, Ged Brady
  • Corresponding author: Caroline Dive, Ged Brady (CRUK Manchester Institute, University of Manchester)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2016-12-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27869802

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は肺癌の中でも極めて進行が早く、極めて予後不良なサブタイプである。診断時には既に転移を伴う進行期であることが多く、初回化学療法であるプラチナ製剤とエトポシドの併用療法に対しては約 80% の患者が初期奏効を示す。しかし、ほぼ全ての患者で急速な再発が起こり、再発後の二次治療に対する奏効率は 25% 未満にまで低下する。臨床的には、初回治療終了後 90 日以内に病勢進行を認める「化学療法抵抗性 (chemorefractory)」と、90 日を超えてから進行する「化学療法感受性 (chemosensitive)」に分類されるが、この分類は治療後に後付けで判定されるものであり、治療開始前の段階で患者の化学療法応答性を予測する分子的手段は未確立であった。

SCLC のゲノム全体像については、これまでにいくつかの大規模な先行研究がその遺伝的背景を明らかにしてきた。例えば、Rudin らはゲノム包括解析により、SCLC において SOX2 が高頻度に増幅する遺伝子であることを同定した (Rudin et al. NatGenet 2012)。Peifer らは 110 例の SCLC 腫瘍組織の解析を通じて、RB1 の biallelic 欠失が 91%、TP53 の変異が 98% という SCLC 特有の変異パターンを報告している (Peifer et al. NatGenet 2012)。さらに George らは、より大規模な包括的ゲノムプロファイリングにより、SCLC のゲノムランドスケープを詳細に記述した (George et al. Nature 2015)。また、Lawrence らは SCLC の変異頻度が全がん種の中でメラノーマに次いで高いことを報告している (Lawrence et al. Nature 2013)。

しかし、これらの先行研究は外科的切除標本や生検組織に依存しており、SCLC 患者における組織採取の困難さから、化学療法応答という重要な臨床アウトカムと特定の遺伝子異常を結びつけるデータは依然として手薄であり、決定的に不足していた。治療経過に伴うゲノム変化を追跡するための反復的な組織採取は極めて困難であり、非侵襲的に腫瘍の分子情報を取得する液体生検 (liquid biopsy) アプローチの活用が不足していた。前治療時の段階で化学療法感受性と抵抗性を高精度に予測し、治療選択に直結させるためのバイオマーカーは未解明であり、臨床現場における大きな知識ギャップ (knowledge gap) として残されていた。

目的

本研究の目的は、SCLC における化学療法感受性と抵抗性の相違を生み出す遺伝的特徴を、循環腫瘍細胞 (CTC; circulating tumor cell) を用いた非侵襲的アプローチによって同定することである。具体的には、前治療期の SCLC 患者から採取した血液サンプル中の CTC を単離し、全ゲノムコピー数異常 (CNA; copy-number alteration) 解析を適用することで、化学療法応答性を治療前に予測可能な CNA 分類器を構築し、その予測精度を独立した検証コホートおよび患者由来 CTC 移植 (CDX; patient-derived CTC explant) モデルにおいて検証する。さらに、初発時に化学療法感受性であった患者の再発時 CTC を縦断的に解析し、初期耐性 (先天性耐性) と獲得耐性の遺伝的背景が異なるのか、あるいは共通の経路を辿るのかを明らかにすることを目指す。

結果

CTC 単離と全ゲノム CNA プロファイリング: トレーニングセットとして、化学療法感受性患者 7 例および化学療法抵抗性患者 6 例の計 13 例から、88 個の CTC サンプル (単一 CTC 72 個、10 個の CTC プール 16 個) を単離した (Fig 1a)。CTC 数は 7.5 ml 血液あたり 27 個から 20,815 個 (中央値 836 個) の範囲であった。SCLC で高頻度に変化する 13 遺伝子の CNA に基づく階層クラスタリングでは、感受性群と抵抗性群の明確な分離は認められなかった (Fig 1b)。しかし、全ゲノム CNA 解析では、SCLC に共通する 3q および 5p のゲイン、ならびに 3p および 17p のロスが全患者で確認され (Fig 2a)、主成分分析 (PCA) において感受性 CTC と抵抗性 CTC が部分的に分離した (Fig 2b)。

