• 著者: Silvia C. Formenti, Nils-Petter Rudqvist, Encouse Golden, Benjamin Cooper, Erik Wennerberg, Claire Lhuillier, Claire Vanpouille-Box, Sandra Demaria ほか
  • Corresponding author: Silvia C. Formenti (Weill Cornell Medicine); Sandra Demaria (Weill Cornell Medicine)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-10-15
  • Article種別: Original Article (Phase II trial + translational)
  • PMID: 30397353

背景

CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4) 阻害薬ipilimumabは、転移性黒色腫において初めてOS (overall survival) 延長を示した免疫チェックポイント阻害薬である。一方で、NSCLC (non-small cell lung cancer) における単剤奏功率は10%未満にとどまり、ipilimumab+化学療法の第II相試験でも有意な上乗せ効果は示されなかった。これに対し、RT (radiation therapy; 放射線療法) は腫瘍細胞の免疫原性細胞死を介して腫瘍抗原を放出し、STING (stimulator triggering interferon genes) およびI型IFN (interferon) 経路を活性化することで全身免疫応答を増強する可能性が示唆されてきた。前臨床研究ではRTとCTLA-4阻害の組み合わせが照射野外の非照射転移病巣を縮小させるアブスコパル効果を誘導することが報告されていた (Vanpouille-Box et al. 2017)。しかし、転移性NSCLCにおける前向き検証は行われておらず、有効性・安全性・予測バイオマーカーはいずれも未確立のままであった。

先行研究の系譜を整理すると次のとおりである。第一に、IFNβがアブスコパル効果に必須であることは前臨床データで示されていた (Vanpouille-Box et al. 2017)。第二に、Golden et al. (2013) はNSCLCにおけるRT+ipilimumabによるアブスコパル効果の単症例を報告し、前向き多例試験による検証を求めていた。第三に、TCR (T-cell receptor) レパートリー解析によるネオアンチゲン特異的免疫応答の評価は、Rizvi et al. (2015) が示した変異負荷と免疫チェックポイント奏功の関係とともに、免疫放射線治療の機序解明に重要な視点を提供した。何が足りなかったか:すなわち、NSCLC特有のアブスコパル効果の頻度・IFNβ/TCRバイオマーカー体系・EGFR変異等の予測因子プロファイルが前向きデータで確立されていなかった。

目的

転移性NSCLCにおいてRT+ipilimumab (CTLA-4阻害薬) 併用療法の臨床的有効性および安全性を前向きに評価し、アブスコパル効果の頻度を定量化するとともに、IFNβ・TCRレパートリー・ネオアンチゲン特異的T細胞応答というバイオマーカーが奏功予測に使用できるか検証すること。

結果

臨床的有効性:奏功率・アブスコパル効果・生存期間

登録39例中21例 (54%) が4サイクルを完遂した (n=39; 18例は早期死亡8例・進行9例で中断)。iRECIST評価可能21例中7例が奏功し、照射野外奏功率 (ORR) は登録ベースで18% (7/39例; 95% CI 7.5-33.5%)、評価可能ベースで33% (7/21例; 95% CI 14.6-57.0%) であった。内訳はCR 2例・PR 5例で、SD 5例を加えた疾患制御 (CR+PR+SD) は12/39例 (31%; 95% CI 17.6-47.1%) に達した。全登録例 (n=39) のOS中央値は7.4ヶ月 (95% CI 4.4-12.6) であった (Fig. 1d,e)。さらに、疾患制御群 (n=12) vs 進行群 (n=27) のOS中央値は20.4 vs 3.5 months (log-rank P<0.001; HR 0.19, 95% CI 0.07-0.51) と顕著な差を示した (Fig. 1f,g)。同様に4サイクル完遂群 vs 未完遂群のOS中央値は13.0 vs 3.0 months であった (log-rank P<0.001; HR 0.23, 95% CI 0.09-0.56)。追跡期間38-47ヶ月時点で4例が生存しており、うち2例はCR維持例であった。患者背景は腺癌76%・扁平上皮癌13%で、54%が2レジメン以上既治療、41%が脳転移既往を有した。EGFR変異は29%に認められたが、疾患制御群より進行群で有意に高頻度であった (P<0.05)。

IFNβ上昇・TCRクローン性拡大と奏功の相関

day 22の血清IFNβ (ELISA測定) は、奏功7例の全例で有意に上昇していた (P<0.05 vs SD群/PD群; Fig. 2a)。対照的に、非奏功例ではIFNβは上昇しないか、むしろ低下した。次に、IFNβとTCRレパートリー指標 (クローン性スコア・Shannon entropy) を特徴量とするランダムフォレスト (RF) 分類器を構築したところ、これら2変数の重要度スコアが最高となり、奏功7例 (CR/PR) を7/7で正確に分類した。同時にPD 8例中6例、SD 5例中2例も正確に分類でき、PD例をCR/PRと誤分類した例は0件であった (Fig. 2d)。さらに、day 22の末梢血TCRレパートリーでは奏功例のクローン性拡大が有意に高く (ANOVA)、SD群・PD群と明確に分離した (Fig. 2b,c)。CR例Patient 4の経時解析では、腫瘍内TIL由来TCRクローン20種がday 0には末梢血で検出不能であった。しかし、day 22以降にこれらが著明に増加し、末梢血中の腫瘍由来TCRクローン数は最終的に51種にまで達した (Fig. 3a)。

