- 著者: Riaz N, Havel JJ, Makarov V, Desrichard A, Urba WJ, Sims JS, Hodi FS, Martín-Algarra S, Mandal R, Sharfman WH, Bhatia S, Hwu WJ, Gajewski TF, Slingluff CL Jr, Chowell D, Kendall SM, Chang H, Shah R, Kuo F, Morris LGT, Sidhom JW, Schneck JP, Horak CE, Weinhold N, Chan TA
- Corresponding author: Weinhold N (weinholn@mskcc.org), Chan TA (chant@mskcc.org)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29033130
背景
免疫チェックポイント阻害療法は多くの腫瘍種で全生存改善をもたらしているが (Topalian et al. NEnglJMed 2015 のnivolumab pivotal data)、これまで奏効率は限られ、どの患者が恩恵を受けるかを予測することは依然として困難であった点が未解明であった。先行研究で腫瘍変異負荷 (TMB; tumor mutational burden) や clonal ネオアンチゲン数が抗 CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte antigen 4)・抗 PD-1 療法への奏効と関連することが報告されている (Rizvi et al. Science 2015 のNSCLC TMB とLe et al. NEnglJMed 2015 のMMR-deficient pembrolizumab)。しかし、これまで治療中に腫瘍のゲノムや微小環境がどのように動的に変化するかは不明であり、特に paired pre-/on-therapy 検体での WES (whole-exome sequencing) + RNA-seq + TCR-seq の包括解析が不足していた。免疫チェックポイント阻害療法が腫瘍の変異ランドスケープおよび腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) をリアルタイムで変化させ「免疫編集」を引き起こしているのかという根本的な問いへの直接的な in vivo 証拠が欠けていた。
また ipilimumab (抗 CTLA-4) 既治療歴が nivolumab 奏効の免疫学的基盤を変えうるかどうかも不明で、Ipi-P (ipilimumab progressed) と Ipi-N (ipilimumab-naive) コホートで異なるバイオマーカーが必要かどうかも未解明であった。先行研究 (Topalian et al. NEnglJMed 2012 の anti-PD-1 早期 phase I data) と異なり、本研究では治療前後の対比生検を包括 multi-omics で取れるという独自性があった。本研究を着手するうえで足りなかったのは、(1) 治療後 4 週時点での dynamic ゲノム変化の定量、(2) ネオアンチゲン消失と T 細胞クローン拡大の直接相関を示す動的証拠、(3) Ipi-P vs Ipi-N で異なるバイオマーカー戦略の必要性検証、の 3 点である。
目的
進行メラノーマ患者を対象に、nivolumab (抗 PD-1) 治療前後の対比検体で全エクソーム・トランスクリプトーム・TCR シーケンシングを包括的に実施し、(1) 治療に伴うゲノム変化と腫瘍内不均一性の動態、(2) 腫瘍微小環境における免疫細胞サブセットと転写プログラムの変化、(3) T 細胞レパトアのシフトと腫瘍ネオアンチゲン景観との相関を解析し免疫編集の動的プロセスを直接実証する。
結果
所見1:奏効患者では治療後 4 週でゲノム収縮と全クローン崩壊が観察される:対比 WES 解析 (n=41 paired pre-/on-therapy biopsies) において、変異・ネオアンチゲン負荷の治療前後変化は奏効 (CR/PR) で最も顕著であり (p=5.87e-5, Mann-Whitney test; Fig 1A, 1B)、奏効患者のすべて (1 例を除く, 9/10) で 1 つ以上のクローンが消失した (ゲノム収縮)。奏効患者での平均 on-therapy 変異検出割合は 19% (range 1-99%, n=10 patients) であったのに対し、SD (stable disease) では 82% (n=15)、PD (progressive disease) では 101% (n=16, on-therapy で新規変異が多い) であった (Fig 1C)。追加深度シーケンシング (300×) により、これらの変化が腫瘍純度変化だけでは説明できないことが確認された。ゲノム収縮と増大の差 (net genomic change) は奏効・OS と強く相関し、単純な変異負荷変化よりも予測力が高かった (genomic contraction p=0.003 vs simple TMB change p=0.18; PFS p=3.34e-4, log-rank test; Fig 1D, 1E)。PD 患者 4 例で CDKN2A (cyclin-dependent kinase inhibitor 2A) の focal loss が出現し、うち 3 例では IFN 遺伝子クラスター近傍の 9p 欠失を伴っており免疫回避進化が示唆された (Fig 2)。