16 領域 CNA 分類器の構築と内的検証: LIMMA 解析により、感受性 CTC と抵抗性 CTC の間で有意に異なる 2,281 の遺伝子座を同定し (FDR < 1%)、これらを 16 の CNA プロファイルに統合した。この 16 プロファイルに基づく階層クラスタリングでは、感受性群と抵抗性群の明確な分離が達成された (Fig 2c)。構築した SVM 分類器は、10-fold クロスバリデーションを 100 回繰り返した結果、平均 AUC 99.77% ± 0.15% (SD) という極めて高い予測性能と再現性を示した。

独立テストセットおよび CDX モデルでの検証: 独立テストセットとして 18 例の患者から得た 112 個の CTC サンプル (単一 CTC 99 個、CTC プール 13 個) を用いて検証した結果 (Fig 3a)、患者レベルでの分類精度は 83.3% (15/18 例) であった (Fig 3b)。トレーニングセットを含む全 31 例での分類精度は 90.3% (28/31 例) に達した。さらに、6 例の患者由来 CDX モデルから得た 9 個の腫瘍サンプルを加えた計 37 例の統合解析では、全体で 89.2% (33/37 例) の精度を示した。単一 CTC レベルでの分類一致率は全体で 83% (165/200 個) であり、CTC の分類結果が均質な 19 例では 91% (113/124 個) の一致率を示したのに対し、不均質な 12 例では 68% (52/76 個) に低下した。

CNA 分類と臨床アウトカムの相関: 前治療時の CNA 分類器によって化学療法抵抗性と判定された患者群は、感受性と判定された患者群と比較して、無増悪生存期間 (PFS) が有意に短かった (Fig 3c)。Kaplan-Meier 解析において、抵抗性群の PFS 中央値は 2.8 vs 5.8 months であり、統計的に有意な差が認められた。Cox 比例ハザード回帰分析の結果、抵抗性群における PFS のハザード比は HR 2.30 (95% CI 1.10-4.70, p=0.02) であった。全生存期間 (OS) についても、抵抗性群で 4.4 vs 7.3 months と数値的な差異が認められたが、統計的有意差には達しなかったものの、ハザード比は HR 1.90 (95% CI 0.96-3.70, p=0.06) であった (Fig 3c)。

再発時 CTC の縦断解析による獲得耐性機序の検討: 初発時に化学療法感受性であった 5 例の患者から、再発時に血液サンプルを採取し、計 46 個の CTC サンプル (単一 CTC 40 個、10 個 of CTC プール 6 個) を前治療時サンプルと比較した (Fig 4a)。全ゲノムレベルの比較において、前治療時と再発時の CTC 間で系統的な CNA の差異は認められず、個々の患者におけるコピー数景観は大局的に維持されていた (Fig 4b)。16 プロファイル分類器を再発時サンプルに適用した結果、46 個の CTC のうち 40 個 (87%) が依然として感受性プロファイルとして分類され、抵抗性プロファイルへの移行を示したのは 6 個 (13%) に留まった (Fig 4c)。この結果は、初発感受性腫瘍が再発後に示す獲得耐性の遺伝的基盤が、前治療時から CNA プロファイルで判別できる先天性抵抗性とは独立した経路を辿る可能性を示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来の SCLC ゲノム研究が主に外科的切除標本や生検組織に依存していたのに対し、非侵襲的な液体生検 (CTC) のみを用いて前治療時に化学療法応答性を予測できることを臨床サンプル (n=31) で初めて実証した。既報のゲノム包括解析である Rudin et al. NatGenet 2012Peifer et al. NatGenet 2012、および George et al. Nature 2015 は、SCLC の代表的な遺伝子異常や変異景観を記述したものの、化学療法応答性という重要な臨床アウトカムと特定の遺伝子異常を直接結びつけるには至っていなかった。本研究は、前治療時の CTC から得られたゲノムコピー数プロファイルが臨床アウトカムと直接相関することを示し、これまでの組織ベースの研究における限界を克服した点で対照的である。

新規性: 本研究は、前治療 CTC の CNA プロファイルに基づき、化学療法感受性と抵抗性を高精度に予測する 16 領域の SVM 分類器を新規に開発した。本分類器は独立検証コホートにおいて 83.3% の精度で患者を正しく分類し、抵抗性と判定された患者は感受性群と比較して有意に短い PFS を示すことを本研究で初めて明らかにした (HR 2.30 (95% CI 1.10-4.70, p=0.02))。さらに、初発感受性患者の再発時 CTC が依然として感受性プロファイルを維持しており、先天性抵抗性 CNA パターンへの移行を示さなかったという縦断的解析結果は、これまで報告されていない極めて重要な生物学的知見である。これは、初期耐性と獲得耐性の遺伝的背景が異なる可能性を強く示唆している。

