• 著者: Vroman H, Balzaretti G, Belderbos RA, Klarenbeek PL, van Nimwegen M, Bezemer K, Cornelissen R, Niewold ITG, van Schaik BD, van Kampen AHC, Aerts JGJV, de Vries N, Hendriks RW
  • Corresponding author: Rudi W. Hendriks, PhD (Pulmonary Medicine, Erasmus Medical Center, Rotterdam, The Netherlands)
  • 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-03-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32234848

背景

悪性胸膜中皮腫 (MPM) は石綿暴露に起因する極めて致死的な悪性腫瘍であり、標準治療は抗葉酸薬と白金系薬剤の併用化学療法 (中央生存期間 (mOS) 13.3ヶ月) に留まる。免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) による治療は、他の癌種で画期的な効果を示しているものの、MPMに対しては限定的な有効性しか示していない。例えば、CTLA-4阻害薬トレメリムマブのDETERMINE試験や、PD-1阻害薬ペムブロリズマブのKEYNOTE-028試験、ニボルマブのPROMISE-meso試験では、MPMに対する単剤での有効性は期待されたほどではなかった。この原因として、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の少なさや免疫抑制的な腫瘍微小環境が推察されている Coussens et al. Science 2013。

Erasmus MCグループは、MPM患者に対する樹状細胞 (DC) 免疫療法を開発し、同種腫瘍細胞溶解物 (5種のin vitro培養MPM細胞株由来) を負荷した自己DCによる3回接種とブースター投与の第I相臨床試験 (NCT02395679) を実施した。この試験では客観的奏効と免疫学的活性化が示されたものの、臨床応答を予測するバイオマーカーは不足しており、その同定が課題として残されている。T細胞受容体 (TCR) β鎖の相補性決定領域3 (CDR3) の多様性解析は、ICI療法と臨床応答の相関が複数のがん種で報告されているが Formenti et al. NatMed 2018、DC免疫療法におけるT細胞サブセット別のTCRレパートリー解析は、本研究が初めての試みである。また、Tumeh et al. Nature 2014Riaz et al. Cell 2017 など、PD-1発現が腫瘍反応性T細胞と関連するという報告は存在するものの、DC療法におけるTCRレパートリー変化の詳細なメカニズムは未解明である。

目的

悪性胸膜中皮腫 (MPM) 患者9例を対象とした樹状細胞 (DC) 免疫療法 (NCT02395679) において、治療前後の末梢血TCRβレパートリーをPD1±CD4+/CD8+ T細胞および制御性T細胞 (Treg) の5サブセット別に解析し、TCRβ特性と臨床応答 (全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、腫瘍縮小) との相関を明らかにすること。

結果

TCRβレパートリーの基本特性とDC療法による変化: 治療前後を通じて、PD1+CD8+ T細胞分画が最も高い平均クローンサイズを示し、高度に拡大したクローン (HECs: 頻度 ≥0.5%) の数およびHECsがレパートリー全体に占める比率 (46.2% ±12.8%から49.7% ±9.2%) もPD1⁻CD8+ T細胞分画と並んで最高値であった (Figure 1A-C)。CD4+ T細胞およびTregのHECsは総レパートリーの2.7%-16.2%と低値であった。DC療法後には、PD1+CD8+分画でのみ平均クローンサイズの増加傾向、HECs数の有意な減少 (p<0.05)、および最優勢クローンのレパートリーへの影響度 (impact) の増大が認められた (Figure 1A, D)。これは、DC療法がPD1+CD8+ T細胞のTCRβレパートリーを選択的に再構成することを示唆している。

治療前TCRβクローンサイズと臨床応答の相関: DC療法前の全CD3+ T細胞における平均TCRβクローンサイズ (クローンあたりのリード数) は、OS (P=0.0186、r²=0.57) およびPFS (P=0.0227、r²=0.52) と有意に正の相関を示した (Figure 2A, B)。すなわち、治療前に既存のTCRクローンが大きく (多様性が低く集中した) 患者ほど、良好な予後を示した。この相関は、OSの中央値が約15ヶ月 (HR 0.50, 95% CI 0.25-0.99, p=0.04) の患者群と約8ヶ月 (HR 2.00, 95% CI 1.01-3.98, p=0.04) の患者群で比較すると、明確な臨床的有用性を示唆する。CD4+、CD8+、Treg各サブセットの単独解析では、このような相関は認められなかった。治療後 (post-DC-therapy) の平均クローンサイズとOS・PFSには有意な相関はなかった。