所見2:治療前・治療中のトランスクリプトーム解析が奏効と関連する免疫プログラムを明らかにする:治療前検体の DEG 解析 (CR/PR vs PD; n=45) では 189 DEG が同定され (q<0.20)、高発現遺伝子の大部分が免疫関連 (T cell activation, IFN-γ response, MHC class I antigen presentation) であった (Fig 3A, 3B)。ゲノム収縮 vs 持続の差異遺伝子 695 個 (うち 565 個が 2-fold 超変動) は他コホート (Hugo et al. Cell 2016, Allen et al. Cell 2015) での患者生存を層別化し、生物学的関連性が示された (Fig 3C, log-rank p<0.01)。Ipi-P 奏効例 (n=8) では全例に「hot tumor」免疫環境 (CD8+ T cell infiltration, IFN-γ signature) が確認された一方、Ipi-N 奏効例 (n=7) では多様なパターンがみられた。On-therapy 解析 (n=45) では 475 DEG が同定され (q<0.20)、免疫チェックポイント遺伝子 (PDCD1 [PD-1], CD274 [PD-L1], CTLA-4, CD80, ICOS, LAG3, TNFRSF9 [4-1BB]) が奏効の有無にかかわらず約 2-3-fold 増加した (Fig 4A)。奏効患者では PD 患者より多くの免疫関連遺伝子が上昇し (TNFRSF4 [OX40], TIGIT, HAVCR2 [TIM-3], C10orf54 [VISTA] 等)、免疫デコンボリューション解析では奏効と CD8+ T 細胞・NK 細胞の約 1.5-2-fold 増加および M1 マクロファージ約 0.6-fold 減少が関連した (Fig 4B)。
所見3:T 細胞レパトア変化とネオアンチゲン消失が直接比例し免疫編集を実証する:T 細胞浸潤 (TCR-seq および IHC) の増加は Ipi-N 奏効例で有意 (TCR-seq p=0.040, IHC CD3 p=0.023) だったが Ipi-P では有意差がなかった (Fig 5A, 5B)。T 細胞レパトア多様性の変化パターンは既治療歴で異なり、Ipi-P ではリクルートメント (richness 増加) が重要で (p=0.016, Mann-Whitney)、Ipi-N では特定クローンの拡大 (evenness 減少) が奏効と関連した (p=0.036) (Fig 5C-5E)。CDR3 の evenness per VJ では Ipi-N 奏効例での有意な減少 (p=0.003 vs p=0.636 in Ipi-P) が確認された。D90 解析 (特定 CDR3 クローンへのスキュー指標) では Ipi-N 患者でより低い D90 が病勢コントロールに関連し (D90 中央値 responder 35 vs non-responder 85, p<0.05)、高浸潤でなくても少数クローンの拡大が奏効に寄与することが示唆された (Fig 5F)。
所見4:T 細胞クローン拡大-ネオアンチゲン消失の線形相関が in vivo 免疫編集を証明:最も重要な知見として、奏効例 (CR/PR, n=10) において拡大した T 細胞クローン数と on-therapy で消失したネオアンチゲン数の間に直接的な線形相関が認められた (Spearman ρ ≥ 0.7, p=0.03; Fig 6A)。これは SD・PD では認められず (Spearman ρ < 0.2, p>0.5)、T 細胞の抗腫瘍応答が特定のネオアンチゲンを標的にした免疫編集によって腫瘍クローンを駆逐していることを動的かつ直接的に示した。さらに CR/PR 患者では on-therapy のネオアンチゲン産生変異の比率が PD 患者より有意に低く (responder 28% vs PD 52%, p=0.03 Wilcoxon)、免疫系がネオアンチゲン保有腫瘍細胞を選択的に排除していることが示された (Fig 6B, 6C)。Genomic contraction が大きいほど OS が長く (log-rank p<0.001, Fig 6D)、Ipi-N コホート内では TMB と clonal mutation count が OS の予測因子として有意であった (HR 0.45, 95% CI: 0.21-0.95, p=0.04, multivariate Cox) のに対し、Ipi-P では無関連であった (HR 0.95, 95% CI: 0.45-2.0, p=0.89)。
考察/結論
これまでの先行研究 (Rizvi et al. Science 2015 のNSCLC TMB 静的解析、Hugo et al. Cell 2016 の pre-treatment biopsy 解析) と異なり、本研究は nivolumab 治療「前後」の包括 multi-omics 解析を多施設大規模コホートで実施し、これまでの静的バイオマーカー研究と対照的に「dynamic な腫瘍進化」を初めて in vivo で直接実証した点で新規である。これまで報告されていない動的概念として、「genomic contraction (ゲノム収縮)」という新規定量指標を提唱し、それが治療後 4 週という早期時点で臨床的な RECIST 奏効を超えた予測力を持つことを複数コホート (Hugo et al. 2016, Van Allen et al. 2015) で検証した点も novel である。特に T 細胞クローン拡大数とネオアンチゲン消失数の直接的線形相関 (p=0.03) は、免疫チェックポイント阻害療法が in vivo で「免疫編集」を引き起こすという Shankaran et al. Nature 2001 のモデルに初めて動的エビデンスを提供した重要な発見である。