ネオアンチゲン特異的CD8 T細胞応答の同定

Patient 4については、WES (whole exome sequencing) → pVAC-seqによるネオアンチゲン予測 → IFNγ ELISpot (enzyme-linked immunospot) アッセイの順で解析を進めた (Fig. 4a)。その結果、KPNA2 (karyopherin protein nuclear alpha 2) 変異由来ペプチドp15 (HLA (human leukocyte antigen) allele A24:02 拘束) およびp16 (HLA allele C12:03 拘束) に対して反応性CD8 T細胞が検出され、両ペプチドともカットオフ50スポット/wellを超えた (n=2 independent samples; Fig. 4d)。重要なことに、p16反応性TCRクローンはPatient 4の術前脳転移巣においても同定され、RT+ipilimumab治療後に末梢血中で選択的に拡大した (Fig. 4e)。さらに、PDXモデル (3×8 Gy照射、n=4) のqRT-PCR解析ではKPNA2 gene発現が照射群で有意に上昇しており (Fig. 4f)、RTによる候補ネオアンチゲン発現誘導の機序的根拠が示された。

PD-L1・EGFR・安全性プロファイル

免疫組織化学によるPD-L1発現は奏功と有意な相関を示さず、PD-L1陽性率は非奏功群6/10例 vs 疾患制御群4-5/15例と同程度であった (Supplementary Table 5)。一方、EGFR変異はPD群 vs 疾患制御群で有意に高頻度であった (P<0.05; Supplementary Table 6)。NLR (neutrophil-to-lymphocyte ratio) はベースラインで奏功群 vs 非奏功群に有意差を認めなかった。安全性については、Grade 3-4治療関連有害事象は奏功群 vs 非奏功群でほぼ同等であり、ipilimumab単剤の既知プロファイル (約20%) と一致した。さらに、RT追加によるGrade 3以上有害事象の増悪は確認されなかった。irAE (immune-related adverse event) の管理は既確立ガイドラインに従い実施された。

考察/結論

本研究は転移性NSCLCを対象とした前向き第II相試験として、RT+CTLA-4阻害の併用がORR 18% (評価可能例では33%; 95% CI 14.6-57.0%) とアブスコパル効果を達成し、IFNβ上昇・TCRクローン性拡大という定量的バイオマーカーが応答と相関することを実証した。

先行研究との差異:先行報告では主に黒色腫の個別症例報告 (アブスコパル効果) に限られていたが (Postow et al. 2012)、本研究はNSCLCの前向き試験で系統的にアブスコパル効果の頻度・機序・予測因子を評価した最初の報告であり、これまでの知見とは異なる免疫放射線治療の有効性の実証を提供した。Golden et al. (2013) の単症例を前向き多例試験で確認した点でも重要な前進である。免疫チェックポイント阻害療法への抵抗性を論じた Kuehn et al. Science 2014 の知見と対照しても、RT+ipilimumabという組み合わせ戦略が単剤ipilimumabの限界を超える根拠が裏付けられる。

新規性:本研究で初めてIFNβとTCRレパートリーを統合したRF (random forest) 分類器により7/7の奏功例を正確に予測できることを示した。KPNA2変異由来ネオアンチゲンを認識するCD8 T細胞クローンが脳転移巣から末梢血へと選択的に拡大するという知見は、RTが「in situ ワクチン」として個別化免疫応答を誘導するという仮説を直接支持する。ネオアンチゲン特異的免疫応答を前向きに同定したアプローチは、Sahin et al. Science 2018 が提唱した個別化ワクチン戦略と整合し、RTが「内因性ワクチン」として機能する概念を強化する。

臨床応用の意義:EGFR変異陽性例での奏功率が低いこと、PD-L1は予測因子として機能しないことから、臨床応用としてIFNβとTCRクローン性拡大を統合したバイオマーカー戦略が有望である。Tselikas et al. 2026 の腫瘍内投与戦略も含め、局所RT+全身免疫療法の組み合わせにおける最適化の方向性に重要な示唆を与える。

残された課題・今後の展望:残された課題として、(1) 最適なRT分割スケジュールの確立、(2) PD-1/PD-L1阻害薬との最適組み合わせ順序、(3) IFNβ/TCRバイオマーカーを用いた適応試験デザインの確立、(4) CTLA-4+PD-1+RTの三剤併用における安全性評価が必要である。更なる検討として、PACIFIC試験 (phase III anti-PD-L1 immune consolidation trial) の標準治療化後における本バイオマーカー戦略の次世代免疫放射線治療への応用が求められる。

方法

Simon 2ステージデザインに基づく単施設第II相試験 (NCT02221739) を実施した。適格基準は転移性・進行性NSCLCで既治療 (1-3レジメン)、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0-2、測定可能病変≥2個。主要エンドポイントはiRECIST (immune-related Response Evaluation Criteria In Solid Tumors) による照射野外奏功率。

治療プロトコル:ipilimumab 3 mg/kgを3週毎に最大4サイクル静注した。RTは1個の転移病巣に対し2分割スケジュール (6 Gy×5回またはSBRT (stereotactic body radiotherapy) 9.5 Gy×3回) を施行した。

バイオマーカー解析:(1) 血清IFNβ (day 22) — ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay); (2) 末梢血TCRレパートリー (day 0/22/43) — CDR3 (complementarity determining region 3) ディープシーケンシング; (3) RF (random forest) 機械学習による応答分類器 (IFNβ + TCRクローン性指標を特徴量); (4) 全エクソーム解析 (WES; whole exome sequencing) で腫瘍変異負荷 (TMB; tumor mutational burden)・ネオアンチゲン予測 (pVAC-seq); (5) CD8 (cluster of differentiation 8)/FoxP3 (forkhead box protein 3) TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) 免疫組織化学; (6) 血清sMICA/B ELISA; (7) ICOS (inducible costimulator of T cells) + Treg・CD4 (cluster differentiation 4) T細胞フローサイトメトリー。