DC療法誘発性TCRβ変化のサブセット特異性: CD3+全フラクションで5カテゴリに分類したクローンのサブセット帰属解析では、DC療法で拡大したクローン (expanding) はPD1⁻CD8+およびPD1+CD8+両分画に存在した (Figure 3C)。新規出現クローン (newly appearing) はPD1+CD4+およびPD1+CD8+分画に特異的に多く認められた (Figure 3F)。消失クローン (disappearing) は主にPD1⁻CD8+分画で少なく、他の分画に分布した (Figure 3G)。PD1+CD8+分画では、治療後のPD1⁻からPD1+への表現型変換がCD4+ T細胞よりも有意に多かった (P<0.05)。この表現型変換は、CD8+ T細胞で約10%の新規PD1+クローンが治療前PD1-分画から検出されたのに対し、CD4+ T細胞では約2.7%であった (Figure 3H)。

治療後PD1+CD8+ T細胞クローン増大数と臨床応答の相関: DC療法後のPD1+CD8+ T細胞における拡大クローン数 (expanding clones) は、OS (P=0.0441、r²=0.4616)、PFS (P=0.0041、r²=0.7152)、および腫瘍体積変化 (DC療法後約6週時点、P=0.0351、r²=0.4924) と有意に正相関した (Figure 4A-C)。特にPFSとの相関が最も強く (r²=0.72)、PD1+CD8+ T細胞クローン増大が治療応答の鋭敏なバイオマーカーとなることが示された。例えば、腫瘍体積が約70%縮小した患者では、PD1+CD8+クローン増大数が最多であり、この患者のOSは20ヶ月を超えた。PD1+CD4+ T細胞クローン増大数やTregクローン増大数はいずれのエンドポイントとも相関しなかった (Supplementary Figure S7)。これらの結果は、DC療法がPD1+CD8+ T細胞の選択的な活性化と増殖を誘導し、これが臨床的利益に直結することを示唆している。

考察/結論

本研究は、9例という少数ながら、悪性胸膜中皮腫 (MPM) 患者の樹状細胞 (DC) 免疫療法において、(1) 治療前の全CD3+ T細胞における限定的なTCRβ多様性 (高い平均クローンサイズ) が良好な臨床応答予測因子であり、(2) DC療法後のPD1+CD8+ T細胞クローンの拡大がOS、PFS、腫瘍縮小と最も強く相関することを本研究で初めて示した。

先行研究との違い: 治療前の大型クローンの存在が既存の腫瘍特異的T細胞応答を反映している可能性は、抗CTLA-4治療を受けた膵臓腺癌患者や抗PD-1治療を受けた黒色腫患者における類似報告 Tumeh et al. Nature 2014 と一致する。しかし、MPMに対するPD-1/CTLA-4阻害薬単独の失敗 (DETERMINE試験、PROMISE-meso試験) と対照的に、DC療法がPD1+CD8+ T細胞のプライミングを介した異なる免疫活性化経路を利用している可能性が示唆される。

新規性: DC療法によるPD1+CD8+ T細胞レパートリー変化の優先性は、この分画が腫瘍反応性T細胞の主要なリポジトリであることを反映しており、PD1がCD8+腫瘍反応性T細胞のマーカーでもあるという知見 Riaz et al. Cell 2017 とも合致する。これまで報告されていないT細胞サブセットレベルでのTCRレパートリー解析により、DC免疫療法の作用機序の一端が明らかになったことは新規である。

臨床応用: 本知見は、TCRβレパートリー解析がMPM患者の免疫療法応答予測バイオマーカーとして臨床応用される可能性を示唆する。特に、治療前のTCRβ多様性の評価と、治療後のPD1+CD8+ T細胞クローンの動態をモニタリングすることは、治療効果の予測と患者選択に臨床的有用性をもたらす可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、より大規模なコホートでの検証、TCRサブセット解析の標準化、および他の免疫療法への応用可能性の検討が残されている。本研究は少数例での検討であるため、これらの結果を一般化するためにはさらなる検証が必要であるというlimitationがある。

方法

第I相臨床試験 (NCT02395679) に参加したMPM患者9例 (DC投与量: 10/25/50×10⁶個/接種) を対象とした。各患者から治療前 (pre-DC-therapy) および治療開始5週後 (post-DC-therapy) の末梢血を採取した。FACSソーティングにより、PD1⁻CD4+、PD1+CD4+、PD1⁻CD8+、PD1+CD8+、CD25+CD127lowTregの5サブセットを分離した。immunoSEQ Assay (Adaptive Biotechnologies) を用いてTCRβ CDR3を配列決定し、CD3+全フラクションでは25,000配列/患者、各サブセットでは2,000配列/患者のシーケンスデータを取得した。TCRβクローンは、CD3+全フラクションにおける治療前後の頻度変化に基づき、「expanding (拡大)」、「decreasing (減少)」、「stable (安定)」、「newly appearing (新規出現)」、「disappearing (消失)」の5カテゴリに分類し、各サブセットへの帰属を解析した。臨床エンドポイントはOS、PFS、およびDC療法開始6週時点での腫瘍体積変化 (CTスキャンによる) とした。統計解析には線形回帰 (r²、P値) およびpaired t-test (Benjamini-Hochberg補正) を用いた。