Ipi-P と Ipi-N でバイオマーカーの重要性が異なる新規発見も先行研究と相違し、TMB・クローナル変異負荷は Ipi-N 患者での OS と関連したが Ipi-P では関連しなかったこと (HR 差 0.45 vs 0.95) は、異なる患者集団に対して別々のバイオマーカー戦略が必要であることを示す。PD 患者で観察された CDKN2A 欠失および IFN 遺伝子クラスターの 9p 損失は、免疫療法誘導性の選択圧を逃れる「免疫回避進化」機序として novel な示唆を与える。
臨床応用の観点から本研究の意義は大きく、bench-to-bedside に直結する translational research である。臨床応用として、(1) genomic contraction を治療後 4 週時点の predictive biomarker として用いた早期奏効評価、(2) Ipi-P と Ipi-N で異なる TMB / clonal expansion / TCR diversity-based バイオマーカーの層別化、(3) on-therapy 上昇する免疫チェックポイント (OX40, TIGIT, TIM-3, VISTA, LAG-3) を標的とした combinational immunotherapy (anti-PD-1 + anti-LAG-3 等) の根拠提供、の 3 点が直接的な臨床応用候補である。実際 anti-PD-1 + anti-LAG-3 (relatlimab) が後年 Tawbi et al. NEnglJMed 2022 のRELATIVITY-047で米国 FDA 承認に至った経緯は本研究の臨床応用の正当性を示す。
残された課題として、第一に limitation として本研究は post-ipilimumab cohort を含んでおり、ipilimumab-naive 進行メラノーマ単独の追加コホートでの確認が future work として必要である。第二に、サンプル数が中規模 (paired n=41) であり、より大規模な multi-center prospective study での genomic contraction biomarker 妥当性検証が今後の検討課題である。第三に、4 週時点の生検が患者負担となるため非侵襲的代替指標 (cell-free DNA dynamics、ctDNA clearance, TCRseq from blood) の future research direction が必要である。第四に、CDKN2A 欠失や 9p IFN cluster loss を保持する PD 患者に対する resistance reversal 戦略 (epigenetic modulator, IFN-α 補充など) の future trials も残された研究課題である。
方法
コホート設定: 進行メラノーマ 68 例 (CA209038 試験, NCT01621490)、ipilimumab 既治療例 (Ipi-P; n=35) と ipilimumab 未治療例 (Ipi-N; n=33)。RECIST v1.1 による奏効率は Ipi-P 22% (8/35)・Ipi-N 21% (7/33) と同等であった。全エクソーム解析 (WES; whole-exome sequencing): 68 例全ての治療前検体 (平均深度 168×, Agilent SureSelect All Exon v4 + Illumina HiSeq) に加え、41 例の対比治療前後検体 (Cycle 1 Day 29) を解析。腫瘍純度変化の影響を除外するため奏効腫瘍 (CR/PR) に深度 300× の追加シーケンシングを実施。Cancer cell fraction (CCF) を ABSOLUTE で算出し変異クローナリティを評価した。トランスクリプトーム解析 (RNA-seq; STAR aligner v2.5 + DESeq2 v1.16): 45 例の治療前後検体。免疫デコンボリューション (CIBERSORT, MCP-counter, ESTIMATE 複数アルゴリズム) による免疫細胞サブセット推定、DEG (differentially expressed gene) 解析 (q<0.20)・GSEA・Ingenuity Pathway Analysis を実施した。TCR シーケンシング (TCR-seq; Adaptive Biotechnologies immunoSEQ): 34 例の対比検体で TCRβ 鎖の CDR3 (complementarity determining region 3) を NGS で深度解析。多様性指標 (richness, evenness, Shannon entropy, D90; 累積 90% を構成するクローン数) と VJ カセット解析を実施し、IHC による CD3 染色とも対比した。クローナリティ・ネオアンチゲン解析ではゲノム収縮 (mutation contraction)・増大 (expansion)・持続 (persistence) を CCF 変化で分類、ネオアンチゲン産生変異の比率の経時変化を Wilcoxon rank-sum test で比較した。HLA タイピング (Polysolver) + NetMHCpan-3.0 でクラス I 結合 9-mer ネオアンチゲン (binding affinity <500 nM) を予測。ヒト材料: MSKCC 等 12 施設の IRB 承認下、書面同意取得済み。