臨床応用: 本知見は、SCLC 患者の治療選択における臨床応用に直結する。血液採取という非侵襲的な手法で反復的に取得できる CTC を用いることで、治療開始前に化学療法抵抗性患者を高精度にスクリーニングすることが可能となる。これにより、抵抗性が予測される患者に対して初回から代替療法や臨床試験への早期導入を検討するなど、個別化医療の実現に向けた臨床的有用性が極めて高い。また、CDX モデルを用いた検証において分類器が機能したことは、前臨床段階での薬剤感受性評価や bench-to-bedside の研究基盤としても大きな価値を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究は単一施設における小規模なコホート (n=31) に基づく概念実証段階に留まっており、大規模な独立コホートを用いた外的妥当性の検証が不可欠である。また、39% (12/31 例) の患者において CTC 間のゲノム不均一性 (heterogeneity) が観察されており、分類精度をさらに向上させるためには、1 患者あたりのサンプリング数を増やすアプローチが今後の研究課題として挙げられる。さらに、CNA のみならず、点変異やエピゲノム変化などのマルチモーダルな分子情報を統合すること、および獲得耐性に関与する詳細な分子メカニズムを解明することが、今後の重要な limitation 克服への方向性である。

方法

患者コホートと臨床定義: 本研究は、Christie NHS Foundation Trust (英国国民保健サービス) の前向きバイオマーカープログラムに登録された、組織学的に確認された化学療法未治療の SCLC 患者を対象とした。研究は倫理委員会 (REC (Research Ethics Committee) 参照番号: 07/H1014/96) の承認を得ており、全患者から書面によるインフォームドコンセントを取得した。データカットオフは 2016 年 3 月 17 日であった。臨床試験デザインとしては前向き観察コホート研究であり、主要評価項目 (primary endpoint) は無増悪生存期間 (PFS) とした。化学療法抵抗性は初回治療終了後 90 日以内の病勢進行、化学療法感受性は 90 日以降の進行と定義した。

CTC 採取・単離およびゲノム解析: 化学療法開始前の患者血液 10 ml から、CellSearch システム (Janssen Diagnostics) を用いて EpCAM 陽性 CTC を濃縮・計数した。その後、DEPArray システム (Silicon Biosystems) を使用して、単一 CTC、10 個の CTC プール、単一白血球 (WBC)、および WBC プールを個別に回収した。回収された細胞からの全ゲノム増幅 (WGA) は Ampli1 WGA (Ampli1 Whole Genome Amplification) キット (Silicon Biosystems) で実施した。WGA 産物の品質管理として、4 アンプリコン PCR によるゲノム整合性指標 (GII; genome integrity index) が 2 以上であるサンプルのみを下流解析に供した。次世代シーケンス (NGS) ライブラリは NEBNext Ultra DNA Library Prep Kit (New England BioLabs) を用いて調製し、Illumina MiSeq および NextSeq 500 で低分解能全ゲノムシーケンス (WGS) を実施した。

CNA 解析と分類器構築: WGS データは BWA (Burrows-Wheeler Aligner) を用いてヒトゲノム hg19 にアライメントした。CNA の同定には FREEC (Fast Analysis of DNA Copy Number) を使用し、対応する WBC を germline コントロールとして用いた。トレーニングセットとして 13 例の患者から得られた 88 個の CTC サンプルに対し、線形モデルを用いたマイクロアレイデータ解析 (LIMMA) を適用し、感受性 CTC と抵抗性 CTC 間で有意差を示す遺伝子座を同定した (偽発見率; FDR < 1%)。これらの遺伝子座を 16 のプロファイルに統合し、ラジアル基底関数サポートベクターマシン (SVM) を用いて化学療法応答予測分類器を構築した。モデルの評価には 10-fold クロスバリデーションを適用した。本分類器の検証は、独立したテストセット 18 例および CDX モデル 6 例を用いて実施した。

統計解析: 全生存期間 (OS) および PFS の評価には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較には log-rank 検定を適用した。ハザード比 (HR) の算出には Cox 比例ハザード回帰分析 (Cox proportional hazards regression analysis) を用いた。臨床因子との関連は、カテゴリ変数には Fisher’s exact 検定、連続変数には Mann-Whitney U 検定を用いて評価した。